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子爵家の婚約破棄

 長期休暇の前にはわたくしの誕生日があるのだけれども、お父様やロブ兄様、ナティ姉様は領地から出てくる事が難しいため、毎年プレゼントが送られてくる。

 その他にも、ハン兄様主催で我が家では盛大な誕生日パーティーが開かれるのだけれども、婚約者のいないわたくしに自分の子供を売り込もうとする貴族が、パーティーの招待状が欲しいと遠回しに言ってくるのがうざい。

 別に構わないんだけどね? そんな事をしても無駄だし。

 パーティーのエスコートはずっとハン兄様がしてくれるから何の問題もないし、ハン兄様が居ない時はリアン達が鉄壁の守りをしてくれるから。


「それにしても、そのドレスは陛下から頂いた物なのでしょう?」

「あら、よく分かりましたね、リーチェ」

「分かりますわよ。銀のシルクを使ったドレスに琥珀をちりばめて。ピアスも琥珀を使っていますわね」

「あからさまじゃな」

「たまには扇子と装飾品以外をとお願いしましたら、ドレスを下さいましたの」

「親族でもない女性にドレスを贈るとは、陛下も随分と大胆な事をなさいますわね」

「しかし、ツェツィも今日で十二歳になったからの。そろそろ牽制をしてもいいと思い始めているのかもしれぬ」

「今までも十分だったと思いますよ?」

「一部の貴族には、の。妾達の年代の子息やその子供を持った親には、まだ希望を捨てられぬ者もいるじゃろう?」


 リアンの言葉に、わたくしは贈り物の中にあるメッセージカードを思い出して苦笑してしまう。

 求愛行動を隠喩する内容もあったのだから、それを見せてしまったら、多分だけどその子息は人知れず不幸に遭うかもしれない。

 グレイ様と王太后様が寄越している影がチェックしている時点で、もうアウトだと思うけどね!

 ちなみに、今日のパーティーは人数を絞っているという事もあって、アンジュル商会全面協力の元、料理は前世の物を再現している。

 おかげで、わたくしの誕生日パーティーだというのに、食事コーナーに人が群がっているんだよね。

 今までは、パーティーでもそれなりに出してはいたけど、ここまで全部っていうのはなかった。

 なんでかって言うと、やっぱりずっと食べている料理以外を出されるのは馬鹿にされていると思う人が居るから。

 それでも、数年かけてこういう食事も普通だっていうのを、主に令嬢を通して広めたので、ここぞとばかりに出してみた!

 結果は上々。

 中には意地でもっていう感じで食べない人もいるけど、そんな人でも飲み物には手を出してるよ。

 しかし、美味しい料理を食べない事で、話題に取り残されるっていう事は考えないのかね?

 馬鹿な意地で話題に付いて行けないのは致命的だよ?


「それにしても、婚約者の義務がなくなったとはいえ、まさかこんな事になるとは思いませんでした」

「あの三人にはあきれて物が言えぬな」

「いいのではありません? あの三人が来たら騒ぎを起こすだけですわ」

「そうですね。むしろ招待状を貰っておきながら欠席の連絡もせずに、来ないという無礼をするぐらいですから」


 主役なので注目を浴びているのを理解していながら、わたくし達はニコニコと話を続ける。

 そう、メイジュル様達はわたくしの誕生日パーティーの招待状を受け取っているにも関わらず、無断欠席したんだよ。

 馬鹿にしてるよね。

 去年も、「田舎者の誕生日をどうして祝わなければ」とか言ってくれたし? わたくしとしては別に来なくてもいいんだけどね?

