表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/24

第23話 私という存在は


 私の名はフィア、闇の妖精としてこの世に生まれた。


 人間が住む世界のとある深い深い森で生まれ、その時の記憶は朧げでよく覚えていないけれど、私は妖精の先輩達に囲まれて生活を始めた。


 仲間の妖精達は咲乱れる花々のように色鮮やかな妖精達ばかりで、真っ黒な妖精は私だけ。少し不思議ではあったけれど、周りのみんなは同じように接してくれていたし、そんな事はまるで気にならなかった。


 森での時間はとても穏やかに流れ、それは反対に刺激が少ない事の現れでもあった。時折、外から里帰りする仲間の話にみんなが一喜一憂しながら耳を傾けるのは自然な事だったし、私もその中の1匹だった。


 今思えばこういった環境もあって、妖精はとても噂好き、なんて人々の間で噂されるのだろう。


 まだ幼く好奇心旺盛だった私は、当然の如く外の世界に憧れ話を聞けば聞くほど、その気持ちは段々と募っていった。


「女王様、私も外に出てみたい!!」


 ある日、意を決してこの森のまとめ役である女王様に相談した。けれど、返ってきた答えは想定していたものとは違った。


「……フィア、貴方にはまだ早過ぎます。外の世界は貴方が考えているよりも困難で厳しい。人々は我々を友と呼ぶ時もあれば、隷属し玩具として扱う時もあるのです。それに貴方は闇の妖精、人間にとって闇は受け入れ辛い存在なのです。その為にも――」 


 この時、私は怒りで話の半分も聞いてはいなかった。でも、日が変わって冷静に考えればここは女王様が守護する場所。勝手に出ていけば二度と戻って来られない掟があり、渋々だったが我慢せざるを得なかった。


 何故なら、この世界で妖精が住める場所は非常に限られ、私達にとって帰るべき場所が無くなるという事は死と同じ意味になる。


 しばらく落ち込む日々が続いたけれど、諦めきれない私は自分がまだ幼く足りない部分があるからだと前向きに捉え、貪欲に外で生きる力を身に付けようと努力を始めた。


 まだ未熟だった私は魔力操作や精霊魔法を必死になって磨いた。


 何人、兄や姉を見送っただろう。


 何人、弟や妹を見送っただろう。


 先達の者の話ならまだしも、後から生まれた仲間の話は私の胸をぎゅっと苦しくさせる。


 何度も季節がぐるぐる変わっても、それでも私の許可は降りなかった。


 そして、あの夜はやって来た。


 新しい精霊魔法の習得に浮かれた私は、それを使って闇の中に沈み込むと女王様を驚かせようと住処に向かった。


「やはり、フィアには許可してやらないのですか??」


 その声は女王様の側近のものだ。


「……ええ、今は当たり前のように人間と関わる事が増えましたが、我々妖精と人間は違う。良い関係を築いている者もいますがそれはほんのひと握り。それどころか、年々悲しい最後を迎える子も少なくない。ましてやあの子は良い意味でも悪い意味でも特別な子、ここに居る方が幸せなのです」


「……なんで」


「フィア!? どうして――」


「なんでっ!! 私の幸せがここにいる事だって決めつけるのさぁ!!」


 最初から女王様は私を出す気はなかったのだ。今迄の自分は何だったのかと、認めて貰う為に努力して来た時間は何だったのかと、泣きながら森を飛び出した。


 もはや私に後悔はなかった。


 私は私の幸せを見つける自由と引き換えに、その日故郷を捨てた。


 今まで耳にした人間の情報を頼りに、私は姿を隠し人々が住むという街へ向かった。きっと困った人を助ければ仲良くしてくれる、そしたら友達になれるかもしれない。そう考えた私は困った人を探した。


 探せばすぐに困った人は見つかるけれど、沢山の人前には出れない。それが危険なのを既に教えられている私は、安全な条件が揃うのを待った、が中々見つからない。


 ぐぅっとお腹の音がなり、自分のものだと知って驚いた。妖精の住む森ではこんな事は起こらないからだ。新しい発見に少し嬉しさを感じる一方、早く誰かを助け魔力を分けて貰わないとまずいとも思った。


 夕暮れ時、運良く人気のない脇道で泣く一人の少年を見つけた。すぐに飛んで行き、意を決して姿を現す。


「私はフィア、闇の妖精よ!!」


 だけど――


「ひっ、ひぃいいいい!! ば、化け物ぉお!!」


 脅えた様子で走り去る少年を唖然としばらくの眺め、酷く動揺している自分に気付いた。やがて辺りから人の気配が集まるのを感じ、その場から逃げるようにその場を去った。


 そういう事もあると何度試してみたけれど、何故か私を見た人間は脅え、また逆に威嚇して掴み掛かって来る者までいた。


 数日が過ぎ、困惑と空腹で酷く身体が寒くなり、無意識のうちに暖かい場所を求めて、私は知らない民家に忍び込んだ。


 夜で部屋は少し暗いが、暖炉には暖かい火が灯っている。隅には木で出来た四角い枠が置いてあり、中には小さな赤ん坊が眠っていた。


 すやすやと眠るその子にそっと触れてみれば、とても暖かく何故か涙が込み上がる。


 ごめん、ごめんねと何度も許しを請い、少し魔力を貰ってその場を立ち去った。


「これじゃあ、ほんとに化け物ね……」


 帰るべき居場所を失い、自分が人々に恐れられる存在と知って、結局やっている事といえば人の家に勝手に忍び込んで小さな赤ん坊から魔力を奪ったのだ。


 女王様の言う通りだった。人間の世界なんか来なければ良かった。でも、もうあそこには帰れない。かと言って、このまま死ぬ勇気も持ち合わせていないそんな私は、なんて愚かで酷くい妖精なのだろうか。


 醜い私はそれから何年も何十年も人間の中で生きた。もう姿を現して人助けをする事はしなくなり、どうしても助けたい時は常に姿を消して出来る事をした。空腹になれば赤ん坊から少し分けて貰い、せめてものお詫びとして耳元で囁かな妖精の歌を歌う。


 赤ん坊はどの子もふわふわ柔らかくて暖かく、甘い香りは私の心を落ち着かせてくれた。まるまるとして可愛い赤ん坊は大好きだった。


 ふと、興味本位で何度かわざと赤ん坊の前で姿を現してみた。そこである事に気付く。私は人間に対して良くない何らかの影響を与えると言う事だ。


 赤ん坊に対して遠くからゆっくり近付いたり、突然目の前で姿を現したり、心地良く歌を聞いている途中で見せたりと様々なパターンで試したけれど、近ければ近いほど赤ん坊は泣き出してしまう。


 大人に対して試してみれば、金だ、金持ちになれるぞと私を狂った目で必死に捕まえようと襲って来た。


 なんの事はない、私は人にとって呪われた妖精だったのだ。


 事実を知ってからは、私は長い年月、人間の街から街へ、国から国へと流離った。


 幼かったあの頃、妖精が住む森で仲間と伴に目を輝かせた冒険碌はそこにはなく、私の旅は孤独と罪を重ねる酷い旅だった。


 あの日、彼女と出会うまでは――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