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第16話 連行

あけましておめでとうございます!!

 

 ようやく荷車からゴミを捨て、再びラースの街へと折り返して暫く、色々とあったので予定よりも作業は遅れ、もう前方には2つの太陽が沈み始めている。


 まぁ、これからあのサイクロプスのモリーとか言う魔物に会いに行かなきゃならんので、足取りが重くなってしまったのが原因でもある。


 あの感じだと子供好きなのは何となく分かる。が、あの時に怒った理由がさっぱり分からない。格上の魔物でしかも同族殺しなら、理由はどうあれ簡単に殺されそうで正直逃げ出したいところだ。

 

 けど、アビスの薬代を稼げる仕事は多分これしかないんだよなぁ……


 赤黒い夕焼けに目を細め、未だ見慣れない風景だと思いながら、人の気も知らないで目の前をぶんぶん飛び回るフィアに目を移す。


 ポンコツ蝶々は蛾のように俺の鬼火の周りを「ほぅほぅ」「へぇ〜〜」などとコロコロ表情を変えながら飛び回っている。


「何がそんなに面白いんだ?? いつも住居で見てるだろ」


「それはそうなんだけど。アビスたんのオムツ変える時とか血をあげる時しかこの火を出してないじゃない?? これって照明代わりの駄目スキルかもだけど、まさかこのスキル鍛えるつもりなの?? って、ぎゃぁああああ!!」


 青白い火がフィアの羽根のさきっちょに引火したかと思えば、慌てて地面にゴロゴロと回転して消化したようだ。


 おい、なんで俺を睨むんだよ。


「あんたのスキルでしょ!! なら、あんたの操作ミスじゃない、この円盤ハゲゴブリン!!」


「…………」


「ちょ、えっ!? あんた何で、その玉近づけ……いやぁあああああ!!」


 フィアが言っていた通りなら、こうやって地道に熟練度を上げればスキルレベルも上がるはず。というか既に上がるのは実証済みだ。何故なら求めていないのに【飢え】のレベルは上がっているからな……


 初めてスキルレベルが上がった時は、何か良い恩恵でもあるのかと期待したものだが、もっと空腹感が酷くなるだけの嫌がらせのような効果しかなくてがっかりだ。


「俺のスキルの中じゃあ、唯一リスクがない攻撃スキルだし、今直ぐ使えなくてもこうやって鍛えておくにこしたことはないだろう?? ほらほら、早く謝ったほうが良いんじゃないか??」


 意識を鬼火に集中し、右往左往に操ってフィアを追いかけさせる。やはりフワフワとしか動かせないが、ポンコツ蝶々へのお仕置き程度には使えるな。


「きぃいいいいい!! ごめんなさーーい!!」


 1度進化して少しはステータスも上がったが、それでもまだ人間1人にすら及ばない。ダンジョンならなおさらで、力は少しでもあった方がいい。


「あぅ〜〜あぅあ」


「ん?? どうしたアビス」


 まだ熱が引かないのか、ほっぺは赤い。時折目を開けて俺に向け手を伸ばしてくるのは、不安だからだろうか?? その手を優しく握り返して様子を見ると、夕焼けの光が彼女の紫の瞳を反射し、まるで宝石のように耀いて美しい。


 薬が少し効いているのか、朝よりも呼吸はマシにはなっているが、まだ苦しそうだ。早く戻って安静にして寝かせないと……


「はぅ〜〜可愛すぎるぅ……でも、アビスたんの体調が早く良くならないと、心配し過ぎてあたしの体がボロボロになっちゃうから、早く良くなるのよ〜〜」


 アビスの柔らかほっぺを撫でながら、フィアは眉間に皺を寄せ、口角を上げるという奇妙な表情を作り、アビスに話し掛ける。


 なんかちょっと気持ち悪いな……


「おい、お前は毎日、腹出して寝てるだけだろうが」


「うるさい!! このハラポヨゴブリン!!」


「ほぅ……ならば戦争だ」


「いゃぁああああ!!」




 そんなこんなで無駄な気力を消費して、クタクタになりながらラースに戻って来た。


 街に戻ると荷車を返却し、ゴミ山でギルド職員のブラックスライム?に手の平サイズの木片(荷車小と書かれていた)を受け取り、やはりそこで待ち構えていたモリーに連れられて、一緒に東側にある窓口でDPを確認する。


