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八つ当たりだけど

 今日も今日とて、グレイ様の膝の上に乗って、せっせと給仕をされながら、わたくしは「はぁ」と深くため息を吐き出す。

 気が重くなっている原因はわかっている。

 先日リアンが言っていた、密かに正妃教育を受けさせられている事、改めてグレイ様が義務でわたくしの相手をしていることを自覚したから。


「ツェツィ? 調子が悪いのか?」

「なんでもないわ」

「そんなことないだろう。実際、今日は一度も笑っていないし、私とちゃんと視線を合わせない」

「笑ってるわよ」

「淑女としての作り笑いを言っているんじゃない」


 ふん。正妃教育を受けさせておきながら、淑女の微笑みを否定するとか、グレイ様も自分勝手だわ。


「わたくしは淑女だもの。淑女の笑みを浮かべて何がいけないの?」

「私の前では、いつものように笑って欲しい」

「ご機嫌取りをしろというの? いいわよ、それで家族が守れるならいくらでもするわ」

「そんな事をして欲しいわけがないだろう。本来なら、私がツェツィのご機嫌取りをしなければいけない立場だ」

「どうだか。家族を盾に取られたら、わたくしは何も出来ないわ」

「ツェツィ、本当にどうしたんだ? 私に至らないところがあるのなら遠慮なく言って欲しい」


 その言葉に、わたくしはギロリとグレイ様を睨みつける。


「わたくし、確かに護衛をつける事は承諾したけど。正妃教育を受けることは承諾していないわ。こんなのまるでだまし討ちみたいじゃない」

「ああ、それはすまない。でも、正妃教育を受けて欲しいと言っても、ツェツィは素直に受けてはくれないだろう?」

「当たり前だわ。どうしてわたくしが正妃教育を受けなくちゃいけないのよ」

「私は、ツェツィを正妃にしたいと思っている」

「それは、わたくしが聖王と魔王の加護を受けているからでしょう。この国に留めて置くためでしょう。そんな義務感で相手をされたくないわ」

「義務感しかないのなら、護衛から報告を受けるだけで済む。こうして会っているのは、私がツェツィに会いたいからだ」

「ふん。女を口説くのは上手いのね。それとも何? わたくしの前世知識チートを利用したいの? だったらお望み通り、知識の提供なんていくらでもするわよ」

「確かにツェツィの知識はすばらしいものだ。おかげでこの国は他国に大きく差をつける事が出来るだろう。だが、そんなものがなくとも、私はツェツィと共に居たい」

「信じられないわ。わたくしが子供だから丸め込めると思っているの?」

「まさか。ツェツィはどうしたら私の言葉を信じてくれる?」

「腹黒の言葉なんて信用出来ない」


 八つ当たり気味にそう言って顔をそむけると、頭上でため息が聞こえる。

 呆れられた? 見捨てられた?

 ううん、グレイ様が悪いんだもの。わたくしだって傷ついてるのよ。

 これまでは前世での最推しキャラだったから、なあなあでこんな風になったけど、よくよく考えれば色々おかしいわよね。

 わたくしの力を政治利用したいだけに決まっているわ。


「本当なら」


 ぼそり、と暗い声で呟かれた声に、ピクリと体が揺れる。


「後宮に閉じ込めて、私以外目に入らなくなるようにしたい」


 ひっ……。後宮監禁エンド!?


「だが、ツェツィは後宮でそんな生活をしたくはないと言うし、それでも私の傍に居てもらうには、正妃になってもらうしかない」

「そっ、それでも、それってわたくしの力を利用したいだけでしょう」

「もしそうだとすれば、聖王と魔王により、私は、我が国は滅ぼされるだろう」

「まさか、そんなことないわよ」

「いいや。聖王と魔王は、ツェツィに健やかに過ごせと言った。それは体だけでなく精神的な事も含まれているはずだ。もし洗脳紛いの事を施したとなれば、そのお怒りは計り知れない。もっとも、そのまえにツェツィを常に守っている聖獣と魔獣に私が殺されるだろう」


 グレイ様の言葉に、ヴェルとルジャが『然り』と反応した。


「で、でも……じゃあ、なんでグレイ様はわたくしをかまうの?」

「もう少し大人になってから伝えようと思っていたんだが。……愛している。一目ぼれだ」

「一目ぼれって、わたくしがグレイ様と初めて会ったのは四歳の時でっ」

「幼女趣味じゃないぞ。緊張しながらも凛とした姿がいじらしかった。涙をこらえる姿が可愛らしかった。家族を思う心に胸を打たれた。私はこの地位を捨てることが出来ない、けれど地位を利用してツェツィに会う機会を作った」

