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仕方がないですよぉ

「皆様、本日はわたくしのお茶会にご参加いただきありがとうございます。皆様もうお知り合いですので、改めてご挨拶なども不要でしょう。我が家のコックの自慢の茶菓子と、お茶をお楽しみください」


 にっこりと微笑んでそう言うと、各テーブルでそれぞれ会話が始まる。

 社交シーズンでもないので、そんなに人数が居ないという事もあり、本当に全員が知り合い。

 わたくし達も十一歳だし、新しく下級生をお茶会に招待するっていう事もないからね。


「スリア様、先日の試験では一位だったのですってね。素晴らしいです」

「ありがとうございます。薔薇様方の勤勉さを見習って、今まで以上に努力をした甲斐がありました」

「よかったです。こう言ってはなんですが、スリア様のお家は、お兄様と妹様を可愛がって、スリア様はあまりでしたでしょう?」

「ええ、けれども、いずれどこかに嫁ぐのであれば、その家に恥をかかせないように教養を身に付けるべきだと、薔薇様方がおっしゃったので、その旨を父に伝えたところ、家庭教師の質だけは上げてもらえました」

「お役に立てたなら何よりです。……ジルティア様、本日のドレスは素敵ですね。レースのアレンジがよろしいと思います」

「ありがとうございます。姉の物をリメイクしたのですが、お針子の腕がよく、まるで元から私にあつらえたようにぴったりなんです」

「ええ、とてもお似合いです。……ミシェル様、そちらのお茶菓子はお気に召しまして? チョコレートを使った物ですの」

「ええ、とても美味しゅうございます。薔薇様方のお茶会でなければ、このようなお茶菓子はいただけませんので、つい食べ過ぎてしまいそうです」

「あら、よろしければお土産に持っていかれますか?」

「よろしいのですか?」

「もちろんです。こう言っては何ですが、ミシェル様はもう少し食事を召し上がったほうがよろしいと思いますもの」

「お気遣いありがとうございます。こうしてお茶会に招待される機会を得て、以前よりずっとよくなりましたが、やはり皆様よりは食事量は少ないので」

「大変ですね。……パミュラ様、そういえばお姉様と席をご一緒にしなくてもよろしかったのですか?」

「問題ありませんわ。お姉様と一緒では、折角のお茶が台無しですもの」

「まあ、そのような事を言う物ではありませんよ」

「いいえ。私と一緒のお茶会に呼ばれる事自体光栄な事なのに、馬車の中でも不愛想で、我が姉ながら本当に情けない事です」

「寡黙な方なのでしょう。けれど、あちらのテーブルではクロエと話が盛り上がっているようですね」

「それは……、クロエール様が気を使ってくださっているのですよ」

「そうかもしれませんね。クロエはとても優しいですから」

「ええ、そうですとも」

「そういえば、そのドレスは素晴らしいですね。流行を取り入れていますし、新しくお仕立てになったんですか?」

「ええ、この日の為に仕立てました」

「そうなのですか。お姉様の方は、そうではないようですね」

「あの人はこういった事に興味がないのです」

「そうですか? それをおっしゃるのなら、このテーブルにいる全員がそういったことに興味がないという事になりますね」

「あ……」


 しまった、という顔をするパミュラ様に、わたくしはにっこりと微笑みを向ける。

 別に陥れようとしているわけじゃないよ? 貴女が勝手に語るに落ちたんだよ?

 わたくしを含めてこのテーブルには、この日の為にドレスを新調した人はいないから、パミュラ様の言葉からすればわたくし達は流行に乗り遅れているって話になっちゃうからね。

 爵位的に自分より低い令嬢もいるけど、わたくしが居る以上、やばいと思ったんだろうなぁ。

 実際、兄弟間での待遇の差別に関してはグレイ様もよくないと思っているっていう噂を流しているし、ましてやしかるべき社交行事に出席もさせないなんて論外って言外に話しているから、招待をしても諸事情で参加出来ないと断ってくる人はほとんどいなくなったけどね。

