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第7話 アビスの呪い


 虚弱体質(呪)


 フィアはそのスキルの存在を聞いてからというもの、姿は見えないが肩を震わせている様子。俺にはこのスキルがどういうものか理解出来なかったが、彼女の反応から良くないスキルである事は明白だった。


「そんな事って……なんでアビスたんが……」


 消え入りそうな声のフィアには悪いが、知らなければどう仕様もない。


「おい、フィア。これは一体どんなスキルなんだ。字の如く身体が弱いってだけじゃないんだろ?? 黙ってないで俺にも教えてくれ」


 俺の問い掛けで正気を取り戻したのか、震えた声で口を開く。


「呪印スキル……決して消せない呪いのスキルよ。【世界に呪われし者、その身に印を焼かれ、世界の力によって身を滅ぼすだろう】そう伝え聞いてるわ……」


 次から次へと、クソッタレな現実が突き付けられ目眩がして来た。


 フィアが噂程度で耳にした情報では、同じスキルを手にした魔物は過去にもいたらしい。その魔物は度重なる病の苦しみと治り難い傷の痛みに耐えかね、気が狂って自らの命を絶ったという。


 アビスは不死という強力なスキルを持っている、が、それゆえに彼女を苦しめる事になると言う。何故なら前者のようには死ねないという救いのない話で、不老ではないため寿命が尽きるその日まで、痛みや苦しみを味わい続けると、フィアは嘆いた。


 虚弱体質ならまだ分かる。母体の中にいる時の環境や、遺伝的な事で起こりえる事だ。でも、世界の呪いなんて、まるでこの子が生まれて来なければ良かったと言ってるみたいでそんなのってないだろうが。


 アビスはさっき出会ったばかりの他人の子だ。だったら放っておけば良いじゃないかと言う奴もいるかも知れないが、出来るはずがないんだよ。勿論、人間だった頃の常識や道徳心もある、だけど、そうじゃなくて、この腕に伝わる温もりは確かに今ここ(・・)にある。


 それなのにーー



 また(・・)、俺から奪うというのか。



 沸々と抑えきれない程の、怒りが込み上げて来た。


「フィア……今直ぐ何か起こるとかは無いんだな??」


「ぴぃ!? た、多分大丈夫よ。それよりも……あんたその顔ーー」


 まだ肩でガタガタと震えているようだが、今は俺の話が先だ。


「こんな生まれたばかりの小さな子が世界に呪われるなら、こんな糞みたいな世界こそが間違っている。なら、俺が変えてやる……」


「どうやってよ!! 普通のバッドスキルならDPで消せるわ。でも、この子の呪いは消せないっていま言ったでしょ!?」


「1億だ」


 到達した者は全ての望みが叶う、という俺の世界には無かったお伽噺のような特典。そして、ヘルと呼ばれた彼が見続けた夢。


「……本気?? そんな事出来ると本当に思ってんの!?」


 彼女の言い分はもっともだ。自分達の命すら風前の灯なのに、アビスを守りながらダンジョンで1億DP稼ぐなんて、絵空事にしか聞こえないだろう。


「出来る出来ないの話じゃない、やるんだよ。俺が絶対1億稼ぐ。だから、お前も手伝ってくれフィア。それとも何か、ここでアビスを見捨てるってのか??」


「そんな……そんな事ある訳ないじゃない!! 上等よ、あんたが途中でくたばっても、あたしがアビスたんを救うんだから!!」


「なら、後はやるだけだ」


 難問は分解せよと、昔の偉人は言った。


 それに沿って考えるなら、まずは俺の進化が必須。その為に必要な事を整理していく。


 ドッペルさんからダンジョン活動については予め確認済みだし、後は客観的に自分達が出来る事、出来ない事を把握して、ダンジョンを選ぶ。そして、ここでの選択は致命傷にもなりかねない重要な選択となる。


 システムに書かれたダンジョンの表示をタップし、様々な種類のダンジョンに目を通す。


───────


 【深緑のダンジョン】


 詳細 ミドガルド大森林 最深部25階層   


 内容 1階〜3階の防衛


 人数 10匹(残り1匹)


 資格 ステータス異常系持ち


 階級 Dランク以上


 期間 8時間


 報酬 160DP


 ダンコメ『近くで冒険者襲来の情報が入ったから、念の為の防衛よん。来てくれると嬉しいわぁ』


───────


これは論外だな。資格的に入れないし、ランク制限もあって話にならない。


───────


【岩窟王のダンジョン】


 詳細 ロック山脈 最深部50階層


 内容 1階〜5階の防衛


 人数 30匹(残り8匹)


