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言っちゃいました

 領地の屋敷から途中で宿を取りつつ、四日掛けて王都に到着すると、そのまま王都の屋敷に向かった。

 領地にある屋敷よりは幾分小ぶりだが、十分に広い屋敷と、それにふさわしい庭に感嘆の声が出てしまう。

 今すぐにでも庭に出て、青々とした芝生にダイブしたいところなのだけど、お父様に使用人が待っていると言われたので、仕方がないのであとで堪能しよう。

 屋敷の中に入ると、使用人が全員揃っているのか、大勢に迎え入れられた。

 そんな使用人の中から、白髪交じりの一人の男性が皆の前に立ち、恭しく頭を下げてくる。


「お帰りなさいませ、旦那様、お坊ちゃま方。お嬢様に於かれましては、お初にお目にかかります。執事長のセバスと申します」


 洗練された品の良い仕草に、流石王都の屋敷の執事、と思ってしまう。


「はじめまして、ツェツゥーリアです。よろしくお願いします」


 そう言ってぺこりと頭を下げてから、にっこりと笑顔を浮かべて顔を上げると、使用人の人達が妙に笑顔で悶絶していた。

 コホン、とセバスが咳払いをする。


「長旅、お疲れ様でした。お部屋のご用意が出来ております」

「そうか。まずはツェツィの部屋を確認したい。ロブとハンは自分の荷物の整理をしてきなさい」


 お父様の言葉に、兄達が素直に返事をしてそれぞれ階段を上っていく。

 その後ろには荷物を抱えた使用人が付き従う。

 わたくしは、お父様に抱き上げられて、セバスの案内で屋敷の中を進んでいく。

 屋敷の中でも奥まったところまでくると、立派な分厚い扉が開かれた。

 中に入ってみると、わたくしの為に新調したのであろう家具がいくつかあるが、基本的には上品な大人っぽい作りだ。

 この雰囲気、大変好ましい。

 お父様に好きに見て回っていいと言われたので、部屋の中を見て回ると、四歳児には大きく感じる、いや、実際に普通よりは大きい浴槽があるお風呂だったり、寝室には天幕のかかった大きなベッドがあったり、普段使いで使用すると言われた部屋は、やはり上品で落ち着いた雰囲気で、柔らかい座り心地のソファーには沢山のクッションが置かれている。


