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学院の勢力図

 十一歳から十二歳ともなると、第二次性徴期を迎える子もいるわけで、男の子は言うまでもなくそれぞれ家庭教師に色々学びだし、女の子の中にはアンジュル商会で販売し始めた新しい生理用品について、メイドなどを使い、聞き出す子も増えてきている。

 でも、やっぱり当て布はあったからナプキンは受け入れやすいみたいだけど、タンポンは抵抗があるみたいね。

 淑女が婚前にアソコに異物を入れるなんて、っていう感じらしい。

 娼館のお姐さん達には、かなり好評だったんだけどな。

 わたくしも、背丈は平均に比べて小さいけれども、体つきはまあ、成長してきているよ?

 胸だってちょっとは膨らんできたし、腰だってメイドが言うにはくびれが出来てきたって、マッサージを念入りにされるようになったもん。

 胸も揉めば大きくなるって言ったら、笑顔で『旦那様になる方にお任せすべきです』と言われたけどな!

 そんな事言えるわけないだろうバカヤロー!

 お化粧を始める子もいるんだけど、わたくし達の年から下は、年上の人たちがしている厚化粧は害悪、自分に自信がない証拠と言われているので、アンジュル商会で販売している化粧品を使っている。

 まあ、化粧品の販売員に化粧のポイントとかを伝授して、その人の魅力を引き立てる事が出来るメイクを指導するようにしているっていうのもある。

 まだ厚化粧をしている年上の生徒からは、アンジュル商会に踊らされているとか、厚化粧こそが淑女の証だって言葉もあるけれども、自身の母親の顔の変わりようや、肌の傷み具合を実際に知っている事から、やはりわたくし達の学年から下の令嬢では、既存の化粧品よりも新しい化粧品を使うように意識が動いている。

 値段も、既存の白粉よりも新しく販売を始めたファンデーションの方が安いしね。

 自分の娘を不器量だと言う家でも、「そんな化粧をさせて娘の寿命を縮めたいのか?」と噂を流されるよりはと、新しい化粧を認めているらしい。

 貴族にとって評判や噂は重要だからね。

 もちろん、わたくし達は率先して従来の化粧をさせようとする家があれば、「あの家は~」って噂を流しているよ。

 お茶会に参加する年上のご令嬢にも、新しい化粧をする人もいるし、香水をきつくぶちまけるっていう事もしない人とする人がいる。

 まあ、「香水で体臭をごまかすなんて、よっぽど、ねぇ」と噂をしたりしてる結果だけれどもな!


「しかし、ハンとツェツィは、随分と成果を上げているようだな」

「全てはツェツィのアイディアのおかげだよ」

「ハン兄様が居なかったら、ここまでの成果は出なかったわ」


 社交シーズンに入って、領地から王都にやって来たお父様は、アンジュル商会の売り上げ報告書を見て肩を竦めている。

 領地の税収も大分改善されている事から、我が家は貴族の中でも指折りの裕福な家になっているけれども、その分国に納める税金も増えているので、魔の森やダンジョンを抱えている手前、お父様達は貯蓄を続け散財するという事はない。


「まあいいだろう。アンジュル商会の売り上げについては、ハンとツェツィに任せている。確かにデュランバル辺境侯爵家が後ろ盾にあるとはいえ、経営には関与していないからな」

「ツェツィ、また販売するお菓子を増やしたのか?」

「タルトタタンはアップルパイと材料は同じだもの。もっと早く売り出してもよかったぐらいだわ」

「それだけじゃないよね? このフォンダンショコラっていうのも、かなり人気みたいだな」

「中に入っているトロっとしたチョコの塩梅が難しかったわ。レシピを教えても、コックの魔力次第では火力が変わってしまうんだもの。ロブ兄様は前にココアを飲んで甘すぎって言っていたけど、フォンダンショコラはどう?」

「うーん、そこまで甘いわけじゃないから、このぐらいなら平気だな」

「私は、こちらのクランチクッキーが気に入りました。食感がよいですね」

「ナティ姉様はザクザク系が好き? じゃあフロランタンも好きかも」

「フロランタンですか」

「今度作るね」

「楽しみにしています」

「それにしても、コーヒーが手に入ればティラミスも作れるんだけどな」

「コーヒー?」

「苦味がある飲み物に使うんだけど、そうねぇ、消臭効果もあったり」

「ツェツィ、その感覚で説明する癖を何とかしなさい」

「でもお父様、知らない人にわたくしが知っている物を説明するのって、難しいのよ」

「それは分からないでもないが……。しかし、コーヒーか。王太后様も飲みたいと言っていたな」

「そうなの?」

「ああ、カフェイン中毒? なる物だそうだ」

「あー。紅茶でもいいけど物足りないのね」


 わたくしは前世でそこまでカフェイン中毒じゃなかったけど、王太后様はカフェイン中毒だったかぁ。

 でも、本当にコーヒーの木が手に入ると、新しい飲み物にも手が出せるんだよね。

 前世では新大陸だっけ? 焙煎は出来るけど、流石に豆の品種にそこまで詳しくないし、どんな木なのかは知らないんだよね。

 王太后様の方が詳しいかも。


「しかし、今年も王太后様は王都に来なかったから、昨夜の観劇会では、私が王太后様と深い仲になっているのではないかと疑われてしまった」

「へえ?」

「ああ、言われてたね。でも、父上の母上一筋は有名だから、周囲の人は白い目で見ていたな」

「ロブ兄様とナティ姉様の結婚式も終わったし、子供の催促とかもされたんじゃないの?」

「まあ、ツェツィ様ってばおませさんですね。けれど、その通りです。私は急いでいないのですが、辺境侯爵家に嫁いだからには、早く子供を産んで婚家を安心させろと、父に言われました」

「うわぁ……」


 実の娘に言っちゃうんだ。

 ナティ姉様のご実家って、女は子供を産むためだけに存在するとか考えちゃう感じ?

