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剣舞使いの聲亡者  作者: チスペレ
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ガンバース魔術学園の図書館は、闘技場から最も離れた、学園の北東にある。

その大きさと所蔵数は国立図書館に次いで国内二位であり、学生では無い一般人の来館も可能だ。


《空間魔術》によって、外観より館内は数十倍広く、毎年新しい所蔵スペースが発見されるため、勤務する図書館員も正確な敷地面積を把握していない。そんな測定不能な館内を歩いて回るのは不可能であるため、館内の移動専用に《自動魔術》が刻まれたボートがある程だ。


「さて、“女帝選定戦”のルールだが……」


レスターは館内ボートをレバーで操作しながら、隣のラニアに語りかける。


「国神アルミダから選ばれた候補者はお前を入れて七人。その七人がバトルロイヤル形式で一斉に戦い、最後に残った奴が優勝だ。最後の一人まで隠れることもできるが、逆に言えば全員と戦う可能性もある」

「あの……、なぜ図書館で説明する必要が?」

「選定戦まで時間が無いからな。時間の節約だ」


昨日同様ラニアが301教室に向かうと、突然レスターに図書館へ連れてこられたのだ。不満も持つだろう。


「調べものより、剣舞の練習をした方がいいんじゃないですか?」


ラニアは革製の鞘で刀身を包んだ剣を、レスターに見せつける。昨晩プリッツが作ってくれたのだ。


「馬鹿野郎。敵を知らずして勝てる戦いじゃないんだよ。昨日の決闘でいい気になっているかもしれんが、敵は全員お前より格上だ」

「そ、それは分かってるわよ……」

「だったら黙って俺の話を聞け。―――ほれ、他の候補者のデータだ」


レスターは昨日紙にまとめた候補者のデータをラニアに渡してくる。


「正直言って全員化物だ。その中でも特に優勝する可能性が高いのは四人。まずは一人目、イルミナ・インロック」


ラニアは受け取った紙を捲ると、イルミナの顔写真と、簡単なプロフィールが纏められていた。

黒髪で右目を隠し、挑発的に口から出した舌には小さな紋章が刻まれている。


「インロック家は悪魔崇拝で有名だ。そのガキも例に漏れず悪魔との契約魔術を交わしてやがる」


―――契約魔術。魔術は大きく分けて三種類。そのうちの一つがこれだ。人、神、もしくは悪魔、その他諸々と契約することで使用できる。人との契約ならば、金や魔力を支払うことで大抵使えるが、神や悪魔と契約しようものなら、対価として大抵はとんでもない物を要求される。《ベッドレイクの電撃魔術》も大きな括りではこれに当たる。


「体内魔力量は候補者の中でもダントツだ。魔術師数人がかりでやる《召喚魔術》を一人で軽々こなすらしい。凡そ、産まれる前から親に色々イジられてたんだろうな。最上級の悪魔を召喚されれば勝ち目はない」

「じゃあ、どうやって戦うんですか!?」

「召喚される前に倒せ。しかし、ソイツのヤバさは他の候補者も分かってるだろうから、お前が倒さなくても誰かしらはやるはずだ」


そんな適当な対策でいいのだろうか、とラニアは思う。しかし、レスターの言う通り召喚される前に倒してしまうのがベストなのだろう。


「次、二人目。ティランダ・ラドール」


ラニアは用紙を捲る。イルミナと同様、顔写真とプロフィールが載っているが、イルミナとは違い、奇抜な要素は一つもない。緑色の髪を後で纏めた、何処にでもいそうな女の子だ。


「この子が、候補者なんですか?」

「何処にでもいそう、とか思っただろ。写真のは仮初の姿だ。そいつの家業は暗殺だからな」

「えぇ?!」

「裏の世界じゃ名の知れた一族だぜ。《ラドールの空殺魔術》を使ってこれまでに何人も殺してきたらしい。短距離ながらも瞬間移動を一人の人間だけで成功させた唯一の魔術だ。コイツが生き残ってるうちは安全な場所は無いと思え」


ラニアは絶句するしかなかった。候補者に選ばれるのは“異常”な才能を持った人間ばかりなのだと再確認させられる。

目を背けるように次の紙を見れば、見覚えのある顔があった。


「三人目だが……、詳しい説明はいらないだろ。ロアンヌ・ベッドレイク。お前の因縁の相手だな。《ベッドレイクの電撃魔術》は脅威とも言えるが、さっきの二人の方が何倍もヤバい」


レスターはボートを停止させて、目に付いた本を数冊本棚から抜き出す。


「ほれ、持ってろ。筋トレだ」

「え、ちょっと!」


レスターは有無を言わさず、丸太のように太い本を何冊もラニアへ投げ渡す。

ラニアが腰を屈めながら本を抱えていると、ボートが再出発する。


「しかし、脅威なのはコイツ自身より、コイツの家だ。ベッドレイク家は何百年も前から女帝の座を狙っているからな。ベッドレイク家から候補者が出た年は、他の候補者の周りに不審な事故が多い。多分今年も裏で糸を引いてるはずだ」

「それでもまだ女帝は出ていないんですか?」

「それだけ女帝になれる奴は圧倒的ってことだ。小細工程度じゃひっくり返らないんだよ。しかし、だからって暗躍しない理由は無い。お前も用心しとけよ、昨日の件でお前もマークされてる」


そう言われると、こうしている今も何処かから監視されているような気もする。ラニアは慌てて辺りを見回したが、当然近くにはレスターしかいない。


「そして―――」


レスターが珍しく言い淀む。何度か咳き込んでからやっと、息を大きく吸った。


「正直今までの三人はお遊戯みたいなもんだ」

「お遊戯……ってどういうことよ」

「仮に今までの三人が結託したとしても、最後の一人には勝てるか怪しいってことだ」


そんな圧倒的な候補者がいるというのか。

両手に抱える本に気を取られ過ぎて、候補者の資料がボートの床に落ちてしまう。床に広がった写真の中で、見覚えのある瞳と目が合った。十字の瞳孔を持つ青色の瞳と。


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