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さじ加減が難しい

2022年明けましておめでとうございます!

年始から主人公視点じゃない時点でおかしい小説ですが、今年もよろしくお願いします!

Side グレイバール


 マドレイル殿を迎え、我が国はこの機会にと留学生を受け入れて欲しいという申し込みが殺到、とまでは言わないが増えている。

 我が国も、第一・第二王女を留学させている手前、無闇矢鱈と断るわけにもいかないが、だからと言って不良物件を押し付けられるわけにもいかない為、今は相手を受け入れるか精査している段階だ。

 聖獣の加護を受けたマドレイル殿を受け入れないという選択肢は、初めからなかったものの、その他の留学生については念入りに調べなければいけない。

 万が一にでも、この国で遊びが過ぎて種でも落とされて行ったらたまったものじゃないからな。

 ツェツィ達と同じ学年の者の申し込みが多いのは、メイベリアンと、メイジュルを狙っているのかもしれないな。

 年上の令嬢や王女は、私の妃の地位を狙っている可能性もある。

 王子や子息もそれなりの数がいるし、調べるのには時間がかかってしまうな。

 影を使って調べているが、その分私の守りが甘くなっているが仕方がない。

 ツェツィに不快な思いをさせるよりはずっといいからな。

 その中で現時点で『失格』の留学生候補には丁重にお断りの手紙をしたためる。

 どうしても断れない物もあるが、どうしたものか。

 しかし、ツェツィの話では、マドレイル殿は乙女ゲームには登場していなかったというし、シナリオブレイクという物なのか?

 予定外の事が起きるというのであれば、確かに今の状態はそうなのだろう。

 だが、これから他国の王族や子女を受け入れて、シナリオを壊す事が出来ればいいが、悪い方向に行く可能性もあるとツェツィは言っていた。

 しかし、未来が全て予定通りに進むという事はない。

 ツェツィはあくまでも話している乙女ゲームに拘わっているようだが、私からしてみたら未来は不確定の物なのだ。

 ある意味ツェツィも捕らわれている。解放するには、私ももっと動かなければいけないのだろうが、メイジュル達の再教育がうまくいかない事もあり、ツェツィは余計にこの世界が乙女ゲームの物語に向かって進んでいると思っているのかもしれない。

 まったく、どうしたものかな。

 ヒロインとやらの捜索は難航している。

 光属性の持ち主なのだから、すぐに判明すると思ったのに、貴族でなければ魔力の属性検査なんて、お金がかかるからほとんどしない事を失念していた。

 もちろん、過ごしているうちに自然と発現してしまう場合が多いため、属性については無意識化で理解する事も多いのだが、今からでも、国民に無料で属性の判定をさせるべきか?

 でも、流石に予算がな。

 ツェツィの年齢に限ってというのもおかしな話になってしまうし、全くうまくいかないな。

 ツェツィの話では、伯爵家に引き取られて受けた属性チェックで光属性だと分かるんだったか。

 それまで発現しないとなると、難しいな。

 そんな事を考えながら、留学生候補を絞って行くが、やはり断り切れない申し込みはある。

 第一・第二王女を送り込んだ国からの申し込みは、断れないな。

 幸い、ツェツィと年が離れているからいいが、これは、体のいい厄介払いだろう。

 第一王女が嫁いだ関係上、自分よりも優秀だと言われている弟を疎ましく思った兄が、こちらの国に『将来の大使』としての名目で留学させる、第二王女の嫁ぎ先予定は扱いに困った身分の低い『王太子の娘』を預けるという形か。

 うちも問題児を送り込んだ以上、この二件は仕方がないな。

 他の希望者は……、成績をごまかした跡がある者は論外として、素行に悪い噂がある者も真偽を確かめなければいけない。

 噂だけで判断するのはよくないからな。

 継承権争いから逃れたくて、あえて悪い噂を流している者もいるし、逆に良い噂を流して中身が最悪なんて、王侯貴族ではよくある話だ。

 上がってくる書類を精査していると、扉がノックされ、衛兵が文官が書類を持ってやって来たことを告げ、予定に有った文官だったためそのまま入室を許可する。

 入室してきた文官は、一礼をして侍従に書類を差し出したので、その侍従から私が書類を受け取って中身を確認する。


「六人中二人、か。思ったよりは少ないな」

「初めから入っているお二人は、今のところ尻尾はつかめません。新しく入った四人のうち二人は今のところ動きを見せず、二人は子供さえ生まれればと、男を引き入れていますね」

