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仲間だと思っていたのにっ

 グレイ様との仲も進展しないまま、何だったら距離的に離れたまま、わたくしの十四歳の誕生日も過ぎ、長期休暇に突入した。

 毎年のように律義に贈られてくる特注の扇子と、今年はアメジストと琥珀を組み合わせたピアスかぁ。

 この琥珀の色が完全にグレイ様の目の色だよね。アメジストは、わたくしの目の色かな?

 グレイ様の気持ちが分っかんないなぁ。


「と、いうわけなんですよ」

「それは何と言いますか……。私に言われましても、前世で恋人はいましたが、結婚したり子供を持っていたわけではありませんので、難しいですね」

「社畜だったのに恋人が居たんですか!?」

「いましたよ」


 OH……。裏切られた感。

 王太后様は平然とショッキングなカミングアウトをしてくれつつ、「そうですねえ」と一度天井を見た後、わたくしに視線を戻した。


「魔法薬を使っているとはいえ、陛下はお年頃ですからね。しかも、ツェツゥーリア様が初恋ですし、そのまま拗らせていますもの、自分の感情をどう昇華していいのか分かっていないのかもしれませんね」

「そんなもんなんですかねぇ」

「そもそも、ツェツゥーリア様は前世では喪女だったのですわよね?」

「そうですね。非処女ではありました」

「画面や文字だけのテンプレ恋愛と、現実リアルの恋愛は違いますよ」

「まあ、そりゃそうですよね」


 そんなのは分かっているけど、だからってわたくしはどうあがいても前世は喪女でしかないんだし、恋愛の達人じゃないんだから、グレイ様を誘導とか出来ないよ。

 あの乙女ゲームを参考にしたら、潰れたはずのフラグが再解放されるかもしれないし。


「けれども、無理にキスをする必要もないのですし、このままでもよろしいのではありません?」

「そうですか?」

「ええ。十四歳に手を出すとか、犯罪ですもの」

「あ、はい」


 王太后様の価値観は完全に前世が核になってるからなぁ、そうなるよねぇ。


「そもそもですね、ツェツゥーリア様。流されて二次性徴が来たらキスを許すなどと言うなど、言語道断。甘い、甘すぎます。顔面偏差値に負けてしまうのは分かりますが、貴女だって精神年齢は大人なのですから、注意すべきなのですよ」

「はい」


 うぅ、お説教モード入ったぁ。

 グレイ様にキスしていいって許可出したことがあるって言った時も同じお説教されたのにぃ。

 心の中でシクシク泣きながらお説教を大人しく聞いていると、しばらくして、盛大にため息を吐き出された。


「けれどもまあ、陛下も二十四歳になっていますし、いつまでも童貞というのもお気の毒ですね」


 王太后様の言葉にわたくしは思わず、扇子を持つ手に力を込めてしまう。


「……この世界は女性の成熟が早いですし、前世でも十六歳で結婚可能でしたし……、後二年って、ツェツゥーリア様、なんて顔をしていますの」

「え?」

「絶望と嫉妬と憤怒と焦燥が混ざったような顔でしてよ」


 言われて、扇子から手を離して両頬に手を当ててみるが、自分では分からない。

 おかしいな、淑女教育で常に微笑みを浮かべるように訓練しているんだけどなぁ。


「ああ、表情自体は微笑んでいますわよ」

「そうですか?」

「けれども、表情全体の雰囲気が変わりましたわ」


 む、むっずぅっ。

 王太后様ってわたくしよりもずっと長い間、貴族の女として生きているし、王太后として女性のトップに存在していたから、淑女としての仕草は完璧だし、その気になったら感情を悟らせない事なんてお手の物だそうな。

 こっちに来てからはそれをする必要が無いから、すっごく楽だって言ってたな。


「今後、社交界で生き抜いていくのでしたら、正妃として陛下を支えて行くのでしたら、そういった感情を表に出すのは限られた人の前でのみになさいませね」

「はい」

「ツェツゥーリア様がそういった事が出来なければ、これだから辺境の出身は、などと言う愚か者が出ますよ」

「肝に銘じます」

「それで、陛下の方ですが、魔法薬を飲んでいるので、性欲に負けて襲い掛かるという事はないでしょうが、人が行動に移すのは性欲だけではありません」

「……へぇ」

「ツェツゥーリア様、貴女の前世はいったいどんなものを読んで遊んでいたのですか?」

「純愛物もありましたよ?」

「はあ。……とにかく、愛しいという感情でも人は動くものです」

「まあ、そうですね」

「……そこで、ツェツゥーリア様への愛が溢れて、陛下が何をするかは私には分かりかねます。拗らせていますし」

「そこですよねぇ」


 あの年で初恋を拗らせるとか、しかも腹黒で外堀埋めまくってるとか、どうしようもないよねぇ。


「ツェツゥーリア様」

「はい?」

「拗らせているのはツェツゥーリア様もですわよ」

「ほへ?」

「前世でやったゲームの最推しだからと、拗らせているではありませんか」

「……え?」

「自覚がない辺りが困りものですわね」


 ため息を吐く王太后様に、わたくしは「そんな事は……」と小声で返すものの、グレイ様の顔と声に弱いのは自覚があるし、あのグレイ様がわたくしに犬耳と尻尾をしょんぼりさせていると錯覚させるような仕草をされたら、そんなもの、逆らえるわけがないでしょっ。

 だって、数多の乙女ゲーやギャルゲーの中で、くっそ上位の、いや、一番の推しなんだよ? 殿堂入りなんだよ?

