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リアンの婚約発表(前編)

 リアンの誕生日パーティー当日、わたくし達は家族揃って王宮にある誕生日会場に向かう。

 平民であるからと言って遠慮していたハン兄様も、今年は堂々と参加だ、むしろ主役の一人だ。

 入場してすぐにリアンがわたくし達の方に近づいてくるのはいつもの事なので誰も気にしないが、問題なのは今までとは違う立ち位置だった。

 これまでだったらわたくしのすぐ横か真正面を陣取っていたのにも関わらず、今日に限ってはハン兄様の横でニコニコとわたくし達と会話をしているのだ。

 察しがいい人間はこの状態でハン兄様の置かれている立場を理解するけれども、察しが悪い人間はどうして今年はあんな場所に? と首を傾げる。

 ちなみに、わたくし達が流している噂はかなり広まっている。

 そりゃそうだよね、第三王女であるリアンの嫁ぎ先の話なんだもん、誰しもが興味を持つわ。

 もっとも、今日の主役であるリアンがずっとわたくし達とだけ話しているわけにもいかないから、リアンは『ハン兄様を連れて』離れて行く。

 ハン兄様も乗り気でしっかりエスコートしていて、婚約の発表が無くてもちゃんと見れば恋人同士に見えるし、今日婚約者の発表があるって噂があるから、その相手がハン兄様なんじゃないかって分かるよね。

 ここでリアンが馬鹿で、グレイ様が発表する婚約をやっぱりなしにしてとか言うなら別だけど、ないからな。

 わたくしはクロエやリーチェを見つけて挨拶をして三人で会場内を見渡すと、問題児を発見してため息を吐き出したくなった。

 まあ、一応王族だし? 異母姉の誕生日だから居るのはおかしくないし、側近を連れているのもまあありえない話じゃない。

 そもそも、この会場に居るっていう事はグレイ様が許可を出しているっていう事だから、警戒する事は出来ても、何もしていない現状では追い出す事は出来ないね。

 パートナー不要となっているパーティーなので、メイジュル様達も今日はパートナーを連れていないけど、気が付いてないんだろうなぁ、同年代の子女達から距離を置かれている事。

 メイジュル様達に普段すり寄っている令嬢も、グレイ様が居るからか近づこうとしてないし。

 グレイ様に遠慮しないで、いつも通りにべったりしてくれてもいいのよ? その方がわたくし達だって動きやすいもの。


「マルガリーチェ」

「あら、パイモンド。どうかしましたか?」

「女官長が楽団の演出家から今日の演目で確認したい事があると言われたそうだ」

「まあ、あんなに打ち合わせをしたというのに、どうしたのでしょう?」

「分からないけれど、時間も限られているから急いだ方がいいだろう」

「そうですね。ツェツィ、クロエ、一度失礼します」

「わかりましたわ」

「いってらっしゃい」


 パイモンド様にエスコートをされながら離れて行くリーチェを見送って、わたくし達は何があったんだろうと視線を合わせた。

 メイド長と女官長が今日の為に寝る間を惜しんで段取りを組んでいるにも関わらず、土壇場で何かあるというのはあまり考えたくない。

 今日は大切なリアンの婚約発表があるのだ。

 視線をメイジュル様達に戻したけれども、不審な動きはないし、特に近づいている人もいない。

 気にし過ぎなのかなぁ?


「クロエール様」

「マルドニア様、どうなさいました?」

「ヴェレット辺境伯がご挨拶をなさりたいと」

「あら、ご招待を受けていらしたのですね。あちらの家のご令嬢は確か来年から学院に入学するのでしたわね」

「はい、年齢的に交流は難しいもののせめてご挨拶をと」

「あら、ご令嬢本人がいらしているのでして?」

「いいえ、ご両親ですね」

「そう。分かりましたわ、ツェツィ、わたくしも参りますわね」

「ええ、いってらっしゃい。いじめては駄目ですよ?」

「そんな事しませんわ」


 クロエはそう言って笑いながらマルドニア様と一緒に離れて行く。

 さて、お父様は他の貴族とご挨拶中、ナティ姉様とロブ兄様も元御学友の所に行ってしまったし、一人になっちゃったわね。

 実の所、こういう状況に置かれる事が殆ど無いから、どうした物か。

 いや、護衛としてメイドは傍に居るけど壁の花になるかなぁ。

 そう考えつつ、会場内を見渡すと、いくつかのグループに分かれているのが見えて、各家の繋がりがこういう場所でもはっきりするし、婚約者が居ても居なくても人気の子女っていうのは分かるもんなんだなぁって改めて思う。

