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腐り落ちろ

 あの騒ぎのあと、リアン達には多くの同情が集まった。

 まあ、当然だろう。

 今まで散々婚約を解消したいと言っていたし、挙句の果てには向こうの不貞行為を晒した挙句の、大勢が耳にする場所での婚約破棄宣言。

 多くの生徒は、ついに婚約がなくなり、リアン達が解放されるのだと思ったのに、蓋を開けてみれば家の事情でそれも叶わず、しばらくの間リアン達は折角婚約を解消出来ると思ったのに、事情が邪魔をして解消出来ないと、わざと聞こえるように色々な所で話した。

 その結果、『メイベリアン様とクロエール様とマルガリーチェ様は、婚約者を心の底から軽蔑しており、常日頃から婚約の解消を願い出ている。それが受理されないのは、婚約者がみっともなく縋っているからだ』という噂が広まった。

 いやね、もうこれはリアン達の作戦勝ちだね。

 婚約解消出来なくて結婚するような事になっても、敷地内に別邸を建てて別居するっていう条件を突き付けたそうだから、乙女ゲームでルートに入らなくて婚約解消にならなくても安全だね。

 本当はちゃんと婚約解消まで持って行ければ最高だったんだけど、家の事情を考えて、このぐらいではまだ弱いっていうのは分かっていたみたい。

 婚約解消をするにしても、代わりを見つけないと、初めはよくても次第にリアン達の評判が悪くなる可能性があるからね。

 どんなに被害者であっても、いつまでも次の相手が見つからないと、この国では「やっぱり女の方に問題が」って言われるんだよ。

 うまい具合に噂をコントロールして、常識のある子女からは家の為に自分の感情を押し殺す貴族の鑑、なんて言われたまま、社交シーズンに突入した。

 三人とも、婚約者としての最低限の義務以外は、最低限の接触にする事を婚約継続の条件にしているし、噂の火消しに必死になっているメイジュル様達がリアン達に接触してくる事はないし、会いに来ても門前払いしているらしい。

 お茶会でも、社交シーズン前の必要最低限の挨拶の為に招待するのは欠かさないが、あからさまな貴族至上主義者や、メイジュル様達に媚を売る令嬢をお茶会に招待しなくなった事で、はっきりとした学院内の令嬢の構図が出来上がった。

 無駄に高飛車な令嬢は未だにいるものの、散々、家の中での子供の養育の差別をグレイ様が快く思っていない事を主張していたこともあり、表立ってあからさまな分かりやすい差別をする家はだいぶ減っている。

 まあ、無くなったわけじゃないんだけどね。

 リアンは子供養育の差別に対して、積極的に異を唱えていたので、今まで虐げられていた子女から慕われている。

 というか、言ってしまえばわたくし達四人が、グレイ様の意見という形で色々と噂を広めているので、少なくともわたくし達の前で下手なことが出来ないという形になっている。

 わたくしはモブだけど、権力万歳!


「ツェツゥーリア様、父に聞いたのですが、陛下に真珠のブレスレットを献上なさったんですってね」

「お耳が早いですね。以前いただいた海沿いの領地で採れた真珠を使った物です。個人領を頂いたお礼なのですが、今年、また個人領を頂いてしまいましたから、今度はどのような物を献上しようか悩んでいます」

「鉱山がある領地でしたね。けれども、人員や予算の関係で手付かずだと聞きました」

「ええ。鉱山の採掘には鉱夫や魔法士を多く雇う必要がありますから」

「流石のツェツゥーリア様でも、鉱山を運営するのは難しいのですか?」

「そうですねえ。色々考えてはいるのですが、まだ形に出来るかが不透明です」


 やんわりと、お前らの親が勝手に口出してくるんじゃねーぞ、と釘をさしておく。

 大分馬鹿を排除出来たおかげか、今度は小賢しい令嬢が多くなり、こういった腹の探り合いがお茶会の日常になっている。

 リアン達も、婚約解消について同情されつつも、弱みがあるのではないかと探りを入れてくる令嬢が多いそうで、それを微笑みで躱すのがストレスがたまると女子会でこぼしている。


「それにしても、陛下は例の政策をさらに一歩推し進めているのだそうですね」

「ええ、王宮に女官という役職を新たに設けるのだとか」

「正直、メイドだけではいけないのかと疑問に思うのですが、ツェツゥーリア様はどう思いますか?」

「それに関しては、もちろん皆さんもご存じだと思いますが、今は国を代表する女性が表立っていませんからね。女性がすべき仕事を今は王宮のメイド長と陛下、そして文官が担当していますが、いずれ任命される正妃様の為に、執務の手伝いをする仕事だとお伺いしています」

「そうでしたか」

「人選も、しかるべき教養と品格のある方を選ぶそうですよ。そこには貴族の身分は含めないと聞きますので、女性にとっては仕事先が増えるだけではなく、結婚という手段を使わずに身を立て、出世をする良い機会ですね。このような事を考案なされる陛下は、本当に国民思いですね」


 わたくしがにっこりと微笑むと、同じテーブルの令嬢達が「本当に」と微笑み返してくる。

 まあ、ここで反論したらグレイ様に反抗する意志があると思われるからね。

 グレイ様が戴冠した後に行われた、貴族の粛正によって、親に巻き込まれる形で爵位を落とされた子供の中には、当たり前だけどまともで優秀な人が居るから、その救済措置でもある。