「すてきね、おとうさま!」

「気に入ったかい?」

「もちろんよ」


 にっこりと言うわたくしに、お父様は頭を撫でてくれる。

 六歳になって王立学院に通うため、王都で暮らすようになったら、この部屋を使えるようになるのかと思うと、今から楽しみで仕方がない。

 わたくしのお世話をしてくれるメイドの選抜も、もう終わっているそうで、今はメイド長の下でメイドスキルを磨いているらしい。

 至れり尽くせりすぎて、逆に不安。


「今日はこんな時間だから、ゆっくりしてから夕食にしよう。王宮には明日向かうことになる」

「わかったわ、おとうさま」


 コクコクと頷くと、お父様は片づけなければいけない仕事があると言って部屋を出て行った。

 セバスもついていったので、わたくしは領地にある屋敷からついてきてくれた乳母とメイドにお世話をされつつ、ミルクたっぷりの甘い紅茶を飲んで時間をつぶす。


「わたくし、このお屋敷の人に、うけいれてもらえるかしら?」

「何を言うのです。お嬢様のお可愛らしさに、この屋敷の使用人はすでに虜でございます」


 力強く言う乳母のナニーの言葉に、メイド達が同意するようにコクコクと頷く。


「そうなの?」

「お嬢様のお可愛らしさの前では、例えどのような美少女や美女であろうとも、有象無象の存在でございます」

「いいすぎよ」


 そう言ったけれども、全員に「そんな事はない」と力強く言われ、わたくしは照れたのをごまかすために紅茶に口をつけた。

 わたくしのそんな姿に、乳母とメイド達が「うっ、かわいいっ」と悶絶していたのだが、照れて顔が赤くなるのを抑えるのに必死なわたくしは気が付かなかった。

 しばらくお茶を楽しみ、持って来た本を読んで時間をつぶしていると、夕食の準備が整ったと声がかけられ、食堂に行くと、お父様達がもう席に座っていた。


「おくれてしまったかしら?」

「大丈夫だよ。さぁ、お座り」


 セバスが椅子を引いてくれて、子供用の椅子に座らせてくれる。

 しかしながら、提供される料理はやはり焦げ目がつくほどに焼かれたものか、どろどろに煮込まれた料理。

 それを見て、絶対に前世知識チートで料理革命を起こすと決意した。

 前世では、五歳ぐらいで包丁を持ったけど、流石に止められるかな?

 そもそも、辺境侯爵令嬢が厨房に入る事自体、認められるかどうか。

 ……ここはやっぱり、幼女の上目遣いおねだりでどうにかするしかあるまい。

 この食生活には、私の味覚が耐えられん!

 大体、せめて甘い物はましだと思っていたのに、出されたお菓子は、ひたすらに甘いだけの、まるで砂糖の塊のようなものだった。

 家庭教師曰く、お菓子は甘ければ甘いほど高級品とされていて、淑女はどんな思いをしてでも笑顔で「美味しいですわ」と言わなければならないとか。

 ふざけんな! 味音痴になるわ!


「あのね、おとうさま。わたくし、お願いがあるの」

「なんだい?」

「もう少し大きくなったら、おりょうりがしたいの」


 わたくしの言葉に、お父様は予想通り渋い顔をする。


「ツェツィ、辺境侯爵令嬢たるもの、使用人の仕事を奪うような真似をしてはいけないよ。そもそも、貧乏貴族ならまだしも、我が家の令嬢が厨房に立つ必要などない」


 その言葉も予想済み。


「じゃましないわ。それに、おとうさま達に、わたくしのてりょうりを食べて欲しいの」


 「だめ?」と首を傾げて上目遣いで言うと、お父様が言葉に詰まる。


「ツェツィは料理なんてしたことはないよね。危ないよ?」

「大丈夫よ、ロブ兄さま。ちゃんとコックに見てもらってやるもの」

「でも……」

「それに、こんな事を言うのはよくないと思うのだけど、食べているおりょうり、ずっとわたくしの口には合わないの。あ、でもコックのせいじゃないのよ? わたくしのみかくの問題なの」


 わたくしの言葉のせいで、コックが責められるのを避けるためにフォローも忘れない。


「ツェツィは食べ物がおいしくないの?」

「えっと、……うん」


 うまい言い訳が見つからず、ハン兄様の言葉に素直に頷く。


「そっか。確かに、平民が食べるような、屋台の品物の方が美味しい時もあるよな」

「そうなの?」

「まあ、たいして味付けは変わらないけど、こんなに香辛料がかけられてないし」


 確かに、かければかけるだけ高級品とされて、味が不協和音を奏でている食事よりは、その点はマシなのかもしれない。


「おとうさま。わたくし、街に遊びに行きたいわ」


 しいて言うのであれば、ロブ兄様が言っている屋台の料理が食べてみたい。


「いや、ツェツィにはまだ早いだろう」

「じゃ、じゃあ、やっぱりおりょうりがしたいわ」


 お父様にそう言えば、どちらがましかと考えているみたい。


「おりょうりは、今すぐじゃなくていいの。もう少し大きくなったらで。ね?」


 そう言ってお父様を見ると、大きくため息を吐きながら、「必ずコックがいる時にするように」と約束をさせられたけど、料理をする許可を得ることが出来た。

 一歩前進よ、やったぁ!


「街に遊びに行くのは、ツェツィが王立学院に通うようになってからにしようね」

「はい、ハン兄さま」


 乙女ゲームのイベントにも、攻略対象と街にお忍びデートに行くっていうのがあったけど、今思えば、買い食いをしているシーンはなかったわよね。

 攻略対象にお店でアクセサリーを買ってもらうっていうイベントだったはず。

 そもそも、あのゲーム、食事に関する描写がなかったわよね。

 ……もしかして、描写がなかったせいで激マズ料理になっている可能性がワンチャン?

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