第19話 冬支度開始!!
「そりゃもう夏も終わりの頃だし、あと3ヶ月もすれば運が良かったら雪の精霊に会えるかもね……って、どうしたのよ、そんな絶望的な顔して」
この世界も四季が巡っているのなら、食料は問題ないが、あんな簡単な家とも呼べない場所では冬なんて超えられるはずがない。雪でも降れば屋根は余裕で崩れ落ちるだろうし、室温はかまくらにすればなんとか……いや、病弱なアビスではさすがにーー
「おぉい、ヘル、ほんと大丈夫?? 駄目だこりゃ……ぐふふ……チャ〜〜ンス。やぁい、はげゴブぅ、円盤はげぇ、でぶぽよぉ、ぷぷぷ、何これうけるぅ」
フィアはここぞとばかりに悪人ヅラへと変貌し、俺の自慢の腹をツンツンし出したが、それが皮肉にも俺の殺る気スイッチを押した。俺の脳内は予定を大幅に修正しフルスロットルでプランを構成し直していく。
稼げるであろう収入と支出から生活費に掛かるコスト、アビスのお薬代や怪我をした時の為にもある程度予算を割き、必須となる道具類の購入費は随時用意すれば……よし、時間もDPもギリギリだが何とか行けそうだ。後は効率をあげる為にドッペルさんにも相談しないと!!
決断するや否や、バシッっとフィアを掴んでギルド窓口へ一直線で走り出す。
「ぎゃぁああ!! め、めり込んでるぅ、色々めり込んでるぅううう!!」
「ん?? 駄目じゃないかフィア、静かにしないと魔物達に見つかっちゃうだろ??」
「ゆ、許し……て……ぐぇ」
さて、フィアは何故か寝てしまったようだし、静かなうちにサクサクやっていくとしよう。
相変わらず時間に追われる日々で、まるで余裕がない生活だが僅かでも良い方向へ進んでいくこの感覚は嫌いじゃない。
すぐにギルド窓口へ到着し、行列に並ぶと15分程してようやく順番が回って来たので、さっそくドッペルさんに相談しようとしたら初っ端で叱られた。
どうやら先日のトラブルは既にギルド経由で把握しているらしく、普段からは想像出来ない恐ろしいオーラを放っていて、慌てて事細かな経緯を説明する事になった。
「まったく……事情はわかりましたが、同族殺しを名乗るなんて暴挙、今後は絶対にしないで下さい。確かに事情を知らなかった事で起こった事故ともいえますが、この世界では知らない事も弱さの1つとなるんですよ??」
ドッペルさんからすれば紹介した手前、簡単に死なれては寝覚めも悪いだろう。しかし、こんな低ランクの中の1匹に対して、本気で叱ってくれるドッペルさんに謝罪と感謝をしつつ、今後の相談を始めた。
「はい、朝にゴミ拾いの完了報告は可能です。ですが、まだゴミ拾いを続けるつもりですか?? 私としてはダンジョンでの労働か、外壁の修繕工事を勧めたいのですが……」
「お気遣いありがとうございます。でも、今後のダンジョン活動する為にも、今の内にどうしても手に入れたいものがあるんです。勿論ずっとじゃありませんから心配しないで下さい。問題なければ手続きお願いします」
ドッペルさんが呆れた様子で肩を竦め、ゴミ拾いの手続きを終えた後、直ぐにギルドで荷車を借りた俺達は、また外壁の東側へ向かう。
現場では今日もモリーさんがゴミ山で積み込みの作業を行っており、頭を下げて昨日の御礼を言うと、その細い目を更に細め「気にすんでねぇ、がははは!!」と笑って昨日よりも多めにゴミを乗せてくれた。
やめろください。
このゴミ拾いにおいては、重さや体積など関係なく一杯は一杯でカウントされるので、ご飯大盛りよ的なノリで積まれてもありがた迷惑でしかないのだ。
昨日御馳走になった手前、いまさら減らしてくださいなんて言えないし、ま、まぁ命を助けて貰ったんだ、頑張るしかない。
紅に染まる草原を進むと、街からは比べ物にならないくらい新鮮な空気が、肺を満たしていった。やはり街の近くは空気が悪いのだろう。