 無断欠席で贈り物もないとか、辺境侯爵令嬢としてはプライドが傷つけられるわけよ。

 あの三人、少しでも自分の立場をよくしようと動くためには、婚約者及びわたくしへの印象をよくするしかないって思わないんだねぇ。


「いいんです。わたくしなんて、所詮は陛下に気に入られているだけの小娘ですから。メイジュル様には『田舎者』などと言われましたし、そのような認識なのでしょう」

「辺境を守る貴族の意味を分からない人が『上位貴族に居る』なんて、我が国の恥ですわね」


 クロエが真っ先にわたくしのやろうとしていることを察して乗ってくれる。


「確かに、今は隣国との関係も友好なものですが、それでも関所などを持つ辺境が、どれほど重要で、我が国の発展に貢献しているか、子供でも分かる物ですのにねえ。ああ、でも。普段からお勉強をさぼっているような方々や、自分は特別だと思いあがっているような方は、違うかもしれませんわ」

「そうじゃな。我が国の特色を生かしつつも、周辺諸国との調整も必要なのに、あくまでも古い考えを捨てぬ愚か者も多く、本当に兄上は苦労するの」

「そもそも、貴族としての最低限のマナーを守れない時点で、他の方をとやかく言えませんね」


 あくまでも『誰』とは言わずに、にこやかに話す。

 とはいえ、わたくし達が誰の事を言っているのかは分かり切ったことなので、周囲は何とも言えない空気になる。

 あからさまにわたくし達の会話に乗ることも出来ないし、批判するわけにもいかないもんね。

 いや、乗りたくても、身分的にわたくし達の会話に入ってくるのが難しいっていうのもあるんだよ。これでも、わたくし達の身分って高いから!

 しかしながら、わたくし達だけで会話をするわけにもいかず、前半の少しの自由時間が終わったら、後半の自由時間まではお仕事モード。

 三人と一時解散すると、わたくしは挨拶も済んでいるし、気になっている貴族の子女の所に向かって行く。


「楽しんでいらっしゃいますか?」

「ツェツゥーリア様。先ほども申し上げましたが、このように素晴らしいパーティーにご招待いただきありがとうございます」

「構いませんよ。パティラ様は成績も優秀ですし、控えめな態度も好感が持てます」

「そのように言っていただければ、我が娘も喜びます。そうだろう?」

「はい、お父様。ありがとうございます、ツェツゥーリア様」


 ぺこりと頭を下げるパティラ様にわたくしは微笑むと、「あら?」と首を傾げる。


「シャグリア様はご一緒ではないのですか?」

「姉は……」

「申し訳ありませんツェツゥーリア様。あの子はこのような席に慣れていないので、席を外しています」

「まあ、そうですか。……それで、どちらに行かれたかは、ご存じでして?」

「え、いえ」

「それは大変ですね。いくらわたくしの誕生日パーティーを開催しているとはいえ、屋敷内を見知らぬ令嬢がうろついているとなれば、家の者が無礼を働いてしまうかもしれません。すぐに人を使って探さなくては」

「いえっ、そこまでせずとも。すぐに戻ってくるかと」

「そうなのですか? それでしたらよろしいのですが。……あら。本当に戻って来たようですね。けれど、わたくしはてっきり一人で休んでいたのかと思いましたが、他の方とご一緒だとは思いませんでした。あの方はパティラ様のご婚約者ですよね?」

「そ、そうですね。……私、ちょっと気分が」


 パティラ様がそう言って顔色を悪くしたところで、優雅な足取りでシャグリア様とパティラ様の婚約者が近づいて来た。

 そうして、わたくし達の前で立ち止まると、優雅な音楽が流れる中、大きな声でこう宣言した。


「パティラ! お前のような地味で色気も無く、小言がうるさい女など用済みだ! 俺は、美しく聡明なシャグリアと新たに婚約をする!」


 その途端、シン、となった会場。

 わたくしは、あえて音を立てずに扇子を開いて顔を半分隠す。

 こんなところで婚約破棄しないで欲しいわぁ。

 そもそも、子爵家の婚約騒動に、家を巻き込むような事をしないで欲しいんだけど?


「しかもお前は、姉であるシャグリアから、妹だからと言って物を奪い、嫌がらせをし、両親にシャグリアの悪口を吹き込んだそうじゃないか!」

「そのような事していません。そもそも、私の物を取って行ったのはお姉様で」

「うるさい! 言い訳をするな見苦しい! 大方、美しいシャグリアに嫉妬したんだろう。心の底まで醜い女め!」


 高らかにそう宣言したパティラ様の婚約者、あ、元婚約者? はふんぞり返って偉そうにしているけど、パティラ様とそのお父様は冷たい目を向けている。

 ふーむ、両親、少なくとも父親はパティラ様の味方か中立っていう所か。

 しかし、パティラ様がシャグリア様を虐めたねえ。

 むしろ、ダサイ型落ちしたドレスを押し付けられて、それをリメイクして着ているって有名だよね?

