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外れ属性!?

「ツェツィ、帰ってきて早速だが二、三聞きたいことがある」

「なぁに?」


 冬の長期休暇で領地に帰っている間、わたくしは思わぬ収穫を得て、内心大満足だ。

 今ならある程度の事は答えちゃうぞ。


「領地に戻っている間、何度も魔の森に出入りしたそうだな?」

「そうよ。思わぬ発見の連続だったわ」

「商人を何人も呼び寄せて、散財したそうだな?」

「いい買い物だったわ」

「そして、一番聞きたいことなのだが。私とのお茶会よりも、女子会を先に開いた理由は?」

「元々そういう約束だったからよ」


 よどみなく答えるわたくしに、グレイ様は「はあ」とため息を吐き出した。

 やっぱり国王であるグレイ様を優先した方がよかったのかな?

 でも、魔の森で発見した物や、商人から購入したもののお披露目もあったしな。しかたないよね。


「それで、魔の森では正体不明の植物をいくつか、正体不明の魚を数種手に入れたと聞いたぞ」

「自然薯、南天に山椒、赤紫蘇に青紫蘇。鮭のメスとウナギをゲットしたわ」


 いやあ、植物関係に関してはリアンに半分渡して大量生産体制をお願いしたし大丈夫ね。

 鮭とウナギは氷魔法で冷凍して運んできたし、これでイクラ丼とかはらこ飯とか、うな重とかが食べられるわ。

 でも、流石に魔の森のちょっと奥の方にある川に居るから、頻繁に手に入れるのは難しいのよね。

 そこまで深くっていうわけじゃないんだけど、それなりの手練れじゃないと危ないわ。

 これは貴重品になるかもしれないわね。でもまあ、前世でも高級食材だったし、そんなものなのかな。


「商人から購入したのは? 随分いろいろ買ったようだな」

「果物の種とか、植物の苗ね。あとは異国の本を数冊」


 わたくしが植物の種を集めているっていう話を聞いて、遠方も回っている商人が我が家に売り込みに来てくれるのよね。

 果物の種はクロエに半分渡したし、苗の方は領地で実験栽培しているし、どっちも成果が出たら報告してもらうことになってるわ。

 本に関しては、本当に図鑑みたいなものや歴史書、物語等々様々よ。

 確かにちょっとお金を使いすぎちゃったけど、アンジュル商会からの収益の使い道に困ってたから、ちょうどよかったのよね。


「ツェツィ、いくら聖獣と魔獣に守られているとはいえ、魔の森に足繁く通うのは危険だ」

「騎士の人も護衛にいるし、何よりもヴェルとルジャが居れば魔物は近寄ってこないわ」

「令嬢は、ドレスをずぶぬれにして川に入って、率先して魚を捕獲しない」

「だって、釣り道具持ってなかったんだもん。そもそも、ウナギを捕まえるのが気持ち悪いって言われたし。でも食べたかったし。次は罠を仕掛けるわ」

「そういう問題でもない。それに、遠方の国との取引がある商人が、この時期になると率先してデュランバル辺境侯爵領に行くようになったと言う報告もある」

「わたくしが珍しいものを集めているからでしょうね」

「実験場と銘打っているから体裁は取れているが、王都の技術よりも発展していると言われているぞ」

「そうなの? でも、ある意味事実よね。ちょっと急ぎ過ぎている気もするけど、時間が無いから仕方がないわ」


 領民も、わたくしの奇行にはすっかり慣れたみたいで、次は何をするのかって期待を向けてくるようになったわ。

 元が魔の森やダンジョンから取れる物で成り立っているようなものだったから、産業が増えて大分豊かになったわよね。

 そこまで魔力のない魔法士でも仕事に困らなくなったし、領民も仕事が増えたおかげで収入が増えて、荒くれ者に怯えなくて済むようになったし。

 荒くれ者とは言っても、魔の森やダンジョンに行く人たちで、ちゃんとうちの騎士団で管理しているんだけど、やっぱり一般人からすると迫力がね。

 それに、多少年齢が上がっても出来る作業も多いのもいいわね。

 まだ技術的に熟練者は居ないから、まだまだこれからだけど、その分期待値があるわ。


「ツェツィ。時間が無いからと焦る気持ちもわからないでもないが、あまり急速に革新してはいらぬ軋みを生み出してしまう」

「そうね。わかってはいるのよ」

「そうか」

「でも、……まだだ、まだたりぬ!」

「ツェツィ?」

「食事事情はまだまだだし、医療の発展具合もいまいち、ドレスだって布地が限られている、遊び道具もほとんどない、わたくしの野望はまだ尽きない!」


 ぐっとこぶしを握って力強く言うと、グレイ様は深々とため息を吐き出した。

 止めてくるのだろうか、とグレイ様を見ると、ちょっと困ったような顔をしてわたくしを見ている。

 なんじゃろな?


「いや、大臣や私の側近には、それとなくツェツィが私の特別だとわかっているが、それでも、あまり目立つと叩いてくるものはいる」

「出る杭は打たれるっていうものね」

「不正は粛正したとはいえ、権力争いは無くなっていない。今の老害達は私に孫や親戚を押し付けてくるしな」

「お妃様達ね」

「ツェツィが十八歳になるまでに、そういった大臣どもや貴族達は粛清か統制するが」


 粛清って言った? 今この腹黒、粛清って言わなかった? 粛正じゃなくて、粛清!?


