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強奪はよくないよ?

 午後になって、予定通りに街を回って見たんだけど、出るわ出るわ、領主であるミビノル伯爵家への愚痴や嫌味。

 税金に関しては、グレイ様が国王になってから見直しされて下がったらしいけど、それでも物価は高いし、領主が関わる事業は軒並み低賃金。

 それにも関わらず、働くように言われたら断れないんだって。

 断ると領地を追い出すとか言われるそうだ。

 街を見ている間に、クロエが仕込んでいた方も情報が集まったみたいなので、公園で敷物を敷いて休憩がてら情報整理タイム。

 ミビノル伯爵は、グレイ様が国王になるまで、税収をごまかし不正を働いていた。

 不正を暴かれ、降格させられて税収も正されたものの、現在進行形で事業資金をちょろまかしている可能性が高い。

 弟であるこの領地一番の商人に寄生しており、面倒事は全て押し付け、甘い汁ばかりを吸っている。

 グレイ様の前では平民を立てるような事を言っていたけど、実際は平民は道具としか見ておらず、低賃金で酷使している。

 販路を考えても、物価の高さを考えるに、商人あるいは税金を管理しているはずのミビノル伯爵家が着服している可能性がある。

 平民の貴重な収入源である真珠も、些細なことに文句をつけ買い叩き、これ見よがしに豪勢に飾り立てて高値で取引をしている。


「ざっとこのようなものですわね」

「十分だわ」

「兄上も舐められておるな」

「リアン、腹立たしいのはわかりますけど、とりあえず落ち着きましょう」

「じゃが、兄上を馬鹿にするなど、不敬極まりないっ」

「リアンはその素直さを、陛下の前でもちゃんと素直に言えばよろしいですのに」


 クロエが呆れたように言うと、リアンが顔を赤くする。


「べ、別に良いのじゃ。それに、兄上にはちゃんと接しておる」

「ツェツィとうまくいくようにって、『女心が分からないようでは、妾の恥じゃ』とか言って、陛下に恋愛小説を押し付けますのに?」

「なぜ知って居るのじゃ!?」

「カマをかけただけでしてよ」

「むっ」


 リアンは一部の人に対してはツンデレだもんね。

 でも、基本的に優しいし気配りが出来るから、特に年下に人気なんだよ。


「グレイ様に変な知識を植え付けられるのはともかくとして、このままミビノル伯爵家を放置するわけにはいかないわよ」

「陛下が即位して数年経ちますが、未だに貴族にはびこる腐敗は取り除けませんね」

「こればかりはどうしようもありませんわ。取れない染みのようなものですもの。せめて、わたくし達の代で良き方向に向くよう、お手伝いするのみですわ」

「爵位を降格させられるっていうだけでも問題だけど、まとめて複数の貴族が降格させられたのもあって、実際にはそこまで気にしていないのかもしれないわね」

「それはありえますわ。心を入れ替えているようには見えませんもの」

「心を入れ替えていれば、ここまで領民から不満は出ないでしょうね」


 ありのままをグレイ様に報告するのは簡単だけど、それだけじゃこの領地の未来が無いんだよね。

 別の貴族にこの領地を任せるとしても、ぶっちゃけいきなりここを任せるほどに功績を上げている貴族が居るかと言われると、居ない。

 そういう人には、もうすでに余っている王家所有の領地を任せたりしているもん。

 しかも、ミビノル伯爵家には正当な後継者である成人した長子がいるから、親戚から養子を取るというのも難しい。


「……現ミビノル伯爵に問題があるのではなく、ミビノル伯爵家ぐるみで問題があるとなれば、すげ替えは可能じゃ」


 でも、ミビノル伯爵への文句は山のように出てくるけど、そのご令嬢に対する文句はないんだよね。

 派閥的にも、貴族至上主義派に属しているから上位貴族の面倒な人達が出てきて、自分達に都合よく動く人間を当主に据えて置きたいだろうし、簡単に一家丸ごと交換はさせてもらえないだろうな。

