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毎年の作業

 メイジュル様達が大きな行動をする事も無く迎えようとしている社交シーズン。

 わたくし達はいつものように四人でスケジュールや会場の調整、招待客の調整、そして招待状の手配やドレスや装飾品の準備をしていく。

 はぁ、慣れている作業とはいえやっぱり疲れるわ。


「ねえ、今度皆でマッサージ店に行こうよ」

「いいですね、ルィーナ通りにあるお店は化粧品店も併合していて、施術後にお化粧をし直してくれるそうですよ」

「いいですわね。メイドが直すのも悪くありませんが、たまには他の方がするのを見てメイドが学ぶのも良いでしょう」

「最近は何色が流行りなのじゃ?」

「青系統ですわね。アイラインで青を入れるのが流行りなのだそうですわ」

「へえ、アイラインに青かぁ。ちょっと前は赤だったのにねぇ」


 全員が手を止める事もなく話を続けて行く。

 分担しているとはいえ、作業量が多いのだ、ちょっとぐらいおしゃべりという気晴らしをしないとやってられない。


「それは、私がパトロンをしている役者がアイラインに青を入れて舞台に立った影響ですね。人気役者ですが、悪役という事で寒色系の冷たいイメージを纏って舞台に立ったのですが、逆に刺激的と人気が出たようです」

「悪役が人気出るとか、たまにあるよねぇ」

「そうですわね。その舞台のシナリオにもよりますけれども」

「あとは役者の力量ですねっと、ツェツィ、このお茶菓子なのですが招待客を考えますと続けて出されてしまう状態になりますね」

「まじで? どれどれ? ……あーほんとだ。かといって別の物にしても他の招待客で被りが出そうだねぇ」


 どうしようかな、この社交シーズンで被らないようにしている物で、とはいえこのお茶会で新作のお菓子を披露するにはメンバー的になぁ。


「変更してバノフィーパイにしようかなぁ」

「生クリームはこの季節にはあまり向かないと言っていませんでしたか?」

「うん、だから大きさを小さめにして、こっちのお菓子を多めに。バノフィーパイはもう切り分けて事前に真っ先に食べられるようにするの」

「なるほど、それなら問題はありませんね」

「日持ちはしないから持って帰るものじゃないしね」


 その後、いくつか変更点を話し合いながらも準備を進めて行く。

 招待客の入れ替えなどもあったし、この季節なので室内でのお茶会がメインになってしまうがゆえに、特にリアンが主催する物では会場の飾りつけがマンネリにならないようにしなければいけない。


「あ」

「「「ん?」」」

「そういえば竹がいい具合に育ってるのよね」

「あの王都の一角で育てている植物じゃな」

「タケノコなるものを使ったお料理は美味しいですわね」

「それがどうかしました?」

「たまには変わった飾りを楽しむのもいいと思うのよ」

「「「変わった飾り?」」」


 リアン達が首を傾げる中、わたくしは手元にある白紙の紙に七夕飾りをざっと書き出していく。白黒なのが残念だけどね。


「見たことが無いものですわね」

「絵では白黒だけど、色とりどりの折り紙で作るのよ」

「折り紙とは何ですか?」

「え、えーっと、このぐらいの大きさのものでね、こうして……こうしたり、……ここをこうして……こうで……こうすると、ほら!」


 わたくしは手近の紙を正方形に切って、簡単な鶴を折る。


「まあ! 鳥? になりましたわ!」

「これはすごいですね、ツェツィの器用な面を見る事が出来ました」

「ふむ、しかしこれだけでは飾りとしてインパクトに欠けるのではないかの?」


 リアンが首を傾げると、わたくしはそれに頷く。


「確かにこれ一つだったら、印象は薄いけど、色とりどりの物でいくつも作るのよ。それに、ここに描いたいろんな飾りを作って、竹に括り付けて飾り付けるの」

「ふむ、竹が折れてしまうのではないかの?」

「大丈夫よ、竹ってしなるし見た目以上に丈夫なのよ」

「そうですか。けれども大量にとなると人手が足りませんよ?」

「そうですわね。わたくし達だって暇ではありませんもの」

「そこでリアン、孤児院の子達に特別手当を出して作ってもらうっていうのはどう?」

「孤児院の子にですか?」

「うん」

「ツェツィ、その前段階の折り紙という物を作らなくてはいけませんわ」

「あ、そっかぁ」


 折り紙の作り方かぁ、流石に分からないぞ。

 和紙の作り方なら知ってるけど。とにかく、色のない紙に色を塗って行くのよね?

 幸い、水彩絵の具はあるから当面それを使うっていう感じかな?

 そのうち、折り紙用のちゃんとした染料の開発も考えないといけないよね。王太后様なら知ってるかな?

