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嫌味ぐらい聞き流す

 王立学院に通いながらも、週に二日のお休みのうち一日はグレイ様とのお茶会に当てられ、その後はわたくしの前世知識を活用した事業の話し合いが状況確認で終わる。

 残りの休日も、お茶会や勉強に費やされてしまうので、実質休みなどない。

 これってどんなブラック企業だ?

 でも、リアン達も似たような状況という事なので、王族や上位貴族というものは、基本的にハードな子供時代をおくっているのかもしれない。

 まっとうに教育を受けるのであればな!

 入学してからしばらく経つけど、第二王子のメイジュル様は予想に違わず授業を真面目に受けない。それどころか教室に姿を現さない時すらある。

 ルーカス様は真面目に授業を受けているものの、人を見下す態度が見て取れ、他の子が少しでも自分に劣っているとわかると鼻で笑う姿を何度も目撃している。

 ラッセル様は、授業はまあまあ受けているのだが、自分はいずれ父のような騎士になると言って、授業よりも剣の訓練を熱心にやっており、力試しと言って身分の低い子息に無理やり剣の相手をさせている。

 こんな奴らを攻略しないといけないとか、ヒロインも気の毒だな。

 せめてスマホアプリ版ならいいんだけど、パソコン版だとハッピーエンドでもろくなことにならんぞ。


「ツェツゥーリア様は、陛下の覚えも良いとお聞きしましたが、本当ですか?」

「ええ、陛下が手掛けている事業をわたくしの家の領地で試していた縁がありまして、親しくさせてもらっています」


 リアン主催のお茶会には、同じクラスの令嬢が幾人か招待されており、やっと同じクラスの令嬢全てとの挨拶が終わった。

 面倒だからまとめて招待したいというリアンの意見に、わたくし達も賛成だったけど、他の学年の令嬢を誘わないというわけにもいかず、そうなると人数の関係でクラスの令嬢も数人ずつしか招待出来なかった。

 先に招待された令嬢は、まだ招待されていなかった令嬢に自慢気に話したりしているのを見ていたから、これでやっと自慢大会も終わる。


「メイベリアン王女様とも仲がよろしいですよね。噂では、以前から交流があったとか」

「ええ、陛下が同じ年の気心の知れた友人が居た方がいいだろうと、ご配慮してくださったのです」

「けれど、いくら陛下がお優しいとはいえ、あまり王宮に出入りするのは」

「そうですわね。陛下にあまりよろしくない噂が出来てしまっては、ツェツゥーリア様もお困りでしょう?」

「辺境にいらっしゃったので、王都の噂に詳しくないかもしれませんが、王都では色々と、ねぇ」


 同じテーブルの令嬢達が(年上もいるよ)、やんわりと陛下にロリコンの噂がある事と、わたくしに身の程をわきまえてグレイ様に近づくなと言ってきている。

 別に、わたくしはそれでもいいんだけど、グレイ様が週に一度は顔を見せに来いって言ってきているからね。

 さりげなく、グレイ様にもらった扇子を広げて口元を隠して、困ったような声を出す。


「わたくしも陛下には度々、後宮に居る方々を大切になさってくださいと申し上げているのです。けれど、陛下が無聊を慰めるためにわたくしの顔を見たいとおっしゃるのです」


 ちらりとグレイ様専用の紋を見せつけるようにしてからそっと撫でる。


「陛下のお願いをお断りするなんて、そんな恐れ多い事は出来ませんので、わたくしは陛下の召集に応じております」


 文句があるならグレイ様に言え、と暗に言うと令嬢達が口ごもる。

 わたくしに文句を言うことは出来ても、流石にグレイ様に言う事は出来ないよね。


「確かにわたくしは辺境領に住んでおりましたので、王都での噂にはあまり馴染みはありませんでしたが、それでも王宮にお邪魔していると耳には自然と入って来ましたよ」

「そうですか」

「陛下は、今でも貴族にはびこる不正を正そうとしているそうです。私利私欲に溺れ、民を顧みない貴族にはそれ相応の報いが必要だとおっしゃっていました」


 わたくしがそう言うと、幾人かの令嬢が気まずそうに視線を逸らす。

 以前処罰を食らわなくっても、今も私腹を肥やし、ドレスやら装飾品を買いあさったり、使用人を奴隷のように扱ったり、平民は金を巻き上げるための道具で人間じゃないとか思ってる貴族は居るからね。

