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聖王と魔王おひさ~

 長期休暇が始まり、久しぶりに領地に戻って、わたくしは様々な人、具体的には屋敷の人とか、仲良くしている領民とか、商会の人とか、王太后様に挨拶をして、領地で運営している事業の成果を確認したりと忙しい日々を送っている。

 事業の方はおおむね問題なく、むしろ王太后様がそれとなくわたくしには無かった豆知識を提案してくれている事により、より効率化が図れているようだ。

 しかし、今回の領地への帰省には、わたくしは一つの重大な用事ある。

 そう、聖王と魔王に会いに行くのだ。

 以前も、新たなる食材を探して魔の森に入った事はあるけれど、それはあくまでも食材探しだった。

 ロブ兄様の子供がまだ生まれていないのに、聖なる祠に行く必要はないのだけれども、聖王と魔王があそこは中継地点と言っていたので、きっとあそこに行って会いたいと願えば会えるはず。

 それについてはヴェルとルジャに確認したところ、間違いはない。

 ただ、普通の人間は聖王と魔王の威圧に耐え切れずに気絶してしまうので、長時間話すには、他の人間がいると難しいらしい。

 かといって、魔の森にわたくしを一人で行かせるような真似が出来るわけもなく、護衛は当然付いてくることになる。

 ふむ、つまりは要点をサクッと聞かないといけないという事ね。

 でも今回聞きたいことは簡単だからきっと問題はないわ。


 そんなわけで、本来の姿のヴェルとルジャを連れ、事情を知っている護衛騎士を連れていざ魔の森へ!

 聖なる祠は、魔の森の中でも浅い場所にあるから、魔物にそんなに注意しなくてもいいし、何よりもヴェルとルジャがいるから近づいて来ない。

 なんせ、ヴェルとルジャがちょっと尻尾を振っただけでひき肉になるから!

 いや、実際にその現場には居合わせていないんだけど、ヴェルとルジャがそう言ったんだから間違いないと思うんだよね。

 前に何度も魔の森に来たけど、魔物に遭遇したことなんてないし。

 そういえば、今回の目的は聖王と魔王に会う事だけど、この領地にいる冒険者に依頼している鮭とウナギの捕獲は地味に広がっているみたいなんだよね。

 ちょっと奥まったところにあるから、実際に辿り着ける冒険者って少ないからそこまでの量はとれないんだけど、わたくしが個人的に楽しむ分には十分だし。

 しっかし、改めて見てもこの魔の森って変な所だよね。

 季節に関係なく生き物が生息していて、実りがあって、この国って四季があるのに、ここだけ切り離された別世界みたい。

 そんな事を考えているうちに聖なる祠に到着した。

 今日は、朝露のついた花の代わりに、わたくしのお手製の焼き菓子各種を持って来たわ!

 めちゃくちゃ心を込めて作ったから、気に入ってもらえると嬉しいのだけれど、一応甘いのが苦手なのかもしれないと思って、ジンジャークッキーも混ぜておいたわ。

 アイテムボックスからクッキーの入ったバスケットを二つ取り出して、祭壇に置いて、聖王と魔王に会いたいと願うと、祠から白銀の光が放たれ、影から黒金の光が広がって、それぞれ人の形を取って行った。


『ツェツィ、いかにした?』

『何か困り事でも起きたか?』

「困り事というか、聞きたい事があるの。あ、このクッキーは二人へのプレゼントよ」


 わたくしがニコニコと指さすと、聖王と魔王はそれぞれバスケットを持ちあげて優し気に微笑んでわたくしの頭を撫でてくれた。


『それで、聞きたい事とは?』

『あまり長居しては、そちらにいる人間が気を失ってしまうから、手短にな』

「うん。あのね、わたくしって、聖王の加護で傷を負わないでしょう?」

『うむ』

「それって、破瓜にも影響するのかなって」

『うん?』

「一応、処女膜ってあらかじめ穴は開いているけど、それを広げるために、傷がつくっていうか、裂けるでしょ? どうなるのかなって。あとは、キスマークとか、噛み跡とか」


 わたくしの言葉に、魔王が硬直してフルフルと震え、聖王が顔を覆ってうなだれた。


「あ、あと。セックスをするとイク時に我を無くすとか、自我があやふやになるとか、そういうのも聞いた事があるの。わたくしは体験した事がないけど、そういうのって、聖王と魔王的に健やかな状態なのかしら?」


 わたくしは真剣な顔で訪ねているのだけれども、二人は相変わらずで、わたくしを見てはくれない。

 もうっ。


「……あ! もしかして、愛し子って処女じゃないとだめなの!?」

『……………………ぃゃ』


 長い沈黙の後、魔王が小さくため息交じりに声を出した。

 聖王は、まだ顔を覆って俯いている。


『愛し子は処女で無くなったとしても愛し子だ。そうだな、聖王』

『……………………ぁぁ』

「そっか、それは安心したけど、さっきの状態っていうか、セックス関係で傷をつけられるのはどうなるの?」

『……それはっ』

『ツェツィ、あまり聖王をいじめるな。こやつは慣れておらぬ』

「聖王なのに!?」

『聖王の愛し子は、貞淑な者が多くてな。自ら性欲を律する者が殆どなのだ』

「へえ」


 ……って、わたくしが貞淑じゃないみたいじゃない!

