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やりすぎ注意

 もち米に関しては、意外な所から手に入れることが出来た。

 なんと、領地に商売に来ている商売人が、他国で取れる珍しい植物という事で持ってきてくれたのだ。

 わたくしが種もみを集めていたことを聞きつけて、似たようなものなので買い取ってもらえると思って用意していたらしい。

 グッジョブ、商人!

 もち米が手に入ったので、石臼を作ったり、その石臼を動かすために水車を作ったりと、色々忙しかった。

 それでも淑女教育や教養の勉強、魔法の勉強を怠らなかったわたくしを褒めていいのよ。


「ツェツィ、僕達が王立学院に行っている間に、本当に色々したね。手紙では話を聞いていたけど、ちょっと帰っていない間に領地の活気が違う」


 ロブ兄様の言葉に、わたくしは胸を張る。幼女だって、前世知識チートと金と権力があればなんとかなるものなのだ。


「お米も炊けるようになったのよ。わたくしがコックに指導したの」


 本当に大変だったよ。吹きこぼれたら蓋を開けようとするのを必死に止めたり、火加減が見えるように抱きかかえてもらったり、かつ危なくないように遠くに追いやられたり。

 しかし、ホクホクのご飯は苦労に見合うだけのものだった。

 転生してから数年、わたくしは久しぶりにお米を口にすることが出来たのだ。

 最近は卵かけご飯にしても、お父様も止めなくなったけど、最初に卵かけご飯にした時は絶句された。

 何度もお腹を壊すから食べるのをやめなさいって言われたし、毒見を用意するとか言いだした時は本当に言い合いになった。

 最終的に、使用人が先に食べることで(結局は毒見)で納得してくれたけど、そのせいで一部の使用人が卵かけご飯にはまったのは言うまでもない。

 少しずつ厨房で指示を出すこともできるようになって、以前のようなひたすらに焦げている料理や、原形がなくなるまで煮込むだけの料理というのもほとんどなくなった。

 調味料を作ったおかげで、香辛料をひたすらかけるだけというのもなくなったしね。

 ふっははは、神よ、わたくしは前世知識チートをしているぞ! どうだ、モブに妙な設定をつけるからだ、悔しいか!


「兄様達にも、美味しいお料理を食べて欲しいわ。わたくしが兄様達の味覚改善をしてみせるから」

「よくわからないけど、父上が許しているようだし、問題はないだろう」

「僕達のお姫様は本当に天才だ、天使の生まれ変わりかもしれない」


 ロブ兄様とハン兄様がそれぞれそう言ってわたくしの頭を撫でてくれるので、えへへ、とはにかむと、兄様達は「くっ可愛い」と身悶えた。


「それにしても、しばらく会わないうちに随分流暢に話せるようになったね」

「確かに。たどたどしかったツェツィも可愛かったんだけどな」

「わたくしだって、辺境侯爵家の令嬢だもの。王立学院に通うまでにしっかりお勉強するわ。王都に行って、人前ではちゃんと淑女らしく振舞ったりも出来るわ」


 これは、商人の前で実際にやれたので間違いない。

 わたくしの中の貴族の令嬢のイメージで、だけど。うん、問題はないはず。

 商人もわたくしの態度は、幼いながらに一人前の淑女だって言ってたし。多大にお世辞が入ってると思うけどね。

 兄達は荷物の整頓があるという事でそれぞれ自室に向かったので、わたくしは夕食をいつもより華やかなものにすべく、厨房へ向かった。


「お嬢様、なんだかご機嫌ですね」

「兄様達が帰って来たんだもの。今日はいつもよりも気合を入れるわ」

「そうですか。それで、今日は何を作るおつもりで?」

「うーん、兄様達は食べ盛りだし、揚げ物がいいと思うの」

「揚げ物?」

「衣をつけて油で揚げるのよ」


 そう言ったわたくしに、コック達は頭にハテナマークを浮かべる。

 うぅ、実際にわたくしが作ったほうが楽だけど、ただでさえ火は危ないって近づけてもらえないんだし、揚げ物なんて絶対に駄目よね。

 とりあえず、揚げ物の準備をするべく指示を出していくが、油を熱すると説明し、場合によっては油がはねて火傷をするかもと言った瞬間、「お嬢様は離れていてください」と厳しく言われてしまった。


「くれぐれも、くれぐれも真っ黒にしてはだめよ。こんがりきつね色で網に移動させるんだからね」

「わかりました。がんばりますが、本当にお嬢様は近づかないでくださいね。その玉のようなお肌に傷でもついたら、俺が首になっちまいます」


 わたくし、聖王の加護のおかげで傷なんて負わないのだけど、と言う事も出来ず、ハラハラと黒焦げにされないことを祈って作業を見守った。

 ちぃっ。こんなことならハンバーグとかにすればよかった。

 後悔とは、後に悔いると書くとはよく言ったものだ。

 メイドの鉄壁ガードの隙間からコックの作業を見守りつつ、ジュウッという音に懐かしさと共に食欲がわきあがってくる。

 しかし、作っているのを見て気が付いた。

 五歳児の体じゃ、暴食できない!