「心無い者は、私のお気に入りと言うだけでツェツィを攻撃するかもしれない」

「ああ、狸親父や女狐の対応は面倒くさいよね」

「前世の記憶があると知っているのは、ツェツィの家族と私と宰相のみ。他の者は小賢しい八歳の小娘と侮ってくることだろう」

「そうだろうねえ。小賢しいにしては、ちょっとやりすぎている自覚はあるけど」

「聖王と魔王の加護は言えるわけもない。保護者であるデュランバル辺境侯爵は、社交シーズン以外は基本的には王都に来ないし、ツェツィの守りはきっとツェツィが思っているよりも脆い」


 聖獣と魔獣の加護を受けているって言う事にすればいいんじゃ?

 ヴェルとルジャが小さいバージョンで、皆の前に姿を現せば、少しはわたくしにも威厳というものがでるのでは?

 いや、モブに威厳とかいうのも、どうかとも思うけど。


「私の寵愛を得ていると、逆にツェツィを利用しようとする者もいるかもしれない」


 親の監視も無い八歳の小娘なら、手玉に取りやすそうだもんなぁ。


「そこでなのだが、『塔』の重鎮達を後ろ盾にしないか」

「ふぁ!? いやいや、『塔』よ? 俗世に関わるのを嫌って魔法の研究大好きな人の集まりでしょ? なんでわたくしの後見に?」

「ツェツィは生活魔法と、風属性の魔法を使うだろう」

「そうね」

「八歳なのに、扱う魔法のレベルが高いため将来有望。しかも、誰も考えたことがないような魔法を編み出した」


 グレイ様の言葉に首を傾げる。

 そんなことしたっけ? 魔法のレベルが高いって言うけど、魔法の授業の成績はリアンの方が上よ? 魔力量もリアンとクロエの方が多いし。

 リーチェの成績はわたくしと同じぐらい、魔力量はわたくしよりも少し下、って感じかな。

 意味が分からないと言うわたくしの頬を、グレイ様が指で軽く突いてくる。


「風魔法の応用で、二種類の魔法を開発しただろう」

「二種類……」


 ……………………あ。


「雷魔法と音魔法のこと?」

「そういうのか。報告では、ツェツィの手のひらからパチパチとした光が出現した。ツェツィを中心に耳鳴りのような音が広がった。と言われたな」

「確かに、屋敷にあった本には無かったけど、『塔』の魔法士ならもう発見しててもいいんじゃない?」

「いや、『塔』に問い合わせたが、そんな現象は初めて報告を受けたそうだ。おかげでツェツィに興味を持ったらしい」


 えぇ、研究馬kこほん、研究熱心な『塔』の人なら、もっと色々応用の利いた魔法を発見していると思っているんだけどな。

 ……あれ、そういえば、火・水・土って生活に関わる事が多いから、色々種類があるけど、風魔法ってそこまで種類がないような?

 え、風魔法って外れ属性なの? いや、便利属性でしょ?

 確かに、リアンは火・水・土、クロエは火・土、リーチェは水・土属性。

 攻略対象にも風属性は居ないな。

 えぇ。まさかとは思うけど、乙女ゲームに出てこない属性だから、なんか色々後回しにされてるとか?

 料理事情と言い、ありえそう。

 流石モブ、外れ属性(?)を引く辺り、本編と関り無いだけあるわ。

 ちなみに『塔』とは、乙女ゲームにはこれっぽっちも出てこないけれど、この世界に於いて、魔法士の最高峰が集まる場所の事を言う。

 上級魔法を使うようになって初めて、入る資格を得ることが出来るのだけど、噂では『塔』の中では階級制度はしっかりしていて、世俗の身分など関係なく、徹底した実力主義。

 そして、『塔』の中で上の身分になればなるほど、研究熱心になって行き、より世俗と関りを持たなくなっていく。

 そんな風に世俗と関りを持たない『塔』の人達が、どうやって収入を得ているのかと言うと、新たなる魔法の開発、発表による収入や、魔法薬による収入が主な物だけど、自ら高難易度のダンジョンに出向いて戦利品を刈り取る人もいるそうな。

 アグレッシブだよね。

 そんでもって、現在『塔』には五賢者と言われる人がいる。

 呼び名でわかりそうだけど、『塔』の最高峰に居る人達ね。

 『塔』は、各地に支部のような場所があって、大抵の人はそこで研究をしているんだけど、世界のどこかにあるっていう本部に、その賢者達は住んでいる。

 本部に住めるようになるには、転移魔法が使えるようになるのが条件だとか。

 生活魔法の一つではあるけど、超上級魔法なんだよね。

 上級魔法と、超上級魔法の間には、山より高く海よりも深い差があるよ。

 この国にも、『塔』の支部があるけど、乙女ゲームでは本当に一切触れられてないから、全く気にしてなかったよ。いや、マジで。

 世俗に関わらないけど、発表する魔法とか、魔法薬の影響もあって、各国としては無視できない存在でもある。

 ましてや賢者ともなれば、噂では戦略級の魔法が使えるとか。

 はは、賢者が本気になれば世界地図が変わるっていうわけだよ、研究馬鹿怖いね。

 そんな人達を後ろ盾にするモブがどこにいる。

 わたくしにこれ以上設定を盛らなくていいんだけどなぁ。

 お腹いっぱいだよ。

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