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初めてのお友達

 もうすぐ王立学院の長期休暇が終わり、王宮に来るのもしばらくなくなるいつものお茶会だけれども、今日はいつもとは違う中庭に案内された。

 そこには既にグレイ様が居て、微妙に離れた位置にわたくしぐらいの女の子が座っていた。


「ツェツィ、おいで」


 グレイ様に声をかけられて近づくと、女の子の顔がよく見えるようになって、まだ幼いけれども、宰相の息子ルートでの悪役令嬢の第三王女であるとわかった。


「紹介しよう。私の妹で第三王女のメイベリアンだ。メイベリアン、こちらはデュランバル辺境侯爵の長女のツェツゥーリア。お前と同い年だ」

「初めまして、妾は第三王女のメイベリアン=ジャンビュレングですわ」

「お初にお目にかかります。わたくしはデュランバルへんきょう侯爵が長女、ツェツゥーリア=デュランバルです」


 流石悪役令嬢。幼女なのにくっそ可愛いな。


「貴女、兄上に取り入って妃の座を狙っているというのは本当でして?」

「はへ?」


 ど う し て そ う な っ た ?


「メイド達が噂をしておりますの。兄上は戴冠前にいた婚約者が病で亡くなったショックで、幼い子供を好きになるようになったのではないかと。それにつけいって、デュランバル辺境侯爵の娘が王宮に入り込んでいると」


 なんじゃそりゃ。

 っていうか、四歳の幼女になんつー話を聞かせてるんだそのメイド達は。


「メイベリアン、そのようなわけがないだろう。事情は話せないが、ツェツィが王宮に通っているのは私の希望だ。決して幼女趣味ではない」

「いままさにツェツゥーリア様を膝に乗せようとしていては、信憑性がありませんわね」


 ですよねぇ。今日はいつものガゼボじゃないので、テーブルのものに手が届かないとかはないしね。


「ああ、いつもの癖が出てしまったな」

「妾だって、兄上にそのようなことをされた事なんてありませんのに」


 お?


「もしかして、羨ましいのですか? メイベリアン様」

「なっ。そ、そのようなことありませんわ」


 ツンだ! ツンがいるぞ! 皆の者、であえー!