今日も練習として鬼火の操作に集中しながらも、少しは見慣れてきたこの不思議な景色を眺め先に進むと、ようやく街とゴミ捨て場の間辺りに差し掛かった。南側にはポツポツと木々が増え始め、その先は森へと続く。
「おい、フィアそろそろ起きろ」
「ぅう……もぅヘルたらそんなに床に頭をつけなくてもぉ……まぶしいぃ、頭まぶしいぃからぁ……ぐふぐふ」
何だかろくでもない夢を見ている気がするが、何だかイラッとしたので鬼火で炙ってみた。
「ぎゃぁああああ!! って、何すんのよこの馬鹿ゴブリン!! 危うく焼き妖精になるところじゃない!!」
「すまん、すまん。それでさっそくだけど、食っちゃ寝妖精のフィアさんに仕事を頼みたい」
「誰が食っちゃ寝妖精よ!! 闇の妖精よ!! ってここ何処ぉ!?」
いつものマシンガントークの弾切れを待つ事しばし、息切れしたフィアに対して、この近くに川や生活に使える資源がないか調べて来て欲しいと頼んだ。
「はぁ!? どういう事よ。まさかここに住む気!?」
「お、珍しく冴えてるじゃないか。調べてみないと何とも言えないが、ある程度環境が揃っていればここら辺に住もうと思ってるんだ」
「いやいや、よく見なさいよ!! な〜〜んにもないじゃない!!」
その小さな人差し指をビシッと突き刺し、信じられないという顔でこちらを見る。
「あはは、そうだな。あれから色々考えたんだが、これから秋が来てそのあと冬が来るだろ。今住んでる簡易住居とも呼べない代物じゃあ、アビスと生活なんてとてもじゃないが無理だ。お前は冬の寒さに震えながら風邪をひいて苦しむこの子が見たいのか??」
フィアはアビスの事となると、最善を尽くそうとするのはもはや周知の事実で、こう言えばフィアも反対しにくいと分かっていた。
「そ、そんなの嫌に決まってるでしょ!? でも、あんたが作れる住処じゃあ、どのみち冬は厳しいと思うわ。木の下なら大丈夫と思ってるかもしれないけど、枝ごと雪が落ちたりもするし、かえって危険よ!!」
フィアにしてはしっかり考えている。が、問題ない。
「そこは大丈夫だ。今回の家は木を切り倒して造る、頑丈で快適なログハウスの予定だからな」
「はぁ!? そんなのも造れるの!?」
そりゃ、前世で学んだサバイバル術にはログハウス作成方法もあったから造れて当然だろう。パーツを購入して組み立てるログハウスなんてのもあったが、どちらかと言えば本格的に伐採から造り上げるパターンの方が好きで、それも熟知している。
俺にいつか家族が出来た際、自給自足せざるを得ない状況もあるはずだと思って、秘かに割り箸で何度も実験してみたので多分大丈夫だ。父親ならこれぐらい出来て当然だろう。
「ま、家造りの方は安心してくれ。だがその前に水源だったり、生活物資になりそうな資源が豊富な場所があればとても快適になるから、フィアの仕事はとても重要だ。俺は一旦ゴミを捨てて来るから、それまでに調べてくれればいいぞ」
「分かったわ!! 最っ高ぅ〜〜な場所を見つけて来てやるんだからぁ!!」
場所の選定は、フィアの方が適任だ。彼女は小柄で姿も消せるし、何よりも空が飛べるからだ。効率は俺がやるよりも数倍は上だろう。
それに俺は俺で、毎日掛かる生活費に加えこれから必要になる工具や備品のためのDPを稼がなければならない。
つまり、暫くの間の予定はこういうサイクルになる。
①朝、新住居予定地からギルドへ、報告しDPを得る。
②受注して荷車にゴミを乗せ廃棄場に捨てる。
③荷車を引き予定地に戻りログハウスを造る。
寝泊まり出来るまでは、ここに今と同じ簡易住居を作成し生活する。
予定は少し変わったが、今後の中長期計画を進めるにしても、ログハウスは我ながら良い案だと思った。でも野生動物や同族殺しに遭遇する可能性もない事はないが、街のスラムでもいつ何が起こるか分からなかったし、ダンジョンポイント1億の為には何処かで多少のリスクは取らなければ達成出来ないとそう判断した。
「さて、稼ぎますか!!」
こうして、いよいよ俺達の冬支度が始まった。