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魔法の課題を出される

「では、皆さんが当たり前のように扱っているアイテムボックスの魔法について、今一度詳しくご説明いたしましょう」


 魔法の授業では、属性ごとの授業の他、生活魔法について詳しく知る授業が追加されることになった。

 魔法にはイメージと魔力が必要とされているけれども、多くの貴族は家庭教師や本で知識を磨き、先人の編み出した魔法をなぞらえるばかりなのだ。

 わかりやすく言えば、電子レンジがある。便利で使っているけれども、その構造はよく知らない。そんなところだろう。

 この世界において、魔力とは生命力そのものであり、貴族であっても平民であっても、魔力が無い人間はいない。

 外に魔力を放出出来ない人はたまに出現してしまうけれども、平民であっても貴族であっても、そういった人は正しい指導を受けて魔力の扱いを学んでいく。

 ただし、平民で大量の魔力を持った人が生まれるように、貴族でも少量の魔力を持って生まれる人もいる。

 先ほども言ったように、この世界における魔力は生命力。魔力が少ないという事は、それすなわち生命力に乏しいという事で、わかりやすく言ってしまえば、病弱と言われている。

 平民であろうとも、大きな魔力を持った人は言い方は悪いが目を付けられて貴族に取り込まれることも多い。

 教室の前の方の席を、いつもの幼馴染親友四人組で陣取り、真剣な表情で教師の言葉に耳を傾ける。

 生活魔法は無属性魔法であり誰でも使えるが、その分、原理についてはちゃんと理解しているのかと言われれば、そうでないものが多い。


「アイテムボックスについては皆さんも知っていますね? メイベリアン様、お答えください」

「はい。アイテムボックスは、己の持つ魔力により容量が決まっており、中に入っているものに関しては、時間による経年劣化が認められぬというものじゃ」

「正解です。ではクロエール様、アイテムボックスに収容出来るものをお答えください」

「はい。植物を除く、生けるもの以外です」

「教科書通りの答えですね。よろしいでしょう」


 教師の答えに、クロエが不思議そうな顔をする。確かに、教科書にはクロエが言った通りの事が記載されており、それが共通認識になっている。


「さて、昨今はアイテムボックスに生き物を収納出来る方法を研究されているのを、皆さんはご存じですか?」


 教師の言葉に、わたくし達は一様に首を横に振る。


「通常の収納空間とは別の空間、生命維持が出来る空間をイメージし、そこに生き物を収納するのです」

「先生、よろしいでしょうか?」

「どうぞ、マルガリーチェ様」

「その場合、アイテムボックスに収納された生き物は、経年劣化してしまうのでしょうか?」

「それは、アイテムボックス内で生命活動をしている、という意味ですか?」

「はい」

「その質問であるのなら、答えは否です。アイテムボックスに収納されたものは、一様に経年劣化することはありません」


 その後の説明によると、アイテムボックスに生物を収納出来る魔法士はまだ少人数で、複雑なイメージが必要になるらしい。


「先生、よろしいですか?」

「どうぞ、ツェツゥーリア様」

「そのイメージという物を具体化し、アイテムボックス内に独自の空間を作成し、その中で生活するという事は可能ですか?」

「生活ですか?」

「はい。経年劣化しないということですが、それは、使用者の固定観念によるものではないでしょうか? もしくは、外側から見て経年劣化していないだけで、アイテムボックスの中で時間を過ごすことは可能なのではないでしょうか?」

「ふむ。興味深い考察ですね。ツェツゥーリア様は、それが可能だと思いますか?」

「わたくしは専門家ではありませんので、思いつきを口にする無責任な事しか出来ませんが、もしそれが可能になるのであれば、いざという時に身を守ることが出来るのではないでしょうか?」

「なるほど。ツェツゥーリア様のご提案については、しかるべきところに話を通しておきましょう」

「ありがとうございます」


 教師の言うしかるべきところというのは『塔』の事だろう。

 その後、アイテムボックスについての詳細な使い道を説明され、わたくし達は自分達に出来る事を見定める。

 教師の言葉では、熟練者になればアイテムボックスから直接武器を対象にぶつける事も出来るようになるらしい。

 取り出す位置のイメージが重要との事だ。

 しかし、それは転移魔法に含まれるのでは? と疑問が浮かぶ。

 更なる説明によると、わたくし達は『自分の手』でアイテムボックスから収納したものを取り出すと言う固定観念があるけれども、『任意の場所』から取り出すイメージをする事が出来れば、それは転移魔法とはまた違ったものになるらしい。