 実際前世含めて自分でいたしていたし貞淑とは言えないかもしれないけど!

 よくよく見れば、聖王は白磁の頬を僅かに赤らめていて、それが本来持つ神秘的な色気をより一層際立たせている。

 まさに神様だよ。清楚系神様を堕落させたい悪魔系神様がいるのも納得出来るわ。


『さて、あまり長居していると、こ奴が動揺のあまり出してしまった威圧により人間が倒れてしまうな』


 そう言われて後ろを振り返ると、ヴェルとルジャは平気そうにしているけど、他の護衛の人は顔面蒼白で足が震えている。

 なんかごめんね?


『さて、聖王は多分答えられぬから、我が答えよう。破瓜についても、口吸いの跡についても、ツェツィが望むのであれば問題はない。もし、ツェツィが心の底からその行為に嫌悪感を抱けば、行為を行おうとしたものは肉塊になる』

「ひょえっ」

『しかし、噛み跡については明確にツェツィを傷つける行為になるので無理だな。柔肌ではあるが、最上級のミスリルに歯型をつけるようなものだ』


 ミスリルって、わたくしの肌はそんなに頑丈なの!?

 って、心の底から嫌がるって言う事は。


「口で、やめてとか、嫌って言うだけじゃ、効果は薄いって言う事?」

『薬で前後不覚にするという事も、過去にしようとした愚か者は居たが、聖王の加護でそんなものは効果がないぞ』

「え、体力回復とか疲労回復の魔法薬も効かないの?」

『そうだなぁ、これに関しては聖王が言う方が話が早いんだが、聖王、いい加減戻ってこい』

『……あ、ああ。こほん』


 聖王がやっと顔を上げて手を離したけど、その顔はまだわずかに赤い。


『ツェツィの体力に関してだが、第二次性徴を迎える事で劇的に増える事になる。これは魔力量も同じ事だ』

「どういう事?」

『その幼い器では受け止めきれる事が出来なかったものが、戻ると言った方が正しいな。愛し子であるがゆえに、その身に秘められたものは絶大。だから、壊れてしまわぬように四歳の時に我らが加護を与え、一時的にその力を奪っているのだ』


 よく分からないでござる。


『過ぎた魔力は体に害を及ぼす。そなたの母親がそうであったようにな』

「お母様は自分の持つ魔力に負けたの?」

『魔力に体力が追いつかなかったのだ』

「そうなの……」


 それでも、通常は子供の頃にバランスを崩していたとしてもおかしくなかったのに、生き残っていたのはすごかったのだそうだ。

 その後、確かに魔力は生命力ではあるが、体力とのバランスの上になり立っており、そのバランスを崩してしまい、魔力が体力を食い物にして体の中で暴れまわれば、自分の魔力をコントロール出来なくなり死んでしまうという事を説明された。

 わたくしは、幼いながらに多くの魔力を持っていたけれども、その魔力はお母様が命を懸けて増え過ぎないように封印したのだそうだ。

 子供の体ではどうしても体力が劣ってしまうから、そうするしかなかったらしい。

 これ、『塔』に伝えた方がいいのでは?


「わたくしの魔力を奪った理由はわかったけれど、体力までどうして奪ったの?」

『奪ったというのは正確ではないな。デュランバル辺境侯爵家の血筋を濃く引く者は、そもそも二次性徴を迎えると爆発的に体力が増えるのだ』

「そうなの!?」

『これに関しては、魔の森に深く関わっている事が原因だな。この地を治めるという事は、それだけ聖獣や魔獣と関わりを深くするという事、言ってしまえば、本能のようなものだ』

「そうなのね。他にも、わたくしの体に影響って出るのかしら?」

『……………………ぃゃ』

『聖王、諦めよ』

『…………魔王よ』

『はぁ。今度極上の酒を持ってくる事で手を打とう』

『うむ』


 酒を飲み交わすとか、仲いいな!

 御伽噺では対立しているとか書かれているけど、今も穏やかに話しているし、むっちゃ仲がいいよね。


『男であれば、精力がまし。女であれば受け入れやすい体になる』

「はぁ!?」

『ただし、先ほども言ったようにツェツィは愛し子だ。分かりやすく言えば、性的な意味を含めて愛していない『モノ』に肌を許すことは絶対にない。薬などを使って幻覚や洗脳、思い込みをさせられることは、聖王の加護によってありえない』

「……も」

『『も?』』

「モブにそんな重要な設定付けるな運営~~~~~~!」


 わたくしは聖王と魔王が驚いて目を見開いたのをしり目に、運営に対して今までの鬱憤を兼ねて罵詈雑言を言い続けた。

 ちなみに、あまりにも長かったので、その間にわたくしの護衛に付いてきた人たちは、聖王と魔王の威圧のせいで腰が抜けて、中には気絶する人も出てしまったのは、本当に申し訳ないと思っている!

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