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実は一番人気

 社交シーズンが終わり、王太后様も王都を去ったんだけど、置き土産として素晴らしいものを置いていってくれた。

 なんと、日本茶各種(ウーロン茶含む)の詳しい製造方法!

 たまたま知っていたのだそうだけど、めっちゃありがたかったので、早速少量ずつ作って女子会に出している。

 抹茶も作れるようになったから、お菓子の味の幅が広がるぞ!


「お茶比べをしようと言われた時は驚きましたけれど、なるほど、同じ茶葉でもこんなに違いが出るのですわね」

「王太后様は何処でこのような知識を得たのでしょう?」

「王太后の実家は、怪しげな者との取引も疑われておる。その筋かもしれぬな」

「あはは」


 言えねー。前世の記憶ですとか言えねーわ。

 ごめんね王太后様、フォロー出来ない。


「しかし、意外だったのは王太后が手持ちのドレスや装飾品を換金して、国庫に寄付したことじゃな。王太后をしていた報奨金で生活には困らないと言ったそうじゃ」

「わたくし、てっきり実家への手切れ金にでもするのかと思いましたわ」

「私は隠居先に持っていくのかと思っていました」

「王太后様、本気で少量の荷物と少ない使用人だけを連れて隠居したからね。見送りに出た人達が何度も間違ってないか確認してたし、使用人が付いていくってうるさくしてたんだって?」

「らしいの。もっとも、そう言っていたのは実家の息がかかった使用人だったゆえ、取り付く島も無かったと聞く」

「あの王太后様が、本気で実家と縁を切るなんて、今まででしたら考えられませんでしたわ」

「クロエとメイジュル様の婚約をねじ込んだような人ですからね」


 前世の記憶を取り戻して、中身が丸っと変わったからね。実家の方にも使用人から、『王太后様の気がふれた』とか報告がいっていたらしいよ。

 でも、乙女ゲームのままの王太后様でも、結局の所乙女ゲームが始まる前に退場しているわけだし、これも強制力の範囲内なのかな?

 しかし、王太后様ってばそれはもう清々しい笑顔で、淑女の化粧すらしないで『もう戻りません。さようなら』って出て行ったそうだよ。

 伝え聞いた話でしかないけど、見送りに出た貴族の中にはそんな王太后様に侮蔑の表情を向けたり、逆に、久々に拝む事が出来た美貌に惚れ直す人が出たりと、反応が分かりやすかったんだって。

 でも、王太后様がお化粧しないで出て行ったのをグレイ様が、『無駄に化粧をするよりも、素顔が分かるそちらの方が好ましい』と堂々と言ったせいで、今までの厚化粧の概念にまたちょっとひびが入ったそうな。


「体調不良による静養というのも、今まででは考えられない態度を取っていることから、あまり疑われていないようですわ」

「一部では、成り代わり説もあるようじゃがな」

「ああ、グレイ様と宰相が王太后様を暗殺して、似た人を用意して辺境に追いやったっていうあれか」

「うむ。もっとも、人が変わったようになってからも開かれたお茶会で、それまでの会話を引き継いでいたり、他人が知らないような事も知っていたりと、そちらの説を信じている者は少ないの」

「そりゃ、本人だし。ともあれ、王太后様がいなくなったんだし、クロエの婚約解消は一歩前進なんじゃない?」

「それが、そうでもありませんのよ」

「なんで?」

「王太后様が居なくなったせいで、ご実家の方が躍起になって権力を維持しようとしているようなのです。先日なんて、王太后様が居ないのだから、今後は自分達と交渉をと言って、メイジュル様のお爺様がいらっしゃいましたわ」

「「「うわぁ」」」


 クロエの言葉にわたくし達は思わず引いてしまう。

 そこまで権力にしがみつくとか、醜いわ。

 クロエはほうじ茶を飲みながら、おはぎにフォークを差し込み、そのまま一口大に切ると口に運ぶ。

 お箸とか黒文字とかもそのうち作りたいな。お箸は多分作ろうと思えばすぐに出来ると思う。

 竹、どっかに無いかなぁ。タケノコ食べたい。

 それに、竹があると色々作れるんだよ。文明開化の足音がするよ。

 流しそうめんとか! 別に他のでやってもいいんだけど、情緒がね、風情がね、こだわりがね、雰囲気がね!

