表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/136

モデルはお断り

 長期休暇も終わり、学院の新年度が始まったのに合わせ、以前からグレイ様が告知していた冒険者ギルドと商会ギルドが王都で本格的に活動を始めた。

 もちろん、反発する貴族や冒険者もいるんだけど、冒険者はともかく、貴族に関してはやましい所が無ければ何の問題も無いと逆に言われ、文句を言った人はむしろ所属しないわけにはいかない状況に追い込まれて行った。

 わたくしでは気が付かなかった抜け道というか、貴族が思いつくであろう逃げ道を先に潰しにかかっていた辺り、流石はグレイ様だよね。

 冒険者ギルドの方は、うちの領地で体験した人は抵抗なく所属してくれているけれども、まだ疑いを持っている人は多いみたい。

 貴族っていうわけじゃないから、権力を使って逃げ道を無くすっていうのも難しいし、今後の実績をっていう感じだね。

 でも、グレイ様が冒険者に貴族が依頼を出す時は、冒険者ギルドを使用するように、って通達をしているから、裕福な平民とかの依頼以外はどっちにしろ冒険者ギルドを使うようになっていくんじゃないかなぁ。

 平民が運営する商会も、結局は商会ギルドに入る事になるように調整してくれているしね。

 本当に、わたくしの知らないところで手を回して外堀埋めるのがうますぎて、小憎たらしくなってくるわ。

 国全体が、そんな感じに新しい事へ向かって動き出している中、もちろんその他にも変化が生まれてきているわけで。


「ついにパイモンド様が養子に入れたんだ」

「ええ。もっとも、養子先にお子様が生まれたらその子に相続権は譲ると契約していますけれどね」

「十分じゃない」

「これで、いつラッセルと婚約解消をしても大丈夫になったの」

「そうですわね。おめでとうございます。やはりリーチェが一番先に婚約解消が出来そうですわね」

「元々、祖父時代の友情が繋いでいたようなものですからね」


 まあ、今まで散々支援してきたし、今支援を切っても騎士団長の任に就いている限り、贅沢をしなければ生活にいきなり窮するという事はないでしょ。

 有事の際は、リーチェの家『以外』から支援を貰えるように動かないといけないだろうけど、騎士団長に限って言えば、人望があるから『有事の際の必要な支援』だけなら受けられるだろう。

 魔物の大量発生とか、同盟や条約を結んでいる他国がいきなり手のひら返してきたとかない限り、支援要請なんて必要ないけど。


「妾も、ルーカスの弟が仮婚約も済んでいるし、話に聞く限りでは二人の仲も良好とのこと。兄上の後ろ盾を強固にするには妾が嫁ぐより些か弱い物にはなるが、叔父上がはっきりと兄上の後ろ盾に付くと公言し、重要役職に就けば問題ないであろう」

「交代予定がある重要役職ってどこになるっけ?」

「法務大臣ですわね」

「あそこが一番手を出しにくい部分ですからね」

「表向きは、貴族も平民も平等としているからの。実態は貴族至上主義派じゃが」

「貴族至上主義派が悪いわけではありませんわよ。ただ、その派閥の人間が行き過ぎているというのが悪いのですわ」


 クロエがそう言ってため息を吐き出すと、紅茶を飲んで「でも」と続ける。


「陛下が即位なさってから国法や政策も見直されていますし、頭の固い方がいつまでも居座るのはよくありませんわね」

「ハウフーン公爵家は、貴族主義派でしたね」

「貴族至上主義派でないだけましですわね。わたくしの代になったら実力主義派に変わりますけれど」

「それは、ハウフーン公爵も納得しているのかの?」

「早くわたくしに爵位を譲って隠居したいとは言っていますわね」


 つまり、好きにしていいっていう事か。

 今後、貴族至上主義派は廃れて行って、貴族主義派と実力主義派の二大派閥になって行くんだろうな。残った席が中立派という名の穏健派になるかな。

 グレイ様ならうまい事調節するでしょ。

 わたくしの実家はそもそも完全なる実力主義派だし、グレイ様は公言こそしていないけれども、行動が実力主義派を応援しているような感じだから、どっちかっていうと、実力主義派が強くなるかもしれないが、貴族主義派や中立派もいないと困る所はあるのよね。

 ちなみに、リーチェの家も貴族主義派だったりする。

 貴族至上主義派と貴族主義派は、似て非なるものなのよ。

 前者は、言ってしまえば『貴族でなくなる者は無意味』としている派閥、後者は『貴族の血が入っていれば価値がある』としている派閥。

 この線引きは重要よ、まじで。


「クロエはどうなのじゃ? 肝心の婚約解消の話は進みそうか?」

「我が家からは、何度もいつでも婚約解消してくれて構わないと言っているのですが、あちらが承諾しませんわね。お父様も、必要な証拠はだいぶ溜まって来たと言っていましたので、そろそろ出来るとは思いますわ」


 メイジュル様も、懲りずに堂々と浮気をしているおかげで、証拠集めも捗ったでしょうねぇ。

 入り婿の庶子だから責任を取って引き取れなんて言われたら、ハウフーン公爵家としては迷惑この上ないもの。

 グレイ様が大枚はたいて購入した『塔』の魔道具のおかげで、血筋の誤魔化しも出来なくなったらしいし、余計になぁ。

 そもそも、女性当主の場合、子供が生まれず養子を貰うっていう場合以外、確実に自分の子供なわけだし、教育さえ間違えなければ長子継承で問題ないんだよね。

 極稀に、愛人に産ませた子供と本妻の子供を入れ替えるとか糞馬鹿な事をする入り婿も居るそうだけどな。

 出産のタイミング合わせるとか、産婆の口封じするとか、くそ面倒な事してまで、自分に都合がいい子供にしたいのかね?