 むしろ、若い小娘が当主になったほうが操りやすいと思われるかもしれない。

 学年的な問題もあって、ご令嬢とは学院でも関わりが無かったし、情報がないというのが正直なところだ。

 だが、あまり賢い方ではないと言うのは分かる。


「大きな失態を犯してくれると、陛下も対処しやすいのですけれど」

「小物臭がするやつほど、尻尾は簡単に掴ませてくれないのよ」

「尻尾切りが得意かもしれませんものね」

「どうしたものかなぁ」


 わたくし達が眉間にしわを寄せていると、走っていた子供が目の前で転び、それを追いかけて来た大人が子供の髪の毛を掴んで立たせた。


「クソガキ! 逃がさねぇぞ!」

「いてぇっ離せよっ」

「盗んだ真珠を出しやがれ!」

「盗んでない! これは母さんの物だ! お前らが盗もうとしたんじゃないか!」

「うるせぇ! ガキはだまって言う事聞いてりゃいいんだよ! こっちにゃ領主様が付いてんだぞ!」


 怒鳴り声に驚いていれば、何やら聞き逃しがたい言葉が聞こえてきて、わたくし達は立ち上がると二人に近づいていった。


「その子供を離しなさいまし」

「あぁ? ガキがうっせぇな。ひっこんでろ!」

「そうはいきませんわ。子供から無理に何かを盗もうなど、大人として恥ずかしくありませんの?」

「こいつらなんざ、何の価値もねぇよ。大人しく言う事を聞けばいいんだ」

「話になりませんわね」


 クロエがスッと手を上げると、護衛に付いていた人が音も無く動いて、男を地面に転がすと、掴まれていた子供を解放させる。


「何しやがる!」

「言っても分からない方が、分かるようにして差し上げましたのよ」

「こんなことをして、ただで済むと思うなよっ」

「そういえば、先ほどミビノル伯爵家が付いていると言っていましたわね。どういうことですの?」

「ガキに教える義理はない! だが、生きてこの領地から出られると思うなよ」


 男の言葉に、クロエが口の端を持ち上げる。

 あー、小物過ぎて玩具にする気だな、こりゃ。


「大丈夫ですか? いったい何があったのか、話せますか?」

「……そいつが、母さんの宝物を盗もうとしたんだ」

「物騒ですね。理由があって取り上げられるのではなく、盗もうとしたという事で間違いはないのですか?」


 リーチェが優しく尋ねると、少年が何度も頷く。


「そいつらは、母さんのように海に出て真珠を探してる人から、納品してない分の真珠も出せって、無理やり奪っていくんだ」

「まあ! どうしてですか?」

「知らねぇ。でも、領主様の命令だって言ってた」


 ミビノル伯爵家が真珠を集めている? 何のために?

 少年の言葉を聞いて、クロエが男を見る。


「どういうことですの?」

「しらねーな。そのガキの妄言だっぎゃっ」

「口の利き方のなっていない下郎ですわね。痛い思いをしたくなかったら、素直に話しなさいまし」

「いでっ、いだっやめっ、折れるっひぎっ」

「わたくし、待たされるのはあまり好きではありませんの」

「りょ、領主様がっ、領民が隠してる真珠を売りさばくからって、集めてんだよ!」

「なぜ、そのようなことを?」

「しらねーよ! いでっ本気で折れる! 本当に知らないんだって! 俺は金を貰って、集めてただけだっ」

「ではもう一つ。それはいつから始めているのです?」

「ファビナ様だ! ファビナ様が帰って来てからだ! そうだよ! ファビナ様が言い出したんだよ!」


 へえ、あの令嬢がねえ。

 真珠を集めて売りさばくって、どう考えても脱税を前提にしているとしか思えないな。


「このような真似をして、ミビノル伯爵家にお咎めが無いとでも思っていますの?」

「俺には関係ないっ。それに、領主様が言ってるぜ、王様は領主様に逆らえないってな」

「なんですって?」

「この領地はこの国で唯一の港のある場所だ。ここを治めている領主様の機嫌を損ねるわけにはいかねーんだとよ」

「……それで?」

「今回、わざわざ王様がこの領地に来たのだって、ご機嫌伺いなんだって言ってたぜ!」

「……他には?」

「うっせーガキだっぃってぇ! もう何も知らねーよっ」

「…………身包みを剥がして拘束して、そこら辺に転がしておきなさいまし。運が良ければ風邪ですみますわ」


 クロエが指示すると、どこから取り出したのか、護衛があっという間に男の身包みを剥がし、縄で拘束してどこかに姿を消した。


「あ、ありがとう。助かったよ」

「大切なものなのですよね? 盗られずに済んでよかったです」

「うん。でも、友達んところのは盗られたんだ。子供の命が惜しかったら、出せって脅されたって。だから、俺、脅される前にこれ持って逃げたんだ」

「そうでしたか。他にも多くの方がこのような目に?」

「ああ。訴えようにも、領主様が命令してるから誰にも言えないし」

「そうですか」


 リーチェが困ったようにため息を吐き出すと、少年が「でもっ」と弾かれたように声を上げる。


「アルロン様が出来るだけ取り戻すからって……。だけど、皆知ってるんだ。アルロン様のところが、取り戻すために、すごいお金を領主様に渡してるって」

「そのようなことが……」

「そのせいで、領主様は余計に俺達から真珠を集めてるって噂なんだ」


 ほほーん。自分の弟が婿入りした商会からお金を巻き上げてるっていうわけね。

 しかも方法があくどいな。

 提案したのがあのご令嬢だとしたら、厄介だな。

 グレイ様の方がどうなっているかは、帰ってみないと分からないけど、ミビノル伯爵家の人が必死に取り繕っているか、余計なことを言うんじゃないオーラを出していそう。

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