 いや、そもそも貴族の令嬢が揚げ物をたらふく食べて太るという事は避けたいのだが、久しぶりの揚げ物の匂いに、ひたすらに揚げ物を食べたいと言う欲求が膨れ上がっているので、これは手痛い失敗だった。

 しかも、なぜよりにもよって前世で大好物だった唐揚げにしてしまったのだろう。

 とんかつでもメンチカツでも、なんだったら手に入ったエビを使ったエビフライでもよかったのに。

 しかし、わたくしの指示通りに、こんがりきつね色に色づいた唐揚げが、どんどんバットの網の上に盛られていく。

 美味しそう。でも、ゆで卵一つで小腹が満たされるこの体で、いくつ食べられるのだろうか。

 前世ではアラフィフとはいえ健啖家だったわたくしは、食が細くなるという経験はしたことがない。

 食べたらその分動けばいいという思考の元、体を動かすことも忘れてはいなかったので、体のラインが崩れるという事も無かった。

 それなのにっ、今ほど幼女の体がうらめしいことはないぞっ。

 メイドの後ろで、密かにさっき神を馬鹿にしたしっぺ返しか? なんかのフラグを回収したのか? とこぶしを握っていたが、幸い誰にも気づかれなかった。


 その日の夕食は、兄様達がこれまで見たことの無いものが並び、本当に食べることが出来る物なのかとわたくしに視線を向けて来たけれど、並んでいる物は白米になめこの味噌汁、山盛りの唐揚げに、シャキシャキ野菜のサラダ、兄様達が好きだからという事で用意されたローストビーフ。

 色どりも大切だというわたくしの主張により、サラダもローストビーフも色味のある野菜が添えられている。

 お父様は、わたくしが食事改革を始めてから食べなれ始めているので何も言わないし、メイド達も何も言わないので、兄様達は戸惑いつつもカトラリーを手に取った。


「ツェツィ。この白い粒々のものは?」

「お米よ」

「ああ、手紙にあったやつか。……あっつ!?」

「炊き立てだもの」


 食事は例外を除き、作りたての温度がいい、というわたくしのリクエストにより、調理時の温度が魔法によって保たれている。

 普段食べるパンはもちろん冷えているし、なんだったら厨房から食堂に持ってくるまでに料理が冷めてしまうので、熱いものをあまり口にしたことがない兄様達は驚いているようだ。

 本当に食べても大丈夫なのかと、わたくしやお父様を窺っているけれど、わたくし達が冷ましながら平然と食べているので、再び口に運んだ。


「……不思議な味」

「そうだね。今まで食べたことがない味だ」

「お味噌汁も、唐揚げも熱いから気を付けてね」

「わかった。それにしても、こんな料理、王族でも食べたことはないだろうな」


 ロブ兄様がしみじみというけど、そりゃあ、この世界の料理は死んでるし、ないだろうね。


「うわっ、これ美味いな。ツェツィ、これはなんだい?」

「唐揚げよ、ハン兄様」

「食べると汁が出てきて、熱いけど本当に美味しい」

「肉汁っていうの」


 そう言ってわたくしも唐揚げを食べるけど、お父様や兄様達サイズにしているせいか、幼女には大きい。

 一生懸命食べていると、ふと視線を感じて顔を上げたら、お父様と兄様達がわたくしを見ているので、口の中のものを咀嚼して首を傾げる。


「ツェツィ。こんな料理、どこで発見したんだ? 自分で考えたっていうわけじゃないよね?」

「この屋敷にある本で知ったというわけでもないだろう。この屋敷には諸外国の本もあるけど、魔法や情勢に関する本ばかりで、料理の本なんてないからね。それに、ツェツィが行っている色々な事業もそうだよ。五歳の子供が思いつくものじゃない」

「ぅ、それは……」


 前世知識チートとは、言いにくいな。

 でも、いくらわたくしに甘いお父様や兄様達とはいえ、流石に見逃してはくれないよね。


「えっと、それに関しては。食事の後で、お父様と兄様達にだけ教えるわ」

「わかった。食事の後に三人は執務室に来るように」


 お? 思いのほかあっさり引いた。


「よかった。ここで夢で見たとか意味不明なことを言い始めたら、どうしようかと思ったよ」

「よかったね父上、ツェツィが変に誤魔化さなくて」

「そうだな」


 ほほう? この様子からして、お父様は前からわたくしの行動を怪しんでいて、密かに兄様達と連絡を取っていたという感じかな?

 しかしながら、それも仕方がないか。我ながら前世知識チートしまくりだもんね。

 お父様が好きにさせてくれるからノリノリでしちゃったけど、そりゃ不審に思われても仕方がないよね。


「ちなみに、変に誤魔化していたらどうなってたの?」

「陛下には申し訳ないが、ツェツィが口を割るまで一生領地から出ることが出来なくなっていただろうな」


 その言葉に、思わず「ヒュッ」と息を飲み込んだ。

 それはすなわち、王立学院に通う事も許されないということで、貴族の令嬢としては失格の烙印を押されるのと同意義だ。

 あっぶなぁ。一歩間違ったら領地に監禁生活だったのか。

 選択肢を間違わなかったわたくし、偉い!

 家の事を思えば、長女であるわたくしは家の為、どこかの良家に嫁がなくてはいけない。

 本来なら仮の婚約者がいてもおかしくない身分なのに、それが居ないだけ慎重に精査されているのだと思えるが、もし王立学院に通わないとなれば、婚約の申し込みが激減。来ても曰く付きばかりだろう。

 それに、グレイ様にはまた王宮に来るようにと言われているので、王命に逆らうことになってしまう。

 王命に逆らうなど、下手をすれば爵位を下げられたり、爵位剥奪されてしまう。

 危なかった。本当に危ないところだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >もち米が手に入ったので、石臼を作ったり とありますが、既存の食料としてパンはあったのですよね? となると、パンを作るための小麦粉はどうやって作っていたのでしょう?
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