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第11話 予想外

 

「クソッ!! なんでこうなった!!」


 薄暗く灯りが乏しい石畳のダンジョンの中、俺達は全力で逃げ続けている。後ろからは複数の嫌な足音が聞こえ、徐々にだが距離が縮まっているように感じた。


「ヘルもっと早く走りなさい!! 追い付かれるわよ!?」


 アビスをギュッと抱き締め、今の状況で何か打開出来る策はないかと思考を動かしても、迫りくる死と痛みが邪魔をして止まない。


 思考は理不尽な現実を受け入れず、なぜこうなったのかばかりを浮かび上がらせ、俺はそれに引き摺られしまいそうになった。





 

 俺達は2日目も頑張り屋のダンジョンに決めた。


 他のダンジョンリストも勿論チェックしてみたけれど、ここよりも自分が活躍出来そうなのは見つからなかったし、そもそも選べるほど選択肢も無い。


 体調は悪くはなく、昨日よりもダルさもマシになっているし、空腹から解放されているため思考も冷静に働いている感じだ。


 昨日の反省を活かし、両手が塞がるのは何かと不便で危険でもあると考えた俺はアビスをお包みのまま、さらに長い布で包み込むと胸の辺りに頭が来るように括り付けた。


 俺の心臓音ではあまり意味はないかもしれないが、赤ん坊はお腹の中にいる間、母親の心音を聞き続けている為、抱っこをする際は頭を心臓の方で行うと安心すると聞いた事があったからだ。


 アビスは首が座っていないので、なるべく平たい木板を見つけ出し支えになるように固定してある。そうして何とか抱っこ紐と呼べなくはない代物は完成した。


 準備を整えた俺達はダンジョンシステムを起動すると、再び暗黒のカーテンが視界を奪った。


 前回同様の浮遊感が過ぎ去ると、視界は暗く足の感触はゴツゴツしたものだった。


 高さ3m程度、幅は5mあるかどうかの石畳で覆われたダンジョンがそこにあった。草原や森のフィールドではないという事は4階か5階を引いてしまったのだと、自分の運の無さにため息が漏れるのは仕方無いだろう。


 俺達のような弱い魔物は、専属雇用された魔物とは違ってランダムでダンジョン内に飛ばされる。


 それは分かっていたつもりだったが、何もこんなすぐに下層を引かなくてもと口を開いたまさにそんな時だ。


「はぁ……ついてなーーッ!?」


 突如、焼けるような痛みが走った。左耳に無意識で触れれば、ヌルっとした感触に赤い血が掌を覆っている。


「ぎゃははは!! だから言っただろう。5階で弓なんて使えねぇってな」


「うっせぇ、黙ってろ。もう少しでスキルのレベルが上がりそうなのに、オメェらが文句ばっか言うからここまで付いて来てやったんだろうが」


 慌てて後ろを振り返れば、3人組の冒険者が目に入った。本能がそうさせたのか、俺はその場を全速力で逃走していた。


「チッ!! 一丁前に逃げやがった。ありゃ俺の獲物だ手を出すな!?」


「馬鹿野郎!! あのゴブリン、胸になんか抱えてやがったのが目え無かったのか!? レアなアイテムかもしれねぇ全員で殺るぞ!!」

 

 片手剣と盾を装備した男に、俺を狙ってきた弓使いと腰に短剣を両脇に携えた男達3人の会話が後ろから聞こえて来る。


 ただの赤ん坊だよ馬鹿野郎!! そんな事を言っても人と魔物、分かり合える筈はないだろうし、彼らにとって俺もアビスもただの経験値でしかない。まず見逃してはくれないだろう。狩る側と狩られる側がこうもあっさりと入れ替わるなんて、現実は恐ろしいと痛感させられる。


「ヘル!!」


「はぁはぁ!! 今話し掛けるな、気が散る!!」


 この身体は小さい分、小回りは効くが歩幅も小さい為、直線が長いコースなら直ぐに追い付かれるだろう。さらにダンジョン内は行き止まりも多数存在しているので、間違ってそこに追い込まれてしまえば詰みだ。