 でも、大人の社交はやっぱり面倒そうだなぁ。

 ナティ姉様なんて、大人がしている厚化粧じゃなくて、新しい化粧品を使っての薄化粧だから、余計に目立つよね。


「お化粧についても何か言われた?」

「そうですね。言われたというか、色々な視線を浴びましたね」

「視線……」


 いいものじゃないんだろうな。

 そう考えると申し訳ないけど、あんな化粧を続けてナティ姉様を早くに亡くすなんて絶対に嫌だし。


「まったく、ヤナティアンはロブの妻だと言うのに、下種な視線を向ける男が多くて困ったものだ」

「本当に。どうせ、自分の妻の厚化粧にうんざりしている連中でしょう」


 お父様とロブ兄様の言葉に思わず目を瞬かせてしまう。


「中には、妻ではなく愛人を連れて来たのかと言う愚か者までいたからな。もちろん、そいつにはきっちり抗議文を送る」

「あー、そっちか」


 貴族の淑女=厚化粧だから、薄化粧のナティ姉様をロブ兄様の愛人だと思った人もいたわけか。

 学院に居た時は厚化粧だったから、元の顔を忘れている人もいるだろうし、ありえるわ。

 でも、我がデュランバル辺境侯爵家の次期当主の妻に対して随分な非礼よね。お父様からだけじゃなく、グレイ様からもそう言う馬鹿が今後現れないように注意してもらおう。

 それにしても、王都に家族が揃うのってこの社交シーズンだけだから、やっぱり嬉しいなぁ。

 屋敷の使用人も、いつもより緊張感があると言うか、いい意味で張り切ってるよね。


「ツェツィの方はどうだ?」

「ん?」

「子供の社交とは言え、そろそろ変化が出てきたんじゃないか?」

「ん~……、お化粧を始める子も出てきたかな。あとは、二次性徴を迎えた子も出てきたから、体調不良で急遽お茶会を欠席する子もいるね。まだ周期が安定しないかもしれないし、しかたがないだろうけど」

「あ、いや……そういう意味ではなく」


 違うのか? でも、他に変化なんてあるかなぁ?

 お父様が困ったように苦笑していると、ハン兄様がティーカップを置いてわたくしの頭を撫でる。


「家の派閥も含めた、学院の令嬢の勢力図も出来たんじゃないかっていう事だよ」

「ああ! そっち!」


 わたくしは納得したように、ポン、と手を叩く。


「結構前から出来上がってたから、全くそっちは考えてなかったわ」

「そうなのか?」

「といっても、わたくし達がお茶会に招待する年齢の令嬢だけどね。分かりやすく言えば、メイジュル様達にすり寄る系の貴族至上主義派と、わたくし達の実力主義派。それと中立の穏健派というか、様子見という名の力を持たない令嬢の派閥ね」

「あら。他の年齢の令嬢の派閥は把握していないのですか?」

「お茶会に招待しないぐらい上の年齢の令嬢は、ナティ姉様も知っているように、男尊女卑の意識が強い貴族至上主義が多いわね。実力主義の令嬢も居るけど、極僅か。穏健派はほどほどという感じかな。幼い方は、まだ定まっていないから、家の影響が強いわね。中心にいるのが、カーティス侯爵家のご令嬢だから、貴族至上主義派の令嬢が強めの勢力を持っているわ。でも、ナファヤン辺境伯のご令嬢がそれに対抗して実力主義の派閥を増やしている感じだっていう話よ」


 スラスラと言うと、ナティ姉様が頷く。

 いや、わたくし達だってちゃんと情報収集をしているのよ?

 自分の周囲だけに気を配っているわけじゃなくて、学院全体を見ているわ。

 だって、それが学院の女生徒筆頭と言われるわたくし達の役目だもの。


「ふむ。思った以上に貴族至上主義派の影響があるのか。ハン、お前の知っている範囲での子息の方はどうだ?」

「そうだねぇ。令嬢に比べれば、貴族至上主義派は少ないんじゃないかな? 文官や武官を目指す子息も多いからね」


 貴族至上主義派の筆頭は、王太后様の実家なんだよなぁ。

 王宮での発言力は弱くなったけど、貴族間での発言力はまだあるし、血縁者をばらまいているので、貴族にあの家の縁者は多い。

 面倒なんだよなぁ。

 思いっきり不正でもしてくれれば、グレイ様も爵位を落とせるそうなんだけど、自分達はあくまでも手を出さず、誘導しているだけだから、尻尾を掴ませないそうなんだよね。

 一番尻尾を掴めそうなのは、グレイ様のお母様の死に関する事らしいけど、それも当時も今も調べても証拠が出ていない。

 王太后様の話も、希望的観測で言ったと言われてしまえばそれまでだし、本当にああいうやつって嫌い。

ココアの方がフォンダンショコラより甘さを調整できると後に気が付きました。

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― 新着の感想 ―
[一言] そですね…ココアは砂糖入れないと相当ですからね… 純ココアの粉を舐めて涙目になった少年時代を思い出します(笑) 後は…バニラエッセンス…あんなに甘そうな匂いなのに…
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