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☆無能勇者と悪役令嬢☆

作者: 弓かかし

 「あー? ここ、何処やねん? 」

 ある日、目が覚めるとオレは見知らぬ部屋に寝ていた。

 目の前には、いかにも、なウィンドウが開いていた。

 職業 勇者 名前 鈴木 (かける)

 性別 男  年齢 19

 レベル 5  ランク H

HP 1069 MP 0

 属性 無  固有スキル 無


 あー、はいオッケー。オレはよくある異世界転生ってやつをしたらしい。勇者ってことは、カワイイ聖女様とかステキな魔術士のねーちゃんとかと一緒に、魔王を倒してハーレムってやつだろ。主人公やん。マジラッキー。

 オレはほとんどステータスウィンドウを見ずに、「これで始めますか はい/いいえ」の「はい」を速攻で押そうと……した。

 うん? 待て待て。

 MP0

 属性無

固有スキル無

 ってことはつまりオレ……一切スキル使えないし、ただ剣でペチペチするしか能がない……つまり無能勇者。

 っていうか、雑魚以下じゃね?! 普通、ゴブリンでも「ゴブゴブ〜」とかいうスキル持ってるだろ。

 なんでこんなステータスで「勇者」なんだよ!?

 オレは頭を抱えた。

 オレは、前世、志望大に現役合格できず、両親から「お前みたいな無能はクソ以下だ」との有り難いお言葉を頂戴し、人生に嫌気がさして朝から晩までゲーム漬けの生活を送っていた。

 つまりは、正真正銘の無能人間だったのだ。

 神様も意地が悪い。

 わざわざ勇者なんてモンに人を転生させておいて上げて落とすとかさ。

 あーつまんね。

 さっきから、グゥー、と腹の虫が情けない声を上げているので、オレはひとまず食べ物を探しにいくことにした。

 

 ボロっちい小屋を出る。

 ここは、小さな町の路地のようだ。懐に手をやると、巾着が出てきた。ラッキー。これでとりあえず屋台かなんかで食おう。

 そう思って、巾着を開けて、絶句した。空だったのだ。

 あー、ほんまついてねぇな。

 オレは巾着を勢いよく振り回しながらあてもなくブラブラ歩いていく。

 途中で、もふもふした変な生物が前を横切ったので、素早く捕まえて、巾着の中に入れた。

 最悪、焼けば食えるかもしれない。

 謎の生物が巾着の中で暴れると、巾着はびっくりするほどよく変形した。かなり良いストレッチ素材で出来ているらしい。

 途中で、金髪縦ロールのいかにもお嬢様然とした小さな女の子に出会った。

 女の子は、オレの振り回す巾着を指差して言う。

 「エレちゃん、あのお兄さんがブンブンしているやつ欲しい! 」

 「エレちゃん」の付き添いと思しき大人達が説得するが、「エレちゃん」は、駄々を捏ねた。

 オレは、サッと駆け寄って、巾着を献上する。

 「可愛らしいお嬢様、こんなもので良ければどうぞ。」

 そう言って、巾着を差し出せば、女の子は嬉しそうな顔で礼を言った。

 「ありがとう、お兄さん。代わりにエレちゃんのお菓子をあげるね。」

 ラッキー。食い物ゲット。


 オレは、エレちゃんの付き添いの大人達からコインも貰い、菓子を頬張りながら次は何を食べようかな〜、と考える。

 見たこともない形をしていたが、エレちゃんに貰った菓子は、なかなか甘くて美味しかった。

 その時、急に何かに躓いてこけそうになった。

 足元を見ると、上等そうな茶色のコートを被った女の子が、倒れていた。

 「蹴りそうになってごめんな! 」

 即座に謝ると、何故かその女の子死にそうな顔をして言った。

 「いいえ……それよりもお腹が空いて倒れてしまったのです。何か甘いものをお持ちではないでしょうか? 」

 あー、空腹って辛いよな。

 オレがエレちゃんから貰った菓子を差し出すと、何故か少女はしばらく絶句していたが、菓子を口にした。

 非常に端正な顔をした少女が、菓子を口いっぱいに入れてもぐもぐしているのは、小動物みたいで可愛らしい。

 「その……ありがとうございました。代わりと言ってはお粗末ですが、これをお受け取りください。」

 少女はしっかりした声で言いながら何かを差し出した。

 「別にお礼なんていらないよ……」

そう言いながら少女に渡されたものを見て、今度はオレが絶句する羽目になる。

 それは、『魔法少女ツイン☆アリア』のヒロインの一人、ソイル・アリアのロッドだったからだ。

 オレは、前世では『魔法少女ツイン☆アリア』の大ファンで、グッズは徹夜してでも買いに行くほどだった。

 ウヒョー! 神様!仏様!アリガトー!

