第22話 手にした力
いつもと変わらず胡座を組み、魔力操作の訓練を行った。過去数十回と試みた魔力のコントロールとは違い、今までが嘘のようにスムーズで指先に魔力を集める事が出来る。
「おおお!! 上手く動かせるぞ!!」
頭痛や吐き気も起きないし、これは多分成功しているに違いない。そう思いフィアの方を向けば、まるで教える気がなさそうな顔がそこにあった。
「はいはい……おめでとうさん」
頬をぷぅと膨らませ、横目でこっちを睨み付けている。
「いや、朝から人の顔を馬鹿にするのが悪いんだろうよ」
「はぁ!? だからって外にポイッて投げるなんて信じらんない!! ポイッよ!? あんな馬鹿にした投げ方初めてだわ!!」
「悪かった、悪かった」
「謝る時は1回!!」
いや、そもそも謝るのはお前の方じゃないのかと喉まで出かかったが、短い間柄とは言えなくなってきた関係から、言っても仕方ないかと1つため息を吐いて諦める。こちらが謝ると機嫌はすぐに直り、いつもの先生役を買って出る。ちょろすぎてちょっと心配だ。
「へぇ、上手く出来てるじゃない」
「ほんとか!? 次はどんな練習をすればいいんだ!?」
「……ふ、ふん。いい年したゴブリンが子供みたいな顔してんじゃないわよ。魔力操作としては初歩の初歩なんだから、次からは集める場所を変えて毎日続けなさい」
「俺は餓鬼なんだが……まぁいい。基礎が大事なのは理解してるつもりだけど、実際、魔力操作を鍛えたからって本当に強くなれるのか少し不安だな……」
「当然じゃない。そうね、なら試しに今の状態で精霊魔法使ってみなさい」
半信半疑のままフィアに言われたように、指へ魔力を集めた状態で精霊魔法を唱える。
「火の精霊よ、我が求めし場所へ、炎を灯せ」
指先に集めた魔力がスッと抜ける感覚の後、普段よりも大きな火が枯れ葉を燃やした。いつもはピンポン玉サイズの火の玉が、ソフトボールサイズになった程度と言えば分かりやすいだろうか。
「凄い!! これなら色々使えるぞ!!」
「ふふん、私に感謝しなさいよね。魔力操作は一見地味だけど、いろんなスキルの土台と言っていいスキルよ。もしかしたら、あの称号の影響が出て、他のスキルも獲得出来るかもね」
俺はなるほどと頷きながらも、ダンジョンシステムを起動させステータスを確認した。するとMPは7/12となっており、今の魔法で5使った事が分かる。
「今のレベルじゃ2回使って終わりだけど、これまでの精霊魔法は使い所が無かったし、かなりの進歩かもしれないな」
少し魔力操作の練習を行った後は、続けて豪腕のスキルを試す事にした。
ログハウスを造る時に購入した鉈を握り、近くにある直径30センチ程の木に向かって、まずはスキルなしで思いっきり振り下ろす。
ザクッと刃が数センチ食い込むのを見て、こんなものだろうと痺れる腕を擦って引き抜き、続けて『豪腕』を発動させる。
体の内側から熱い魔力が溢れてくる感覚、鉈を握る力は普段と違い持ち手の部分からはミシリと音が鳴る。
さっきと同じように力の限り思いっきり振り下ろせば、ドンッと自身の体に響く振動と音が伝わる。
「ふぁ、刃が全部入っちゃったね」
「おぉ……これはシンプルに強力だな」
20センチ程度の刃渡りは、分厚い幹に深く沈んでいる。よくよく考えると、想像よりも深く刃が食い込んだのは単純に筋力が1.5倍になっただけじゃなく、勢いを乗せた分も加算されたせいかもしれない。
「うぉ、このスキルもMP消費6と結構使うんだな」
残りのMPは1/12に変わり、豪腕だけなら2発とこちらも何度も使えるものじゃない。
「ま、ただのゴブリンにはない無い破格のスキルなんだし良いじゃない。保険も入った事だし、これからはダンジョンでバリバリ稼いで、レベルとランク上げないとね!!」
「……ああ、そうだな。欲しいスキルもあるし目標は1億DPだ。まだまだここからだ」
MPも枯渇してしまったので、次は家具作りに移る。家造りの余った材木を使い簡単な机や椅子をまず作った。