 リアンが肉じゃがを食べつつ、緑茶に手を伸ばし、「う~ん」と眉間にしわを寄せる。

 どうしたの? と三人で視線を向けると、言いにくそうにリアンが小声で話し始めた。


「以前にも言っていたが、王太后が居なくなったことにより、やはり後宮内のパワーバランスが崩れたようなのじゃ」

「ああ、だろうね」

「特に兄上の妃達がひどい」

「具体的にはどのような状態ですの?」

「恐らく、近々三人ほど後宮から出されるじゃろうな」

「まあ、それはなぜです?」

「不貞を働いていたようで、今まで庇っていた王太后が居なくなった事により、兄上に露見した、という事らしいのじゃ」

「「「……嘘臭い(です)(ですわ)」」」


 グレイ様は元々不貞の証拠は掴んでたしねぇ。確かに王太后様も証拠を提出したけど、追い出す機会をうかがってたっていう感じだし、一気に叩こうとしているのかな?

 でも、今の貴族の権力争いの状態だと、またすぐに新しいお妃様を送り込まれるだけだと思うんだよね。

 この数年で、送り込めるご令嬢も増えただろうし。


「陛下のお心はツェツィにありますし、お妃様達がどれほど不貞を働いても、陛下は気になさらないでしょう。このタイミングで追い出すのだとしたら、他にも理由があるのではありませんか?」

「そうですわね。それに、追い出されるお妃様は替えがすぐにきくような方々なのでしょう? 嫌ですわね、わたくし達のツェツィが正妃になるまでには、ご退場いただきたいものですわ」


 優雅におはぎ食べながら話しているけど、内容があれだね。

 そして、やっぱりわたくしがグレイ様の正妃になる事は皆の中では確定事項。

 いや、いいんだけど……。ちょっと正妃になってからのわたくしの体の心配があるだけだし。


「あ、忘れていました。ツェツィ」

「ん~?」

「例の試作品ですが、私がパトロンになっている娼館のほうで試しているのですが、なかなか好評のようです」

「本当!? さっすがリーチェ! 仕事が早い!」

「何の仕事を任せているのじゃ?」

「タンポンとナプキンの試作品を使ってもらっているのよ」

「ああ、前に話していた月の物の時に使うというものですわね」

「当て布だけなんて、わたくしには無理! 合わせて、痛みを和らげる方法も試してもらっているわ」

「鎮痛剤に関しては、材料がないと嘆いていましたわよね?」

「うん、だから薬じゃなくて、腹巻とカイロを試してもらっているの」


 毛糸があるから腹巻を編んで、そこにカイロを入れるポケットをお腹の部分と背中の部分に付けて、装着してもらっているのよね。

 編む作業はちょっと苦戦したけど(前世ではお裁縫とか編み物系は苦手だったの)、カイロに関しては結構簡単に作れた。

 装着した時の見た目がちょっとよくないから、娼婦のお姐さん達はちょっと渋ったみたいなんだけど、パトロンのリーチェが薦めるのならっていう事で試してくれているんだって。

 ヨモギが手に入ったら、よもぎ蒸し風呂もやってみたい。


「お化粧品に関しても、役者を中心に新しい化粧品を広めて行っていますよ」

「ナイスよ。自分達が贔屓にしている役者が薄化粧をしていて、それが美しいと感じるようになれば、今の厚化粧の概念も変わってくるわ」

「そういえば、ツェツィが新しく開発したリップバームというのは、確かに素晴らしい物でしたわね」

「そうじゃな、唇のカサツキがなくなったの」

「蜜蝋は優秀な材料なのよ」

「あのリップバームに色を付けていくのですよね?」

「その予定よ。ただ、もし紅花が手に入ったら、そっちでも口紅を作って見たいのよね」

「「「紅花?」」」

「染料としても優秀だし、ぜひとも仕入れたいわ」


 この世界じゃ、見たことも聞いたこともないけどな!

 染料はそれなりにあるんだけど、紅花はないんだよね。

 わたくしは紅花の特徴をリアン達に説明すると、リーチェが「うーん」と首を傾げた。

 どうかしたのかと聞くと、最近異国から入ってきた芸術家の一人が、似たような特徴の花の刺繍が入ったハンカチを持っていたらしい。


「紹介して!」

「かまいませんよ。彼の才能は私も気になっていましたし、この機会にパトロンに名乗りを上げるのもいいですね」


 リーチェ、貴女そう言っていったい何人のパトロンになっているの?

 芸術関係だけじゃなく、娼館とか孤児院とかのパトロンにもなっているよね?

 リアンも平民に人気だけど、この中で一番平民に人気があるのって、実はリーチェだよね?

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