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内緒話は広まるもの

 社交シーズンに入り、すぐさまグレイ様によって商会ギルドの長にハン兄様が就任した事、合わせてハン兄様に伯爵位を与えた事が発表された。

 事前に情報を掴んでいた貴族は問題なかったけど、寝耳に水の貴族は大混乱に陥ったみたい。

 そらそうよね、今までデュランバル辺境侯爵家の後ろ盾があるとはいえ、成人前は子供が経営している、成人後は所詮平民が経営していると馬鹿にしていたのに、いきなり伯爵位になっちゃうんだもん。

 文句というか、抗議は各所からもちろん出たわ。

 ただ、グレイ様が爵位を与えるにふさわしいという実績を示した事で、黙らざるを得なかったのよね。

 具体的には、この国への貢献度。

 アンジュル商会によって納められた税額は、そこら辺の貴族の数倍だもの、黙るしかないわ。

 実際問題、爵位が上であっても台所事情は厳しい家とかもあるし、逆に下位貴族であっても自分の家の事業をうまく回して潤っている所もある。

 実力主義派はもちろん、貴族主義派の方達からもハン兄様が授爵する事は歓迎されたんだって。

 実力があれば上り詰める事が出来る、功績をなせば平民になった家族が貴族になれるっていう所がやっぱりポイントね。

 ただ、ハン兄様は授爵はしたものの領地が与えられたわけではないので、あくまでもアンジュル商会をちゃんと運営していかないといけない。

 グレイ様は今後の業績次第では領地を与える事も考えたらしいんだけど、ハン兄様がリアンが領地を持って嫁入してくるからって断ったんだって。

 爵位を継ぐ子供にはリアンの領地を引き継がせるって言うわけみたい。

 ただし、アンジュル商会に関してはちゃんと商業の実力がある子に引き継がせるから、必ずしも自分の子供であるとは限らないって宣言したわ。

 流石ハン兄様、妥協を許さないわぁ。

 わたくし達はまだ成人していないので、大人の社交には参加していないけれども、お父様達から聞いた話によると、早速ハン兄様に取り入ろうとしている家というか、ご夫人やご令嬢がいるそうな。

 ご夫人はともかく、ご令嬢は自分の婚約者はどうしたっていう感じなんだけど、下位貴族のご令嬢は一気に上位貴族に上り詰めたハン兄様の愛人にでも滑り込めないか必死みたいだね。

 愛人とか、リアンが許すわけないじゃん?

 そんなわけで、わたくしに振られるお茶会の話題となると、当然ハン兄様に関係する事なわけだ。

 お茶会に参加しているご令嬢の中には婚約者がいない人もいるからある意味必死だよね。

 わたくしは、そういった質問には「兄が判断する事です」とか「わたくしから言う事では」とか誤魔化している。

 実力主義派の筆頭とも言えるようになってしまっている我が家だから、お父様達が王都に居なくても影響力は大きいし、王都に出てきている社交シーズンにもなるとその発言一つ一つで思わぬ憶測を呼ぶ事になるんだよね。

 あ、ちなみに可愛い甥っこは領地に居るよ。

 三日とはいえガタゴト馬車に揺られるのは可愛そうだからね、乳母と一緒にお留守番。

 いやぁ、わたくしも甥っ子には会いたいけど流石に無理だよねぇ。

 そこを言えば五歳で王都に来たわたくしもおかしいんだけど、わたくしの場合は例外だから。


「それにしても、ツェツゥーリア様はまだご婚約をなさっていないのですよね?」

「そうですね」

「我が家からも何度か打診させていただいておりますけれど、デュランバル辺境侯爵様がご納得なさらないと聞いております。優秀で陛下の覚えもめでたいツェツゥーリア様を妻に迎え入れる事が出来れば、我が家も安泰ですのに」

「ご冗談を。ミザレ様のお兄様はもうご婚約者がいますよね」

「ツェツゥーリア様を迎える事が出来るのでしたら、愛人にしても良いとお父様は言っているそうですわ。長く婚約者として尽力していた方を野に放るほどお父様も残酷ではありませんので」

「その場合、わたくしは仲睦まじいお二人を引き裂いた悪女ですね。そのようなものになりたくありません」

「それは……」

「それでしたらツェツゥーリア様、わたくしの兄は如何ですか?」

「カッチェ様のお兄様と言いますと?」

「第二騎士団の団長を務めている方の兄です。功績を認められ、子爵位を賜っております」

「まあ、ツェツゥーリア様の嫁ぎ先に子爵だなんて、あんまりでは?」

「何の功績も上げていない名ばかりの当主と仮面夫婦になるよりはましでしてよ」

「皆様はご自分の家の事ばかりですね。ツェツゥーリア様の事を全く考えていらっしゃらないようで。本来、娘の婚約や結婚は親が決める物。確かにこのような場で推薦するのは許容出来ますが、子供であるわたくし達が騒いでも仕方がありませんよ」

「まあ、エセルナ様はご自分が伯爵家の跡取りと婚約なさっているから余裕でいらっしゃいますのね」

「そう見えまして? ふふ、それでしたら未来の夫に恥をかかせずに済みそうです。それに、娘を大切にしているデュランバル辺境侯爵様がツェツゥーリア様の将来を考えていないわけがありません」