 息を荒げ、今にも発狂しそうになるのをグッと押さえ込み、マップを見て逃走するルートを必死に模索するしか今出来る事はない。


 しかし、不幸は重なるようにやって来た。


 嘘だろ……


 進行方向から別の冒険者の赤い点がこちらに向かって来ている。まだ左側に通路はあるが、その先は行き止まりの道だ。


 もうここまで来たら、賭けに出るしかない。俺は腹を括り、その場で止まると少しでも息を整える。


 俺が考えている基本的な人間の討伐方法は、準備に準備を重ね安全マージンを確保して罠を中心としたスタイルがメインだ。勿論それはこの小柄なゴブリンの身体能力では人間1人すらまともに戦えないのが理由だ。


「何諦めてんのよ!! ここで死ぬつもり!?」


「そんな訳あるか。本当は他の魔物に合流出来れば良かったがそれよりも向こうからも冒険者が来る」


「あばばばば!! ど、どうすんのよ!?」


「殺るしかない……と、言いたいところだがそのまま戦っても100%負ける。だから策を考えたんだ、フィアちょっと手を貸せ」


 残り僅かな時間を使い、フィアに作戦内容を伝えると彼女は急いで飛び去った。俺は俺でマップを睨みつけタイミングを測る。


 後ろの冒険者とはそこまで離れていないはず、急いで左側の道に入り、身を屈め姿を隠すと準備に取り掛かった。


「ちょろちょろ逃げやがって!! だがやっぱゴブリン。そこの通路は行き止まりだっての。ぎゃはははは!!」


 斥候役であろう短剣使いが先頭でやって来た。


「油断すんじゃねぇぞ。野生の魔物じゃないのに逃げるなんてちょっと可怪しいからな」


「へいへい。冒険者ギルドの講義で、耳がタコになるぐらい聞かされたっての。普段とは違う事があれば細心の注意を払えってな。だけど、ゴブリンだぜ?? 俺らがやられる訳ねぇじゃん」


「お前はその早死にしそうな性格をまず直せよ、それよりリーダー、追い込んだんだし今度こそ俺に殺らせてくれ」


 なるほど、片手剣の男がリーダーで、弓と斥候がメンバーってとこか。


「お前らどっちもどっちだ……ん?? 待て、向こうから同業者だ」


「面倒くせぇタイミングで来やがるなぁ」


 小走りで対面側からもう1つの冒険者パーティが現れた。彼らもまた罰が悪そうな顔で警戒心を顕にしていた。


 メンバー構成はまだ20代の若者ばかりの4人組、武器は追いかけて来たメンバーよりも良い物を使っているようだった。


 普段冒険者達はダンジョン内で遭遇した場合、トラブルを防ぐ為それぞれが壁側に近付き、すれ違うまで油断しないのが暗黙のルールなのだが、今回はいつもと違っていた。


「「…………」」


 何故かお互いが通らない。


「先に俺達がここに来た。やっとこさ行き止まりに獲物を追い込んだんだ。今回は譲って貰うぞ」


「まぁ待て。そちらは何を追っているんだ??」


「ゴブリンだ。ただ何か珍しいものを持っていそうでな、今日の酒代が浮きそうでツイてるぜ」


「……そうか、なら今夜の酒代は俺達が払う。どうだ、ここは譲ってくれないか」


「テメェ……舐めてんじゃねぇぞ若造が」


 よし、いい展開になって来た。


 俺の唯一の武器、それは人の特性をよく知っている点だ。人は人を信用するよりも、人を疑う事の方に思考は流れやすい。これを利用し火種を起こすしかこの局面を乗り切れる方法はない。


 ま、それでもここからは命掛けなんだがな……


(ヘル、あんたの言う通り一瞬姿を見せて逃げて来たけど、昨日と同じように罠とかちゃんと用意してあるんでしょうね!?)


 そんな物はある訳ないのだが、冒険者達が言い争っているこのタイミングを見逃す訳にはいかない。俺はフィアに返答せず右手を突き出す。


 さぁ、ここからが正念場。

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