第20話 ログハウス
ログハウス造りを始めてからの日々は、それはもう大変なものだった。
あの後フィアが見つけてくれた移住先は想定していた以上に良い場所で、浅い森の中に小川が近くに流れ、少し小高く拓けたところは陽のあたりが良く何より空気が新鮮だった。
フィアがもの凄いドヤ顔でやって来たのだが、アビスの為に頑張ったのだからと素直に褒めたらまた叩かれた。いい加減にして欲しい。
今までいたラースの外壁近郊は乾燥し埃っぽく、ゴミ山が多く不快な臭いが充満しているので、子育てにはまるで向かない環境だったし、以前アビスが熱を出した際、苦しそうに寝込む彼女から時折ヒューヒューと不思議な音がして、ほぼ間違いなくアビスはぜんそく持ちだと分かった。いわゆる気管支喘息だと思う。
確か気管支とは口や鼻から取り込んだ空気が気管と呼ばれる筒のような場所を通り、2つの肺に分かれていく枝の部分を指していたはずだ。この気管支喘息はその気管支の内部に炎症が起こり、狭くなって息苦しくなる病気と記憶している。
説明が長くなったが、まぁそんな事もあって、移住を決めた1番の理由は実はアビスの健康のためだ。
俺達は直ぐにその場所に決め、近くに簡易住居を作ってから作業を始めた。ただ、割り箸で造るものとはやはり勝手が違い、実際どれ程の時間が掛かるかなんて概算でしかなかったので、直ぐ想定よりも進んでいない事に焦り、鬼火を使って夜も作業しなくてはならなくなった。
もともと何かを造るのは好きな方なので苦ではないが、冬が来るまでという縛りが緊張感となって俺の手は止まらない。止まらないったら止まらない。
まずは床底を上げる土台作りとして、小川からなるべく大きな石で理想的な形のものを荷車で何度も運んで並べ、DPで購入した鉄製のノコギリで木を切りまくった。
木の皮をこれまた購入した鉈でベリベリと皮を剥がせば、木材特有の暖かみのある部分が現れ、思わずテンションを上げた俺は、フィアに怒られるまで作業を止めなかったのは仕方がない。
1番手こずったのは、丸太の○の部分の上と下を平らに加工する作業だ。初めは鉈で試みたが直ぐに挫折した。出来なくはなさそうだが、時間が掛かり過ぎるのだ。
なるべく節約しようとしていたのに、泣く泣く鉋(500DPもした)を購入したが、これがまあ今までの苦労は何だったのかと言う程サクサク進む。何より綺麗に平らになるので、とても気持ちが良い。当然、本職の大工さんの様には行かないけれど、自分が住む家だし多少の凹凸は問題ないだろう……いや、もう少し削るべきか??
ある程度材木が揃ったところで、並べた石の上に基盤となる丸太を乗せ、角と角は上下を削ってはめ込むほぞ繋ぎを採用した。これなら俺の力でも荷車を利用して上手く出来たからだ。
後は支柱を立て、床になる部分に上が平らな丸太を敷き詰めて行き、更に厚めに切った木版を並べれば床は完成、壁となる部分にも補強しながら丸太を積み上げ壁を作っていった。この部分は結構自由が効くので、木窓を3ヶ所程作って部屋が明るくなるようにしてみた。
日中の労働をこなしながらだから、ここまでで2ヶ月も擁した。この辺りもあまり雨は降らないが、そんな日は日頃の疲れを癒やすかのように泥のようにアビスと眠った。
空が丸見えの箱状態から屋根を作っていき、外見はもはや完成されたログハウスとなった。
が、ここで手を抜いてはいけない。鉋で出た木片を購入した大量の麻袋に詰め込み、自然の断熱材として壁や床に敷き詰め板に打ち込み快適な環境に仕上げる。後は入り口に登る階段を設置し、ようやく念願のマイホームが完成した。
「……やっと、やっと完成だぁあああ!!」
「ふぉおおお!! ヘル凄ぉおおい!!」
あまりの嬉しさに、アビスを抱えフィアと新居の中でぐるぐるその場で回って喜んだ。
長かった……本当に長かったが、やり遂げたんだ。
「ヘルずっと頑張ってたもんね!!」
「あぁ、でもフィアがアビスの面倒を見ててくれたから捗ったのもあるからな、みんなで作ったログハウスといっても……ってどうした!?」
「うぅ……何だかちょっと、感動しちゃって……」
フィアは次々と溢れる涙を手で拭ってはいるが、止まる様子はなかった。
「まったく、いつもの調子はどこいったんだよ。でもまぁ……その気持ちは分かる気がするよ」
与えられた何かを熟すのではなく、自分がやると決めた何かを成し遂げた時、その感動は言葉では言い表せられないものだ。
