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リアンの初恋

「メイジュル様に接触している生徒がいる?」

「そうらしいのじゃ。一つ下の学年の男爵令嬢なのじゃが、妾達の婚約者に近づいているそうなのじゃ」


 えぇ、乙女ゲーム開始までまだだいぶ時間があるんだけど?

 しかも男爵令嬢って、設定がだいぶ違うし、どうなっているの?


「その令嬢の特徴は?」

「淡いブロンドに銀色の瞳。パリュナン=ヤッチェーナ男爵令嬢じゃ」

「ああ、お茶会でいつも元侯爵令嬢だってぶつくさ言ってた子か」

「あの者の姉は長子たらんとする真面目で、気品があり、周囲に気を配れる優等生なのに、妹はだめじゃな」

「噂では、長子を厳しく教育する反動で、妹の方は蝶よ花よと溺愛しているのだとか」

「ふーん、ある意味お約束だね。そこに妹の方が顔がいいからっていうのが加われば完璧」

「その通りですわ」

「うっわぁ。お約束過ぎて笑える」

「小説では、そういう令嬢は高位の子息に見初められ、幸せな生活を送るものじゃな」

「最近はそういう小説が流行っているの?」

「うむ。苦境からの逆転物が流行っているのじゃ」

「じゃあ、そういう小説に感化された可能性もあるね」


 だとしたら、ちょっと面倒くさいなぁ。

 正式なヒロインじゃないのに、この年齢で浮気したところで、子供の遊びって流される可能性の方が高いかもしれないもん。

 メイジュル様達が馬鹿で婚約破棄を宣言してくれれば、いいんだけど、パリュナン様にそこまでの魅力があったかなぁ。

 思い出してみるけど、確かにふわふわ系の可愛い子だったかな。

 でも、リアン達の方が数倍可愛い。


「それで、肝心のメイジュル様達の反応はどうなの?」

「メイジュル様は悪くないと思っているのか、近くに居ることを許していますし、離宮にも呼んでいると聞きますわ」

「ルーカスは図書館で自ら勉強を教えている姿を目撃されておるな」

「ラッセル様は剣の腕を褒められて、訓練場にそのご令嬢が来るたびに、格下の子息を捕まえて腕を見せつけるようにしているそうです」


 ふーん、乙女ゲーム的なものを順調にこなしているっていうわけか。

 わたくしのように転生者だったらちょっと厄介だなぁ。

 今のうちにハーレムルートを作ろうとしていたら、何が起きるか分かんないし、対処がしにくいな。


「しかし、メイジュルが頻繁に令嬢を離宮に呼び出しているのは、兄上も知っているし、止めているが、『向こうが望んでいる。それを叶えるのも王族の務めだ』と、わけの分からぬことを言っているらしいのじゃ」

「まだ十歳なのに女を引き込んでいるの?」

「引き込むだけならまだましじゃな」

「「「え?」」」

「クロエには申し訳ないが、ふしだらな事をしているらしいのじゃ」

「まあ!」

「え、具体的にはどんな?」


 まだ精通してないでしょ? さすがに致しているって事はないよね?


「探らせたところによると、どうせ近いうちに習うのだからと、招いた令嬢に口づけをしているそうじゃ」

「口にですの?」

「口にだそうじゃ」


 リアンの言葉に、わたくし達の間に沈黙が降りる。

 女遊びが激しい設定ではあるけど、早熟っていうか、節操なしなんじゃない?

 まあ、どうせ使用人がしているのを見て見様見真似っていう感じなんだろうけど、それでも完全に不貞行為だよね。


「クロエ、どうするの?」

「もちろん、お父様にご報告しますわ。ただ、キス程度では婚約解消は難しいですわね」


 忌々しそうにクロエが言う。

 そうなんだよねぇ、浮気は男の甲斐性、引き留められない女が悪いって言われるこの国だから、キスぐらい大目に見ろって言われるに決まってるもん。

 乙女ゲームでも、完全に浮気をしている状態なのに、婚約解消出来てなかったのがその証拠だよね。

 設定的にも、悪役令嬢達が婚約者を好きだっていうのはなかったから、完全に政略目的で、細かい事には目をつぶれっていうのが見え隠れしてるからな。


「なんとかして、三人の婚約を解消出来ればいいんだけど」

「それなのじゃが、妾は一つ提案があるのじゃ」

「なぁに?」

「ツェツィがデュランバル辺境領で実験している商会ギルドがあるであろう?」

「あるね」

「王都で本格的に稼働する際、その長に、ハンジュウェルを推薦したいのじゃ」

「ハン兄様を? それはわたくしも思っているんだけど、ハン兄様って爵位に囚われない自由な商売を望んでる節があるのよね」

「しかし、妾が嫁ぐとなれば、伯爵位以上が必要であろう? 商会ギルドの長ともなれば、今までの功績と合わせて伯爵位は与えられると思うのじゃ」

「ん?」

「まあ、リアンってばハンジュウェル様をやはり狙っていましたのね」

「分かりやすくはありましたね」


 ええ!? わたくしは知らないよ?

 いつの間にそんな関係になったの? 親友に隠し事良くない!


