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海に行きたい

「これはまた、カラフルな菓子を作ったものだな」

「ふっふっふ~、マカロンっていうのよ。作るのはちょっと大変だけど、好きなのよねぇ」

「このクリームは?」

「本当なら、間に挟むんだけど、わたくしの口って小さいでしょ? だから二枚合わせで食べるのが難しくって。一枚にクリームをつけて食べる方法にしたの」

「なるほど」

「マカロンの生地の味はストロベリー、レモン、紅茶、ピスタチオ、チョコレートと色々取り揃えてみたけど、グレイ様は何味が好きかしら?」

「ツェツィの作るものならなんでも好ましい」


 まったく。グレイ様ってばいつもこうなんだから。

 そのうち激辛の物でも作って食べさせようかしら? アツアツ激辛を食べて、鼻水ずるずるになっちゃえばいいのよっ。

 そうすれば、イケメンでも流石に顔面崩壊……するかなぁ?

 そんでもって、わたくしはそろそろ九歳になるわけなんだけど、いつになったらグレイ様のお膝の上を卒業出来るのかしら?

 本気で大人になってもこのままとか、言わないわよね?

 ないわよね? こんなの、子供だから許されているって、グレイ様だってわかっているわよね?


「ツェツィ、ほら」

「もふ……」


 うん、我ながら美味しく作れたものだ。

 ……って、だからなんでわたくしはいつもグレイ様に餌付けされてるの!


「グレイ様、わたくしだってもうすぐ九歳。お菓子ぐらい一人で食べられるわ。それに、こんな風にグレイ様のお膝に乗るのもおかしいと思うわ」

「私がしたくてしていることだ。それに、ツェツィは同年代の令嬢よりも華奢だからな。このぐらいなんということはない」

「むっ……。確かにリアン達より身長は低いけど、そこまで極端にちびっこっていうわけじゃないわ」


 おっかしいんだよねぇ、子供の時からちゃんと栄養のある物を食べるようにしているはずなのに、リアン達の方が発育がいいんだよね。

 兄達は体格がしっかりしている方なのに、わたくしだけ家族の中で華奢なんだよね。

 お母様に似たって言われたけど、お父様のお嫁さんになるほどの人よ? ただの華奢な人が嫁げるわけがないと思うんだよね。領地の立地的な意味でも!

 風魔法と生活魔法の使い手だとは聞いてるけど、お母様が残した日記とかはないんだよね。

 その代わり、お母様が使ってたっていう魔法の本とかはあるんだけど。


「それにしても、異世界というのは様々なものがあるんだな」

「そうね。わたくしの知識なんて氷山の一角よ。興味がある事しか調べていないもの」

「ふむ。十分だと思うがな」

「こんな事になるんだったら、もっとこう、色々な知識を身に付けておくべきだったと思うわ。せめて、ここにタブレットがあれば、そして前世のネットにつなげることが出来れば、そんなチートが使えればっ」

「よくわからない単語が出てきたが、今のままでも十分だ。そもそも、ツェツィが欲しいと言っているものが手に入っていないだろう」

「そうなのよねぇ」


 グレイ様の言葉に、思わずしょんぼりとしてしまう。

 ハチミツレモンを使ったレモネードも好きだけれども、わたくしはウメソーダも大好きなんだ。

 何よりも梅干し! 確かにこの世界は魔法があるから、そこまで食べ物が腐るっていうのを気にしなくてもいいけど、それでも殺菌魔法ってちょっと難しい魔法なのよ。

 殺菌魔法を付与した器はちょっとお高めのお値段だしね。

 考えれば考えるほど、日本の保存食って優れものよね。干物とかもそうだし、鮭の塩漬けとか、やりたいことがいっぱいありすぎて時間が足りないっ。

 商人達と何かと話し合いをしているけど、細かい魚とかは流石に把握していないみたいなのよね。

 むしろ、他国との貿易の窓口っていう感覚だったから、海産物ってあんまり重要視していなかったみたいで、尋ねても「なんでそんなものを?」と、首を傾げられてしまうのよ。

 そもそも、釣り道具がねぇ。魔法で補ってはいるみたいだけど、網とか竹とか、そういうものがね。

 タコつぼとか、設置しても絶対に魔物とかいって処分されそうな気がする。美味しいのに……。


「海に行きたいなぁ」

「いきなりだな」

「だって、そもそも海産物を食べるっていう概念がほとんどないのに、数年でいきなり海産物を食べろって言っても、食べられるものとそうじゃない物の違いが分からないでしょ? 土地柄的なものもあるかもしれないし」

「それはそうだな」

「だから、実際に海に行ってこの目で確かめたいのよね」

「つまり、次の冬の長期休暇は海に行きたいと?」

「お父様が許可をしてくれればだけどね」


 わたくしがそう言うと、グレイ様が難しい顔をする。

 なんだろうと首を傾げると、なぜかギュッと抱きしめられ、頬にキスをされてしまい、わたくしは一瞬で顔が赤くなってしまった。


「な、きゅっ、わっ」


 しっかり抱きしめられているので、腕の中で暴れることも出来ず、何度も降り注ぐキスにオタオタとするしかない。

 慣れないっ。イケメンのキスに慣れない。

 これを受けて平気とか、ヒロインすごいな。流石ヒロイン、ポテンシャルが違うわ。


「ただでさえ、ツェツィが領地に行ってしまって寂しいのに、海に面する領地に行くなど、何があるか分かったものじゃない」

「いえ、わたくしは大丈夫なんじゃ?」


 聖王と魔王の加護があるし。


「こんなに愛らしいツェツィを、どこの誰かが見初めるかもしれない。それこそ、メイベリアンが読んでいる本のように」

「何に感化されてるの! っていうか、なんでリアンの本を読んでるのっ」

「メイベリアンが女心をわかる為の教本だと言って持って来た」


 リアンのばかぁん。


「見知らぬ土地、そこで出会った男女は惹かれ合い、結ばれないとわかりつつも将来を誓う。しかし成長して二人は再会し、失われたはずの恋に火が付く。そうして姫君は異国の王子に連れ去られるんだ」

「テンプレの恋愛小説じゃないのっ」


 なんでよりにもよってそんな本を読ませたの!