『木材加工』のスキルの影響は非常に面白いもので、どの木材のどの部分を使った方が良いか何となく頭に浮かぶし、加工している際は普段なら慎重になる部分がスムーズに進む。結果、日が落ちるまでに追加で棚やアビス専用の可愛い椅子も出来上がった。
特にアビスの椅子は、イメージだけを頼りに取り掛かったものの、我ながら上手く仕上がったと思う。
先に作った椅子と高さは同じにして、横幅はアビスに合わせる。あとは目の前に食器等が置けるよう小さめの机を設置して、最後に座った時にずり落ちないよう、Ꭲの字で固定する紐を結びつけて完成だ。全体的に角が無くなるように柔らかい曲線に削ったので、アビスの手で触っても大丈夫なはず。
「ヘル、貴方もう大工さんになった方が稼げるんじゃない??」
「ん?? これぐらい父親になるなら出来て当たり前だろ??」
「そんなわけあるかーーい!!」
いつもの騒音に耳を塞ぎながら、部屋の中央に机と椅子を置き、ドアの近くに棚を運び込んだ。今までの生活でコツコツ作っていた木製の食器等を並べ、後は足りないランプや布団を購入……あれ、何かが足りない。
「ベッド作るの忘れてたぁ!!」
「もう明日にしたら??」
「いや、このままじゃ気になって寝れないから、夕食食べたら作って来る」
「はぁ、変なこだわりというか、もう病気ね……」
やはり鬼火の青白い炎とは違い、ランプの灯りはログハウスの部屋をより一層暖かい雰囲気へ変える。
中途半端が嫌いな俺は急いで食事を終わらせ、アビスはフィアに任せ残りのベッドの材料を作った。組み立ては中でやれば良いので鬼火の灯りを頼りに急いで作った。
「ただいまぁ……」
「お帰りなさい。アビスたんはスヤスヤよ」
「…………」
「どうしたの?? なんかあった??」
「いや、何でもない。ちゃっちゃと組み立てますか」
入口から一番奥の窓際に部品を運び込み、黙々とパーツとパーツを組み立てる。
「ねぇヘル」
「なんだ??」
「その、ヘルって私の事あまり聞いて来ないよね??」
「あぁ、そう言われればそうだな。でもフィアだって俺の事を深く聞いて来ないだろ?? そういうのは言いたくなった時に言えば良いと思うし、無理に聞くものじゃないって俺は考えてる。でもそうだな……っと、出来た」
完成したのはセミダブルサイズのベッドが1つと、新しい椅子が1つ。
「ほら、フィアの椅子だ。座ってみろよ」
「え?? これ、私の……椅子??」
「ああそうだ。あんまりじっくり見ると、その、怒るだろ?? だからサイズは何となくで作ったから、多少大きかったりするかもだが」
「あ、あり……がとう」
フィアは少し顔を伏せ、ふわふわとその椅子に座った。椅子の座り心地はどうだろうかと少し心配しながら彼女の反応を待ったけれど、中々反応が返って来ない。
「お、おい。やっぱりサイズが合わなかったか??」
フィアは小さな手で椅子をゆっくりと撫で終わると、顔を上げた。
「とっても、とっても嬉しいよ……ヘル」
華が咲いたように頬を染め、涙が宝石のように流れて優しく微笑む姿に、不覚にもドキッとしてしまう。正直、どうしてそこまで喜んでくれたのかはわからないが、ひとまず喜んでくれたようでホッとした。
「あ、あぁ。ごほん!! さて、せっかくだ。さっきの話の続きをしようか」
涙を恥ずかしそうに拭った後、フィアは首を傾げてなんの事か思い出そうとしている。
「まだフィアが知らない、俺の事を話そうと思う」
目を見開いて驚くフィアの顔はちょっと面白い。
そう、俺が転生しこの世界に来た事を伝えるつもりだ。さっき「お帰り」と言われた時、なんだかもうそれは家族のようで、もう良いかなって思えた。だから、それなら俺からだろうってそう思ったんだ。
「ダメ、駄目駄目駄目!!」
頭をぶんぶんと左右に振り、思わぬ否定に俺は困惑する。
「どうして――」
「これは……私からじゃないと駄目なのよ」
揺らがぬ瞳で見つめ、1度深く息を吐き出すと意を決したように彼女は言葉を紡いだ。
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