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布石を打っていく

「まあ、ルーカス様がそのようなことをおっしゃったのですか?」

「うむ。『婚約者になるからには自分をたて、どのような科目の成績も、自分より上に行くことは許されない』と言ったのじゃ」


 メイジュル様達が都合よくいなくなった教室で、妙に通った声で聞こえた声に、教室に残っていた生徒の視線が集まる。


「そのように傲慢だとは思いませんでしたわ。まるでメイジュル様のようですけれど、やはり側近候補というのは主に似てしまうのでしょうか?」

「愚弟が何か言ったのか?」

「家庭教師が一新されたのが、どうやらわたくしの差し金だと思ったらしく、『この俺に命令をするな。ブサイクの分際で。お前など、俺が居なければ何の価値も無い』とおっしゃっていましたわ」

「次期女公爵に価値がないなど、メイジュル様は何を勘違いなさっているのでしょうか?」

「婚約を正式に結ぶときにも、メイジュル様が我が家に婿入りし、わたくしの仕事を手伝うという条件をきちんと説明しておりますのに、困ったものですわ」

「私も、ラッセル様との婚約を解消したいと両親に話しているのですが、未だに受け入れてもらえません。挙句の果てに、ラッセル様から『我が侯爵家に嫁にもらわれることを感謝しろ。何も出来ないお前を貰ってやるのは俺ぐらいだ。今後一生跪け』と言われました」

「妾の親友に向かってなんたる物言いじゃ」


 再教育、うまくいってないねぇ。

 っていうか三人とも、婚約者がいないからって、これ幸いと噂を流そうとしてるね?

 リーチェは積極的に婚約解消を狙ってるし、リアンとクロエも第一印象最悪だもんね。

 そもそもね、あの三人がわたくし達に正式に挨拶をしたの、ついこの間なんだよ。

 もう学院に通って半年以上経ってるのに、やっとだよ。

 それも、グレイ様主催のお茶会で、互いに婚約者を(いやいや)紹介するっていう形でやっとなんだよ。

 あの三人も、流石にグレイ様の前で無作法を働けなかったみたい。

 メイジュル様の名乗りは相変わらず微妙だったけどね。

 再教育が始まって、宰相閣下と騎士団長の家に、息子の教育を注意して行えって通達がいって、メイジュル様の教育も、いままでよりも厳しい人が担当するようになったらしい。


「わたくしは、次期女公爵となるべく、日々お父様について学んでいますのに、何もしない穀潰しの夫を養うつもりはありませんわ」

「妾も、政略結婚とはいえ互いに信頼出来ぬ夫を持ちたくはないものじゃ。男尊女卑が強いこの国でも、あの男は行き過ぎておる」

「いくらなんでも、妻相手に跪けなんて言う人の所にはいきたくありませんね。別に、あの人じゃなくても私を貰ってくれるという人はいます」


 教室にいる生徒がしっかりはっきり聞いたところで、わたくしはグレイ様に貰った扇子を開いて口元を隠す。


「それぞれの家の都合とはいえ、納得出来ない婚約を続けるのは大変ですね。もしかして、皆様婚約の解消を望んでいるのですか?」

「そうじゃな。ルーカスが宰相閣下による再教育で変わらぬようであれば、兄上に奏上しても良いかもしれぬ」

「そうですわね。わたくしも先ほど言ったように穀潰しの夫を持つ気はありませんので、メイジュル様が態度を改めない限りは」

「私はそもそも、ずっと両親に婚約者を変更して欲しいと言っておりますからね」

「まあ、そのような状態では、もし婚約者様が他の女性に想いを寄せるようなことがあれば、喜んで譲りそうですね」


 軽やかにきっぱりとそう宣言して、グレイ様の専用紋をそっと手で撫でる。


「その時は、わたくしも喜んでお力添えします」


 いくら六歳児や七歳児の集まりでも、わたくし達の言葉の意味や行動がわからないはずがない。

 三人が婚約に不満を持っている事、相手に愛情を持っていない事、尚且つ、もし相手の有責で婚約解消になる場合、グレイ様を後ろ盾に持つわたくしが協力する事を理解しただろう。

 しっかし、乙女ゲームが始まるまでに攻略対象達の再教育、どうにかなるものなのかな?