 いやぁ、今日もご令嬢達は元気だわぁ。

 大規模お茶会になって一度の参加人数が増えている事もあって、こういう話を振られるのも増えているけど、リアンの婚約発表が終わったらもっと増えそうだなぁ。

 なんせ、薔薇様って呼ばれている中で唯一婚約者がいないのがわたくしになるわけだし。

 暗黙の了解で、なんとなーくわたくしがグレイ様の後宮に入るんじゃないかっていう憶測は飛んでいるけど、あくまでも憶測なわけで、アンジュル商会の利益やデュランバル辺境侯爵家と縁を繋ぎたいっていう家はまだ諦めてないわけなんだよね。

 わたくしは個人領地も持っているし、後宮に入らなくても成人したら爵位を与えられる可能性が大いにあるっていうのも原因だね。

 クロエには愛人志願が既に入っているそうなんだけど、クロエ自身がそういった事を言ってくる人に絶対零度の視線を向けるから、同じ人が二度言う事はないらしい。

 クロエとマルドニア様の婚約発表後は、学院でもマルドニア様がクロエをさりげなくエスコートする機会は増えたし、物理的に二人の距離は縮まったよね。

 本人は無意識だそうで、指摘すると顔が赤くなるけど。

 クロエがいない隙に、マルドニア様にクロエをどう思っているのか、どうしたいのかって三人で問い詰めたら、ものすごく優しい真剣な表情で、

「お仕えして支えるべき至高の主であり、運命を捧げ共に生きる事を許していただいた愛する人です」って言われて、わたくし達は「お、おう」って納得するしかなかったわ。

 ちょーっと重いかな? とは思うけど、クロエってば抱え込むところがあるし、あのぐらいの重い愛じゃないとカバー出来ないのかもしれない。


「話は変わりますが、メイベリアン様の十六歳のお誕生日が近づいていますよね?」

「そうですね」


 急に変わった話に、わたくしは優雅にカップを持ち上げて中に入っているハーブティーを一口飲んで、音を立てずに元に戻す。


「いくら陛下が認めている方がいるとはいえ、王族が十六歳にもなって婚約者がいないなど問題ではありませんか?」

「問題ですか?」

「ええ、第一王女様と第二王女様は、同盟国との関係を強固な物にする為に、まだお若い時から留学してそのままご結婚なさいました。残っているメイベリアン様は国内貴族との関係を強固なものにする為に婚約すべきでしょう? けれども、今の状態ではそれも難しいかと」

「だから、今結ばれている婚約を無かった事にしてそこにリアンを入れた方がいいというのですか?」

「王族ですもの、そのぐらいはしていただきませんと」


 うーん。悪気はなさそうだけど、過激な発言だよなぁ。

 確かに、第一王女と第二王女が国外に嫁いだ事で、同盟関係はより強固な物になっているから、リアンは国内に嫁ぐっていうのが普通の考えだよね。

 そもそもがグレイ様の後ろ盾をはっきりさせるためにルーカス様と婚約していたわけなんだし。

 それが無くなった以上、ルーカス様以上にグレイ様のお役に立つ家と婚約をって考えるのは間違ってないのよ。

 ただ実際問題、宰相閣下の家以上にグレイ様の後ろ盾をはっきりさせる家ってなるとほぼないわけで、あったとしてもリアンが嫁入するには問題がありまくるわけだ。

 その点、新興貴族にはなってしまうけれども、血筋的な物と業績的な物がしっかりしているハン兄様に嫁ぐっていうのは『グレイ様の役に立つ』っていう面では問題が無い。

 あるとしたら、リアンを狙っていた家から不満が出る事と、我が家に権力が偏るって事ね。

 ちなみに、リアンが嫁いでくるのに一番難色を示したのがお父様だったりする。

 理由はさっきも言ったように我が家に権力が偏るから。

 ただでさえ『辺境侯爵』という特殊な爵位なのと、グレイ様と懇意にしているという状況、ゆくゆくはわたくしが正妃になるという事を鑑みて、分家になってしまうとはいえ、ハン兄様にリアンが嫁いでくる事で公爵家に並んでしまう権力を有してしまうって事になるわけだ。

 我が家だって、今まで王族を迎え入れたこともあるし、後宮に娘を召し上げられた事が無いって言うわけじゃないんだけど、こうも一気にってなると話が変わってくるのよね。

 ただ、我が家は恋愛結婚推奨の家なので、ハン兄様が義務ではなく自分の意志でリアンと結婚したいというのであれば反対は難しいの。

 結局の所、ハン兄様はあくまでも分家として扱うっていう事で、我が家自体の『現時点』での権力は変わらずっていう事で落ち着かせたみたい。

 問題の先送りとも言うけどね。


「リアンはルーカス様との婚約が無くなったばかり。けれども、陛下が認めた婚約者がいますので問題はないのではありませんか? ここだけの話、次の婚約者の発表は誕生日パーティーで行うと聞きました」

「まあ!」

「内緒ですよ」


 にっこりと笑って言うと、同じテーブルについている令嬢もにっこりと笑みを返してくれるけど、どれだけ広まるかなぁ。

 内緒だよって言って真剣に内緒にする人なんて少ないのよ。

 他言無用、他に話せば大問題に、家に誓って、とか言うのならまた話は変わってくるんだけどね。

 さてはて、リアンの誕生日パーティーが楽しみだわぁ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 先生の作品を拝見するのが朝一番の楽しみです。
[一言] 一悶着有りそうですね〜(笑)
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