「あぅあぁ。あうぁあ!!」
「あぁ、アビスも良い子にしてたからな。アビスのおかげでもあるぞ、ありがとうな」
そう言って彼女を優しく撫でたその時だ。
『条件を達成した事により、称号【生み出す魔物】を獲得しました。【生み出す魔物】の効果により、スキル【木材加工】【豪腕】【魔力操作】を獲得しました』
「は??」
突如、頭の中に流れた声に驚き、その場で固まる。
「フィア、フィア!! な、なんだか頭の中で声が聞こえて来たけど、これってなんだ!?」
「えぇ!? それ、神声だよ!! なんか凄い敵を倒したり、誰も行ったことのない未踏の地に到達したとか、あぁもう!! 兎に角、偉業を成し遂げた魔物に聞こえるレアな現象だよ!! 一生に1度聞けたら幸運て呼ばれるくらいレアなんだから!!」
「まじか……」
「マジよ……」
「きゃきゃ!! あぅあ〜〜」
固まってても仕方がないので、さっそくステータスと念じ半透明な液晶画面を呼び出した。
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レベル3 種族 餓鬼
名前 ヘル DP28563
HP 10/10
MP 12/12
力 6
体力 6
素早さ 8
賢さ 25
運 5
魅力 0
スキル
精霊魔法Lv3
言語Lv3
夜目Lv2
鬼火Lv4
飢えLv6
木材加工Lv1(new)
豪腕Lv1(new)
魔力操作Lv1(new)
称号
転生者 妖精の契約者 ロストエレメントの玩具 生み出す魔物(new)
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残念ながらレベルはゴミ拾いの日々を過ごしていたので、上がっていない。同様にステータスも同じなので割愛するとしてスキルLvは全体的に上がっていた。
ログハウスの製作中も日課は欠かさず行っていた事もあり、精霊魔法はLv3に、運搬中や夜の作業の成果もあって鬼火はLv4と伸びたのは嬉しい誤算だ。夜はただ鬼火の灯りを使っていたからか、夜目はLv2と控えめなのは仕方がないと割り切るしかない。
が、飢えLv6、君は駄目だ。フィアに言わせれば作業に没頭してご飯をちゃんと食べなかったヘルが悪いと言われたが、納得いかない。
さて、いよいよ新たに獲得したものに目を向ける。新たな称号が1つにスキルは3つも増え、いい年してワクワクが止まらない。
フィアに口頭で説明すると、目を皿のようにして驚いた。まぁ魔物がスキルを獲得するには、基本的に生まれ持つ場合や進化で獲得するか、もしくはダンジョンショップで購入するかだからな。
さて、フィアペディアによれば、『木材加工』は木材加工が上手に造れるだけでなく、Lvが上がる毎に完成した耐久性も向上するらしいので、これから家具を造っていこうとしていた矢先、丁度良いスキルと言える。
次に『豪腕』はMPを消費する事で一時的に腕力が1.5倍に上昇するスキルらしく、ダンジョンでも生活においてもかなり使えるスキルだと判明した。あれだけ木を切ったり、削ったりした、運んだりした影響かもしれないな。
最後に『魔力操作』だが、正直なぜこのスキルがこのタイミングで獲得したのかちょっと謎だ。毎日練習していたので手に入ったのは本当に嬉しいんだがどこか腑に落ちない。
「それはやっぱり称号の影響だと思うわ。称号自体レアなものだけど、稀にスキルLvが上がったりする事例は聞いたことあるし」
「ん〜〜なるほど??」
「それよりも家を建てて称号を手に入れるなんて、聞いたこともないわ」
フィア曰く、中級から上級の魔物達は収入も高く、ダンジョンポイントで家を買うのが普通らしい。ましてや俺のような低ランクの魔物達は稼ぎが少ないので、掘っ立て小屋を造って生活をするのがせいぜいなのだから、わざわざ材料から家を建てるもの好きなど、そうはいないのかもしれないな。
「なにはともあれ、新しいマイホームとスキルが手に入ったんだ。ようやく本腰入れてダンジョンで働けるな」
「その事なんだけど、この際だからハッキリと言っておくわ!!」
突然、真面目な顔で何かを決意したフィアが睨んで来る。最近忙しくて構ってなかったのが原因だろうか??
「ヘルあなた、いい加減……いい加減にぃ……」
もう駄目だ、まるで思い当たらない。
「ダンジョン保険!! 入んなさいよぉおお!!」