 この時のオレは舞い上がりすぎて気がつかなかった。

 茶色のコートの少女の手に『魔法少女ツイン☆アリア』のもう一人のヒロイン、ステラ・アリアのロッドが握られていたことに。

 

 「ふわぁ〜、お腹いっぱいになったな」

 ヒトは、腹が膨れると眠くなるものである。

 宿を探してブラブラと路地を歩いていると、前方に見える大通りから、「無礼者! 」という少女の悲鳴が聞こえてきた。

 オレは、ひとまず大通りに出ると、野次馬に混ざる。

 大通りの真ん中に、数台の豪勢な馬車が路駐されており、その周囲に数人の人影があった。制服のようなものを着ている。生地が良さそうだ。従者を従えているところから考えれば、貴族か、いい家の学生のようだ。

 先程の声の主は、金髪縦ロールの少女だった。細いが筋肉質な、同じ学園の制服を着た男子生徒数名に取り押さえられ、道路に押し付けられている。

 少女を見下ろすのは金髪青目の王子様然とした男子生徒。背後に、目の大きな、空色の髪の可愛い少女を従えていた。


 王子様然とした男子生徒は、往来で高らかに宣言する。

 「プリズム公爵家の長女、エレノーラ・ローズ・プリズム! 其方は、ここにいるサブレ男爵家のミリア・サブレを、さまざまな難癖をつけて迫害した。弱きものをいたぶるとは、王太子妃候補としてあるまじき行い! しかしながら、ミリアは、ひどい迫害に下せず、私を、愛を持って支えることを誓ってくれた! 故に私、王太子ルドルフ・ファン・リフレジレーターはエレノーラとの婚約を破棄し、ミリア・サブレ男爵令嬢と婚約する!!! 」

 アー、これ、典型的な悪役令嬢の断罪現場じゃん。

 王太子の後ろに隠れるミリアとかいう令嬢は、その可愛らしい顔に悪い笑みを浮かべて、エレノーラ公爵令嬢を見下していた。

 貴族って身分とか煩いんじゃなかったっけ?

 「全く身に覚えがありません! 私は、ミリアさんに、『王太子には私という婚約者がいます。婚約者のおられる殿方にあまり執拗に付き纏うと、貴方に悪い噂が立ち、男爵家の評判をと落としますし、あなたのその行為は、王家と我が公爵家双方に対して失礼ですよ。』と注意して差し上げただけですわ! 」