 仕方がないじゃん! ぶっちゃけ、あの声とスチルにどれだけお世話になったことか!

 そりゃね、グレイ様が一時期していた過剰接触は、今振り返っても止めるべきだったかなぁとは思うけど、その後自重していながらも、制限がある中で距離感を詰めようとする姿が、こう、堪らないじゃん!

 それなのにっ、なんだって今更距離を置くの?

 なのに、自分の気持ちは変わらないって示すように贈り物はあれだし、わたくしをどうしたいっていうのよ!


「本当に、拗れていますわね。キスのタイミングなんてその場のノリに任せてしまえばいいでしょうに」

「無理ですっ、避けられてはいませんけど距離を開けられているんですよ!」

「では、そのままでよろしいのでは?」

「え?」

「ツェツゥーリア様は別にキスをしたいと思っていないのでしょう?」

「そ、うっすね……」

「陛下とて、女性の扱いは徹底的に落とし込まれていますからね。その気になれば寝ぼけていても女性を口説くぐらい出来ますよ」

「流石に寝ぼけてはちょっと……」

「出来ます。前国王陛下がそうでしたもの」

「へ、へえ……」

「まあ、実際私の考察をざっくり述べてもよろしいですか?」

「ぜひとも」

「ちょっとでも手を出したら、そのまま先に進みたい欲求に駆られて、ツェツゥーリア様の意思とか無視して手を出しそうなので、必死に我慢しているのではないかと。ツェツゥーリア様には聖獣と魔獣の加護があるのですし、そんな事をしては死んでしまいますからね。ぎりぎり理性で抑え込んでいるのでしょう」


 実際は聖王と魔王だけど、まあ、わたくしの意思を無視した時点で死ぬのは変わりないか。

 グレイ様の場合だと、国を巻き込んで盛大に爆死しそうな可能性が高いけどな。


「まあ、婚前交渉は基本的によくないとされていますし、上位貴族の令嬢ほど純潔は結婚まで守るのが普通ですね」

「そうですね」

「けれど、特定の相手としか交われない魔法が存在するのですよ。今は避妊薬が主流なので廃れていますが」

「なぜに?」

「避妊薬の効果が確かでなかった時代は、魔法で女性が特定の相手以外と関係を持たないようにする事で、血統を守っていたのだそうです」

「そうなんですか」

「今は『塔』が色々開発していますからね。その魔法を使わなくても構わなくなったので、知る人ぞ知るという所でしょう」

「王太后様は、なぜそのような魔法を知っているんですか?」

「ああ、記憶が戻る前に調べたからですわね」

「何ゆえに?」

「聞きたいですか? 我が事ながら、首を吊りたくなるのですが」

「そ、そうなんですかぁ」

「…………。まあ、権力に固執していましたでしょう? しかも陛下は前国王陛下にそっくりです。そこから導き出してくださいませ」

「あぁ……」


 グレイ様に施そうとしたとか? 女性用なのを男性用に変換してとか?

 乙女ゲームの中の王太后様ならしてもおかしくはないよね。

 実際にそれぐらいしたから、王太后様なのに罰せられて塔に幽閉されてじわじわ殺されたのかもしれないし。

 そう考えると、乙女ゲームの王太后様、少しは同情……しないわ。

 うん、前世の記憶を取り戻してくれてよかったわぁ。


「とにかく、陛下も自重するのに必死なのでしょう。元々優秀な方なのです。そのうち勝手に落とし所を見つけますよ」

「だといいんですけど」


 王太后様がそう言うなら、わたくしから特に行動しないでおくけど、なんだろうなぁ、胸がもやもやするというか、懐いていた犬が急によそよそしくなった感じ?

 ……腹黒狐はイヌ科でいいのかな?

 よく分からない感情を考えていたわたくしは、王太后様に終始生温かい視線を向けられていたことに全く気が付かなかった。

 領地の屋敷に戻った後、お付きのメイドに指摘されて、恥ずかしさのあまり一時間ほど寝室に引きこもった挙句、心配したナティ姉様に引っ張り出された。

 うぅ、ナティ姉様ってば妊娠してるから、抵抗出来ない。

 あ、そうそう。ナティ姉様、無事にご懐妊だよ!

 わたくしもついに叔母さんになるのかぁ。

 男の子かな、女の子かな。出産は次の社交シーズンにぶち当たるから、次の社交シーズンはロブ兄様はお父様と同じでパートナー必須の社交には不参加になる。

 ここぞとばかりに代理にと、自分の娘を売り込んだり、自分自身を売り込む未亡人が居るけど、お父様もロブ兄様も妻一筋だからなっ。

 わたくしが代理をするには年齢が足りないねん!

 分家のお嬢さんをお借りしてもいいんだけど、誤解されると困るし、そういうのを専門にしている業者に斡旋してもらってもいいけど、愛人候補とか面倒な事を言われかねないからね。

 それに、パートナー必須の社交に出なくても、何とかなるそうだ。

 グレイ様が主催する夜会も、パートナー必須じゃないしね。

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― 新着の感想 ―
[一言] ツェツゥーリアも相当モヤモヤしてますねぇ〜 拗らせてるのはお互い様か〜 陛下…あと2年ガマンか…(笑)
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