「避妊薬を飲んでいる女が、どう孕むのか見てみたいものだ」


 そもそも、私は抱いていないし、私の子供だと言われても、最近になって『塔』が開発した、魔力による親子鑑定の魔道具を使えばすぐに分かることだ。

 正直、とてつもなく高額なので、一台しか購入出来ないのだがな。

 しかし、一台あれば、今まで起きていた長子継承問題に関わる血筋云々も解決するかもしれない。

 長子継続という物を逆手に、愛人に産ませた庶子が長子だといって、傀儡を作ろうとする家はあるからな。

 しかも、本当に当主の血を継いでいればいいのだが、怪しい物が何件もあるとなれば、国としても動かなくてはいけない。

 そもそも、『塔』の研究結果によると、この国の平民から引き立てた士爵を除く純血の貴族と平民では血に流れる魔力に明確な違いがあるそうだ。

 とはいえ、平民にも貴族の血が流れる者もいるわけで、そういう物は判定が出ない。

 『塔』は本当に面白い物を開発するな。

 あの頭のおかしい、ではなく、ねじの外れた、でもなく、研究熱心な者達は、探求心旺盛で誰かが手綱を握っておいた方がいいんじゃないかと思える時もある。

 ツェツィの後ろ盾になってもらっているが、あれは完全に孫を見守る爺だな。

 孫を取られたくなくて私の邪魔をしてくるあたりがいい証拠だ。


「男を引き入れた妃は、証拠を提示して、実家に慰謝料を要求したうえで、後宮及び王宮から追い出すように。以後、王宮への出入りを禁止とする」

「かしこまりました」

「問題は、最初からいる二人だな。私の後宮に入れるからと、あっさりと婚約者を捨てたし、その前からも婚約者の前で私にアピールして来ていた」

「それは、本当に陛下をお慕いしているのでは?」

「そうは言ってもな、私に懸想しているのはいいとしても、婚約者をあっさり捨てるんだぞ? 家のフォローがあったとはいえ、あんまりだろう」

「それはそうですが」

「新しく入った妃は、元より私の後宮に入る為に、円満に婚約を解消したようだしな。まったく、忌々しい。それなのにも関わらず、子供が出来ないなら作ってしまえばいいと、男を引き込むのも気に入らない」

「正論ですが、子供を産めないというのは女性にはとてもプレッシャーなのですよ」

「毎夜私が渡っているという嘘を吹聴している女共に、私は興味はない」


 私の言葉に、侍従と文官が微妙な顔をする。


「陛下の場合は、ツェツゥーリア様以外に興味がない、の間違いでしょう」

「そうですよね。何かっこつけているのか知りませんが、そうやって余裕を見せていられるのは、ツェツゥーリア様が努力している結果なだけですよ」


 二人の言葉に、私は思わず黙ってしまう。

 侍従と文官に扮している影であるこいつらは、以前にもましてツェツィの肩を持つ。

 ツェツィの味方が増えることは純粋に好ましいのだが、何というか、国王の影のはずなのに、未来の正妃の影として働きたいとか言い出しそうで、どこか切なくなる。


「そういえば、後宮の方は引き続き探っていますが、スラム街の工事の事でちょっと問題が」

「なんだ?」

「一部の貴族が、自分の息がかかった業者に作業を回すように取り計らうよう、大臣や補佐官ではなく、現場で動いている文官や武官に言っているようです」

「ふむ。着工する業者に関しては事前に決めているはずだな?」

「はい。しかしながら、上位貴族からの命令に、躱すのも難しいようです」

「仕方がないな。内務大臣と国土開発大臣に『直接』交渉してもらうしかないな。ごちゃごちゃ言っている貴族のリストは出来ているのだろう?」

「もちろんです」

「ツェツィを主導にした大掛かりな事業だ。絶対に失敗させるな」


 分かっているな、と念を入れてみると、侍従と文官は苦笑した。


「王都でこれまで行っていた公的事業は、あくまでも陛下の提案という事になっていますからね」

「ツェツゥーリア様も政治に口を出せる年齢になって、やっと少しずつ表に出す気になった、というには、第一歩が大きい気もしますが?」

「有用性を見せつつ、他国に取られないようにするための加減が難しいな。あまりにも優秀だという事が判明してしまったら連れ攫われる可能性もある」

「そこは、自分の魅力で引き留めるとか言ってくださいよ」

「そんな事は当たり前だろう。しかし、運命というのはどこで何が起きるのか分からないのだ。私がツェツィに出会ったようにな」


 そう言って初めて会った時のツェツィを思い出して微笑むと、侍従と文官が眉間にしわを寄せた。


「「きっしょ」」


 主人に向かってなんという……。

 まったく、仕方がないが、自分でもあの頃の事を思い出すと頬が緩んでしまう自覚があるから、ある意味仕方がないのかもしれない。

 ツェツィの前ではこんなだらしのない顔を見せてはいないよな?

 その後、文官が出て行った執務室でまた書類とのにらめっこを続ける。


「はあ、準備が整い次第、例の件を発表するか。あっちは、私が後押しすれば問題はないだろう」


 メイベリアン達の今後について、婚約者の後釜とも言える面子は揃ったのだし、時期を見てすぐさま行動に移そう。

 正直、今すぐにでもあの愚か者ども三人が『事故』に遭ってくれればいいのにと思ってしまうのだがな。

 三人同時にどこかに移動してくれない物だろうか?

 さすがに三人立て続けに『事故』に遭うと不審に思われるからな。

 学院外での実習は十六歳以上か。『事故』に見せかけるのならそこだが、その時点ではツェツィのいう乙女ゲームが始まっているか。

 難しい物だな。

 そもそも、現時点で十分に婚約解消出来るんじゃないか?

 しないのは素早くメイベリアン達が次の相手に移行出来ないからなだけだし。

 …………はあ、こう言ったらなんだが、父上の代までの政治のつけが憎らしいな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 殿下も色々大変ですなぁ… 影には気持ち悪がられるし(笑)
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