表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/136

出来ないわけないよね

 ドレスを着て教室に戻って来たルーカス様とラッセル様に、クラスメイトが視線を向ける。

 ドレスは何処にあるんだと一回戻って来たけど、本当に相変わらず考えなしで動くところは、学院に入学した時から変わらないよね。

 どうやらメイジュル様はいないようだけれども、どうしたんだろう?

 しかし、元がイケメンだからなのか女体化しても可愛いね。


「メイジュル様はどうしました?」

「このような格好で授業など受ける事が出来ないと、保健室にいます」

「へえ? 令嬢はその格好で普通に授業を受けていますよね? あんなに大口を叩いておいて出来ないと? 貴方達の主人はそう言っているんですか。それはそれは、なんとも面白いものですね。あんな風に言っていた女性以下だと自ら認めたんですね」

「そんな事は言っていない」

「そうですか? でも、実際はそう見えますよね。ああ、もしかして貴方達もこんな格好と思っていますか? おかしいですね、女性ならそのぐらい当たり前なのでしょう? そして、貴方達は優れているから、女性に出来て自分に出来ない事などないのでしょう?」

「それはっ。……ラッセル、メイジュル様を連れてきますよ」

「はあ? あの人絶対来ないぞ。何だったらもう学院に居ないかもしれないぜ?」

「いいから行きますよ」


 ルーカス様はそう言って教室を出て行く。ラッセル様も渋々という感じで付いて行った。

 しばらくして、二人に腕を掴まれたメイジュル様が教室に入って来たけど、既にドレスは着崩れており、パニエが嫌なのかソワソワとしている。

 お前らが普段馬鹿にしている貴族の令嬢の一般的ドレスだぞ。

 それに文句を言うわけはねぇよなぁ?

 にやにやとしそうな口元を隠すべく、扇子を開いて口元を隠していると、リアン達の他、クラスにいる令嬢達のほとんどが同じ動作をしている。

 皆おかしくてたまらないんだね。


「おやおや、三人とも『とても』お似合いですよ。どうです? それにしても、普段着飾る令嬢を愚かだと言っている割には、随分豪奢なドレスに装飾品を身に着けていますね? 予備のドレスにはもっと質素な物もあったはずなのですが、どうしてそれを選ばなかったのですか?」

「あんな貧相な物、俺達が着られるわけがないだろう!」

「これは驚いた! 着飾る令嬢を邪険に言っておきながらそのような事を? メイジュル様達はそうじゃないのですね。だったら、今後、自らを磨く令嬢達に何か言う権利はありませんよね」

「俺達をそこら辺に居る女達と一緒にする気か!」

「そうですよ。私達は選ばれし存在なのですよ」

「こんな茶番に付き合っているだけありがたいと思え」


 三人はそう言って席に座ろうとして、慣れないパニエに四苦八苦して、立ったり座ったりして、結局居心地が悪そうに座った。

 いやぁ、面白いわ。

 こんな魔法薬があるならもっと前に使いたかったけど、ルーカス様達がお着替えをしている間にマドレイル様に聞いたところ、一応留学という体は取っているけれども、何かあった時に逃げ切れるように、『塔』が試作品という事である程度の金額で融通してくれたらしい。

 そして、他の魔法薬はおまけなんだって。

 一応、不妊に悩む人に向けての魔法薬開発らしいんだけど、排卵の仕組みとかよく分かったな!

 それにしても、来る教師が全員、メイジュル様達を見て三度見ぐらいして、わたくし達に事情を聞いて笑いをかみ殺すのは見ものだったわ。

 教師にまでいい印象を持たれていないとか、普段の行いが反映されてていいね。

 その日は、流石に令嬢の姿になったメイジュル様達に近づこうとする令嬢はおらず、三人で隠れるようにサロンに向かって行ったのは、いっそみじめだったわ。

 後から聞いた話によると、サロンでもメイジュル様達だって信じてもらうまでにちょっといざこざがあったみたいだけど、元の顔がメイジュル様と変わらないし、結局はいつも連れている侍従が同じで説明をしたからサロンに入る事が出来たみたい。

 授業が終わったら、我先にと帰って行ったけど、家に帰ってなんて説明するんだろうねぇ。

 まさか、マドレイル様に言い負かされて怪しげな魔法薬を飲みましたなんて、言えないんじゃないかな?

 いやぁ面白いわ。いいものを見せてもらったお礼に、マドレイル様にはお礼をあげないとね。


「マドレイル様は、この国に来て何かお気に召した食べ物はありますか?」

「そうですね、ラングドシャは美味しかったですね」

「もしよろしかったら、明日持ってきてもよろしいですか?」

「もちろんです。ああ、でもわざわざ今から買いに行かれるのですか?」

「あら、それではわたくし達の感謝が足りませんよ。今日はそもそも四人でわたくしの屋敷で集まる予定でしたので、四人で作らせていただきます」

「えっ」

「妾達では不安かの?」

「そんな事はありませんが、よろしいのですか? 私は大した事をしていませんよ?」

「そんな事はありませんわ。とても胸のすく思いをしていますもの。それに、これからさらにあの三人は苦しむのでしょう?」

「ふふ。こんな喜劇へのお礼ですからね。お気になさらないでください」


 わたくし達がそう言うので、マドレイル様は嬉しそうに微笑むと頷いた。

 その瞬間「キャァ~」と黄色い悲鳴がわずかに上がったが、その中になぜか「うぉぉぉっ」という野太い悲鳴もあったのはなぜだろう。


 翌日、ラングドシャをマドレイル様に渡して、ほのぼのと会話をしていると、昨日よりも髪が伸びてしっかりと結い上げられ、豪奢なドレスと装飾品に身を包んだメイジュル様達が教室に入って来て、わたくし達は咄嗟に扇子で口元を隠した。