 今日の為にアンジュル商会が特別に作り出した、販売前のノンアルコールカクテルを飲みながら、じっと会場を見ていると近づいてくる人の気配がしてチラリと視線を向ける。


「ツェツゥーリア様、珍しくお一人ですね」

「マドレイル様、ごきげんよう。皆に振られてしまいました」

「すぐに戻って来ますよ。それまでの間、私が騎士代わりとなりましょう。聖獣の加護を受けている私が傍に居るのに手を出す不作法者はそういませんから」

「あら、わたくしはそういった不作法をする方々を知っていますよ」


 そう言ってメイジュル様達の方をチラリと見ると、マドレイル様も肩を竦めた。


「ジュンティル侯爵家は『たった一人』のお子様が学院を卒業するのと合わせて爵位と騎士団長の任を返上して王都から離れた領地で暮らすそうですね」

「そう聞いています。もう一人のお子様は完全に縁を切っているそうですし、親類とも順次縁切りをしているそうですよ」

「賢明な判断ですね。どうしてその聡明さがご子息に引き継がれなかったのか」

「気質でしょうか? けれども、縁を切ったお嬢様は今の所とても聡明だそうですよ」

「それは何よりです。宰相閣下の家も、ご長男が『病弱』で大変だそうですが、次男がしっかり者だと噂ですよね」

「今は気力で学院に通っているそうですが、『病弱』な方は家を継ぐのは難しいでしょうね」

「ええ、宰相閣下も病弱を治そうと一生懸命手を尽くしましたが、もう無理だとご判断なさったそうです」

「では、学院卒業後は静養を?」

「どうでしょう? 病弱であってもメイジュル様の側近ですから、『生涯』主従ともに居るのかもしれません」


 わたくしとマドレイル様がメイドや従僕がいるとはいえ二人で話しているのは珍しく、注目を浴びていると分かりながらもそう会話することで、噂の種をばらまいて行く。

 あくまでも二人で会話をしていただけだし、わたくし達は事実しか話していないので、それを聞いたこのパーティーに参加している人たちがどう解釈するのかはその人次第だよね。

 ただ、この会話を聞いてなおラッセル様とルーカス様に近づくうまみがあるって判断する家はないと思うな。

 ただ、問題はメイジュル様。

 未だにバックにルシマード公爵家があるし、恐らくだけど光属性を持っているヒロインとの婚約話を進めている最中だと思うんだよね。


「メイジュル様は、どうなんでしょうか?」

「とおっしゃいますと?」

「私は王宮の客室エリアに滞在しているので詳しくありませんが、部屋付きのメイドの話だと相変わらずご令嬢方と親しくしていると聞きます。学院での態度もありますしね」

「そうですね。次の婚約者を探そうにもメイジュル様ですので陛下も難しいと思っていらっしゃるようです」

「王族として、どこかには婿に入るべきなのでしょうが、まさかとは思いますがご自分の実績で爵位を賜る気なのでしょうか?」


 マドレイル様の言葉にわたくしは思わず苦笑してしまう。

 絶対メイジュル様の成績を知ってありえないって分かってて言ってるだろう。

 そんなたわいもない事を話していたら、お父様が戻って来たので、マドレイル様とは挨拶をしてお別れをした。

 段取り的に次はリアンとハン兄様の婚約発表なので、親族であるわたくし達は壇上の方に行かなくちゃいけないんだよね。

 わたくしとお父様が到着した時にはもうロブ兄様達が居たので、わたくしはお父様の腕から手を離してナティ姉様の隣に立った。

 お父様はロブ兄様の隣ね。

 段取り通りに自然と音楽が鳴り止み、グレイ様が注目を集めるように手を叩いた。


「皆、改めて本日は私の妹のメイベリアンの十六歳の誕生日を祝うパーティーに参加してくれて感謝する。先だって、メイベリアンが婚約破棄をして以降、次の婚約者が誰になるのかと気になっている者も多いと思う。今日はその発表もさせてもらおう」


 グレイ様の言葉に、壇上付近に並んで立っているわたくし達を見て、招待客の多くが「ああ」と納得したような顔をしたり、「そんな」と絶望したような顔をしている。

 そんな中、新しく音楽が流れ始めお色直しをしたリアンが会場に入って来て、その横にはハン兄様が居て、しっかりとハン兄様がエスコートして壇上の方にやってくる。

 お色直ししたリアンのドレスはハン兄様の着ているスーツとお揃いになるようにしているので、誰がどう見ても『婚約者』になるんだと分かる物だ。

 壇上に上がってグレイ様の隣に立った二人が会場を見る。


「第三王女メイベリアン=ジャンビュレングは、新しく伯爵位を得たハンジュウェル=デュランバルと婚約する事を、グレイバール=ジャンビュレングの名のもとに宣言する。これは王命であり、先だってのような王命違反は認めないものとする」


 グレイ様の言葉に、参加者に一瞬だけ緊張が走る。

 そうなんだよねぇ、貴族の婚約って全て国王であるグレイ様の許可、というか承認されるっていうわけで、それはすなわち国王が認めている物だという事。

 王命とまではいかないけど、一方的な破棄は国王の意思に背いたっていう事になる。

 今回、王命って強く宣言する事で、この婚約の邪魔をする場合は王命を破ったっていう事になる。


「妾は、仕事と家族はともかく、生涯ハンジュウェルにだけ心身を捧げることを、聖王に誓うのじゃ」

「僕も、仕事と家族はともかく、生涯メイベリアン様にだけ心身を捧げることを、聖王に誓います」


 二人の宣言に、会場内がザワリと揺れる。

 愛人を作らないから寄ってくんな粉かけてくんなって言ったようなものだからね。

 虎視眈々と狙ってた子女には大ダメージだよねぇ。

 会場内を見渡すけど、扇子を広げて顔を隠している令嬢や未亡人がわんさか、笑顔を浮かべてはいるものの、目はショックを隠し切れない子息がそれなりにってところか。

 まあ、あれだよ。

 アンジュル商会を経営しているハン兄様に近づいたら、自分を優遇して商品を回してもらえると思ってる人がいただろうから、実質それが無理になってショックを受けているって感じかな?

 あとは本気でハン兄様自身を狙っていたかだね。

 ハン兄様もイケメンだもん。

 リアンと並んで見劣りしないのは妹として鼻が高いわ!

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― 新着の感想 ―
[一言] さてさて…三人衆がどう出ますか…楽しみ!(笑)
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