 逆に、毎回のように断ってくるご令嬢の家には、わたくし達が親しくしているご令嬢がその家のお茶会に参加して様子を見に行ったりしている。

 学院で着用しているドレスなんかを見ても、待遇に差が出ていたりするのはわかるけど、やっぱりその家に行って状況把握するのが手っ取り早いからね。

 わたくし達が直接行ってもいいんだけど、行くと『我が家に来た!』とマウント取る人がいるから行けないんだな。


「……そういえば、メイジュル様達はまだ体調が戻っていないようですね」

「そうですね。魔法薬も使っているそうですが、体重を増やす魔法薬なんてありませんし、髪の艶やくぼんだ目、隈なども簡単に消えませんよね」

「新学期が始まってすぐは、お顔のあちこちに赤い跡もありましたよね」

「噂では、浮浪者にたかるノミに刺されたのではと聞きましたわ」

「まあ、長期休暇の間に西の辺境領に行っていたと聞きますが、そんなに不潔な所なのでして?」

「いいえ、陛下はメイジュル様達に平民の暮らしを体験させていたそうですが、体を拭うという事すらしていなかったようです」


 わたくしの言葉に、令嬢達が顔をしかめる。


「それでも、洗浄魔法を自分に施せば問題はないのでは?」

「そうですわよね」

「そのような発想がなかったようです。王都に戻って来た時は、本当に浮浪者のようだったとか」

「今では、メイジュル様達に近づく方もめっきり減ってしまいましたし、自業自得とはいえ、お気の毒ですね」

「あら、ツェツゥーリア様はともかく、薔薇様達を蔑ろにしているのですよ。学院内だけではなく、貴族の親の間でもメイジュル様達の評判は最悪ですよ」

「他の生徒に悪影響が出てからでは遅いですし、第一王女様や第二王女様のように他国に留学は無理なのでしょうか?」


 令嬢の言葉に苦笑してしまう。

 それも実はグレイ様に提案した事はあるのだけれども、第一王女と第二王女は選民意識は高かったものの、立場はわきまえていて、傲慢さはあるもののあくまでも許容範囲であったから他国に出す事が出来たらしく、メイジュル様では他国に出したが最後、国交断絶レベルの失態を起こすのではと却下されているのだ。


「メイジュル様達では、他国と摩擦を起こしてしまうのではと、陛下はご心配なさっています」

「まあ……。確かに、否定は出来ませんが。かといって、このままではメイベリアン様達がお気の毒ですわ」

「リアン達も、もし結婚した場合、白い結婚を貫けるよう対策をしているようです」

「まあ、そうでしたの?」

「当たり前です。あのように不義理で不貞を働くような方を、夫として愛するなんて無理でしょうし、しかたがない政略結婚とはいえ、『代わりがないわけではない』のですから」


 わたくしの言葉に、令嬢達がわずかに思案する。

 わたくしの言った代わりが居るという言葉を考えているのだろう。


「それにしても、相手の有責だとしても婚約解消後に新しい相手が見つからなければ、女性に咎があったのではと言われるこの国の風潮は、本当に他国に比べて遅れていると思います」

「陛下は女性の立場の向上を目指していますよね?」

「けれども、古い因習に囚われた方は多いようで、なかなかうまくいかないようです」


 いや、周辺の国もそれなりに男尊女卑がひどいけど、それでも周辺国の中でこの国は一番ひどいと思うよ。


「メイベリアン様達は、もしかしてお相手をお探しでいらっしゃいますの?」

「まあ、パミュラ様。滅多なことをおっしゃるものではありませんよ。それではまるで、リアン達が不貞をしているようではありませんか」

「も、申し訳ありません」

「けれども、リアン達から事情を聞いているお家の方は、リアン達に気づかれないように動いている可能性はありますね」

「なるほど、それであればなんの問題もありませんね。家が様々な根回しをするのは常識ですもの」

「ええ、本人すら知らないところで動かれるなんて、成人する前でしたらよくある事ですね」

「本当に。大人達の勝手にも困ってしまいますが、あくまでも子供を思っての事ですからね。もしそうなってしまった時は、しかたがありませんよね」

「ええ、親が婚約を決めたり変えたりするのはありますもの」

「所詮は私共は子供ですから、仕方がありませんわ」

「皆様も、きっとこの話題を気にしているでしょうね」

「ツェツゥーリア様のおっしゃる通りですわ」


 暗にこの話を広めろよ、と言えば、令嬢達はにっこりと微笑む。

 他のテーブルでもこの噂を広めるようにして、あとは他のお茶会でもさり気なくこの話題を出しておけばいいかな。

 しかし、学院ではメイジュル様達は相変わらず偉そうな態度を取っているけど、ほとんどの生徒が気づかないふりをしたり、聞こえないふりをしたりしているからな。

 名指しで指名された令嬢はどうしようもないけど、たいていが「おい」「お前」「そこの」だから、特定出来ないんだよね。

 乙女ゲームではメイジュル様は女遊びが激しい設定だけど、平民に手を出したり、娼館に行っても女遊びが激しかったりするっていうのは間違ってないから、そっちに修正される可能性がありそう。

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― 新着の感想 ―
[一言] まだ偉そうなのか…(笑) つける薬が有りませんね〜。
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