 わたくしはメイベリアン様の可愛らしさに、思わずグレイ様の膝の上から降りて、微妙に遠い距離をグイっと詰めて座る。


「ツェツィ?」

「メイベリアン様」

「なんですの?」

「一緒に遊びましょう!」

「は?」


 メイベリアン様の手を取って、わたくしは目を輝かせます。


「そうと決まればこんなところに座ってはいられません。行きましょう」

「ちょっ、お待ちなさい。どこに行くのです」

「ツェツィっ」


 背後からグレイ様の声がしたけれど、わたくしはメイベリアン様の手を引いてどんどん中庭を進んでいき、花が咲いている所で手を離すと、芝生の上に座る。


「ほら、メイベリアン様も座りましょう」

「そんなところに座ったら、ドレスが汚れてしまいますわ。そうなったら、メイド達に怒られますわ」

「気にしちゃだめですよ、ほらっ」

「キャッ」


 ぐいっと手を引っ張ると、メイベリアン様がわたくしの方に倒れ込んでくるので、それを受け止める形で二人で芝生の上に倒れ込む。


「急に手を引くなんて、危ないではありませんか」

「ふふ、ごめんなさい。メイベリアン様がいつまでも立っているからですよ」

「妾のせいだと言うのですか?」

「もういいじゃないですか。一緒にごろごろしましょう?」

「だから、ドレスが汚れてしまいますわ」

「土の上に座るわけじゃないから、そんなに気にしなくても大丈夫です。草なら手で払えばいいですし」

「そういう問題では」

「見てください、メイベリアン様。空がきれいですよ!」

「話を聞きなさい。まったく…………、まあ」


 メイベリアン様がわたくしから視線を離して、首を動かして空を見上げて感嘆の声を上げる。

 本日は雲一つない晴天。

 冬なので、暑いという事も無く、何だったら肌寒い。


「お空、綺麗ですね」

「そうですわね」

「メイベリアン様、ぎゅーってしましょう」

「は、え?」

「くっついていた方が暖かいですよ」

「……貴女、本当に辺境侯爵の令嬢ですの?」

「そうですよ。でも、へんきょう侯爵家の娘なので、淑女教育がちょっと甘いかもしれません」

「そのようですわね。全く、兄上もこのような令嬢のどこがよいのでしょう」

「グレイ様は、事情があってわたくしに構っているだけですよ」

「兄上を愛称で呼んでいますのね。貴女も兄上に愛称で呼ばれていましたし、随分仲が良いではありませんか」

「拗ねてるメイベリアン様、可愛いです」

「拗ねていませんわ」

「グレイ様と仲良くしないんですか?」

「兄上はお忙しいのです。妾の事で手を煩わせるわけにはいきませんわ」

「うわあ、すごい偉いんですね!」

「え?」


 四歳なのにそんな風に考えちゃうとか、すごい。

 第一王女と第二王女はわがまま王女っぽいけど、メイベリアン様は将来高飛車キャラだけどいい子なんだなぁ。


「グレイ様を気遣えるって、素敵だと思います」

「そうかしら?」

「はい。グレイ様だって、メイベリアン様のそんな気持ちを知ったら、絶対に喜びますよ!」

「兄上は、妾の事等、どうとも思っていませんわ」


 思いもよらない暗いトーンの声に、わたくしは思わず起き上がってメイベリアン様に抱き着いて芝生の上に倒れ込んだ。


「な、なにをなさいますの」

「ぎゅー、です。暖かくなりますよ」

「淑女としての自覚がたりないのではなくて? こんなこと、普通はしませんわ」

「普段はちゃんとしてます。でも、メイベリアン様が寒そうだから仕方がありません」

「別に、寒くなんて」


 メイベリアン様がそう言った時、ヒュウ、と風が吹いてきて、フルリ、とメイベリアン様の体が震えたので、力を込めてギュウギュウと抱き着く。


「おやおや、私を差し置いて、妬けてしまうな」


 上からかけられた声に顔を上げると、逆光で顔は見えないけれど、グレイ様がわたくしとメイベリアン様を覗き込んでいた。


「二人がじゃれ合っているのは大変可愛らしいが、兄を混ぜてはくれないのか?」

「兄上、これは、そのっ違うのですっ」

「グレイ様もぎゅーってしますか?」

「そうだな」


 そう言うと、グレイ様はわたくしとメイベリアン様をそれぞれの腕に抱きかかえました。


「きゃぁっ。兄上、何をなさるのです。おろしてくださいませ。御身に何かあったらどうするのですっ」

「鍛えているから、二人を抱えるぐらいどうという事はないよ」

「メイベリアン様はグレイ様の事が心配なのです」


 わたくしがそう言うと、メイベリアン様は顔をパッと赤くした。


「ツェツゥーリア様、余計なことを言うものではありませんわ」

「わたくしは兄さま達と仲がよいのですよ。だから、メイベリアン様もグレイ様と仲良くして欲しいです」

「そんな、兄上にご迷惑をかけるような真似……」

「ツェツィはメイベリアンを気に入ったのか? それであれば」

「むっ、そのような言い方はよくありませんわ。わたくしはちゃんと、お二人に仲良くして欲しいのです」


 メイベリアン様はグレイ様に遠慮してるし、グレイ様はメイベリアン様は妹の一人で興味を持っていないっぽいよね。

 どうしたら仲良くなれるかなあ。

 グレイ様との仲が良かったら、宰相の息子ルートに入っても、メイベリアン様の娼館エンドは避けられると思うんだよね。


「ふむ。メイベリアン」

「な、なんですか。兄上」

「お前は上の二人の姉と違い、よくやっていると聞く」

「それは、ありがとうございます」

「しかし、王女特有の傲慢さもそれなりに見て取れるという報告も受けている」

「ぅ……」

「だがまだ四歳だ。これからも王女らしく精進するように」

「はい」


 言い方ぁ。もうちょっと優しい言い方は出来ないの?


「メイベリアン様、グレイ様はメイベリアン様に期待しているのですよ」

「ぇ?」

「グレイ様は言葉が足りないのです」

「そうか?」

「わたくしにはちゃんと言いますのに、兄弟なら言わなくても通じると思ったら大間違いなのですよ」

「しかし」

「わたくしだって、ハン兄さまや、ロブ兄さまに伝えたいことがある時は、ちゃんと言葉にします」


 言わなくても伝わるなんて、怠慢だわ。


「……メイベリアン」

「はいっ」

「お前には期待している」

「ぇ?」

「努力するのは良いことだ。お前もいずれどこかに嫁ぐ身、その時に自分に恥じる部分がないようにこれからもよく学ぶように」

「あの、兄上」

「なんだ?」

「その、妾は兄上の邪魔にはなっていませんか?」

「そのようなことはないぞ」

「本当でしょうか?」

「ああ。私は不要な嘘はつかない」


 必要なら嘘も辞さないんですね、わかります。

 あ、でも純粋に四歳児のメイベリアン様ってばめちゃくちゃ嬉しそう。


「兄上、妾は今後も兄上が誇れるような王女になるべく、努力しますわ」

「ああ、期待している」


 グレイ様の言葉に、メイベリアン様が頬を赤くして「期待」と繰り返してる姿が可愛いなぁ。

 そうすると、グレイ様がわたくしとメイベリアン様を抱えたまま芝生の上に座る。

 流石に腕が疲れたのかな?


「兄上、服が汚れてしまいます!」

「このぐらいどうという事はない」

「しかし、メイドに怒られてしまったら、王としての威信にかかわりますわ」

「服が汚れたぐらいで怒ってくる者など、無視してしまえばいい」

「でも……」

「駄目ですよ、グレイ様。あくいのない進言をないがしろにしては、よい王にはなれません」

「耳に痛いな」


 グレイ様はそう言って笑うと、それぞれの太ももの上にわたくしとメイベリアン様を乗せる。


「ツェツィは明後日には領地に帰ってしまうのだろう? しばらく会えなくなるのにお小言はなしだ」

「え。ツェツゥーリア様、領地に帰ってしまいますの?」

「はい。王立学院が始まりますので、おとうさまと一緒に領地に帰ります」

「そんな」


 あ、メイベリアン様がしょんぼりしてる。


「折角、お友達が出来たと思いましたのに」

「お友達?」

「はっ。ちがっ違いますのよ。兄上の紹介だからで、お友達とか、そういうのではっ」

「嬉しいです! わたくし、同い年の子供に知り合いがいなくて、お友達がいないんです。良ければ、正式にお友達になってくれませんか?」

「よろしいの? 会えなくなりますのに?」

「次の王立学院の長期休暇が始まりましたら、またおうとに来るかもしれません。それに、わたくし達が王立学院に通うようになったら、同学年です」

「そう、そうですわね。お友達、ふふ、妾もツェツゥーリア様が初めてのお友達ですわ」


 はぅっ、美幼女の笑み、ごちそう様です。

 笑い合って手を取り合うわたくしとメイベリアン様を見て、グレイ様が微妙な顔をしているけれど、なんだろう。

 妹を取られて今更ながらに悔しくなったとか?


「ふむ。ツェツィの機嫌がよいのはいい事だが、なんだかメイベリアンにツェツィを取られそうだ」


 なんでそうなるの?

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