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下らない嫌がらせ

 社交シーズンが終わって学院が再開すると、リアンの元には沢山のお祝いの言葉が届けられた。

 あの誕生日パーティーに参加出来なかった子女も沢山いるからね。

 向こうから声をかけることが出来る人は留学生の王女様達ぐらいだから、ほとんどがリアンから声をかけることになるか、わたくし達が仲介で立つかだね。

 流石にお祝いの品物はチェックしないといけないけど、お祝いの言葉に関してはリアンは基本的に素直に喜んで受け入れているみたい。

 中にはメイジュル様みたいに馬鹿にしてくる人もいるけど、リアンの婚約者は商会ギルドの長だって分かってないのかなぁ?

 事業商売をするには商会ギルドの承認が必要になるっていうのに、それを馬鹿にするとか、自分で首を絞めに行っているとしか思えないわ。


「メイベリアンお姉様のご婚約にケチをつけるなんて、この国には優秀な方も多いのに、やはり残念な頭の方ってどこにでもいらっしゃいますのね」

「シェルティナ様っ」


 昼食を終えて教室に戻る途中に聞こえてきた声に、わたくし達が足を止めるとより鮮明に声が聞こえてくる。


「メイベリアンお姉様とハンジュウェル様のご婚約は、王命。すなわちグレイバール陛下がお決めになった事です。それに異議があるのだとすれば、それはもちろん責任を持って発言なさっていますのよね?」

「それはっ」

「まさか、誰にも聞かれていなければ何を言っても大丈夫だなんて、学院という公共の場で許されると思ってはおりませんよね?」

「そんな事は思っていませんっ」

「でしたら、先ほどの発言は何です? メイベリアンお姉様はもう嫁の貰い手が無くなったから、親友であるツェツゥーリア様にお願いしてお兄様に貰ってもらったなどとおっしゃっていましたよね。しかも、ツェツゥーリア様に甘いグレイバール陛下まで巻き込んで無理やりありもしない業績を称えて爵位を与えたともおっしゃっていましたが、間違いありませんね?」

「そこまでは言っていません!」

「あら、では何をおっしゃったのかしら? 生憎、風に乗って聞こえて来た声でしたので、聞き違いがあったかもしれません。言い直していただけますか?」


 シェルティナ様の言葉に、多分リアンの悪口を言っていたであろう令嬢達は視線を交わし合って、誰も口を開かずに下を向いた。


「まあ、どうしましたの? 遠慮する事はありませんよ。随分楽しそうに話していたじゃありませんか。楽しいお話なのでしょう? ぜひ混ぜて欲しいものです。さぁ、どうぞお話になって? 尊敬するメイベリアンお姉様のお話なのですもの、とても興味がありますのよ」


 ニコニコと責め立てるシェルティナ様の前では、真っ青な顔で俯いて体を震わせている令嬢達。

 まあ、助ける義理はないんだけどね。

 それに、責め立てられている令嬢達って、メイジュル様に侍ってる頭の軽いお花畑の令嬢ばっかりだし、どっちかって言うと関わり合いになりたくないんだよね。

 リアンも同じ気持ちなのか、自分の話が出ているっていうのに、動く気配がないし。

 どうするんだろう、とリアンを見るとしっかり目が合って微笑まれ、くるりと方向を変えて歩き出した。

 あ、見なかった事にするのね。了解っと。

 わたくし達もリアンの後を付いて行って、ちょっと遠回りになるけど教室に到着した。

 わたくし達が入った瞬間、ちょっとだけ視線を集めるから教室内が静かになるのはいつもの事で、通常ならすぐに元の空気に戻るのだけれども、今日はチラチラとこちらを窺うような視線を感じて、内心不思議に思いながらわたくし達は自分達の席に近づいて行って、お付きのメイドにすっと視界を遮られた。


「すぐに片づけますのでお待ちください」


 その言葉と同時に洗浄の呪文が唱えられ、ふわっと暖かい風が舞ったような感じがすると、すっとメイドがどいてくれた。

 何かされていたのかな?