 どうせ、愛人に強請られてとかなんだろうな。そういう事をする馬鹿は、自分を調子に乗らせる女が大好きだからな。

 しっかし、どの組み合わせも順調に婚約解消に向かっているね。

 婚約解消して一年か二年ぐらいなら、今回の場合は次が見つからなくても問題ないだろうし、っていうか、リアン達を悪く言う貴族が居たらぶっ潰す。


「そういえば、私がパトロンをしている脚本家からの提案なのですが」

「なんじゃ?」

「他の生徒が、私達の事を薔薇様と呼んでいますよね」

「うむ」

「リアンに至っては、頻繁に令嬢から告白を受けていますよね」

「告白というか、うむ、まあ……」

「しかも、私達は、ツェツィはともかくとして、はたから見ると悲劇のヒロインなのだそうです」

「そう言われてみれば、婚約者にここまで蔑ろにされてしまえば、悲劇のヒロインにも見えますわね」

「それで、婚約者に蔑ろにされて捨てられた令嬢が、真実の相手を見つけ、幸せになる物語を書きたいので、モデルにしていいかと言われました」

「ご遠慮申し上げますわ」

「綺麗ごとで塗り固められた物は、確かに大衆に受けるであろうが、自分をモデルにされるとなると、遠慮したいの」

「リーチェはなんて答えたの?」

「モデル代と、それで得る事が出来たバックマージン次第だと」

「「「ああ……」」」


 本当に、華奢で儚げ系な見た目なのになぁ。

 リアンは、凛としていて気位が高そうに見えてわたくしたち以外には基本ツンデレか塩対応。

 クロエは優美でちょっときつめに見えるけど、その実は純情。


「ギャップ萌えっていいと思うわ」


 思わず声に出して頷くと、三人からわたくしにだけは言われたくないと言われてしまった。

 解せねぇ。


「とりあえず、二人がモデルになるのが嫌だというのなら、そのまま伝えます。けれど、私がパトロンをしていない脚本家が勝手に脚色しても知りませんよ」


 にっこりとそう言ったリーチェに、リアンとクロエが微妙な顔になった。

 平民って、王侯貴族の事情を知らない人の方が圧倒的に多いから、夢見ちゃうんだよね。

 士爵、男爵までは、伴侶が貴族の血が入っていない平民出身でも大丈夫だもんなぁ。

 愛人ってなれば、それこそ平民でも問題ないしね。愛人になって贅沢な暮らしをしている人を見ちゃって、自分も、なんて思う人がいるのよ。

 実際愛人の生活なんて、ほとんどが都合のいい使い捨てなんだけどね。


「そういえば、妾達の絵姿が出回っておったの」

「そうですわね。全く依頼した覚えも描かせた記憶も無いのに、なぜか出回っていましたわね。しかもどれも高額で」

「私は、ちゃんと正規ルートで販売されていないと申し立てをして、回収及び、売上金額の没収をしましたよ」

「「「いつの間に!?」」」

「判明してすぐにしました」


 リーチェ、パトロンしまくっているだけあって、そっち方面強そうだもんね。

 でも、リアンとクロエの分もしてあげてもいいとわたくしは思ったりするんだよ。


「ああ、ツェツィの分に関しても、ちゃんと私が対処しておきましたから」

「そうなの? わたくしは、自分の絵姿が出回っていた事すら知らないんだけど?」

「陛下とハンジュウェル様にはお伝えしています」

「あ、なるほど?」


 腹黒&商魂たくましいハン兄様に対処されたら、わたくしに伝わる前にそりゃ握りつぶされるわ。

 もしかして、たまに増える謎の収入ってそれだったりしてる?


「なぜ妾達の分はせぬのじゃ」

「ツェツィはいずれ正妃になります。不要な情報を垂れ流しにして、これ以上邪魔な虫が付いたら困ります」

「わたくし達には虫が付いてもよいとでも言いますの?」

「それぞれ、本命に任せています」

「リアンはともかく、わたくしに本命と言われましても困りますわ」

「大丈夫ですよ。クロエにはとても頼もしい騎士が居ますから」

「騎士になりたいと志望している子息で親しい方はいないですわね」

「騎士を志望してはいませんね」

「……リアン、ツェツィ。リーチェの言っている意味が分かりまして?」

「妾にはさっぱりじゃ」

「わたくしは黙秘権を使用するわ」


 リアン、本気で気が付いて無さそう。

 マルドニア様、クロエを落とすのは大変そうだけど、出来るだけ頑張って。

 クロエがその気になったら、わたくしは全力で応援するから。

 今年と来年、後二年で三人の婚約解消を終わらせておかないとね。

 しかし、マドレイル様とかトゥルージャ様って、本当にアプリ版の追加キャラじゃないよね?

 これまで接している感じでは悪い人ではないし、わたくしみたいに、ただ乙女ゲームで触れられていなかったモブなだけだと信じたいわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] …マルドニアが気の毒になってきましたね(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