 数ヶ月じゃ成果が出ないのか、もう手遅れなのか。

 そう考えていると、三人が戻って来たとヴェルが教えてくれたので、パチリと音を立てて扇子を閉じる。

 この話はここまでという意味だ。

 しかしながら、攻略対象が知らないところで、噂は広がっていくだろう。

 王族や高位貴族の恋愛事情は、娯楽に飢えている生徒には良い刺激を与えてくれるのだ。

 こうした噂を操り、精査する方法もまた、学院で学ぶ社交術の一つになる。


「そう言えばご存じ? 年上の方達がしているお化粧の道具ですが、肌を痛めるそうです」

「まあ、そうなのですか? けれども、皆様しっかりと白粉を塗っていますよね?」

「肌荒れを誤魔化すために、どんどん白粉が厚くなっていくそうです。それに、こう言ってはなんですが、年上の方のお化粧がわたくしには怖く見えてしまいます」

「けれども、そういう物ですわ」

「陛下も、濃い白粉の匂いや過剰な香水の匂いはお好みではないそうです」

「兄上がそのようなことを? 確かに、母上の顔は化粧前と後では別人のように見えるが」

「素材に自信があるのなら、薄化粧で素材の良さを引き出して勝負すべきだと思います」


 ここで女心に一つ種を撒いておく。

 厚化粧をするということは、自分の容姿に自信がないという布石を打つのだ。

 この噂も、グレイ様が厚化粧を嫌っているという事実と混じって、確実に学園の中に広まって行くはず。


「そういえば、お年を召したご夫人は夫の引退に合わせて社交界には顔を出さなくなりますね」

「若い頃から肌を痛める厚化粧をして、お化粧をしても誤魔化せなくなってしまっているからかもしれません」

「確かに、母上は最近メイドに化粧の腕が落ちているのではないかと、どなりつけておったの」

「そう言われてみれば、お年を重ねた方程扇子でお顔を隠しますわね」


 わたくし達の会話に、この話を聞いていた皆様が、そういえば、と思い当たることがあるようです。

 一気に認識を改めることが無理なら、六年かけて少しずつ認識を改めていくわ。

 実際ちょーっと調べたら、夫人の厚化粧&きつい匂いの香水を付けたままのエッチに耐えかねて、薄化粧で香水も付けてない使用人や平民に手を出す貴族って多いみたい。

 表では厚化粧で着飾る女こそが美しい、みたいな事言っておいて、実際にはその反対の女に手を出すとか。

 それでいて浮気は男の甲斐性だとか、引き留められなかった女が悪いとか言われるなんて納得出来ない。

 教室に先ほど戻って来た攻略対象達は、この前の話題など聞いていないので、また下らない着飾るばかりの話をしていると思っているのか、それぞれ冷たい視線を投げかけてくる。

 言っておくけどな、女が着飾るのは基本的に男の為じゃなくて自分の為だぞ。

 可愛らしさや美しさは武器だ、鎧だ。

 流行の話に紛れて噂話をしいれるのも、まき散らすのも、着飾りつつお互いを牽制し合うのも、貴族の女の戦いであって社交術だ。

 それが出来なければ、蹴落とされる。爪はじきにあう。

 お前達が思っている以上に、女の世界は厳しいんだからな。


「話は変わりますが、最近平民街である飲食店が出来たのはご存じですか?」

「うむ。鶏肉を油で調理したものと、芋を同じく油で調理したものを提供する店じゃったな」


 チキンナゲットとフライドポテトね。


「話には聞いています。連日長蛇の行列が出来ているそうですわね」

「私も食べてみたいのですが、生憎一人での外出が禁止されていまして、どなたかに付き添っていただければと思っているのです」


 そう言ってリーチェは一応チラリと婚約者のラッセル様を見るけど、ラッセル様は目が合ったうえで、視線をそらし聞こえないふりをしている。

 リーチェはわざとらしくため息を吐き出して、ゆるゆると首を横に振った。


「取り寄せるわけにはいかぬのか?」

「その場で出来たてを食べるのと、アイテムボックスを使って後で食べるのとでは、大分味というか、感動が変わるそうです」

「では、出向かねばならぬな。店名はなんであったか」

「平民街の第二大通りにあるアンジュル商店ですよ」

「そうでしたわね」


 いや、リクエストをくれればうちの屋敷に遊びに来た時に作るよ?

 そもそも、三人とも食べたことあるよね。

 これなら平民にも絶対に受けがいいから、売り出した方がいいって言ったのはリアンだよね?


「ここ最近、この国では様々な食料品が収穫出来るようになりましたもの。どんどん新しい料理が生み出されるかもしれませんわね」

「そうじゃな。民にも良き刺激になるじゃろう」


 お店の宣伝をしてくれるのはありがたいんだけど、貴族が押しかけて平民が追い出されると困るのよ?

 あ、ちなみに。チキンナゲットとポテトフライは、わたくし名義の店で販売している。

 経営しているのはハン兄様だけどね。利益の三割がわたくしの懐に入る仕組みになっていて、二割はハン兄様の懐に、残りの五割は今後の店舗拡大や新事業のための貯蓄に回る。

 ハン兄様、いったいどこで経営学を学んだんだろう?

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― 新着の感想 ―
[一言] 着々と婚約破棄に向けて進んで行っているようですね。周りに三バカのどうしようもない言動が知れ渡っていきますね。あと化粧問題を国王の発言云々と絡めて誘導して行ってますね。
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