 四人で視線を交わしたけれども、特に表立った被害がないのならと騒がないでおこうと目で頷いて、たわいのないおしゃべりをしていると、ガヤガヤと大声でメイジュル様達が戻って来て、わたくし達を見るとニヤニヤと笑いを向けて来た。

 絡んでくるなよ。必要以上に接触しないって契約してるだろうが。

 無視して話を続けていると、メイジュル様達が何が気に入らないのかニヤニヤ顔を止めて、少し移動してわたくし達の机を見るとあからさまに舌打ちをした。

 お 前 ら が 主 犯 か ?

 まあ、何をしたのかは知らないけどね。どうせろくでもない事でしょ。

 さて、次の授業はっと……。


◇ ◇ ◇


Side メイベリアン


 ふん、愚弟がまたなんぞ企んだようじゃな。

 何をしようとも、妾とツェツィに付けられているメイドは王家が所有する影、クロエはハウフーン公爵が所有する影、リーチェだってオズワルド侯爵家が所有する影がついているのじゃから、メイジュル如きが何かを企んでも意味がないと何ゆえに気が付かぬのであろうな。

 まあ、まだ公表はされておらぬが仮婚約を結んだ相手に浮かれているのじゃろう。

 妾とて兄上から話を聞いた時は正気かと思ったが、リーチェが以前話していた物と合わせれば辻褄は合うの。

 光属性を持った庶子を迎えたとなれば、ブロッサム伯爵家、ひいてはその主家であるルシマード公爵家が調子に乗るのも仕方がない。

 メイジュルもちょうど空きが出た所であるし、引き込むのにこれほどいい手綱は無いからのう。

 アカリア=ブロッサム、妾の調べた限りではどこにでもいるような町娘で、今は必死に貴族教育に勤しんでいる最中。母親の死を悲しむ余裕もないとはのう。

 年齢が上がって庶子として引き取られる者には、ひどい扱いを受ける者も居る事を考えると、アカリアの環境はかなり良い物である事に間違いはない。

 じゃが、僅か一年足らずで王立学院に通うマナーを身に付けるというのは、厳しいの。

 出来るだけ手を貸したいとは思うが、メイジュルの婚約者でブロッサム伯爵家の娘となるとそういうわけにはいかぬな。

 妾の母上の実家は貴族主義派であるがゆえに、妾が実力主義派になっても母上はそこまで騒いではいないが、貴族至上主義派であるブロッサム伯爵家にこちらから関わるとなるとルシマード公爵家が煩そうじゃ。

 兄上も珍しく歯切れの悪いようにあまり関わるなと言っておったし、何かあるのじゃろうか?

 ……以前から思っていたツェツィと兄上が隠している事に関係しているのかの?

 ツェツィは聖獣と魔獣の加護を受けている身、この国に光属性を持つ娘が現れると予言されていても不思議はない。

 実際に他国には先読みが出来る人間は居るのじゃしな。

 先読みとは、いくつもある未来の可能性の中から最も『起きる可能性が高い未来』を読むという。

 じゃから、ほんの少しのかけ違いでその未来はいつでも変わってしまうとも聞くし、先読みが絶対ではない事は周知のことじゃ。

 じゃから兄上やツェツィは光属性を持つ娘が現れる事を言わなかったのじゃろうか?

 一歩間違えれば母親と同じように馬車の事故で大怪我を負って亡くなっていた可能性もあったのかもしれぬ。

 この事を問い詰めても良いが、兄上はともかく、ああ見えて肝心な所ではぐらかしてくるツェツィが話すであろうか?

