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ツンデレさんめ

「御機嫌よう、メイベリアン様方」


 昼食を食べるためパビリオンに移動する途中、背後から声をかけられて、わたくし達が振り返ると、下位貴族クラスに所属している年上の子爵令嬢達がいて、わたくし達は一様に微笑みを顔に浮かべた。


「今からお昼でして? 相変わらず仲がよろしいのですね。皆さん婚約者に構っていただけないから、傷の舐め合いをしているのでしょうか?」


 子爵令嬢の背後には、同じように下位貴族クラスに所属している、年上の令嬢達。

 代表して話してくる子爵令嬢は、元侯爵令嬢で、グレイ様による不正の粛正を受けて爵位を下げられた家のご令嬢で、何かにつけては自分はもっと優れているのだと言ってくる、言ってしまえば面倒な部類の令嬢。

 背後にいる令嬢達も似たようなものだ。


「そういえば先日、私はメイジュル様の離宮に招待されましたの。ふふ、メイジュル様ってばクロエール様にご不満があるようで、麗しくないクロエール様の傍に居るのは本当に不愉快なのだそうですよ」

「まあ、メイジュル様もそのように? 私も、ルーカス様と図書室でご一緒した時に、メイベリアン様が如何に傲慢でお疲れになってしまうとおっしゃっていましたよ」

「あら、高貴でいらっしゃるのに婚約者に見向いてもらえないなんて、本当にお気の毒ですわ」


 クスクスと笑ってくる令嬢達に、わたくし達は微笑みを崩さない。

 いやね、わたくし達って彼女達からしてみれば、身分が上の存在で、この人達と仲がいいわけじゃないんだよ。

 つまり、この人達のしていることは、マナー違反。

 このまま無視していくことも出来るのだけれども、そうすればメイジュル様あたりに無視をされて馬鹿にされたとか言いに行きそうで、それはそれで面倒なんだよね。


「貴女達! 誰に向かって言葉を発していると思っているのですか」


 不意に、わたくし達の背後から声が聞こえ、チラリと視線を向けると、下級生ながらも高位貴族のクラスに所属している令嬢達が居た。


「年上なのにもかかわらず、貴族としてのマナーもわきまえないなんて、ご実家ではどんな教育をされていますの?」

「なっ」

「メイベリアン様達に向かって、許しも得ずに好き勝手おっしゃって、恥という物を知らないのですか?」

「年上とはいえ、貴女達の前にいらっしゃるのは、この学院でも最上位にいらっしゃる方々ですよ。身の程をわきまえたらいかがです?」


 あらぁ、幼いながらにしっかりしてるなぁ。

 えっと、わたくし達の二つ下の学年の子だから、まだ八歳だよね。

 家の教育がしっかりしている証拠だわ。


「そもそも、メイベリアン様のお手を煩わせるなんて、無礼にもほどがあります」

「そうですわ。メイベリアン様の時間は貴重なのですから、貴女達のようなくだらない存在に割くなんて勿体ない」


 ん?