 ミリアとかいう令嬢は、キッと唇を噛んだ。

 アー、これ、ミリアとかいう奴が悪役令嬢捏造したやつじゃね? マジ王道展開。

 王太子ルドルフは、顔を真っ赤に染めて怒鳴った。

 「ふん! やったことを認めながらも罪を認めないとは、愚か者め! ここまでお前が愚かだとは思わなかった! これ以上生かしておいてはならぬ! 首切りじゃ! 」

 おーい、王太子さんよ、もっと周りを見ろよ。あんたの周りの奴ら、引いてるぞ。

 王太子は、動かぬ側近に対し、こめかみに血管を浮き上がらせて怒った。

 「おい!お前達、王太子たる私の言うことを聞けないのか! お前達も死刑にするぞ! 」

 側近達は、渋々剣を振りかぶる。


 王太子は満足げにのたまう。

 「悪しきものは滅し、弱きものを助ける! それが我らリフレジレーター騎士王国の第一綱である! 皆のもの、しかと心せよ! 」

 剣が振り下ろされる。

 刹那。

 オレは、往来の中央に飛び出し、先程少女に貰ったロッドで、側近の剣を受け止めていた。正確には、ロッドから溢れ出した清い光が、刃を受け止め、弾き返していた。

 流石は魔法少女ソイル・アリアの魔法だ。悪を蝕み、正義を助けるソイル・アリアの魔法。向こうの剣が刃こぼれしていた。

 側近が「我が家先祖代々伝わる名剣が……!? 」とこぼれ落ちそうな程目を見開いていた。

 うむうむ。いつまでも古いものにすがっていると往々にして、新しいものに負かされるものだ。


 往来からは、新たなざわめきが上がっていた。「あれは、失われたソイル・アリアのロッドでは!? 」という声が上がっている。

 ふむ。この世界でも『魔法少女ツイン☆アリア』は有名なのか。


 「なっ!? 不審者め……。」

 王太子は、ビビリらしい。従者に抱きつきながら、震えている。

 おいおい、そこは可愛いミリアお嬢様を庇うところだろ? 男が廃るぜ、王子様よ。

 オレは、よく通る声で言った。

 「問おう。王太子よ、おまえが悪に染まっていた場合、この断罪に、正義はあるのか? 」

 「なっ……?! 」

 王太子は、狼狽した。側近達は、目を伏せる。野次馬達は、ざわめいた。

 ミリア男爵令嬢が、オレの前に飛び出した。不審者の前に身一つで飛び出すとは、勇気があるのか、それとも考え無しなのか。

 「何を言うの、不審者! 王太子が悪なはずがない! 貴方、そこの女と通じてるのね! 」

 無鉄砲お嬢様は、顔を真っ赤にしている。

 「正義の魔法少女ソイル・アリアのロッドの光を前にして、貴方は同じ言葉が言えるのか? 」

 オレが、ロッドをじゃじゃ馬令嬢に向けようとしたとき、威厳に満ちた、しかし、緊迫感に溢れる声が響いた。

 「おやめください! ソイル・アリアの力持つお方! 」

 

 豪勢な髭を蓄えた偉丈夫が、天馬を大通りの中央に滑り込ませた。

 『魔法少女ツイン☆アリア』の中でも天馬はいたな。ここは、本当に関係が深い世界のようだ。

 偉丈夫は、オレに頭を下げて言った。

 「偉大なるソイル・アリアの力持つお方よ! 我が愚息が暴言を吐きましたこと、深くお詫び致します。」

 この偉丈夫は、国王のようだ。

 王太子が青い顔をして言った。

 「父上!? 何故下賤のものに頭を下げていらっしゃるのです! 我が王家の矜恃が……」

「ゔぁっかもーーーん!」

 王太子は、父親の張り手を受けて、100メートルほど吹っ飛ばされた。

 あれは、中々痛そうだ。

 「王家の矜恃!? 往来の真ん中で、麗しいお嬢さんの額に土をつけさせているおまえが何をいう! おまえは、廃嫡する!! 勝手に、そこな女と共に国から出て行け! 二度と帰ってくるな! 」

 王太子と大馬鹿お嬢様は、王と共に来た兵に引き立てられていった。



 その後、エレノーラの持っていたステラ・アリアのロッドが見せた真実によって、王太子とミリア男爵令嬢の処分は確定し、二人は正式に国外追放となった。

 後には、第二王子が立太子した。

 オレは、ソイル・アリアの力持つ者として王族に準ずる身分を持った。

 プリズム公爵家は、婚約破棄確定後、新たにオレとエレノーラの婚約を願い出、オレは受理した。

 行く当てもないオレには、渡りに船の話だったし、何よりエレノーラに、実は、オレは一目惚れをしていた。断る理由がない。


 オレ達は、婚約後、はじめてのお茶会をしていた。

 エレノーラの金の縦ロールに、八つ時の陽光が優しく降り注いでいる。

 オレは、ティーカップを置いて言った。

 「エレノーラ。オレさ、君に、あの事件の時より前に、2回ぐらい会った気がするんだ。」

 エレノーラは、微笑む。

 「私も、記憶しています。」

 その時、彼女の足元から、いつぞやのもふもふが出てきた。もふもふは、言葉を発した。

 「ボクがエレノーラちゃんの願いを叶えて、会わせてあげたんだぞ☆」

 「おまえ誰だ。」

 なんでこの毛玉は喋れるのだろう。

 毛玉は、むくれた。

 「ひどいぞっ☆ ボクは、ソイラ様とステラ様の仲間の偉大なる勇者、ポポラン様だっー! 」

 てしてしてし、と毛玉がオレの顔にキックしてくる。こそばゆい。そういえば、『魔法少女ツイン☆アリア』でも確かこんな感じの毛玉がいた気がする。

 「そうか。いい子だな、毛玉。」

 耳の後ろを撫でてやると、毛玉は不満気ながらも、少し嬉しそうな表情で言った。

 「ボクの名前は、毛玉じゃないっ! ポポラン様だぞーっ☆ 」

 エレノーラが、クスクス、と花のように微笑んだ。


 ありがとな。神様。

 万歳!『魔法少女ツイン☆アリア』

 オレ、幸せです☆



少しでも面白いと思った方は、★★★★★を入れてくださると、嬉しいです。感想等も、お待ちしています。


『魔法少女ツイン☆アリア』は、本編で出てくるゲーム『ステラアリア〜定められし花と犬神〜』の姉妹作という設定です。

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