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遺伝だと思われてた

 十六歳の誕生日を前に、異例の事になるけれどもナティ姉様以外の家族が揃う事になってしまった。

 なんでナティ姉様が来ないのかって? またご懐妊なさったからだよ!

 お兄様と仲がいいのは喜ばしいけど、折角ならわたくしの誕生日を一緒に祝って欲しかったわ。

 でもご懐妊で今回はつわりもひどいそうだから無理はいけないわよね。

 それで、家族が揃うっていう話なんだけど、お父様と兄達はもちろんの事、ここには何と初めて会う事になった父方のお爺様とお婆様がいる。

 あ、母方のお爺様とお婆様は流行り病でもうお亡くなりになっているのよ、もともとお二人とも体が丈夫ではなかったらしいわ。

 お母様の件と併せて考えると、体力と魔力がうまくバランスが取れていなかった可能性があるわね。

 あ、魔力が多すぎて病弱になるっていうのはレポートにまとめて『塔』に報告したわ。

 教師の目がギラリと光ったのにはちょっと引いたけど、これで少しでも子供の死亡率とか原因不明の死亡率が減るといいわね。

 今までも交流はなくても母方の実家からは豪華な誕生日プレゼントは貰ってたんだけど、義理だと思ってたのがお母様を思い出して辛いから会えないっていう理由だって知ってからは微笑ましく思えたわ。


「それにしても、シルティアナが女児を産んでいたとは、本当に驚いたな。息子二人を産んだ事で役目も済んだと思って諸国漫遊に出たが、その後も励むとは、嫁として素晴らしい」

「しかも、命がけで娘を守るなんて母親としても立派ですわね」


 あ、お母様がわたくしの魔力を封印していた事はちゃんとご報告しているよ。

 お父様達だってわたくしを産んだせいでお母様が亡くなったとは思っていないけど、それでもちゃんとした死因は知っていた方がいいもんね。


「それにやんごとなき方々に見初められるなんて、本当に自慢ですわ。それに何より、こんなに可愛らしいなんて、今までの成長を見る事が出来なかったのが惜しいですわね」

「確かに、しかしながら儂らが居ないからこそ羽を伸ばしたケェツェルが新しく子供を作ったとも考えられる」

「なるほど」

「いや、なるほどじゃありませんよ母上」


 お父様が額に手を当ててため息を吐き出した。

 久しぶりに諸国漫遊の旅から帰ってくるのはいいけど、領地の屋敷に帰ってすぐにわたくしの存在を知ると、会いに行く! と言い出して今に至るんだけど、それがたまたまわたくしの誕生日付近だったから、どうせなら誕生日パーティーにも参加すると言って王都の屋敷に滞在、お爺様とお婆様が何をしでかすかわからないからお父様達も来たっていうわけなのよ。

 領地も落ち着いているし、数週間なら大丈夫だって判断したんだって。

 ナティ姉様がつわりで苦しんでるのに、傍に居て支えないでいいのかって聞いたら、逆につわりで苦しいから近寄るなって睨まれたらしいよ。

 ロブ兄様、哀れなり。


「それにしても、ツェツィの誕生日プレゼントはやはりあれだな」

「アレとは? 変な物を娘に渡さないでくださいね?」

「何を言う。とっておきの一品だぞ」


 お爺様がエッヘンと胸を張るけど、その態度がお父様の不安を増長するのか、お父様は再度深くため息を吐き出した。


「わたくしからもちゃんとプレゼントを差し上げますからね。期待していて頂戴?」

「えっと、いいのですか?」

「ツェツィ」

「は、はい」

「先ほど、敬語は止めるように言ったはずだぞ」

「あ……わ、分かったわ」

「うむ」

 お父様達に敬語なしで話しているのを見て、ずるいって言って敬語を止めさせたけど、お爺様とお婆様って有名人なのにいいのかしら?

 冒険者ギルドの長を任せているサンマルジュ様なんて、お爺様が帰ってきていると聞いて真っ先に会いに来て剣の稽古をつけてもらったわよ。

 ぼろ負けだったけど、サンマルジュ様が!

 怪我のせいだけじゃないわ、お爺様未だに現役だわ、うん。

 お婆様の方も、教師が顔を出して和やかに話していたし、わたくしの祖父母ながら怖いわ、怖すぎるわ!


「しかし、風の噂は聞いていたが国王が代わり、あのこわっぱが新しく国王になり、古い慣習が残っているこの国で色々改革をしているのはいいとして、儂の大切な孫娘を正妃に考えているとはの」


 いや、ついこの間まで存在すら知らなかったくせに大切なとか言っちゃう? 言っちゃうの?


「しかも、幼少期から手を出しておいて未だに仮婚約すらしていないとは、なんとも情けない」

「手は出されて…………いないよ?」


 王太后様が覚醒するまで怪しかったけどセーフっていう事にしておこう、面倒な事になりそうだし。


「何を言う。儂が集めた情報では、王宮に勤める者の間ではツェツィが正妃になる事は決定事項。もうすでにそのように様々な事が動いているそうではないか。既に国王夫婦の寝室と正妃の部屋はツェツィ好みに整えられていると聞くぞ」

「そうなの!?」


 いや、どこからの情報だ? 誰に聞いた?


「わたくしも聞きました。ツェツィの生み出す様々な提案により、王都は今までにないほどに発展しており、反対していた邪魔な愚か者はグレイバール陛下により排除済み、あとは後宮に押し込めている愚かな雌猫を排除すれば万全だと」


 お婆様も!? 何者なの? お二人ともずっと王都に居なかったのにどこからそんな情報を手に入れているの? その情報網をわたくしにくれ!