「私達だってメイベリアン様とお話ししたいのを我慢していますのに、礼儀もわきまえない人が視線を向けられるなんて、お茶会でもないのにっ」

「そうですわ。どうしてもお話ししたいのであれば、正式に申し込むべきでしょう」


 下級生の言葉に、わたくしは扇子をパチリと開いてちらっとリアンに視線を向ける。

 リアンは微笑みこそ変わらないものの、目にはわずかに動揺が浮かんでいる。


「こ、子供のくせに生意気ですわ!」

「あら? 私達が貴女に発言を許しましたか? 身分が下の者が身分が上の者に許可なく話しかけるなんてマナー違反、私達のような子供でも分かりますよ」


 馬鹿にしたような声に、子爵令嬢達の顔が引きつる。

 しかし、今更だけど厚化粧だよね。

 流行に乗る気がないのか、家が許してくれないのかは分からないけど、わたくし達、結構薄化粧の事広めているんだけどな。


「それに、そのお化粧。ふふ、年上のお姉様達はご存じないんですね。そのようなお化粧は、自分のお顔に自信がない証拠なのですよ」

「そうそう、それにお肌を傷めるそうですし、何よりも陛下がそう言ったお化粧や濃い香水の匂いをお気に召していないといいますものね」

「ご自分が大切なお姉様達は、自分を否定されることに慣れていないので、変わる事を恐れているのでは? いっそ哀れですこと」

「あらやだ、怒っていらっしゃるのかもしれませんけど、白粉の粉で厚塗りをし過ぎていて、顔色がまったく分かりませんね」


 クスクスと笑う下級生の言葉に、子爵令嬢達は「失礼しますわ!」と言い捨てて立ち去って行った。

 姿が見えなくなった瞬間、下級生達はすぐに笑いをおさめると、すぐさまカーテシーをしてくる。


「胸のすく言葉であった。次のお茶会でそなた達にまた会う事を楽しみにしておる」

「勿体ないお言葉でございます」

「ふふ、皆さんはリアンの事がお好きなのですね」

「そんなっ、私共は慈悲深いメイベリアン様に憧れているだけです」

「まあ、リアンったら随分慕われていますわね」

「な、何を言う。妾は王族なのじゃ。臣下に慕われるのは当然じゃ」

「はい。私共はメイベリアン様の高潔さを見習いたいと思っております」

「そ、そうか。励むがよい」

「ふふ。ごめんなさいね。リアンは照れているのですよ」

「リーチェッ」

「メイベリアン様は気高いだけでなく、お可愛らしいところもあるのですね!」

「かっ……。そ、そろそろ行かねば食事の時間が少なくなる。そなた達も急ぐがよい」

「はい。お言葉をかけていただき、ありがとうございました」


 そう言って再度頭を下げる下級生の横を通って、わたくし達はパビリオンに行くと、それぞれのおつきのメイドが早速アイテムボックスからお弁当の入ったバスケットを取り出して準備をしていく。

 その様子を見ながら、わたくし達はクスクスと小さく笑う。


「リアンが下級生に人気なのは何となく知っていたけど、あそこまでなんて思わなかったわ」

「まったくですわね。わたくし達が相手をするのも面倒でしたし、次のお茶会ではぜひリアンの席につけて差し上げなくてはいけませんわね」

「リアン、顔が赤いですよ? 照れているんですか? それとも、慕ってくれている下級生にそっけない態度を取ってしまって後悔しているんですか?」

「……い、意地悪を言うでない」


 リアンが顔を赤くして、扇子をパタパタと動かす。

 わたくし達にはデレで素直だし、馬鹿には塩対応だけど、グレイ様とか、自分を慕ってくれる人にはついツンデレしちゃうんだよね。

 そんなリアンが可愛いけど、あの下級生達もリアンのツンデレ具合を見てさらに慕ってたみたいだし、この世界にもツンデレ文化が花開くのかしら?

 それにしても、さっきの子爵令嬢達は困ったものだなぁ。

 メイジュル様やルーカス様と関わりがあるみたいな話をしていたから、マウント取りに来たんだろうね。

 学院ではこの三人と婚約者の不仲は有名だしね。

 でも、メイジュル様達が馬鹿すぎとか、不誠実すぎるっていうのは有名なのに、それでも関わりを持ってマウント取ってくるとか、家の意向なのかそれとも自己満足なのか。

 うーん、メイジュル様やルーカス様の愛人になれば、家の爵位が上がるとか妄想を抱いている可能性もあるよね。

 だとしたら、ラッセル様も狙われてるかな? あれでも、侯爵家の長子だし。

 もっとも、少し前まで幼馴染を溺愛していたけれども、死の間際に見捨てたっていうのは、幼馴染の両親が夜会で周囲に散々嘆いたから、別の意味で有名。

 すっかり薄情者のレッテルを張られているから、そう簡単に近づく令嬢もいないか。

 いつ自分が捨てられるか分かったものじゃないしね。

 メイジュル様とルーカス様が、情に厚いとはとても思えないけどね!


「そういえば、聞きまして?」

「なんじゃ?」

「わたくし達は今年、陛下より領地を拝領しますでしょう? その関係で今年の長期休暇は王都を離れるので、それに合わせて、メイジュル様達に平民の暮らしを分からせるため、預かり先を探しているそうですわ」

「え、そんなの預かり先が迷惑するだけじゃないの?」

「ですので、難航しているのだそうです。本来ならもっと前に行っているはずなのですが、決まらずに今に至るそうですわ」

「なるほどね。でもそんなことをして、あの三人の性根が変わるかねぇ」

「やらないよりはまし、という希望なのではないでしょうか?」

「そうじゃの。あの選民意識は折っておくべきではあるの」


 攻略対象の三人って、乙女ゲームでは言われなかったけど、現時点では貴族至上主義なんだよね。

 平民に紛れての生活かぁ。無理そう。

 ハンバーガーにかぶりつきながら、まだ先にはなるけれども、受け入れ先の家に同情したのは言うまでもなく、あの三人を受け入れるための報酬を税金で支払わなくてはいけないのかと思うと、すさまじく虚しくなってしまう。

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