「こ、公私の区別をつけるべきだわ」

「そうだな。だが、会えば会うほど、ツェツィが好きになっていった。会えない日々、夜に眠る前、ツェツィを思わない日はない」

「い、言うだけなら誰にだって出来るわ。それに、グレイ様の後宮には何人もお妃様がいるじゃない。わたくしを愛しているなんて言って、不誠実だわ」


 いや、前にパワーバランスの関係で後宮に放り込んでいるだけって言われたけどねっ。


「知っているか? 後宮に入った妃は、入ってから三年経っても子供を孕めなかった場合、もしくは三年間手が付かなかった場合、私の意思一つで家に戻す、もしくはどこかに下賜することが出来る」

「……どういうこと?」

「ツェツィが私の元に嫁いでくるころには、後宮は空になっているだろう。それまでに、貴族のご機嫌取りをしなければいけない国王の立場を覆して見せる」

「…………盛りのついた十七歳の言葉なんて、信憑性がない」


 性欲に負けてもおかしくないもん。ただでさえ絶倫設定だし。

 それに乙女ゲームの隠しキャラだし、こんな事言っておいて、ヒロインが現れたら、そっちに惹かれるようになるかもしれない。


「信頼が出来ないと言うのなら、私の名において聖王と魔王に誓おう。私がツェツィへの愛や想いを曇らせたり、失ったら、この命を捧げると」

「なっ……」


 グレイ様がそう言った瞬間、グレイ様の魔力がわたくしの体の中に一気に流れ込んできて、わたくしの魔力がグレイ様の体の中に流れ込んでいった。


「な、何を考えているの。さっき地位を捨てられないって言ったばっかりじゃないっ」

「いままで自分の為のわがままを言う事を許されない立場だった。一つぐらい自分の為にわがままを言ってもいいだろう?」


 そう言って蕩けるような笑みを向けられて、わたくしは何とも言えない気持ちになる。


「ずるいわ」


 そんな顔でそんな風に言われて、喜ばない女なんていないわよ。

 わたくしは顔を赤らめて俯いてしまう。


「ツェツィ。返事は急がない。前世の記憶があっても、ツェツィはまだ七歳なのだから」


 そう言って頭にキスをされる感触がした。


「ツェツィ、顔を上げて?」

「…………、今、多分顔が真っ赤だから、恥ずかしい」

「私はそんなツェツィの顔も好ましい」


 そう言って顎に手を当てられて顔を上げさせられる。

 すぐにいつものように顔じゅうにキスをされて、顔がますます赤くなってしまう。


「く、口にしちゃだめよ」

「心得ているよ。するタイミングは決めているから」

「……いつ?」

「ツェツィが大人になったら」

「それって、学院を卒業したらっていう意味?」

「その前に、体が大人になったら、だな」


 それって、わかりやすく言えば二次成長期のあたり、具体的には、初潮が来たらっていう意味?

 生理……、前世では激重のタイプで、辛い時は腹痛に腰痛、頭痛に吐き気、貧血に眩暈のオンパレードで、ろくに起き上がれなかったのよね。

 思い出すと気がめいってくる。


「嫌だったか?」

「あ、えっとそうじゃなくて、生理にいい思い出がないのよね」

「そうなのか?」

「うん。激重だった」


 そう言って今は全く予兆のない腹部を撫でる。

 撫でながら、はっと気が付いた。


「大変!」

「どうした?」

「この世界の生理用品って、どうなってるの!?」

「は?」

「タンポンは? ナプキンは?」

「まてまて、それはなんだ」

「ないの? ないのね!? 女の人は生理の時どうやって対処しているの?」

「当て布をしていると聞いたが」

「まさかのそのレベル! 大変だわ。大至急でタンポンとナプキンの開発をしなくちゃ!」


 脱脂綿とレーヨン綿が原料だったはず。でもレーヨン綿の作り方なんて流石に知らないぞ?

 脱脂綿だけで作れるものかな? 昔は脱脂綿をタンポン代わりに使っていたっていう話も聞いた気がするし、なんとかなる、かなぁ。

 ナプキンも作らないといけないけど、血がにじまないようにするための素材あるかな。

 水分がにじまず、尚且つ肌にフィットするような柔らかいもの。

 フィルム素材なんてないし、撥水性の不織布……。

 だめだ、作り方がわからない。

 いやまて、撥水すればいいのよね。魔法でなんとかなるんじゃない?

 水魔法で水を作り出せるのなら、逆に撥水させることや乾かす機能を付与することも出来るのでは?

 こんな時こそ、ファンタジー要素を活用させねばっ。


「そうと決まれば、お父様にお手紙を書かなくちゃ」

「急にどうした」

「水魔法を使える魔法士を手配してもらうの。撥水魔法ってどのぐらいの難易度なのかしら?」

「撥水魔法というと、水除魔法のことか?」

「そんな感じね」

「だったら、中級魔法になるな」

「中級ね。お父様に手配してもらうわ」

「今度は何を考えている?」

「タンポンとナプキンを作るのよ。世の女性の為に!」


 グレイ様の膝の上でぐっとこぶしを握って言うと、グレイ様は「いい雰囲気だと思ったんだが、まあ、ご機嫌が直って何よりだ」と呟いた。

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