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密やかなる愛人候補

「お客様?」

「ああ、ツェツィは誕生日のプレゼントをもらう以外で関わりを持った事はないけど、母上のご実家の方が、いらっしゃるそうだよ」

「へえ」


 今更? いや、確かに血縁上はしっかり親戚だし、ロブ兄様は交流があるわけだから何の問題も無いんだけど、今まで一度も来た事がないのになんで?

 アンジュル商会に一枚かませてもらって、稼ごうとしているのかな?


「何で来るのかは聞いているの?」

「養子縁組の話らしいよ」

「養子? あそこの家はもう長子が家督を継ぐって決まっているじゃない」

「だからだよ。あそこは長子以外に子供がいないだろう? お嫁さんは貰ったけど、その他の方法で他の家と縁を繋げられない。それで、養子を貰ってその子を他の家に出すっていう考えらしいんだ」

「まさか、ハン兄様が狙われているわけ?」

「僕じゃないよ」

「え、わたくし?」

「それもないね。ツェツィは絶対に父上が手放さないよ」

「じゃあ、なんで我が家に?」

「一応、うちが主家をしている家の子供を養子に貰おうとしているから、だね」

「それ、お父様がいないのにわたくし達に話してもどうしようもないんじゃない?」

「正式な話は社交シーズンにするみたいだよ。今回は、挨拶。それと、口利きの依頼だね。父上がツェツィに甘いのは有名だし」

「ふーん」


 ハン兄様の言葉に、わたくしは微妙な顔をする。

 他の家と繋がりを作ることを目的に、養子を貰う事はさして珍しい事じゃない。

 ただ、多くの場合は夫が浮気をして庶子を作るから、その子供をあてがうのが普通って言うだけ。

 それにしてもお母様の実家か。

 愛妻家で特に不正をしているわけでもなく、かといって特出して裕福というわけでもないって話だよね。

 代々、魔力が強い子供が生まれやすいっていうのはあるけど、魔法士と言われるほどの才能を持つ子供はそこまで輩出されない。

 貴族至上主義ではないけど、言ってしまえば穏健派、悪く言えば日和見主義。

 お母様がお父様に嫁いだのは、お母様が学院時代にお父様と恋仲になったからだって聞いた事があるし、出世欲もたいしてない家のはずなんだよね。

 それが、養子を迎えてまで他の家と縁を繋げる?

 今の当主、つまりはお母様のお兄様は今までそんな動きはなかったし、次期当主のわたくしの従兄弟の考え?

 だとすると、従兄弟は野心家なのかもしれないな。


 色々思う事はあったけど、結局面会をしないというわけにもいかず、今まで没交渉だったお母様の実家の人と会う事になった。


「ようこそおいで下さいました。お久しぶりです、伯父上。ツェツィは初めて会うね。こちらは母上の兄君のジャンダル=シャッセン侯爵と、その奥様のティナルア=シャッセン侯爵夫人。そのご子息のパルメシア=シャッセン様だ」

「初めまして。デュランバル辺境侯爵家が長女、ツェツゥーリア=デュランバルです。伯父様達にお会い出来て嬉しいです」

「これはまた、シルティアナによく似て……。初めまして。シャッセン侯爵家当主、ジャンダル=シャッセンだ。今まで顔を合わせることが無かった不義理を許してほしい」

「妻のティナルア=シャッセンですわ。本当にシルティアナ様に似ていらっしゃいますわね。旦那様がお辛くなるから会うのを控えるのがわかりますわ」

「初めまして、レディ。パルメシア=シャッセンです。学院では年齢の関係で交流が持てなかった事は、実に残念ですよ」


 自己紹介が終わり、それぞれソファーに座ると、さらに重ねて今までわたくしに会わないという不義理を働いていた事をお詫びされた。

 なんでも、お父様の話から、わたくしがお母様に生き写しで、シスコンであった伯父様はお母様を思い出してしまうから会うのを避けていたんだそうな。

 逆にお母様に生き写しのわたくしに頻繁に会って、これでもかって甘やかすっていうのがお決まりの気がするけど、そこにはシスコンならではの複雑な心境があったのかもしれない。

 ちなみに、パルメシア様は学院でロブ兄様とハン兄様との交流はあったらしく、家にもお邪魔した事があるらしい。

 仲間外れよくないと思うなぁ。

 しばらく、お母様が如何に学院や社交界で人気であったか、亡くなった時どれだけの人々が悲しみに暮れたかを切々と語られ、実家では暗黙の了解であまり話される事の無かったお母様の話を思いがけないところから聞く事が出来た。

 話がひと段落したところで、パルメシア様が「コホン」と咳ばらいをした。


「父上は本当に叔母上が好きでね。王都でツェツゥーリア様の活躍を耳にするたびに、流石は叔母上の娘だと誇らしげにしているんですよ」

「そうですか。嬉しく思います」


 パルメシア様の言葉ににっこりと微笑むと、パルメシア様もにっこりと微笑み返してきた。


「ところで、今日の目的を話してもよろしいですか?」

「養子の話だったね。我がデュランバル辺境侯爵家に縁続きの家の子供を養子にしたいんだったね」


 ハン兄様がにこやかに言うと、パルメシア様が頷く。


「カルツェーナ伯爵家のマルドニア殿です」

「……確かに、我が家に縁がある家ではあるけど、随分遠縁になるよ」

「承知の上です。あの家は長子であるご令嬢が優秀だと聞きますし、弟妹達も将来有望だと聞いています。一人ぐらい我が家に譲っていただいても構わないでしょう?」

「パルメシア様とは随分年齢が離れていると思うんだけど?」

「あまり年を重ねた子供を養子にすると、すでに婚約をしていたり、恋人が居たりしますからね」

「なるほど」


 ふーん、正論ではあるけど、マルドニア様はクロエの所で、クロエの侍従見習いとして住み込みで働いているんだよね。

 その事は学院では知っている人は知っているし、社交界でマルドニア様のお姉様が話を広めていれば耳に入っていてもおかしくはない。

 我が家の事業に関わりたいのかと思ったけど、狙いはクロエの実家の方かな?