 資格 無し


 階級 無制限


 期限 全滅させるまで


 報酬 時給20DP 冒険者1体に付き討伐時ボーナス10DPを給付


 ダンコメ『ぬぁあああ!! ドワーフ共が儂の飯(鉄鋼石)を掘りまくっとる!! 許すまじ!! 許すまじ!!』

 

───────


「その条件なら凄く良いんじゃ無い!?」

 

「ちゃんと聞いてたのか。期限が全滅させるまでって書いてるだろ?? いつまで掛かるか分からないし、50階層あるダンジョンに来る冒険者が、弱いはずないだろう」


 やり直しはないんだ。自分が弱いと自覚していなければ、命が幾つあっても足りない。


───────


 【怠惰な魔王ダンジョン】


 詳細 ミッドランド廃城跡地 最深部100階層


 内容 ※イベント スタンピード開催 隣町を攻めるので1階集合


 人数 無制限(889匹参加中)


 資格 無し


 階級 無制限


 期限 フリー(自主帰還でオケ)


 報酬 人族討伐最多者1万DP 上位ランカーには専属雇用契約


 ダンコメ『暇潰し……』


───────


 これは隣町までの距離が不明な点が問題だ。俺達魔物はダンジョン内じゃないとこの世界に戻って来られない。もはや3日とない持ち時間では適当とは思えない。と言うか、暇潰しってそんな理由でスタンピードって、起きるのかよ!!


 中々良い条件のダンジョンが見つからず、嫌な汗が滲み出る。願うように次の画面をスクロールしたその時だった。


「ふぎゃあああああ!! ふぎゃぁああああ!!」


 またアビスが起きたようだ。


「よしよし、どうしたんだアビス??」


「ちょっと、アビスたん泣いてるじゃない!! あんたの抱き方が悪いんじゃないの!?」


 そんな訳あるか、俺の抱っこは世界一だぞ。


 下ろしてオムツを確認しても、ちっちとうんちはしていない。


「ス、スライム!? またスライムなの!?」


「違う違う。多分……お腹が減ったんだと思う。けど何も食べさせてやる物がない。あぁ……俺の甲斐性なしが怨めしい!!」


 パンか小麦と水さえあれば、布に丸めて非常時用のミルクは作れるんだが、手元には何もなくてアビスの泣き声に胸が締め付けられる思いだった。早くダンジョンで稼いで、食料品も買わないとならない。


「は?? 何言ってんのよ。その為にあんたがいるんでしょうが」


「お前こそ何言ってんだこのポンコツ蝶々!! 今の俺のDPは0だ、工夫の仕様が無いんだよ!!」


「だ、だ、誰がポンコツ蝶々よ!! あんたの方がポンコツのハゲゴブ野郎でしょうがぁあ!!」 


「ふぎゃぁぁぁぁぁぁ!! ふぎゃぁぁぁぁぁあ!!」


 ポンコツ蝶々のせいで、さっきよりも泣き声は激しくなって来た。慌てて背中を優しく叩きアビスをあやしてみるが、中々納まらない。魔物が少ない場所を選らんでいるとはいえ、さすがに視線は集まってしまう。本格的に困った。


「だ・か・ら!! お腹減ってるんだったら、さっさとアビスたんに血を上げなさいよ!!」


「は?? 血ってお前、赤ん坊に血をやるなんてありえ……ない??」


 いやいやちょっと待て、アビスだって魔物だ。まさか俺は勘違いしているのか??


「ヴァ厶ピーラという種族は血で生きていけるのか??」


「血でも普通の食事でも大丈夫よ。そもそもヴァンピーラは吸血鬼と人間とのハーフなんだから、あったり前じゃない」


 当たり前じゃねぇよ!!


 ドヤ顔が無性に腹立つが、アビスの為だと我慢してヴァンピーラについて何点か質問した。


 どうやらヴァンピーラは、吸血鬼と人の良い部分を多く継承しているようで、日光は克服し、食事は人も血も栄養として取り入れる事が可能で、ただその分、吸血鬼のように不老ではないらしい。


 ものは試しだと、まず自分の人差し指の爪を噛んで短くし、なるべく綺麗な布で拭いた後、親指の鋭い爪で人差し指の先端に傷を付けた。


 赤黒い血がぷくっと浮かぶのを確認し終えると、恐る恐るアビスの口に入れてみる。


 チュウチュウと頬を動かし懸命に吸い付いて来るのには驚いたが、なんだか母性本能的な何かが満たされていく気分になる。


 取り敢えずほっとして顔を上げると、慌てて消し忘れたシステム画面に気が付いた。





「……ここだ」

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