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どうにでもなぁれ

「ツェツィ、メイベリアン達を屋敷に招待したそうだな」

「ええ。学院の帰りに」

「そこで、お前の手料理を振舞われたと」

「やっと包丁を使う許可をもらったのよ。調理台はまだ高いから、特別に台を作ってもらったの」

「今まで食べたこともないような、美味しい料理だったと自慢された」

「そうなの? でも、お菓子類ならグレイ様とのお茶会にも持ってきているわよ」


 今日も今日とて膝の上に乗せられながら、グレイ様の言葉にコテリと首を傾げる。

 以前、アップルパイを焼いて持って来た時、わたくしに食べさせにくいという事から、小さめのお菓子にするようにしているのだけど、文句でもあるの?

 あ、レシピが欲しいのかな?

 リアンも肉じゃがを気に入ってるし、別に王宮にならレシピを渡してもいいんだけど。

 こんにゃくの加工法も教えないといけないのかもしれない。

 …………玉こんにゃく食べたくなってきた。

 そんな事を考えていると、するりと頬を撫でられる。


「もっとツェツィの手料理を食べるため、私もデュランバル辺境侯爵家に訪問してもいいか?」

「パーティーも夜会も無いのに、国王が特定の貴族の家を訪ねるなんて却下だわ。そんなにわたくしの料理を食べたいのなら、リアンにお土産で持たせるわよ?」

「それも魅力的だが、ツェツィと一緒に食べると言うことは出来ないな」

「それ、重要な事?」

「メイベリアンの話を聞くと、一人での食事が物寂しく感じる」

「後宮の妃と食べればいいじゃない」


 呆れた声で言うと、ゆるゆると首を横に振られた。


「あんな香水臭い中で、折角のツェツィの作った料理を食べたくない」


 香水臭いと思っているんだったら、口に出して控えるように言えばいいのに……。

 食事でそれだと、沢山の人が集まるパーティーとか夜会って、地獄なんじゃないの?

 一応、ファンタジーのご都合主義で、水道回りは完備されていて、ウォシュレットはないけど、腰掛式水洗トイレだし、お風呂も前世のものとさして変わりはない。

 そういえば、パソコン版にお風呂でのエロイベントがあったな。そのせいか!

 トイレは、なんだろう? 登場するシーンはなかったけど、ドレス的に和式は無理だからかな。

 屋敷のトイレには、わたくしが実験で作った消臭剤を置いてある。

 重曹は元々厨房にあったし、香油もあるから作るのは楽だった。

 思えば、香油はあるのにハーブティーは駄目とか、基準は何なんだろう。

 まあ、香油も大体十二歳になると香水を振りかけるようになるから、匂いが消されるらしいけど。

 みつろうも手に入るようになってきたし、早めに化粧品にも手を出そうかなぁ。

 化粧水と乳液、日焼け止めは作ってるけど、リップとかはまだ手を出してないし。無色透明なリップなら保湿の為にもあっていいかも。

 そこから着色料を改良していって、真っ赤な口紅以外も開発。

 うーん、六年後までに意識を変える事が出来るかなぁ?

 あんまりやると、シナリオ崩壊するかなぁ。

 でもすでに、悪役令嬢がわたくしの親友になっている時点で、シナリオ崩壊しかけてる気がするんだよね。

 モブなのになんかごめんね。


「香水臭いのも、白粉臭いのもうんざりする」

「それ、ちゃんと妃達に話して改善した方がいいと思うわ」

「言ったことはある」

「へえ」

「私は若いから、女の魅力がわかっていない。自分が教えてやると言われたな」

「なるほど」


 厚化粧をしたり、香水を振りかけたり、着飾る事が魅力だと思っている系なのね、把握した。


「私に房中術を教えて来た女もそういう女だったし、男もそういう女が魅力的だと言っていた」


 固定観念ってやつなのかねぇ。

 でも、攻略対象達は、素朴で貴族の令嬢らしくないヒロインに惹かれるわけで、グレイ様もそういう趣味ではないみたいだから、必ずしも皆が魅力的と思っているとは限らないのかな。

 攻略対象補正なのか、周囲がそう言ってるから合わせてるのか、固定観念なのかはわかんないけど。


「ツェツィはいい香りがする」


 そう言ってグレイ様が形のいい鼻をわたくしの髪に寄せてくる。

 そりゃ、メイドに毎日手入されてるもん。香油を付けすぎないようにっていうリクエストを守ってくれてるから、過剰に香るって言う事も無いはず。

 無臭のシャンプーはあるけど、コンディショナーはないからその代わりに香油を付けるっぽいんだよね。トリートメントの代わりかな。

 体にも香油を塗られるんだけど、マッサージ効果もあるらしく、終わった後は体がポカポカするから好き。


「メイドが香油で手入れをしてくれるおかげね」

「このぐらいの香りが私は好きだな」

「そう。でも、幼女の髪の匂いを嗅ぎ続ける国王って、絵面的に無いと思う」

「キスはありという事だな」

「そうは言ってない」


 どうしてそうなるんだろう。グレイ様はキス魔なの?

 乙女ゲームでそんな設定あったか? あ、でもパソコン版ではあっちこっちにキスマーク付けられてたかも。ドレスに隠れる部分にだったけどね。

 それを考えると、キス魔でもおかしくないのかも?


