表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/24

第21話 ダンジョン保険

 

「ダンジョン保険て、いつもドッペルさんが推してくるあれだろ??」


 ダンジョン保険とは、魔物がダンジョンで活動する際に契約者が戦闘などで致命傷をおった場合、強制的にダンジョンを離脱するというサービスを受けられる商品だ。


「そうよ!! ダンジョンで出来た傷や状態異常も元通りになる高性能付だし、そもそもほとんどの魔物はこのダンジョン保険に加入するものなのよ。ヘルのように加入しない魔物なんて、知能が低い魔物かよっぽど命知らずの馬鹿しかいないわ!!」


「やめろ、照れる」


「褒めてない!!」


 目の前でふわふわ浮かぶフィアは、いつもの雰囲気とは違い真剣な瞳を向け続けて口を開く。


「忘れてるかもしれないけど、あんたが死んだら私も死んじゃうの。そしたらアビスたんは1人ぼっちになっちゃうじゃない……そりゃあ初めは寿命の事やら金欠やらで仕方ないって黙ってたけど、これ以上は絶対駄目よ!!」


「ちゃんと覚えてるさ。分かってはいたんだダンジョン保険が重要だって事はな。ただ如何せん高いんだよ……」


 そう高い。


 ダンジョン保険に加入すると、ダンジョンで働く度に稼ぎの3割、戦闘不能で戻って来た場合には追加で更に3割取られる事になる。


 例えば、DP100のダンジョンミッションを受けたとする。入った段階で70DP、途中上手くやっても冒険者に敗北すれば結局40DPになってしまう。もちろん命あっての物種だが、いままでその日を生きるのに精一杯だった俺には、入るという選択肢はなかった。


 ちなみに人間側から見るダンジョンは、一般的にはダンジョン内で魔物を倒すと光の粒子になって消えて見える。その現象こそがダンジョン保険の効果だとフィアは説明した。また、魔物が消えた後に残る魔石はその魔物が払ったDPで創られているらしい。つまり、魔物は防衛役として働きながら、実は撒き餌のような役割りも与えられているという事だ。


 では、俺のように保険に入らずダンジョンで死んだ場合どうなるのかといえば、ダンジョンが死体と魂を飲み込み、その場に何らかのアイテムや普段よりも大きい魔石に交換されるという。所謂レアドロップ扱いだ。


「ゴミ拾いで稼いだDPもそこそこ残ったんだし、これからまたダンジョンで働くならいい加減保険に入りなさい!!」


「むぅ……この際仕方ない……か。出来れば『キュア』を買うまではって考えてたが、このままじゃ100万DPなんて程遠くて、貯める前にいつ死んでもおかしくないよなぁ。それならフィアの言う通り、稼ぎは少ないけど保険に入って次の進化を目指し、少しでも安く買う方が建設的か…………よし、ならそうするか」


「わ、わかれば良いのよ……ほら、置いてくわよ!!」


「え、今から!?」


 正直、ログハウスの完成で気が抜け、積み重なった疲労の影響から身体が重い。俺の気が変わる事を危惧しているならそれはないとフィアに言ったのに取り繕う気はなさそうだ。


「こういうのは早いに越したことはないのよ。それに幸運の女神様は逃げるのが得意って言うでしょ??」


 初めて聞いたわ!!






「――という訳で、ダンジョン保険に加入したいんですが」


 ゴミ拾いの手続きを終わらせた後、ドッペルさんに事の顛末を話すと納得といった様子で1つ頷いた。


「なるほど、それは良い判断だと思います。正直なぜ今まで入らなかったのか追求したいところではありますが、今はいいでしょう。それよりも、もうゴミ拾いは良いのですか??」


「ええ、ようやく家も建て終わって、貯えも少しは出来たので、これからはまたダンジョンに潜る予定です。ご心配をお掛けしました」


「いえいえ、それは良かったですね。では、改めてダンジョン保険について説明しましょうか」


 ドッペルさんが丁寧に話す内容は、既に把握していたものがほとんどだったが、知らない部分も存在した。


 この保険はダンジョンマスター達がギルドへ業務を委託しているものだった。重要なダンジョンシステムなどはギルドの登録によって初めて機能が使える為、ギルドの商品かと勝手に想像していたのだ。


 しかし、今まで得た情報から推察すると、ダンジョンでDPを魔石に変換する能力や帰還の条件設定などは、ダンジョンマスターの権限で行われると考えればそれもそうかと納得する。


「――以上で、説明は終わりです。あと1つ補足しておきますと魔物ランクが高くなればなるほど保険料は安くなりますので、是非頑張って下さい。契約後からは直ぐに機能が働きますので、今迄の内容に問題がなければこの輪に左腕を通してください」


 ここでも弱肉強食ルールなのかと苦笑いを溢しながら、鈍く光る銀の腕輪に手を入れた。腕輪が優しい光に包まれ、やがてそれは消えた。


「はい、これで手続きは全て完了です。お疲れ様でした」


 ドッペルさんに一礼すると、再び我が家へと向かった。到着した頃にはすっかり日は傾き、紅には随分と黒が混ざっている。


 ダンジョンはダンジョンシステムを使って何処からでも入る事が出来る。ただ報酬の支払いはギルドの窓口でないと受け取れないというだけだ。


 これからは我が家からダンジョンに潜る事になるが、保険に入った事で安全にダンジョンに挑めるからといって、こんな時間帯から入るなんて選択肢は俺にはない。


 取り敢えず明日は新しく手に入れたスキルの検証、それに最低限必要なベッドや机と椅子、それに時間が余れば棚なんかも造りたい。


 せっかくログハウスを造ったのに、中途半端なままだと歯に骨が刺さったみたいで気持ちが悪い。昔から終わり方には変なこだわりがあったし、これも性分だなと硬い床を背に苦笑した。



 

 目を覚まし背を伸ばすと、バキバキと関節がなる。


「……やっぱり、俺の布団もそろそろ買うか」


 節約に節約を重ねて来た結果、未だに俺は自分の布団を購入していなかった。予備の麻袋を掛け布団代わりに数枚使う程度だ。新居での初めての目覚めとしては、さすがに快適とは言えなかった。


「いや、それだと勿体無い……少し大きめのベッドを造って、アビスと一緒に寝れる布団を買う方がいいな」


 我ながら良いアイデアだと心を踊らせていると、ふらふらとフィアが起きて来た。


「朝から何1人で笑ってんの?? キモ」


「…………」


「ぴぎゃぁああああ!!」


 フィアを鷲掴みにして外に出てぶん投げた後、両手を広げて森の濃い空気を吸い込む。


「はぁああ、やっぱりここの空気は美味い」


 少し離れた場所からは光を纏った川が流れ、心地よい音を奏でている。少し湿度もあるが、これはマイナスイオンかもしれないと根拠なく喜んだ。


 さっそくラジオ体操を行い身体を解し、アビスのおしめと食事を終わらせる。習慣のように抱っこひもを括り付けた際、ふと頭の中で閃いた。最近首がすわり始めたアビスなら、赤ん坊専用の座らせる椅子なんかがあれば便利かもしれない。いや、今後もし離乳食なんか食べれるようになれば必要になるに違いない。


「良いアイデアが次々と浮かぶのは環境がいいからか?? まぁとにかく作る物リストに追加だな」

 


 そして俺は訓練を始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字報告で送ってますが、 『―』はダッシュと打ち込むと変換候補に出ます(^_^;) また、もう少し細いのは『─』罫線です。 『――』『──』と2つ並べて使ってください(^_^;) …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