 実際、王太后様に聞いた正妃の正式な仕事ってかなりハードで、補佐はずっとメイド長がしていたらしいんだけど、それでもハードなんだそうな。

 メイド長はメイド長で、王宮の全メイドの采配っていう重要任務があるしね。

 お分かりだろうか。女官という役職に関しては、わたくしが正妃になった時に楽、じゃなかった、スムーズに執務を行えるようにするのが目的なのだ。

 今から女官を用意しておけば、わたくしが正妃になった時に新しく設けるのと違って、反感も買いにくいからね。

 優雅にお茶を飲んで、マドレーヌを一口サイズに切り分けて口に運んで咀嚼して飲み込んで、リアンの離宮のコックも腕を上げたな、と感心する。

 リアンの離宮とクロエの家、リーチェの家、そしてグレイ様専属のコック、うちの王都の屋敷と領地の屋敷、この六つには前世の料理のレシピを惜しげもなく渡している。

 本当は王太后様にも渡そうかと思ったんだけど、「社畜の一人暮らしはだてじゃありませんよ。時短で簡単、美味しく栄養抜群の料理を作るのは嗜みです」と断られた。

 実際、王太后様の作ったパスタ、めちゃうまだったよ。逆にレシピもらっちゃった。

 上品にお茶を楽しみつつ、腹の探り合いをしたり牽制をしたりしつつ、お茶会を楽しんでいると、終わりの時間になりリアンがお開きの合図をして解散になった。

 招待客を最後まで見送って、メイド達が会場の片づけを始めるのを見届けてから、わたくし達は部屋を移動して、しっかり防音結界を張る。


「どうだった?」

「効果が出ていますよ。パトロンをしている作家の方が書いている小説がいい刺激になっているようですね」

「王道のラブストーリーだけど、王道だけに一度火が付くと長いわよね」

「平民から貴族になった娘が、高貴な子息に見初められ、恋人同士になり幸せに暮らす。ふふ、こう言ってはなんじゃが、ツェツィの言う通り王道故に人気が続いておる」

「演劇のモチーフにもなるのでしたわね」

「ええ、私の席ではその話題も出ました」

「でもまあ実際の所、いきなり平民から貴族になるってあんまりないよね。大抵は子供の頃に庶子として引き取られるんだもん」

「ない事はないがのう。愛人宅だけを与え、子供には平民としての教育を施すというのは」

「けれども、そうやって飼い殺すよりも政略の道具に使った方が効率的ですから、やはりほとんどの場合は庶子として引き取りますね」

「正妻になれなくても、愛人に送り込むことも出来るからの」

「他にも、武官や文官にさせて、国の重要な役職に就かせるという手段もありますね」


 のんびりと会話をしながら、メイドが淹れたお茶を飲む。

 どの席でも、やはり腹の探り合いと牽制が行われたようだけれども、かねがねわたくし達の目的通りに噂は誘導出来たようだ。

 流石に学院での社交にも慣れて、噂を操るのもお手の物になってきた。

 まあ、所詮は子供のわたくし達ではどうしようもない事はあるにはあるけど、そこはほら、使えるものは使ってなんぼの権力があるから。


「しかし、奴らの謹慎処分がとかれる前に社交シーズンに入ったのはよかったの」

「そうですわね。一ヶ月の学院生活の間で、たっぷりと噂を流せましたもの」

「男尊女卑が激しい我が国ですが、入学当初から積み上げてきた物がありますし、私達はまだ子供ですから、大人の思惑通りにはいきませんよね」

「皆腹黒くて素敵だわ」


 それでこそ、上位貴族の令嬢だよね。

 いやぁ、わたくしには出来ない腹芸だわ。


「ツェツィには言われたくないの」

「まったくですわ」

「そうですね」

「えぇ? わたくしは三人の婚約についての噂は特に操作してないよ?」

「それについては確かにしておらぬな」

「けれど、メイジュル様が令嬢達を手にかけているという噂は流しましたよね」

「行方不明になったご令嬢が、メイジュル様と親しくしていたとちょっとお茶会で話しただけじゃない」

「それで、実際の所はどうなんですの?」

「ぶっちゃけ、家の方は居なくなった令嬢は病に倒れて家か領地で静養って事にしているから、大事に出来ないってのが事実」

「ふん、金か仕事の斡旋でもしたのじゃろう。いなくなった令嬢の家はどこも生活にあえいでいると噂じゃからな」

「ちょっと前に失脚した大臣の裏稼業にも噛んでたっていう噂があったけど、決定的な証拠がないから見逃された家でもあったわね」

「あのような商売をする家は、あの大臣だけではあるまい。他の家も今は鳴りを潜めているであろうが、暗躍はしているじゃろう。我が国は奴隷制度は禁止されておるしの」


 奴隷制度があった頃は、見目麗しい奴隷を使って上位貴族に取り入るとか、普通にあったらしいもんね。

 そういった手段を取れなくなったから、代理で自分の娘や息子を使うっていう手段に出たのかもしれないけど、娼館に自分の意思で勤めるならともかく、家の命令で売春とか、まじで関わった奴らは腐り落ちろ。

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