「べ、別に狙っているというか。そ、その……そうじゃ、あの者と結婚出来れば合法的にツェツィとは姉妹じゃからの」

「陛下がツェツィを正妃に迎えても姉妹ですわね」

「ぐっ……えっと……しょ、商売相手としてもこれ以上の者は居ないであろう」

「それでしたら、わたくしが結婚してもよろしいのでは?」

「な、ならぬ!」


 リアンが焦ったように声を上げてクロエを見る。

 クロエはそれが面白いのか、クスクスと笑った。


「リアンはハン兄様のどこが好きなの?」

「スッ!? ……べ、別に、好きなどと言ってはおらぬ」

「ツェツィは知らないかもしれませんが、リアンがハンジュウェル様を見る目はいつの頃からかは分かりませんが、相当熱いものになっていたんですよ」

「そうなの? えぇ、気になる!」

「そ、そのようなことはない。わ、妾はその、……あ、兄上の為に有益な者と、じゃな」


 もにょもにょと話すリアンに、わたくし達はすっかり頬が緩んでしまっている。

 顔を赤らめているリアンというのは珍しく、食が進む。

 いやぁ、恋バナとか女子会らしくていいわ。


「ハン兄様は、わたくしから見てもいい男よ。剣の腕もあるし、魔法も得意。もちろん商才もあって、結婚したら家庭を大事にするわね、絶対」

「そ、そのようなことは分かっておる」

「そうですわよねえ。何かと理由を付けてはツェツィのいない時に『商談』と言ってお会いしていますものね」

「最近では、私達も巻き込んでいるんですよ」

「言ってくれれば、わたくしだって協力したのに。リアンのいけず」

「だっ、じゃからっそのっ……」


 真っ赤になるリアン、マジ可愛い。


「……その、じゃな。……わ、妾は王族であろう?」

「そうですわね」

「あんな奴ではあるが、婚約者もおるし」

「そうだねぇ」

「ハンジュウェルは出身は辺境侯爵家とはいえ、次男ゆえに家督を継ぐわけでもなく、兄上より爵位を賜ることが出来ねば平民になるじゃろう」

「そうですね」

「じゃ、じゃから功績を、じゃな……その……」


 なるほど、リアンが商売に積極的なのって、ハン兄様に功績を稼がせるのも目的の一つだったのね。

 それだと結構前からハン兄様を狙っていたっていう事になるけど、うわぁ、もしかして初恋?


「は、初めは……ツェツィの兄としか思っておらなんだのじゃが、その…………、あ奴と話していると、楽しいし、心がホカホカするし、なんというか、こう、もどかしいのじゃがそれも悪くないというか」


 いやぁん、可愛い。めっちゃ可愛い。

 これはハン兄様にリアンを推薦しなくちゃだわ。

 でも、リアンとの結婚の為には、ハン兄様に伯爵位以上の爵位が必要なわけだから、やっぱり説得して商会ギルドの長になってもらわないといけないなぁ。

 どっちにしろ、まだ試験期間だし、王都で活動するとしても数年後。

 その間に下準備か。

 ハン兄様を説得して、いや、いっそデュランバル辺境領に定期的に出向いてもらって、商会ギルドで下地を作ってもらう?

 その場合、リアンと会う頻度が減っちゃうけど、仕方がないのかな。


「わたくしはリアンの恋を、全面的に応援するわ」

「コッ、恋などっ」

「でも、下準備の為に、ハン兄様と会う機会が減ってしまうかもしれないけど、許してくれる?」

「じゃ、じゃから……妾はっ、その………………会えなくなるのかの?」

「商会ギルドの長に就任してもらうために、王都なんかでももちろん実績を上げてもらうけど、デュランバル辺境領で活動し始めた商会ギルドに全く顔を出さないわけにはいかないでしょ? 学院を卒業したら、定期的にそっちにも顔を出してもらうことになると思うわ。言ってしまえば、見習いというか、研修ね」

「そ、そうじゃな……。何事も経験は必要じゃな」


 リアンはしょぼんとしているけれども、納得はしてくれているみたい。


「リアン、ハンジュウェル様は今年で学院を卒業なさいますが、今のうちにアプローチをすればよろしいのですわ」

「アプローチ……」

「けれどもクロエ、あまりあからさまですと、あのルーカス様がある事ない事をわめきたてる可能性がありますよ」

「あくまでも『商談』の体を取ればよいのですわ。わたくしやリーチェも協力しますもの」

「わたくしだって協力するわよ?」


 わたくしがそう言うと、クロエは「陛下との仲を深める事を優先した方がいいですわ」と言ってきた。

 仲間外れよくないよー!

 しかし、ハン兄様に商会ギルドの長をしてもらう事は、もう決定かな。

 うーん、ちょっと我が家の権力が強くなっちゃう気もするけど、クロエの実家は国一番の資産家だし、まだ大丈夫かな?

 他の公爵家がまともなら、辺境侯爵家はその一段下の身分だし。

 領地的に、我が家がこれ以上爵位を上げられることはないしね。

 いや、公爵家が辺境に領地を持たないわけじゃないんだけど、我が家の領地は魔の森に接しているから、どうしても特殊になっちゃうわけなのよ。

 そこに公爵っていう、王家に次ぐ権力を与えちゃうと、他の貴族がいざというときに抑え込めなくなるから、あえて今の爵位にしているの。

 まあ、貴族間のバランス調整っていうやつだね。

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