 長子に継承権がある関係上、長子ばかりを可愛がり、次の子供の養育に関しては放置なんて話も聞く。

 もしくは、家の為に有利な結婚相手を見つけることが出来るようにしろと洗脳されたりね。

 グレイ様もそんな状況を憂いているらしいけど、流石に各家の内部事情にまでそこまで切り込めないみたい。

 宰相閣下は、自分は立派だけど奥さんに子供の養育を任せっきりだったせいか、子供の教育に失敗しているっぽいよね。


「メイベリアン王女様、それはあんまりではありませんか!」


 不意に聞こえて来た甲高い声に、何事かと視線が集まる。

 そこにはリアンが座る席があって、同席していた令嬢が声を上げたみたい。

 ドレスから見て、今日のお茶会参加者の最高年齢かな?

 この世界のドレス、年齢が上がれば上がるほど肌の露出度が増えるんだよ。

 一定の年齢になるとか事情があれば布面積が増えるけど、前世の常識からすると、中世を舞台にしているんだったらもっとドレスにもこだわれよ。エロイベントの為にこんなドレスにしているだろう、とツッコミを入れたくなって仕方がない。

 ともあれ、淑女教育を受けている令嬢があんな風に声を荒げるなんてよっぽどだ。


「妾が何か間違ったことを言ったか? そなたの家が、そなたの姉を蔑ろにしているというのは有名な話じゃ。なんでも、既に高齢の裕福な男爵家の後妻にする事が決まっているそうじゃな」

「そ、それは……姉が今後苦労しないようにと、両親が気を使ったのです」

「そなたは高級なドレスに身を包み、高価な装飾品を身に着け、婚約相手も元は姉の婚約者である伯爵家の嫡男だと聞く。姉には、最低限の衣類や装飾品しか与えていないと言うのにな。姉の婚約者を妹に挿げ替えるようなそなたの家が貴族に相応しくないと言って、何が間違っているのじゃ?」


 テンプレな小説に出てくるような貴族だな。


「あ、姉は不美人なので、彼が嫌がったのです。それに、あのような姉には高級なドレスも装飾品も似合いません」

「実の姉に向かってそのような物言い、気品ある貴族の令嬢とは言えぬな」

「姉はっあの人は、父がメイドに手を出して産ませた子供です。両親の恩情で家にいるような人なのですよ」

「それであっても、正式に貴族籍のある令嬢。蔑ろにする理由にはならぬ。それに、先ほどは不美人と言っていたが、噂ではろくに化粧もさせてもらえないと聞いている」


 十二歳からあの素材を殺す化粧を始めるんだよね、基本。

 それまでには化粧品を開発しておかなくちゃ。


「そなたの伯爵家では、化粧品も満足に買えぬのか?」

「そのようなことはありません」

「そうじゃろうな。そなたには随分大金をつぎ込んでいるようじゃ」


 ちらり、とリアンが声を荒げる令嬢の首元を見る。

 今日のお茶会に気合を入れているのか、十歳ぐらいなのに、首には大ぶりの宝石のついたネックレスがある。

 素直に金かかってそう。


「家庭内で扱いの差が生まれてしまう事は、兄上も気にかけているようじゃ」


 リアンの言葉に、声を荒げていた令嬢が青ざめる。

 実際に手出しはされないだろうけど、学院卒業後のデビュタントで粗末なドレスや装飾品を身に着けていたり、そもそもデビュタントすらさせずに嫁がせたとなれば、とリアンは忠告しているのだ。

 あの令嬢の家はリアンの忠告がなければ、多分そんな扱いをしたかもしれない。いや、忠告も所詮は子供の言う事と無視するかもしれない。


「妾も、兄上にお会いする時は、学院での噂話に興じてしまうかもしれぬの」

「きっ、気分が悪くなりましたので、これで帰らせていただきます」


 顔色を悪くしたまま、大声を出していた令嬢が椅子から立ち上がり、マナー違反にならない速度で足早にお茶会の会場から出て行く。


「あのように、王族の方々も貴族の動向には興味があるようです」


 わたくしがぽつりとそう言うと、同じテーブルの幾人かの令嬢は微妙な顔をして、震える手で紅茶の入ったカップを持ち上げ口をつけた。

 それにしても、子供の扱いの差については、王族も似たようなものだと思うんだけどな。

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