 メイジュル様が婚約者とは言え、次期女公爵になるのはクロエだし、うまく取り入る事が出来ればクロエの愛人としてその間に子供をもうける事が出来れば、その子供が公爵家を継ぐ事が出来るかもしれない。

 あくまでも、メイジュル様の子供よりも先に生まれればだけど。

 でも、その場合王族であるメイジュル様を馬鹿にしていると捉えられて、クロエが肩身の狭い思いをする可能性があるのよね。


「パルメシア様は、マルドニア様をクロエの愛人にしようと思っているんですか?」

「つらい思いをしているご令嬢の心をお慰めする事が出来ればと思っていますよ」

「それにより、クロエの悪評が広まったらどうしてくれるのです」

「マルドニア殿は、クロエール様の侍従見習いですから、今の時点で傍に居て不審に思われる事はありませんよ。疑うのであれば、そちらの方がおかしいのです。それに、カルツェーナ伯爵家のご令嬢にお聞きしたところ、マルドニア殿がハウフーン公爵家に行ったのは、自分の希望だそうですよ」

「え? あの方の家がクロエの家との繋がりを求めてではないのですか?」

「違うそうです。跡取りである姉君は自分の補佐をして欲しいと散々引き留めたそうなのですが、ハウフーン公爵家に、クロエール様のお傍に行けないのであれば、将来は家を出て文官になると言ったことで、流石に折れたようです」

「……マルドニア様は、クロエに好意を持っていると?」

「そうでしょうね」


 ふーん。まあ、クロエは可愛いし、惹かれるのも分かるけど、家を捨てる覚悟をしてまでクロエの傍に居ることを選んだわけか。

 でも、だからといって、今の状態でも十分クロエの侍従見習いとしての身分はしっかりしているし、シャッセン侯爵家に養子に入る意味はあんまりないよね。


「実は、彼の姉君に頼まれてしまったのですよ。正確には、私の妻が、なのですけれども」

「どういう事ですか?」

「二人は学院時代に仲が良く、まあ、姉としては弟の初恋を応援しているようなのです。妻もそれに賛同しているようで、もし何かあった時、伯爵家の長男でいるよりも、侯爵家の次男であるほうが有利と」

「万が一ねえ。それって、万が一が起きた時、シャッセン侯爵家が責任を負うって事になるけど、伯父上はそれでよろしいのですか?」

「我が家は、貴族には珍しい恋愛結婚を推奨しているからな。愛を貫くために貴族籍をあえて捨てた者もいるぐらいだ。それに、こう言っては何だが、ハウフーン公爵家の跡取りがあの王子の子供になるのは、貴族のバランス関係を考えてもあまりいい事ではない」

「つまり、王太后様の実家に権力を持たせたくない派閥が大きくなっているって事ですか?」


 ハン兄様の言葉に、伯父様がにっこりと笑う。

 なるほどね。クロエが結婚したとしてもメイジュル様の好きにさせるとは思えないし、乙女ゲームが始まってヒロインが登場したら、婚約解消を出来る可能性が高いけど、今の時点で貴族至上主義のあの公爵家の力はそいでおきたいわけだ。

 穏健派、しかもグレイ様と懇意にしていると言われている我が家に縁続きのシャッセン侯爵家であれば、万が一が起きたとしても、ある程度の露払いは出来る。


「そういう理由なのであれば、わたくしは反対しません。けれども、あくまでも反対しないだけで、マルドニア様を応援するわけではありません。わたくしはクロエの気持ちを優先しますから」

「それで十分ですよ」


 しかし、クロエの愛人候補ねえ。

 この事はクロエのお父様は知っているのかしら? 知っていてクロエの侍従見習いにしているのだとしたら、相当よね。

 まあ、メイジュル様の遺伝子をハウフーン公爵家に入れたくないだけなのかもしれないけど、狸親父達って本当に何を考えているか分からないから怖いわ。

 クロエには悪いけど、この事はリアンとリーチェに共有しておかないといけないわね。

 あのクロエの事だし、愛人候補として傍に居るって分かったら距離を置くに決まってるもの。対人関係はしっかりしてるもんねぇ。

 次期女公爵教育の賜物なんだろうけど、隙を見せない振る舞いは見習わないといけないと思うわ。

 ………………あれ? 悪役令嬢にさりげなくお相手出来てない?

 リーチェは言うまでもなく相思相愛だし、リアンは頑張ってハン兄様を落としてもらうとして、クロエも婚約解消した後のお婿さん候補を密かにゲット。

 これ、もう乙女ゲーム始まってもよくない?

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― 新着の感想 ―
[一言] 王子、女子の方が早い場合もあるけれど年齢的に第二次性徴が出て来て教育もされたら一気に行きそうですね。他三バカもやらかしているので婚約解消(破棄)しやすいように彼女らの周りが男爵令嬢に攻撃しな…
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