 装飾品も、一度見た事のある質のいい物は、なぜか、その次にはシャグリア様が身に着けたりしているよね。

 婚約者からの贈り物なんですって、嬉しそうに言ってたのに、自分が贈った物を姉が身に着けている不自然さも気づかないのかね?

 クソだな。


「ベルモル君。婚約破棄とは、正気かい?」

「もちろんです。そもそも、この婚約は我が家とそちらの家との政略結婚。相手が入れ替わるだけなのですから何の問題も無いでしょう」

「お姉様には、婚約者がいます」

「パティラがそいつに嫁げばいい!」

「……お姉様は、それでよろしいのですか?」

「え、ええ。ゆ、勇気を出して言うわ。わたくし、もう貴女に、パティラに嫌がらせをされるのが恐ろしいの。ベルモル様は、わたくしのそんな辛さを分かってくれたわ。わたくし達は、想い合っているの」

「そうだ、俺達は真実の愛で結ばれている!」


 出たよ、真実の愛。

 それにしてもいいのかね?

 貴女達姉妹の婚約は、政略結婚も絡んでくるけど、それぞれの日ごろの行いを鑑みての物だったはずなんだけどね。


「真実の愛。そのような物で我が娘との婚約を破棄するとは、我が家を馬鹿にしているのか?」

「何を言うのです。娘がすげ変わっただけですよ」

「……そうか。いいだろう、この婚約は破棄させてもらい、シャグリアと君の婚約を認めよう。それでいいですね? ファウザン子爵」

「息子から先に話は聞いていて、婚約破棄の契約書の準備は出来ている。サインをお願い出来ますかな?」

「準備がいい事だ」


 本当にな。

 目の前で婚約破棄についてサインをしているけれども、漏れ聞こえた会話では、相手がすげ替えになるだけなので慰謝料については発生しないという物があるらしい。

 パーティー中という事で、新しい婚約については別室で契約書を作ることになり、立会人としてクロエのお父様が付き添う事になった。


「パティラ様、大変でしたね」

「お騒がせして申し訳ありません。せっかくの誕生日パーティーでしたのに」

「このぐらい、ちょっとした余興と思えばよいのです。わたくしが宣言します。今回は、シャグリア様の虚言を信じたベルモル様が全面的に悪く、パティラ様には何の咎もありません」

「ありがとうございます、ツェツゥーリア様」

「それにしても、ベルモル様は貴族の婚約を何だと思っているのでしょうね。姉妹のすげ替えをしてそれで済むと思っているなんて、馬鹿々々しい。パティラ様のお父様が将来を考えて結んだ婚約でしたのに」

「仕方がありません。浪費家のお姉様を支える事が出来るように裕福な男爵家に嫁入りするようにとの配慮でしたが、無駄になってしまいました。私は、婚約者を探し直さなくてはいけませんね」

「次期女子爵なのですから、婿になりたいと思う方は多くいますよ」


 にっこりとわたくしは微笑む。


「そうだといいのですが。それにしても、ベルモル様はいつからお姉様が我が家を継ぐと思ったのでしょうね。後妻の連れ子で我が家の血を引いていませんのに」

「まったくです」


 正当な血筋じゃないのに、『長女』とはいえ『長子』ではないシャグリア様が子爵家を継げるわけがないのにね。

 パティラ様のお父様も現役だし、後妻の連れ子を引き取る時点で、自分の子供以外に爵位は譲らないって国に対して誓約書を書いたって聞くしね。

 まったく、アホは何処にでも湧くな。

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― 新着の感想 ―
[一言] マジでロクな令息が出てきませんな?(笑)
[一言] どんどん有責を増やして行っている三人、辺境侯爵令嬢の誕生パーティーでやらかしたバカたち、男の方の親もバカだったようですね。女子爵の婿予定だったようですがそれがなくなったのに気づかないようです…
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