彼女が私になり、起きるまで。
白く艶めく体表面を持つ女性がいた。
その肌はプラスチックにも似た樹脂を持ち、LED照明の光をはねかえしてテラテラと輝いている。ハイライトの傍では無機質な壁面と彼女が乗る自動床をうつしていた。
顔には凸型鏡面のマスクが被せられ、表情は見えない。
胸部はゆるやかな丘をつくり、腕は女性のものにしてはすこし太いように見える。
しかし優美に歩く姿は艶やかで、まったくもって女性らしい。
オフホワイトの壁面は彼女の体表面と同一色で、彼女ごと屋内の景観かと錯覚しかねないほど違和感が無かった。
自動床にのって女性は1つの部屋に向かっている。
日が変わるアラームが、ぽーんと一度鳴った。
床の端まで辿り着き、女性は正面の扉の前に立つ。左側面にある識別機に左手を置くと、音も無く開いた。
そこはコックピットになっている。
とはいえ自立型の操作オペレーターが数機、この船を運行するために居るのみだ。
彼らは階段を降りた先の左右に設置されていた。液晶モニターを三面鏡のように展開したものが頭部の代わりをなしていた。
それぞれがカメラでリアルタイムで外部の状況を観察している。もっともそれはおまけのようなもので、主な管理はそれら二体の間にある巨大なクワガタのような基部で行われているようだった。
こちらは全方位を8枚のモニターで見回し、それとは別に心電図と航海レーダーを足したような画面を表示するモニターが備え付けられていた。運行に関わる基幹の分析システムだ。クワガタ型のコアマシンはその6本足を器用に使い、空中やキーボードを絶え間なく操作している。
彼女は3体を見回し、一番手前にあるモニターの前に立った。
運行とは別の通信用コンピュータだ。
メールアプリを開くと、受信フォルダには、一通の見慣れた開封済みメールが入っている。
文面は至ってシンプルで、ただ一文。
<12時間後に待っている。 座標:NCAII.a-k.13>
モニターには、100回目のビューという通知と共に、削除警告が表示されていた。
//12時間後には、期限切れでこのメールは削除されます。
彼女はメールアプリを閉じて、コックピットを後にした。
出入り口に備えられた一対の鍵を手に取って。
部屋を出た彼女は、腹部にある扉を開いた。そこには13時間のタイマーと、セキュリティなど考えられていそうもない、簡素な鍵穴が1つある。
手に取った鍵の片方を、その鍵穴に差し入れた。長年使われていなかった鍵はさびていて、砂利の音が混じる。それでも右に回すと、鍵穴はきちんと対応して、ロックを解いた。
彼女に意思が、戻ってきた。
おはよう、世界。
私はそうして、起きた。
……私は100年前に分離した男性との再会を望んでいる。
私は、ある種のファンであり、助手であり、パートナーであり、頼るものだ。
今、かの人は遠い場所に居る。だけど、あともう少しだ。
どのような形にしろ、近いうち逢えるだろう。