 和紙を染料で染めるっていうのもありか。でも、それをするには今からだと時間が微妙だな。

 わたくしがそんな感じに唸っていると、リアンの方の作業が終わったのか、肉じゃがの入ったお皿に手を伸ばして、早速食べ始めているのが見えた。


「こちらもこれで大丈夫ですわね、昨年よりもツェツィが主催するお茶会が増えていますが、大丈夫でして?」

「ん、大丈夫よ」

「お茶会に出すお料理はお菓子がメインなのは分かりますが、このおかゆも出すのは大丈夫なのですか?」

「お茶会と言えばお菓子っていうのが普通だけどね、リアンみたいに甘いのよりもしょっぱい系の食べ物が好きだっていう令嬢も居るみたいなのよ」

「それは、確かにそう思えるご令嬢もいますわね」

「それに、おかゆとか雑炊、お茶づけ関係のお店も出店する予定でしょ? 事前のお披露目っていう事にしよかなぁって」

「なるほど。見た目はリゾットに近い物もありますし、そこまで抵抗はなさそうですね」

「妾は、鮭といくらの親子茶漬けなる物が美味しかったの」

「わたくしは梅のおかゆが美味しかったですわ」

「私は卵の雑炊ですね。優しい味がして好ましいです」


 リアン達には当たり前だけどもちろん先に食べてもらってるよ。

 ハン兄様にそれぞれの専門店にするか、統合したお店にするか相談した時に、食べ比べをしてもらおうっていう話になったんだけど、見事に意見が別れちゃってね、当面の間は統合したお店にする事にしたのよ。


「新しいお店と言えば、牛タン店なるものを出すそうじゃな」

「ああ、あの牛の舌のお肉ですわね」


 リアンの言葉にクロエが眉間にしわを寄せる。

 味に関しては認めるものの、どうしても舌を食べるという行為が好ましくないらしい。

 前世にも居たねぇ、そういう子。仕方がないよね。


「けれども、クロエもスープの方は美味しいと好んでいましたよね」

「ええ、あのテールスープなる物は美味しかったですわ。白髪ねぎがよいアクセントになっていましたわ」

「妾はあの麦飯とトロロなる物も好ましいの。ただ、味噌南蛮であったか? あれは少々妾には辛かったの」

「慣れれば美味しいんだけどね。お父様はお酒のおつまみにいいって言っていたわ」

「大人の味という事ですね」


 リーチェはそう言って、仕事が終わったのかマフィンにジャムを塗って口に運ぶ。

 クロエも気が付けばおはぎを食べているので、終わっていないのはわたくしだけみたい。

 わたくしは各お茶会でそれぞれが着るドレスを選んでリスト化していく。

 わたくし達が被るのは別に構わないし、時折四人でわざと被らせた装飾品やドレスのモチーフにしたりしているのだけれども、他のご令嬢が被るのはNGだから、招待状にそれとなく縁に着用予定のドレスの色を乗せたりして被りをなるべく避けるようにしておく。

 基本の招待状を作ってしまえば、あとはメイドが代筆してくれるので問題はない。

 ただ、招待状を代筆出来るメイドとなると主人に信用されている使用人になるわけだ。

 王宮でも女官っていう仕事が出来たわけだし、使用人の間でも差を付けるためにメイドと侍女っていう枠組みを付けるべきかもしれない。

 男性の使用人には、従僕と侍従ってちゃんと枠組みがあるんだし、女性にあってもいいと思うんだよね。

 執事はまた別格だけど、使用人にもランク分けをしてお給料面でも実力と仕事内容によって差をつける。ただし、不正が行われないようにしなければいけない。

 メイド長が女性使用人の中では最も権力を持っているけれども、侍女が出来たらまたちょっと変わって来るよね。

 そこで不満は出ちゃうかもしれないけど、王宮の方はうまくいっているみたいだよね。

 ただ、グレイ様は念入りに手回しをして女官の役職を作ったみたいだし、あっちが成功したからって安易に真似をするのはよくないか。

 メイド長や執事とここに関してはしっかり相談しないといけないね。

 乳母と同じように特殊な役職になるわけだし、わたくし一人で決めるわけにはいかないわ。

 使用人に役職を与えるとなれば、お父様の許可も必要になるものね。

 社交シーズン中に開くお茶会全ての衣装や装飾品の組み合わせを作り終わって、わたくしは書類をどけるとプリンが入った容器を引き寄せてスプーンですくって口に入れる。

 ほろ苦いカラメルと、甘いカスタードが口の中で混ざり合って幸せな気分になる。

 はぁ、疲れた時はやっぱり甘い物だわぁ。

 全員が自分の分担を終えて軽食を食べながら、お茶会の事とは関係のないことを話しつつ、疲れた脳みそをリフレッシュしていると、リアンが食べている肉じゃがのお皿が空になったので、ほうじ茶を飲んで一息ついた。