 難しいの。

 正妃になるべく教育を受けているツェツィは、本人には自覚がないであろうが王族の深い暗部の知識も落とし込まれておる。

 本来なら嫌悪するような情報もあるであろうが、ケロリとしているあたり、精神力が尋常ではなくタフなのじゃろう。

 そして、ツェツィの行動を見ている限り、かねてから兄上が考案してデュランバル辺境侯爵領で行っているという事業の本当の考案主はツェツィで間違いないじゃろうな。

 兄上は優秀であるが、『見た事も聞いた事もない』物をあのように形にする事は流石に出来ぬはずじゃ。

 それでいくと、ツェツィは何処からその情報を手に入れているのかという所に辿り着くのじゃが、諸国漫遊している祖父母からの手紙で知り実践しようとしたと考えれば、まだ理解は出来る。

 それでも、齢五歳の子供がする事ではないのじゃがな。

 ハンジュウェルはツェツィを全面的にバックアップしている所を見ると、ツェツィの事情をちゃんと知っているのじゃろう。

 そちらから探ってもいいが、藪をつついて蛇を出すのもなんじゃしな。

 どのような秘密があろうとも、妾がツェツィを嫌いになる事はないのじゃが、打ち明けてもらえぬというのも、もどかしいものじゃ。

 クロエは話したくないのなら無理に聞く必要はないと言って居るし、リーチェも必要なら話してくれると言って居る。

 妾も、そこまで無理に聞くつもりはないのじゃが、最近のツェツィの様子が気になるのう。

 気が抜けた、かと思うと妙に緊張しているような空気を纏って居る。

 今までのツェツィであれば、いつもどこか張り詰めたような空気があったのじゃが、今はそれが変化しておる。

 兄上が何かしたのかとも思ったが、兄上の方の雰囲気は変わっておらぬし、ここ最近で変わったことと言えばやはりメイジュルの新しい婚約者候補になる。

 ふむ、アカリア=ブロッサムか。もう少し探りを入れてみるのもいいかもしれぬな。

 何もなく聖女を目指すのならばそれで良し、力を悪用するようであれば本人すら気が付かぬように消せば良し。


「メイベリアンお姉様」

「おや、シェルティナ様。どうかしたのかのう」

「面白い噂話がありましたので、お耳に入れようと思いましたの」

「ほう?」


 ツェツィ達とたわいもない会話をして放課後の時間をつぶしている最中にそうして告げられた噂話に、妾は扇子を広げて口元を隠し、口の端を持ち上げる。

 デュランバル辺境侯爵家が国家転覆を狙っているとは、これはまた随分と面白い噂話じゃな。

 そのような事をしなくとも、デュランバル辺境侯爵家があの領地から親族全員引き上げてしまえば、この国は大混乱になるというのに、わざわざ国家転覆をのう。

 噂の出どころも聞いて、妾は礼にシェルティナ様の頬を撫でると、何事も無かったようにツェツィ達の所に顔を向ける。


「どうかしましたか?」

「いや、面白い噂話を教えてもらったのじゃ」

「どのような物でして?」

「ふふ、また今度教える機会があったらの」


 妾の言葉に、ツェツィ達が肩を竦める。

 妾達は親友ではあるが、同時に高位貴族の人間でもあり、その後ろには互いに隠しておかなければいけない物を背負っているのも事実。

 話せない事があるという事を理解したうえで、妾達は互いに裏切らずに協力し合うと『知って』いる。

 一番秘密を抱えていそうなのはツェツィではあるが、兄上の正妃になるのじゃし、妾達に話せない秘密は今後もどんどん増えて行くであろう。

 悔しくはあるが、王族の、正妃のあれやこれやについては、王太后がよいはけ口になるであろうし、話せる部分では妾達が受け入れる。

 それでもダメな場合は兄上の出番じゃな。

 ツェツィを愛しているのじゃから、愛する者の秘密や苦悩を受け止められぬなど、妾は親友として、未来の義姉妹としても許さぬよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] リアンも色々考えて大変だなぁ〜。 早く色々教えてあげて欲しいぜ(笑)
[気になる点] >先読みとは、いくつもある未来の可能性の中から最も『起きる【かのせい】が高い未来』を読むという。 →あえて平仮名表記ならこのままで。 でなければ『可能性』?(^^; ご確認下さいませ。…
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