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宝の山だ!

「初めまして。この領地の新しい領主になりました、ツェツゥーリア=デュランバルといいます」


 海の向こうの国に出ていた商会の方との面会になって、まず執務室でわたくしが上座に座っている事に驚かれ、今まさに領主と名乗った事で歴戦の商人だと思われるのに、驚いた顔を隠せなかったらしい。

 しかし、そこはやはり歴戦の商人なのか、すぐに表情を取り繕うと、咳ばらいをして頭を下げた。


「私はテスタル商会のゴブラッタ=マドレイと申します。前領主様の命令で、海の向こうの国へ向かい、取引を終え先日戻った次第です」

「ご苦労様でした。まずは無事に戻って来た事は大変喜ばしいと思います。それで、前領主はどのような取引を貴方に依頼したのですか?」

「特産品である真珠と塩を、との事でしたが、相手も海に面した領地を持つ国でしたので、はっきり言えばうまくいきませんでした」

「そうでしょうね」

「しかし、何の成果も得る事なく戻ってしまえば、それこそ海で死ぬか、この国に戻って殺されるかでしたので、しばらく向こうに滞在し、この国にはない商品を買い付ける事でなんとか体裁を保ち、戻ってきました」

「なるほど。苦労したのですね。前領主の無茶な依頼であったとはいえ、申し訳ありませんでした」


 いや、本当にな。

 ちょっと考えればわかるよね? 相手も海に面しているんだったら、塩も真珠もあるかもしれないって、分かりそうなものだよね?

 その他のこの国の特産品を持たせるんだったらともかく、マジでそれだけでどうにかさせようとしたとか、馬鹿なの? あ、馬鹿だったわ。


「それで、成果の方はいかほどでしたか?」

「はい。先ほども言ったように、この国にはない物を購入してきました。これに関してはここでお見せするよりも、広間などで一気に披露したいのですが」

「よろしいですよ」


 わたくしはそう言って付き添っていた文官の一人に目配せをすると、文官が音も無く出て行く。

 いやぁ、本当に気の利く文官だよね。

 流石、将来は大臣補佐とか言われていただけの事はあるわ。

 こんな辺境にくすぶっちゃいけない人材だよね。こういう人こそ中央で活躍すべき。

 ……いや、今後は海を介しての貿易の要になるかもしれないここにこそ適材? うーん、難しい。


「それでは、準備が整うまで、海の向こうの国の話をしていただけますか?」

「もちろんです」


 その後、和やかに話をしていたんだけど、わたくしの内心はドッキドキのバックバク。

 海を隔てた向こうの国の、さらに三つほど国をまたいだ所にある植物っていうのが、竹とか梅とか桜とか、いわゆる日本っぽい物にあふれているみたいなんだよね。

 食文化も、この国みたいな炭やどろどろに煮込んだものじゃなく、ちゃんと調理されたものもあるそうな。

 何それ羨ましい。

 っていうか、やっぱりこの国の食文化がおかしいんじゃん。

 まともな食文化の国もあるんじゃん!

 運営の馬鹿、アホ、意地悪!


「いやはや、驚きの連続でした。私共の食するものといえば、香辛料をこれでもかとかけている焦げた料理か、原形をとどめないまで煮込んだものでしたので、初めてそういった料理を出された時は、本当に食べ物なのかと、馬鹿にされているのではないかと疑ってしまいました」

「そうでしたか」

「しかし、その国の方は平然と食べていましたので、恐る恐る口にしてみましたら、今まで食べた事の無い味で、いやぁ、今も忘れられません。生憎、調理法までは調べる事は出来ませんでしたが、国が違うと文化がこうも違うものなのだと実感しました」

「世界は広いですね。我が国でも、新しい調理法を編み出し、様々な料理が広まってきています」

「はい、先に見聞させていただきました。なんでも、領主様のご実家が後ろ盾になっているアンジュル商会が先頭に立っているとか。この国でも美味しい食事を食することが出来、感謝しきれません」

「それはよかったです」

「しかし、ここが海に面しているせいでしょうか。海産物を使ったものが多いようですね」

「そうですね。ゴブラッタさんが食したものはどのようなものだったのですか?」

「分かりやすく言えば山の幸、と言われる物を使った物でした。彼の国は海からは遠いので。しかし、野菜や果物がその分豊富で、今までの概念を覆す物ばかりでございました」

「そうなのですか。わたくしは、恐らくこの国から出ることは難しいでしょうから、他国で見分を広めた方の話は聞いていて心が躍ります」

「領主様は探求心が豊かなのですね」

「まだ子供ですので、夢見がちと言ってよいのですよ」

「ははは、そのような目をしている方を夢見がちなどと言っては、商人の名折れですな」

「そうですか」


 え。わたくしってどんな目をしているの?

 食への欲望むき出しの野獣のような目でもしてるっていうの?

 それって淑女的にアウトじゃない?