「と、まあ……。流石にそこまで行くとは思っていないが、実際に慣れない土地では何があるか分かったものではない」


 いきなり現実に戻ったよ、この腹黒。


「それにだな」

「なに?」

「ツェツィが行くと言い出せば、メイベリアン達が行くと言わないわけがないだろう」


 ………………それは考えていなかったわ。

 でもまあ、確かに言いそうではあるな。あの三人も、日ごろストレスが溜まっているし、ちょっとバケーションを楽しんでもいいかもしれないよね。

 親友四人でウィンターバケーション。悪くない。

 あ、でも慣れないと冬の海は危険かなぁ。

 蟹とか牡蠣とか、海老関係にブリ、マグロ、フグ……は毒の危険性もあるか。

 ほかにもサーモン、鯛もいいよねぇ。他にも冬の海と言えば色々あるし、やっぱり現地で漁師さんと話したいなぁ。

 漁師さんいるかなぁ? ワカメとか昆布とか天草とか、塩とかを作ってる人はいるんだけど、がっつり漁師っていう話ってそういえばあんまり聞いたことないような。

 アジとかイワシ、サバなんかは確かに輸送されてくるけど、他の魚ってないような?

 うっわ、そう考えるとやっぱり現地調査が必要なんじゃない?

 前世でも、雑魚だって捨てられてる魚とか、食べ物じゃないとか思われている魚っていたっぽいし、この世界でもありえる!

 しかし、冬の海……。わたくしも釣りを趣味にしていたっていうわけではないしなぁ。

 初心者三人を引き連れて沖釣りなんて出来ないぞ? そしてやっぱり釣り道具に話が戻るし。


「うーん、でもやっぱり。食生活の為に海産物は充実させたい。オイスターソースとか重要だし」

「そんなにか?」

「そんなによ。食事はバランスよく食べてこそ、健康的な生活を送れるのよ」


 わたくしがそう言ってグレイ様をじっと見ると、グレイ様が「うーん」と困ったように苦笑した。


「どうかしたの?」

「出来れば、私も視察という名目で一緒に」

「行けるわけがないでしょう」

「……国王になってから、王都近辺から出た覚えがないのだが」

「だったらなおさら、国王がどこかの領地にホイホイ行っちゃだめでしょ。なんか御大層な理由があるならともかく」

「ツェツィは時折、ものすごく私に冷たくないか?」

「わたくし、傾国の女になるつもりはないもの」


 前世で言われているような悪女にもなるつもりはないのよね。

 締めるところは締めてこそ、淑女というものなんだから。


「しかし、ツェツィが海のある領地、今取引をしているのはミビノル伯爵領だったか」

「そうね」

「年の近い子息は居なかったな。親類縁者に他国の血が流れているという事も無いと記憶している」

「そこ!? 気にすべきところはそこなの!?」

「重要だろう」

「そ、そう」


 うーん、わたくしにとっては、どんな海産物があるかの方が重要なんだけどなぁ。

 でも、本当に行くとなったら、今から根回ししておかないといけないよね。

 お父様にお手紙を書かなくちゃ。


「そういえば、殺菌魔法って寄生虫には効果があるのかしら?」

「殺菌魔法自体が少々面倒な魔法だからな」

「まあね」


 菌だったらなんでも殺菌していいわけじゃないからねぇ。加減が難しいんだよ、殺菌魔法って。

 洗浄魔法なら、汚れが落ちるだけで済むから簡単なんだけどなぁ。

 寄生虫を殺す魔法……、あと、食中毒防止の魔法とかもあるといいなぁ。

 前世でも処理に困ってるのもあったぐらいだし、この世界観でどうにかなるもの?

 魔法ってそこまで万能かな? 防虫魔法はあるけど、寄生虫を殺せるようにまで派生させられるかなぁ。

 お魚屋さんとかあれば、そういう魔法があったりしないかな。

 そもそもだけど、天日干しっていう概念がなかったし、魚をさばくっていう概念が未発達なんだよね。

 うーん、冷凍処理と加熱処理で何とかなるものなのかなぁ。

 でも、お刺身食べたいんだよね、やっぱり。

 魚はそれなりにさばけるから内臓に寄生していればまとめて処理出来るけど、筋肉についてる寄生虫とかはどうしよう。


「う~ん。やっぱりここでウジウジ悩んでいてもわからないわ。お父様にお手紙を書いてから考えるわ。まずはそこからよ」


 わたくしがそう言うと、グレイ様は困ったようにため息を吐き出した後、マカロンにクリームをつけてわたくしの口元に持って来たので、それをモグっと一口分食べた。

 いつも思うんだけど、クッキーとか一口で食べきれなかった時、残った部分をグレイ様が食べるのってどうなんだろう。

 毒見なの? 別に気にしないけど、毒見させられているのかしら?


「毒なんて入ってないから、グレイ様も好きなものを食べればいいのに」

「ツェツィと同じものを食べると、より一層美味しく感じるんだ」

「うわぁ……」


 ごめん、ちょっと引いた。イケメンでも、子供のお残しを美味しいとか言って食べるとか、ちょっとどうなの?

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