 普段なら500DPもの大金で踊りだすところなのに、まるでそんな気にはならない。

  

 驚いたのは、東門付近では有名なのだろうモリーが、ドスンドスン進むにつれ、海が裂けたかのように魔物達が道を開けたので、手続きはあっという間に終わってしまった。


 また、窓口の魔物がスケルトンで前世で見た理科室にあるような骨だけの姿をしており、モリーが「おうスケさん!! 今日もたのむべ!!」と近寄ると、あまりの振動に顎の骨が外れたのが印象的だった。


 いつかカクさんに会いたいと思う。


 ようやく俺の手続きが終わると、すぐさま「よし、付いてくるだ!!」と外壁のスラム街から離れた方向に連行された。付け加えておくが、勿論フィアは姿を隠し俺の肩で魔力を貪っていたりもする。解せぬ。


「さぁ、ついたど。ここがおらんちだ」


 小一時間程あるいて、ようやく到着した目前には、巨大なログハウスがそびえ立っていた。そう、そびえ立っているのだ。つまりこれはもうログハウスじゃなくて大型の木造倉庫だ。


 彼の後に続き、お邪魔しますと暗い部屋に入ると、モリーが大きなランプに生活魔法で火を灯しだした。直ぐに自分が小人になったかのような錯覚を覚える。


 広々とした木造の床に置かれた巨大なテーブルや椅子、部屋の窓際にはキングサイズのベッドを何個か並べたようなベッドがどんと設置され、奥に見える食器棚はいつかネットで見た国立図書館のような高さがあり、首が痛くなりそうだ。


「そこの椅子さ座って…………がははは!! こりゃすまねぇだ。大き過ぎだっだな!!」


「あははは……お構い無く……」


 結局、彼は自分の椅子に、俺はモリーの手作りだと言う木製のカップを椅子替わりに用意して貰った。この世界ではシステムでほぼ何でも購入出来るのに、手作りとは意外だ。


「まずは改めて自己紹介するべ。おらサイクロプスのモリーだ。おらの嫁がモリモリ食べるからそう名付けてくれたんだべ」


 指で鼻の下を擦りながら恥ずかしそうにモリーは言う。よっぽど自分の名前が気に入っているのか一目瞭然だった。


 しかし、この魔物の世界での名はよく分からんな……名前がない魔物も多い中、俺やモリーと言った名を持つ者も少数ながらいる。親が子に名を与える風習はなさそうだが、いまいち価値観が分からない。


 ま、今考えても分からない。取り敢えずは、この場を上手く乗り越える事に集中せねば……


「私の種族はゴブリン……ではなくて、1つ進化した餓鬼と呼ばれる魔物で、ヘルという名があります。この子はアビス、1ヵ月程前にあのゴミ捨て場で偶然見つけてから面倒を見ているんですが……」


「ほぅ……その子はアビスって名があるんか、何ともちっちゃくてかわえぇなぁ……」


 ちょっとモリーさん。近い、近いから!! 近過ぎて何故か俺の足がビートを刻んでるよ!!


 一通りアビスを観察し終えて、にかっと笑うとテーブルに向かい何やら作業を始めてまた戻って来た。


「挨拶も終わったで、話の前にまずは腹ごしらえするべ!!」


 そう言ってドンと床に置いた四角いお盆の上には、今まで見た事のない食べ物が山のように積み上げられていた。あまりの光景に思わず頭が真っ白になる。


「は?」


(ふぁーー!! す、凄いよヘル!!)


 でっかい猪の丸焼きや、これまたどでかい焼き魚や蒸し料理、多種多彩な野菜のサラダに宝石のように輝きを放つ果物がこれでもかと言わんばかりに山盛りだ。


「何固まってるだ?? がははは、遠慮はいらんど、おらの歓迎の印だで好きなだけ食べていいだ」


 俺が遠慮していると思ったのか、モリーは1つ魚を摘むとバクッと口に放り込み、お前も食えと顎を動かす。


 普段何とか抑えていた食欲は、目の前の料理からもたらされる香りによって決壊し、気付けば夢中になって口にしていた。いや、喰らっていた。




 それは、この世界に来てから初めてのまともな食事だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] フィアが相変わらずのおバカwww なぜに進んで地雷原につっこむのか(笑) あと、モリーは思ったよりもいい人(?)そう(・・? 【飢え】が癒やされるほど食べられるのかわからないけど、まともな…
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