「あと、セクハラはよくない」

「セクハラとは?」

「セクシャルハラスメント。相手の意に反する性的言動や行動を取る事」

「……ツェツィは、私のキスが嫌なのか?」


 くっ、ここぞとばかりに愁いを帯びた顔でイケボで色気盛って、首を傾げてきやがった。


「くすぐったがってはいるが、体に触れることも駄目なのか?」


 否定するのよ。ここで否定しておけば淑女に対して適切な距離を取ってくれるようになるはず。


「ほどほどにしてくれるなら」


 ちがーうっ。なにポロっと考えてることと違う事を言ってるの。

 思考回路がショート寸前になるぞゴラァっ。


「ほどほど。……これでも大分我慢しているんだがな」

「どこが!?」

「口にはキスをしていないだろう?」


 いや、そうだけど。確かに口は意図的に避けられている気はしてるけど。


「自制は利く方だが、止まらなくなるかもしれないからな」

「絶対に口にキスしないでっ」


 わたくしはまだ六歳。って違う、そもそもキス自体がおかしいからっ。

 しっかりしろ、わたくし。


「そうだな、ツェツィがもう少し色々と成長したらにしよう」

「色々って何!?」

「教えて欲しいか?」


 妖艶な笑みを浮かべるグレイ様に、背中に嫌な汗が流れた気がした。


「教えなくていいわ」

「それは残念だ」


 そう言いながら額にキスをしてくるグレイ様に、思わず平手打ちしなかったわたくしを褒めて!


「でも、ツェツィを守護する聖獣と魔獣が動かないという事は、ツェツィも心の底から嫌がっているわけじゃないのではないか?」


 その言葉に、まさか、と頬が引きつった。

 確かに、わたくしを守護しているヴェルとルジャが何もしないという事は、ここに姿を現さないという事は……。え、そういうことなの?

 いや、でもわたくしは後宮監禁エンドも、所かまわずドロッドロのぐちゃっぐちゃエンドも、強姦を視姦されるエンドも嫌なんだけど。


「え……でも、わたくしは……。あれ?」


 恥ずかしいよ。グレイ様にキスされるのは恥ずかしいのは間違いない。

 くすぐりの刑も、くすぐったいしゾワゾワするし、涙目になるし。

 でも、本心では嫌がっては……いない?


「で、でもっ……。グレイ様は」

「私は?」


 乙女ゲームの隠しキャラで、腹黒で、待ち受けているのはメリバエンドかバッドエンドしかないわけで。

 でも、グレイ様はわたくしの意思を尊重してくれるし、無理な事はしないし、させないって言っている。


「……念のために聞くけど、わたくしを後宮に監禁しない?」

「ツェツィは嫌なんだろう? それなら後宮の離宮に入れることはしない」

「じゃ、じゃあ……人目もはばからず、その、所かまわずエッチなこととかしない?」

「私を何だと思っているんだ。そんな節操のない事はしないし、ツェツィのそんな姿を他人に見せるわけがない」

「それじゃあ、極論だけど、他人に強姦させてそれを眺めて愉悦に浸るとか」

「ツェツィにそんな事をする奴が居たら、私がこの手でその首をはねよう」


 何を言っているというような真剣な口調で言われ、思わず眉を寄せる。

 どれも否定されるのは、わたくしがヒロインじゃないからだろうか。


「まったく、ツェツィの中で私はいったいどれだけ冷酷無慈悲な人間になっているんだ」

「だって、腹黒キャラだし」

「腹黒は否定しないが、キャラ?」

「ぁ」


 やっべ、口が滑った。


「ツェツィ、何を隠している?」

「いやぁ、隠しているというか、ね?」


 必殺上目遣いアーンド首傾げで誤魔化されろ!


「言わないのなら言う気にさせるまでだぞ」

「ひゃふっ」


 耳元で色気タップリイケボはあかん!

 ついでに言うならさわさわと体をくすぐるのもアカン!


「で、でも……シナリオがっ」

「私の寝室で徹底的に聞き出してもいいのだが?」

「ひっ、わたくしは六歳! イエスロリコン! ノータッチ! セクハラ駄目、絶対!」

「じゃあ、教えてくれるな?」

「うぅ……」


 その後、身の危険を多大に感じて、乙女ゲームの事を洗いざらい喋らされた。

 もちろん、スマホアプリ版とパソコン版の知識をなっ。

 話し終わってやけ食いしているわたくしを宥めるように頭を撫でつつ、グレイ様はしばらく思案状態が続いている。

 もうどうにでもなぁれ!


「ツェツィ」

「なぁに?」

「今の話が事実だとして、それはこの国を揺るがすレベルの話だ」

「うんうん、前世で読んだ小説に婚約破棄して没落とかよくあったよ」

「マルガリーチェ嬢とラッセルの婚約破棄だけならまだいいが、その他のルートとやらは完全に駄目だ。どちらも王家の信用を失墜させる」

「あるあるだね」

「ツェツィは、メイベリアン達の未来を変えようと動いているのだな?」

「まあねぇ。さっきも言ったけど、あんなエンドはないでしょ。しかも原因が相手の浮気とかないよね」

「婚約に関しては、正式に結んでしまっている以上、簡単に解消は難しいな。今のところ、有責はないし」

「むぅ」

「メイジュル達を教育しなおすことも含め、今後の対策を練ろう。ツェツィはそのヒロインとかいう娘がわかるか?」

「ゲームが始まったらわかると思うけど、今は平民だからなぁ。王立学院にも通ってないし。名前もデフォルトがなかったから、どの伯爵家の庶子かわかんない。栗色の髪に藍色の瞳っていうのはわかるけど」

「それだけの情報では流石に特定は難しいな」


 グレイ様はメイジュル様達の再教育を考えてるけど、攻略対象の性格、矯正出来るのかなぁ?

 こういうのって、なぜかお約束的に無理だったり、矯正されたはずなのに、ヒロインに会った瞬間に戻ったりするよね。

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