 奥が深いなぁ。


「では、アイテムボックスの収納量について、ルーカス様、ご説明願いますか?」

「先ほどメイベリアン様が答えたように、各自の魔力量によって左右されるものです」

「では、それを底上げする方法については?」

「ありません」

「それは間違った考えですね」

「は?」

「では、皆さんは収納機能が付与された魔道具、もしくは魔力量を一時的に増やす魔法薬をご存じでしょうか?」


 教師の言葉に、今度は全員が頷く。

 どちらも高額ではあるが、確かに存在するものだ。


「魔法薬で魔力量を上げる事により、一定期間アイテムボックスの収納量を上げる事が出来ます。また、収納機能を付与された魔道具を使う事により、自分の持つ魔力量以上のアイテムを持ち運ぶ事が出来ます。以上の事を踏まえ、魔力量が少なくなるとどういう現象が起きると思いますか? メイジュル様、お答えいただけますでしょうか」

「そんなものどうでもいいだろう。俺達がわざわざ自分でアイテムを持ち歩く必要などないのだから」

「そうですか」


 いや、持ち歩くけど? 確かに教材とかはお付きの人が持つことが多いけど、普通に持ち歩くよ?

 それにしても、自分が初期に持っている魔力によるアイテムボックスの収納量を増やす事が出来るというのは、考えていなかったな。

 確かに魔力量によって収納量が上下するのなら、魔力の残量によっては収納出来る量が変わって来てしまう。


「皆さん、魔法とはイメージであり、機転が重要です。これは誰にでも言えますが、固定観念にとらわれていては、魔法の発展はなしえません。未熟であるが故の柔軟な発想こそが、時に魔法の発展の一助になる事もあります」


 生活魔法は誰でも使う事が出来る分、固定観念が強すぎて新しい魔法が生まれにくいという。

 しかしながら、だからこそそこには隠された可能性が眠っているのだと教師は熱く語った。

 その後、道具への魔法付与の話に移った。

 一般的に魔道具と言われるもので、魔法士により手掛けられるものになり、いずれも高額な商品になる。

 その理由は、効果を維持する事の難しさと、魔力を一定量注いでおかなければいけないという点である。

 それに付いては以前から考えていたのだけれども、異世界ものお約束の魔法陣や呪文を刻むという事で対処する事は出来ないのだろうか?

 魔法を習う際も、教本にある呪文を諳んじるという方法で習得していったり、純粋に魔力を放出するという方法がある。

 後者は無詠唱とも言うけれども、わたくしが主に使うのは後者の魔法である。


「よろしいでしょうか?」

「どうぞ、ツェツゥーリア様」

「多くの場合、魔法を発動する際は呪文を使用します」

「そうですね。ツェツゥーリア様は無詠唱の場合が多いようですが」

「コホン。それは別としまして、呪文ではなく、魔法陣を描く事は如何でしょうか?」

「魔法陣ですか?」

「はい、呪文よりも具体的な効果とイメージを書き込むこ事によって、少量の魔力でも効果を発揮しやすくなるのではありませんか?」

「なるほど。しかしながら、『魔法陣』という物は今までの研究にはありませんね。ツェツゥーリア様は具体的にどのようなものにしたらいいか、お分かりになりますか?」

「えっと……、未熟ではありますが、簡単なものでしたら時間をかければ出来るかもしれません」

「そうですか。では、それに付きましてはツェツゥーリア様個人への課題と致しますので、出来次第提出願います」

「分かりました」


 教師の言葉に頷いて、前世の漫画などで見た魔法陣を必死に思い出す。

 うーん、課題にされたからにはなんとかしなければ。

 その後は主流になっている魔道具の話になり、国王レベルになると精神干渉系の魔法を防ぐ魔道具を身に着けるのが当たり前なのだと言われた。

 確かに、小説のテンプレでもある魅了の魔法で国王が操られるなんてオチ、だれも望んでいないもんね。

 本来なら、王族というか、国に影響力を持つ人間は身に着けるべきらしいのだが、その魔道具自体が稀少なものなので、全体数が少ないのだそうだ。

 なんせ、その魔道具を作るには闇属性の魔法が必要なのだという。

 光属性と並んで稀少属性だからな。そりゃあ数も作れないか。

 魔道具の有用性や、改めて魔道具を作る事の難しさを教え込まれ、この日の魔法の授業は終わった。

 教材をお付きのメイドに渡していると、教師が目の前にやって来た。


「ツェツゥーリア様、その柔軟な発想力にはいつも驚きを禁じ得ません。今後も、どのような些細な事でもよろしいので、思いついたことは遠慮なく口に出してください。皆様もですよ。先ほども言いましたが、凝り固まった大人の思考能力より、自由な子供の発想の方が優れる時があるのです」

「「「「はい、先生」」」」


 にっこりと教師に微笑まれ、わたくし達はしっかりと頷いた。

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