「そこでだ、儂は思うのだ」

「何をですか」

「この国の貴族が成人と認められるのは学院を卒業してからだが、他国では十六歳を成人と認める国も多い。もちろん、デビュタントを済ませる年という意味でだぞ」

「それが何か?」

「まだわからんのか? ツェツィの十六歳の誕生日に婚約発表をしてしまえと言っているのだ」

「そんな事をしてツェツィに何かあったらどうするのですか!」

「やんごとなきお方の加護があるのであろう? 何の問題がある」

「お爺様、婚約しているとわたくしが狙われて、加護のせいで相手方がバッタバッタと死んでいって、わたくしの周囲に死体の山が出来そうだから、それはちょっと……」

「ふむ、まだルシマード公爵家がのさばっているのが問題なのか。あの家は昔から自分が甘い汁を吸うためなら何でもするからな」


 お爺様は顎に手を当てて何かを考えたけれども、しばらくしてわたくしをじっと見てくる。


「ツェツィはやんごとなきお方に守護者を付けてもらっているのだったな」

「ええ、ヴェルとルジャがいるわ」

「では話は簡単だ。それの加護を受けたと大々的に発表すればいい」

「そんな事をしたら、周辺諸国が黙っていないと思うわ」

「案ずるな、周辺諸国の弱みの十や二十ぐらい握っている。儂のかわいい孫に手を出させたりはせんよ」


 貴方達は諸国漫遊して何をしていたんですかね!?


「その気になれば、国同士を戦争させるも停戦和解させるも、儂と妻の思うままじゃ」


 こえーよ。


「ふふ、ツェツィ。国として後ろめたい事があるのはもちろん、個人としても人に知られたくない恥ずかしい事なんて、生きていれば山のようにある物なのですよ。特に見栄っ張りな愚か者達にはね」


 お婆様、穏やかな笑顔でそう言うのが一番怖い気がするのはなんでだろうね?

 ん? それでいったら。


「お爺様達はルシマード公爵家の弱みは握ってないの?」

「あるぞ」

「じゃあ、それを使って黙らせる事が出来るんじゃない?」

「してもいいのだがな、今の状態であの家を一気につぶすと恐らくこわっぱへの負担が大きい」

「今でも十分迷惑しているんだけど」

「そういう意味ではない。主家をつぶしたら系列の家も連座だからな。むしろ実行犯は系列の家だ、実刑は免れない。つまりは貴族の二十%が一気にいなくなる。それに伴い領地も王家直轄になるというわけだ」

「やっと減って来たのに!?」

「そうなのですよ。グレイバール陛下は貴族平民問わず実力のある方を召し上げているようですけれど、領地経営となると専門的な知識が必要になりますからね、一気に取り上げるとなると国に負担がかかってしまうのです。そして、それはすなわち、正妃になるツェツィへの負担にもなります」

「うへぇ」

「まあ、案ずる事はない。儂らも十分に楽しんで来たからな。余生は孫の支援に費やそう」

「父上?」

「そうですね。孫娘の誕生には立ち会えませんでしたが、ひ孫の誕生には立ち会いたいものです」

「母上?」

「「何よりあのクソ公爵にほえ面かかせたいからの(ですし)」」


 にっこり言うお爺様とお婆様に、わたくし達は顔を見合わせる事になってしまった。

 と、とりあえずお爺様とお婆様のお部屋を移動した方がいいのかしら?

 急に来たから今は客室に住んでもらっているんだけど、このままこっちに住むんだったらちゃんとしたお部屋がいいわよね?


「ふ、冒険者ギルドの小僧共を鍛えるのも、武官のガキを鍛えるのもいいな。儂が剣聖と呼ばれていた事を思い出させてやろう」

「わたくしは、知り合いとちょっと色々遊ぶのも楽しそうです。知らない間に領地だけでなく王都にも様々な物が出回っていますからね」


 おかしい、お父様は真面目人なのに、その両親が規格外だ。

 …………まさか、わたくしが今までいろんな事をしでかして、フォローにグレイ様が入っていたとはいえお目こぼしされていたのって、この二人の孫なら仕方がないって思われたんじゃないの!?


「それで、ツェツィの婚約の件だが、儂らだけで決めるわけには流石にいかぬな」

「そうですよ。まずは陛下に確認しなければいけませんよ父上」

「そうだな。だからとりあえず行こうか」

「どこにです!?」

「王宮だが、問題があるか?」

「あります! どこの世界に事前連絡もなく王宮に行く非常識がっここにいたぁ!」

「お父様、落ち着いてっ」

「と、とりあえず今日は駄目です。陛下もお忙しいんです。訪問のお伺いを出しますから、どうか大人しくしてくださいお願いします」

「ふむ、そうか……ちっ」


 舌打ち!? 舌打ちした!?


「旦那様、あまり息子を困らせてはいけませんよ」

「母上……」

「とりあえず、ツェツィの誕生日パーティー兼婚約発表の場をどれだけ盛り上げるか計画しましょう」

「母上ぇっ!」


 間違いないわ、わたくしの非常識行動が寛容に受け止められているのって、この二人が原因だわ。

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― 新着の感想 ―
[一言] や、マジでヤバいわ…この祖父母(笑)
[一言] 祖父母が帰って来たことに一番戦々恐々しているのはルシマード派閥でしょうね。
[一言] ツェツィって周囲からは祖父母に似ていると思われていそうですね。
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