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第6話 ザコゴブ


 ダンジョンシステムを起動した。


 左手から、タブレット端末サイズの半透明なウィンドが出現し、信じられない驚きと興奮が沸き上がるのを感じる。


 今更ながらファンタジーと言うか、まるでゲームのような世界だ。そういうのは元々じっくり攻略するのが好きなんだけど、そうは言ってられないのは現実だからだろう。


 システム画面を覗くと様々な項目が並んでいるが、まず目を引くのは画面の半分を締めるステータスだ。


────────


レベル1 種族 ゴブリン 


名前 ヘル


HP 4/5

MP 5/5

力 1

体力 1

素早さ 2

賢さ 13

運 5

魅力 1


スキル

精霊魔法Lv1

言語Lv3


称号

転生者 妖精の契約者


────────


 この世界の魔物の平均的な強さは知らない、が、絶望的なまでに弱いだろう……これは。


 何故か昔、出来の悪い通信簿を渡されたのを思い出した。


 学校から帰ると、いつものように母親が夕日を浴びながら、トントンと刻み良い音を立て料理する後ろ姿があった。その日は普段とは違い、自分の口の中が酸っぱくなるのを感じつつ、ゆっくりと近寄るとぎゅっと握り締めた紙を怯えるように渡した。すると、いつも優しい顔が困った顔へと変わり、ただ黙って頭を撫でるのだ。それが堪らなく情けなく、悔しかった。


 駄目だ、今は思い出に浸ってる場合じゃない。


 さて、改めて大事な教科……じゃなくて、大事なステータスを確認する。今後のダンジョン生活において重要と言っても過言ではない、力と体力が1と分かり落胆する。


 ついでとばかりに魅力までもが1で、この格好良さが分からないシステムさんはぶっ壊れているに違いない。素早さと運は微妙な感じで賢さはマシな程度、ちょっと期待してたさっきまでの自分を殴り倒したいとそう思った。


「ど、どうなの!? なんか使えそうなステータスとかスキルある!?」


 幸いにもこのシステム画面は、自分以外の者には見る事は出来ない。


 綿密に創られたこのシステムって、一体誰が作ったんだろうなぁ、などと現実を直視出来なくなっていたが、取り敢えずフィアには転生者という部分以外を伝える事にした。


「……ザコじゃん……ザコゴブ……ぷぷ……あはははは!!」


「はぁ、笑い事じゃないだろう……」


「ふん!! もう笑うしかないじゃないこんなの。そもそもゴブリンな時点でたかが知れてるし、期待なんて最初からしてないわよ。それよりも、私との契約がなかったら、あんたはペラペラ喋るだけのただのザコゴブだったんだから、私に感謝しなさいよね!!」


 いちいち癪に障る事を言って来るが、今回は確かにその通りなので何も言えないのが悔しい。フィアが言うには妖精との契約の際、稀に互いの能力を共有するケースがあるらしい。精霊魔法でどんな事が出来るのかはまだ分からないが、唯一可能性を感じるスキルなのは間違いない。


 精霊魔法については一旦後回しにして、次はショップと書かれた部分に触れる。


 商品名がズラリと並ぶ画面に切り替わり、日用品から武器、防具といったダンジョンで使用する物、家財道具や更には住宅まで購入出来るようで驚いた。


「これって購入したら、何処から物が届くんだ??」


「はぁ!? そんなのその場に出て来るに決まってんじゃない」


 納得出来ない説明だったが、まあ何か購入して見ればどんな感じで出て来るのか分かるだろう。


 ただ、今は全ての商品名が灰色に表示され、試しに1つ選らんでタップしてみても何も起こらない。恐らく商品名の横に書かれているDPが足りていないのだろうと予想する。


 システム画面の右上の端には、現在の所持DPが0と表示されていて、ダンジョンでの活動やギルドでの仕事をすれば、完了後振り込まれるとドッペルさんは言っていた。


 さて、このDPの価値についても、検証してみる必要がある。


 食料品の『カチカチの固いパン』が、最安値の1DPで販売されている。次に『柔らかいパン』が3DP、『冷めた屑スープ』が2DP、『具だくさんスープ』は5DPで表示されていて、他にも何種類かをざっと過去の世界の物価を思い出しながら導き出した結果、もといた世界の通貨である100エンでこちらの1DPに近いと感じた。


 あとフィアが言っていた『進化の実』は1万DP、『レベルの実』は100DPで、レベルの実は買うだけ倍の値段になるようでどちらも今はどう仕様もない。


 因みにパンで1番高かったのは『ふわふわ雲の幻パン』1000DPだった……なんだそのパン。


 次にスキル項目も見てみる。


 火魔法・水魔法・風魔法・土魔法と馴染みのある属性魔法類から毒耐性や麻痺耐性などの状態関連のスキル、貫通、硬化など強化系スキルなど、様々な種類がびっしりと並んでいる。当然、効果が高そうなスキルほど比例して高額になっていく訳だが……もう高い、高過ぎる。


 例えば火魔法Lv1のお値段が1000DPで、これが魔法の最安値だから目も当てられない。それなら手頃で使い勝手が良さそうと『夜目』や『ひっかく』などの初期スキルを見ても500DPと、まるでお話にならなかった。


「そうそう、思い出したわ。ちなみに魔物ごとに得意不得意があって、それによって購入DPは変わるの。例えば火山で生活している魔物は火属性関係の魔法やスキルは安く購入出来るし、逆に水属性関係は高額になるわ。あと進化した強い魔物は購入しやすくなってるし、弱い魔物は高く買う事になるって仕組みもあるわね」


 フィアの補足を聞いて、後半部分は人間だった世界でも似たような仕組みはあったなと思った。権力者達は権力を行使して、民衆に自分達の都合の良い情報を浴びせ続け、権力者はより権力を、金持ち達はより金持ちになる為の法律や仕組みをどんどん作り出していったものだ。


 詰まるところ、どちらの世界も弱者に厳しい。


「じゃあゴブリンは……器用貧乏ってところか??」


「まぁ……良く言えばそうね。悪く言えば満遍なく不器用ーー」


「言うな!! もう俺のHPはゼロだ!!」


「……何訳わかんない事言ってんのよ。とにかく、重要になって来るのはスキルを取るにしても、タイミングが大切って事よ。進化してから効率良くスキルを取ろうとして死んじゃう魔物は多いのよ?? 反対に最初からスキルを沢山買うとかなり損する事になるからバランスが大事よ。バ・ラ・ン・ス」


 今直ぐどうこうする事でもないけど、確かに延命出来た際には、重要になって来るのは間違いない情報だった。


 残るのはダンジョンとパーティの項目となった。


 この後、ダンジョンに入らないといけないなら、まずはギルドで手続きしたパーティの確認をして置こう。


 ドッペルさんの説明だと、システムからパーティメンバーのステータスが見れるらしいので、アビスのステータスも念の為見ておく必要もある。


 画面が切り替わり、アビスのステータスに目を通していった、が、ある1点で目が止まる。


 なんだこれ……


 種族やステータスなどは今はいい。


 ただーー


 見慣れぬ()の文字に、俺は目が離せなかった。


────────


レベル1 種族 ヴァムピーラ


名前 アビス


HP 3/3

MP 8/8

力 2

体力 1

素早さ 1

賢さ 2

運 88

魅力 33


スキル

不死(固有)

吸血(固有)

虚弱体質(呪)


称号

妖精の寵愛

生と死の結晶

────────

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