「おや、今日も随分と麗しいお姿ですね、メイジュル様達。あれほど、着飾る女性に難癖を付けていたのに、やはり自分は違うという事ですか?」

「俺は第二王子だぞ。そこら辺の女とは違う」

「第三王女であるメイベリアン様には難癖を付けていらっしゃったのに?」

「それはっ……」

「物珍しく、メイド達が『勝手に』着飾ったのです。私達は悪くありませんよ。使用人の遊びに付き合ってあげるのも主人の役目でしょう」

「おや、随分と寛大な事をおっしゃいますね。私には以前、使用人は無駄口を言わずにただ主人に従えばいいと、それこそが使われている使用人の正しい姿だと力説していましたよね?」

「くっ……」

「ふんっ、俺は母上がここぞとばかりに張り切ったからな。親孝行だ」

「それは素晴らしいですね! ラッセル殿の家はお子様が一人ですから、『娘が欲しかった』のでしょうね。噂でしかありませんが、以前も友人のご令嬢を大層可愛がっていたと聞きますし、久しぶりに出来た『娘』に随分興奮なさったのでしょう」

「ああ、あの他人を騙して利用する事しか出来なかった恩知らずか。確かに母上は気に入っていたが、所詮は愚物でしかない女だった。あんな女を引きずっているなど、母上は未練がましいな」

「そうですか。ではラッセル様はなんの未練も持たないというのですね?」

「ああ」

「では、今回のこの遊びも、なんの未練も持たないという事ですよね。流石は騎士を目指す高潔な志を持っているだけの事はありますね。いやはや、見習いたいものです」

「っ……」


 マドレイル様ってば絶好調だね。

 いいと思うよ。その調子でもっとやり込めちゃって。

 口元を隠しながらニコニコとしていると、不意にこちらに視線を向けられたので、わたくし達は視線で会話をしてリアン達がメイジュル様達の方に近づいて行った。


「厚化粧はせなんだのか? 妾達にあの厚化粧をせぬのは淑女として失格などと言っていたくせに、自分はせぬとは、随分都合のいい物じゃな。香水も付けておらぬの? メイドの好きにさせたと言っていたが、そなたの考えからすれば、厚化粧を施さず、香水を振りかけてこないメイドは無礼なのではないか?」

「そ、そうですね……注意しておきます」

「明日は、そなたの言う淑女らしい格好をしている事を期待しておるぞ」

「はい……」

「まあ、メイジュル様。女性として過ごした一晩は如何でした? けれども、お話を聞く限りでは月経も体験なさるようですし、大変ですわね。今からでも準備なさった方がよろしいのではありませんか?」

「そんな物、俺がする物ではない」

「まあ、そうですの? メイドに指示も出さないのですか? そこまで言うのでしたらわたくしは何も言いませんが、けれども、令嬢達が月経痛などの症状で体調を崩した時に『そんな物』とおっしゃったのですから、メイジュル様が実際に月経になった時は『どんな事があっても』授業に参加なさいますよね?」

「当たり前だろう。女に出来て俺に出来ない事などない」

「ラッセル様、そちらのドレスはお母様が準備なさったとの事ですが、新しくご購入なさったのですか?」

「そんなにすぐにドレスが出来るわけがないだろう。仕立ててもいいのだが、母上がそれは出来ないと言ってな。せめてもと自分が昔来ていたドレスを実家から取り寄せたのだ。まあ、手直しは必要だったから、お針子は徹夜だったようだが、俺の為だ、問題はない」

「そうでしたか。先ほどクロエも言っていましたが、ラッセル様ともあろう方が、令嬢が乗り越えているものに負けるわけがありませんよね。痛みに苦しもうとも、貧血に苦しもうとも、平然となさいますよね?」

「当たり前だ。女のような軟弱な鍛え方はしていない」

「そうですか、安心しました」


 三人はそう言うと、クラスメイト全体に、『ちゃんと聞いたね?』という感じに視線を向けると、全員がしっかりと頷いた。

 月経は予定では今日の午後に始まるそうだから、どうなるか楽しみだね。

 そう思いながら、わたくし達は予鈴を聞いてそれぞれ着席をした。

 この日の授業中も、見た目重視で機能性を無視したドレスを着ているメイジュル様達は、ソワソワと落ち着きがないようで、何度も教師に注意されていた。

 わたくし達は見た目はちゃんと見えるようにしつつ、パニエなんかは座っても違和感がないように工夫したデザインにしているからね。

 こういう所に気を使ってこその令嬢のファッションなんだけど、散々馬鹿にした『着飾るばかり』の令嬢になった気分はどうだろうねぇ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 三バカ大将…口ほどにもない…(笑) マドレイル様いいなぁ…相手が居なかったら誰かの相手にしたいぐらいだわ(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