「しかし、ハンジュウェル周辺が忙しくなっているようじゃな」

「そうね、いよいよ就任になるからっていう事で、この家を出て新しくお屋敷を建てたからそっちに引っ越しもしているし、わたくしも寂しくなってしまうわ」

「ツェツィの安全面を考えるとハンジュウェル様はデュランバル辺境侯爵家の王都の屋敷に居ていただいた方がよいのですが、伯爵位を賜るとなってしまえば、自分の屋敷を持たないわけにはいきませんものね」


 そうなんだよねぇ。

 仕方がないこととはいえ、寂しいんだよねぇ。

 もちろん、社交シーズンは家族が揃うっていう事もあって、ハン兄様もこっちに来ることもあるけど、基本的は新居で過ごすことになる。

 リアンの嫁入りが決まっているから、伯爵位の屋敷にしては侯爵家の屋敷に劣らない豪華なものになっている。

 アンジュル商会の資金力を見せつけるのも兼ねているからってハン兄様は言っていたけど、絶対にリアンに恥をかかせない為だよね。


「そういえば、ハンジュウェル様がこの屋敷を出てしまうとなると、ツェツィのお誕生日の主催者は誰になりますの?」

「わたくし本人ね」

「まあ、そうなるの。地方に住まう領主の家では珍しい事ではないが、ハンジュウェルの授爵発表が先になるのじゃし、例外的にハンジュウェルが主催しても良いのではないか?」

「それも考えているんだけどね、ハン兄様がそこの線引きはちゃんとしておくべきだっていうのよ」

「つまり?」

「デュランバル伯爵家はあくまでも分家になるから、主家のご令嬢の誕生日パーティーの主催になるのはおかしいっていう話ね」

「確かに、筋は通りますわね」

「準備は手伝ってくれるんだけど、主催するのはっていう感じね」

「それであれば仕方がありませんね。陛下が主催するわけにはいきませんし、ご実家の方がいらっしゃるのも難しいのでしょう?」

「そうねぇ、ロブ兄様がいるからお父様が来るのは今まで程難しい事じゃないと思うわ。ナティ姉様も出産後の経過もいいし、甥っ子の体調も問題ないみたいだし」

「おや、それであれば頼んでみてはどうじゃ? デュランバル辺境侯爵家から籍を抜けていたハンジュウェルが兄という事だけで主催をしていたよりも良いのではないか?」

「爵位を持たない、籍を抜けた兄姉が弟妹の為に誕生日を主催するっていうのは珍しくはないけど、誕生日の為だけにお父様を領地から引っ張ってくるっていうのがね」

「仲がよろしいのに、遠慮なさいますの?」

「ああ、そうじゃないのよ。必要があればお父様だって王都に来ることは問題ないっていうわ。この数年はダンジョンも魔の森も落ち着いているし、跡継ぎについても問題はないわ」

「では何が問題でして?」


 クロエの言葉に、わたくしはお父様からの手紙を思い出して伝えるべきか頭を悩ませる。

 しかしながら、黙っていてもどうせばれてしまうのだから、先に話しておいた方が被害? は少ないと腹をくくった。


「わたくしのお爺様とお婆様が、お帰りになるそうなのよ」

「「「え?」」」

「前デュランバル辺境侯爵夫妻はお亡くなりになったのではありませんの!?」

「お父様に爵位を押し付けて気ままな諸国漫遊の旅を楽しんでいるだけよ」

「何ゆえに今になって? 爵位を譲って二十年は経っておるぞ?」

「それが分かれば苦労はないわ」

「以前、ツェツィが生まれていることも、お母様が亡くなった事も知らないのではと言っていましたよね?」

「ええ、わたくしだって顔も知らないお爺様とお婆様を今更紹介されても困るのよ」

「いつ頃戻ってくる予定なのじゃ?」

「分かんない」

「「「は?」」」

「社交シーズンが終わった辺りとは手紙にあったそうなんだけど、具体的な日数は無かったそうなの」


 あまりにも自由人な性格に、どうやったらお父様のような真面目な性格の子供が生まれるんだろうと、お父様からの手紙を見てちょっと、いや、しばらく頭をひねってしまったわ。

 でも、お爺様が戻ってくるとなった瞬間、サンマルジュ様がめちゃくちゃ張り切って冒険者ギルドに所属している方達を鍛えるって言ってるぐらいだし、影響力はすごいんだろうなぁ。

 グレイ様は「そうか」っていう反応だったけど、宰相閣下はわずかに顔を引きつらせていたし、知らせを受けた大臣の方々はあからさまに雰囲気が変わったし、どこからか聞きつけて来た『塔』の重鎮はものすごく楽しそうだった。

 モブなのに、わたくしってばモブなのに周囲がどんどんおかしくなっていくのはなんでなのかしら?

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[一言] お祖父様…ハンパない人なんすね…(笑)
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