第50話 聖女誕生祭
ムヒ塗った手でパン食べたら苦すぎて辛かった(感想文)
大理石の柱が並ぶ神聖な間
天井は目眩のするほど高く、その頂上には丁寧に磨かれた鐘が吊り下がっている。
数十年に1度の記念日
このヘルナヴィエ王国……いや、ヘルナヴィエ聖国と呼ぶべきか。
本日は過去の聖女誕生を祝う日であり、そして、新しい聖女が誕生するのを祝う日でもある。
ヘルナヴィエ聖国には聖女は欠かせない存在である。
国民の象徴、王族の医者としての役割、帝国との交渉材料等々……
終戦を迎えた聖国と帝国の関係は上々……と言いたい所だが、それは表面だけの話
少し遡って、暗黒時代の終わった直後
聖女の後光を借りた聖国の横暴は酷いものだった。
特に、国境辺りは荒れてる。
他国の国境警備隊に、ありもしない罪を擦り付け無理矢理従属させたり、旅人などを騙し、小遣い稼ぎで奴隷にさせたり……
もちろん隣国はそれについて言及しようとするが、聖女の存在がそれを妨げる。
彼女の力は桁が違うのだ。
少なく見積もっても帝国の『死神』と同等かそれ以上……
いつでも死神のような優秀な兵が手元に居るとは限らない。
幸い、聖女自身はまともな人物だったらしく、喜んで他国侵略に行動を移すような真似はしなかった。
現在はその横暴も治まってきたものの、依然として被害報告は止まらない。
そんな救いようのないことを続けて来た聖国だが、過去に1度だけ被害報告が止んだことがある。
聖女の命日だ。
報復を恐れた聖国は、拉致まがいのことを止めた。
さて、拉致された人達の行方はどうなったのであろうか?
拉致まがいの行動が治まってきた事実を知った、隣国のギルティノ帝国やその同盟国のラストティ王国やらが手を組み、聖国の現状を知るべく密偵を送った。
……と言いたいところなのだが、ある日を境に定時報告が来なくなった。
まぁ、それも当たり前だろう。
既に彼らは奴隷にされ、強制労働施設にて働かされているのだから。
ーーとある聖堂で、2人目の聖女が確認された。
彼らの最後の報告と同時に、同じような内容が聖国でも発表された。
聖国のお偉い様方は、『聖女』の契約を受けると、数十年後に何らかの影響で魔物になってしまう……という事実を知っていたが、上手く嘘を織り交ぜたようだ。
真っ白な大理石の上に被さる赤いカーペット
その無駄に広い空間に嗄れた声が響く
「聖女の力は、称号を授かってから数十年で衰えてしまいます。しかし、その力を所有する者はこの世界に1人しか存在出来ません。」
「前16代聖女様は、先月より力の衰えを感じ取り、自ら命をお断ちになられました……貴方も、いずれは自らの手で命を絶つことになるでしょう。」
「あなたにはその覚悟はありますか?」
空気が張り詰めるのが分かる。
目の前で、説明を受けている少女の足は震えていた。
今彼女は、年齢にそぐわないストレスを抱えているであろう。
理由を言わなくても分かる。
今彼女は、数十年後に死ぬ。という死刑宣告を受けたようなものなのだから。
もちろん彼女に拒否権は無い。
聖女は、未成年かつ女性、そして光属性魔法の適性を持つ者の中からランダムで選ばれる。
それは、貴族の娘でも奴隷の娘でも均等に聖女になる権利を持っている……という事だ。
……ここで疑問に思った方もいるだろう。
聖女と言うからには、光属性魔法の適性を持っているのも、女性であるのも条件として理解できるのだが、なぜ未成年でないとダメなのだろうか?
この詳細の理由は、聖国のお偉い様方が握っていた。
例え話なのだが、成人し教養を一通り身に付けた女性を聖女に選任したとしよう。
聖女への嘘混じりの説明は意外と隙がある。
そこを突かれてしまう恐れがあり、その影響で他国に寝返ってしまう危険を加味すると成人女性を聖女に任命するにはリスクが高すぎるのだ。
そこで未成年という制限が役に立つ
疑うことを知らない、純粋な彼女達を対象にすることで、お偉い様方は思い通りに聖女を動かすことができるのだ。
まぁ、思い通りと言っても制限はある。
寝返る心配は薄いとは言え、彼女の機嫌を損ねるのはあまりにも悪手だ。
お偉い様方は聖女の機嫌取りのため、彼女の意見を無視する真似はしない。
ーー顔を真っ青に染め、今にも倒れてしまいそうな表情をした少女が口を開いた。
彼女の名前はイザベラ
着ている服は、どこにでも売っている安物のウール製の服なのだが、染料で染めたようで、美しい青色をしている。
急な教会の招集により、急いで用意したのが分かる。着ているものは多少は高価だが、統一性が無く、全体で言うとチグハグな印象を感じる。
「はい」
彼女はそう答えた。
彼女は目線だけで周囲を見渡す。
真っ黒な服に身を包んだ老人と少女の周囲には、真っ白な鎧を身に付けた兵士が並んでいる。
もし断っていたら……
彼女の幼い思考では、”恐ろしいことが起こる” ぐらいのことしか想像できなかったが、それでも彼女を頷かせるには十分な材料であった。
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「この陣の中から決して動かないで下さい。」
「は……はい。」
司祭の服を着た男性が、術を唱え始める。
大理石に描かれた魔法陣は、神様と契約するためのもの……として伝えられているが、もちろんそれは大間違い。
この陣は、『虚飾の悪魔』との契約のためのもの
これを伝えたのも聖女ではなく、悪魔が残していったものである。
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ぺかー!!
「ユウトすごい!!光ってる!!」
「キュー!!」
今、俺は足止めをくらっています。
「これでは目立ってしまいますね……この光が止むまでここで待機していた方が良いかと……」
そう。突然俺の体が輝き始めたのだ。
これではヘイト吸収機になってしまう。
「ユウト!今ビームとか出たりしないの!?びびびって。やってみてよ!」
やっぱり、どこの世界でもビームは子供のロマンなんだなぁ……
それを聞いたアビュも、期待している目でこちらを見てきた。
そんな機能は今の俺に付いていないのは分かっているが、彼女達の期待を裏切りたくはない。
「よし!2人ともちゃんと見とけよ?」
「うん!」
「きゅ!」
……急いで光属性魔法一覧を読む。
ビームビームビーム……
「いくぞ! スーパー・ウルトラ・ファイナリティ・シャイニングフォース・エア・オーバードライブ・ギガ・ダイナマイト…ミラクル……えーっと…す、スーパー・ブラック・シャイニングビーム!!」
両手を掲げ、誰も居ない方向に魔法を放つ
技名を独自に考えたのは、魔法についての学識があるヴァイスちゃんへの配慮だったのだが、ネーミングセンスの渇望により、最後辺りが残念になってしまった。