 微笑みをキープしつつそんな事を考えていると、準備が整ったと言われたので、ぞろぞろと広間に行くと、品物を広げやすいように調度品などが片づけられていた。

 そこに、商人がアイテムボックスから絨毯を取り出して広げた。


「まあ、この絨毯は素晴らしいですね」

「お分かりになりますか?」

「ええ、毛足が長く、ふかふかとしていて……手触りも良いですね。毛皮とはまた違った感触。これは売れます」

「流石でございます。これは海の向こうの国の一つの特産品なのですが、デメリットもあります」

「そうでしょうね。このぐらいのサイズであればいいかもしれませんが、大きくなり長年使う物には向きませんね」

「そうなのです」

「しかしながら、見栄えはいいので、貴賓室などのワンポイントに使うにはいいかもしれません。ただ、掃除をする使用人は大変かもしれませんね。汚れてしまえば落とすのが大変というか、落ちない可能性の方が高いですから」

「さようでございます。いやはや、領主様は理解が早いですね」

「それほどでもありません」


 やっべ、つい前世でよく見たジャギーのふかふか絨毯だったからテンション上がっちゃった。

 ゴブラッタさんは恐らく、商品を出来るだけ傷つけないようにこの絨毯を選んだんだろうな。

 衝撃を吸収してくれそう。

 そうして並べられていく箱の数々はかなりの量で、広いはずの広間がだんだんと狭く感じてくる。

 ほとんど元手にならなかったであろう塩と真珠を元手にこれだけのものを入手するって、ゴブラッタさんってかなり凄腕の商人なのでは?

 全ての商品を並べ終えたのか、ゴブラッタさんはわたくしの方を振り返る。


「さて。まずは何からご紹介しましょうか? 領主様はお可愛らしいお嬢様ですし、装飾品などから」

「食料品はありますか?」

「……ございますよ」

「それからお願いします」


 わたくしはこれでもかというほどにニコニコとしている。

 先ほどの話を聞く限り、海の向こうの更にいくつも国を隔てた国は、大分日本っぽい食材があるようだし、それを入手しているとなれば、それを優先させる以外の選択肢はない。


「では、こちらは先ほど話した竹という植物の子供のようなもので、タケノコと言われています。土に植えると育ちまして、その繁殖力は恐るべきものがあり、魔法を使わずとも成長速度はとても速いのですよ」

「そうですか」

「こちらは、桜というものです。可憐な花を咲かせた後に新緑の葉がつくという珍しいもので、果実は可愛らしいこのぐらいの実になりまして、甘酸っぱい味になります」

「そうですかっ」

「そして。これが梅という物になります。彼の国では実を塩につけて保存食にしていましたね」

「ええ、ええ、そうでしょうとも」

「こちらは、領主様はあまりご興味がないかもしれませんが、ワサビというものになります。こちらにある辛子とはまた違った辛さがありまして、彼の国では食事の際に使うこともあります。また、この辛子というものは、からし菜というこの植物から作られるものです」

「素晴らしいですね」


 その後も、様々な食品を紹介され、中には探していた野菜や果物関係の種もしっかりばっちりあって、わたくしはほくほくとして、植物関係はもちろん全部買い取った。

 うふふ、食の幅が広がった。グッジョブ、ゴブラッタさん!

 ろくでもない前領主だけど、この功績だけは認めてやんよ!


「いやはや、領主様は賢いだけではなく、先見の明があるのですね」

「え?」

「このように、自分の為の装飾品よりも、民の為に今後広めるべき食品に目を向けるとは、このゴブラッタ、感服いたしました」

「そうでしょうか?」


 ごめん、ぶっちゃけ自分の欲望を満たしたいだけなんだよなぁっ。


「前領主様の奥様とお嬢様は、私めに、諸外国の目新しい、この国ではお目にかかれないような宝飾品を探し出してくるようにとご命令なさいましたが、領主様はそのようなことをおっしゃらないでしょうな」

「そうですね。わたくしは別に宝飾品は最低限あればいいと思っています。確かに流行も大切ですが、伝統を重んじる事を忘れてもいけませんから」

「素晴らしいお考えだと思います。ところで、食品関係はすべて買い取っていただけましたが、次は装飾品や調度関係を見ていただいてもよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんですよ」


 装飾品はやっぱり和風とか中華風のかんざし系が多かった。

 あとはヴェールを取り入れた帽子とか、髪飾りだね。

 確かにこの国では見かけない形の物ばかり。

 調度品も、衝立とかでやっぱり海の向こうには和風や中華文化の国があるんだと、興奮してゴブラッタさんに詰め寄りそうになるのを必死に自制した。

 うん、大丈夫。ちょっと鼻息が荒くなったかもしれないけど、淑女としての体裁は保てたはずだからっ。

 その後、テスタル商会も商会ギルドに所属してもらうことになり、しばらくの間はこの領地での新しい事業を見てもらい、参加するか、また海を渡って交易をするか選んでもらう事にした。

 そもそも、前領主に無茶を言われる前はこの領地で慎ましやかに商売をしていたそうだから、どっちでもいいんだよね。

 わたくしは、帰還率三割を切るような無茶な事をさせようとは思わないもん。

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