第48話 新しい旅路にて
限られた青い灯の中、照らされた岩肌の床を進む。
岩の影、小石の影。
青色の光の影を縫って、俺達を避けるように『何か』が移動する。
それらは、相対的に歯が立たないレベルで弱い。
だが、外の世界では成人男性の身体能力を優に越す程の力を秘めている。
しかし場所が場所だ。
その力も、より強い捕食者の驚異に晒され、輝きを失っていた。
合計で6本の足が、歩を進める。
彼らの真っ黒な外見は、暗い洞窟に馴染む。
この青い光がなければ、すぐに行方が分からなくなってしまうだろう。
「えっと……彼女はどちら様で?」
「私の名前はカミラです……彼、エデンの妹です。この度は病から救って頂きありがとうございました。」
日常で敬語を用いているかのように丁寧で、それでいて自然体な話し方だ。
……こういう人って先生とかでよく居そうだよな。
エデンと一緒に付いて来た彼女、どうやら俺があの疫病から救った内の一人らしい。
実は、一人一人の顔をよく見ていなかったので誰を治療したのか全く分からないのだが、それは仕方の無いこととしておこう。
俺の1歩手前で、拳ほどの輝く鉱石を持ったトカゲ人間……エデンだが、どうしても俺に付いて来たかったらしい。
俺は優しい(?)ので、途中までの案内をお願いする形で付いて来てもらうことにしたのだ。
ちょうどあの集落から出発して半日
ほとんど何も無い景色が続くのであまりにも暇だ。
まぁ、それも当たり前なのだろう。
エデンにできるだけ安全なルートを教えて貰っているのだから。
『なぁ、2人は寝なくても大丈夫か?結構寝ずに歩いてるから大変だと思うんだけど……』
「いえ、心配はご無用です。私達は夜行性なので、今の時間帯の方が楽だったりするんですよ。」
『なるほどね……きつくなって来たら言ってね?会敵する危険もあるから、できるだけ万全な状態がいいしね。』
「はい……そういえばユウト様は休憩なさならなくて大丈夫でしょうか?」
むむむ……難しい質問が飛んできた。
実は未だにヴァイスとアビュにも、俺が異世界から来て、それでいてチートな力を持っていることは知られていない。
言っても良いのだが、それではそこで試合終了な気がする。
彼女らの未発達な思考では俺の事を『強めな喋るトカゲ型精霊』という形で捉えられているだろう。
この体、精霊なのか怪しいところなのだが……
先日進化した『パーガトリー』を、現在のスキル『変形』により、小さくなったエイビスの姿から大きさを推測する。
大体大人程の大きさだろうか?
例えるならエデンと同じ位の身長だ
そう目の前のエデンを見る。
『どうしたの?』
突如灯りが完全に消え、周囲が暗くなった。
「……血の匂いがします。気をつけてください。」
彼は、青色に光る鉱石を毛皮のコートに隠し、こちらが光で発見されないようにしたのだ。
そこまでしているのに気づかない俺ではない。
息を殺し、足音を沈める。
『エデン……進む?』
「はい……血の匂いということは、相手は怪我を負っているはずです。見つからないように行動すれば何とか行けるかと……」
『分かった。』
緊迫する雰囲気の中、慎重に進む。
ヴァイスとアビュは逃げる時振り落とされないように両手で抱える。
「キュ……」
「……き、気をつけてね。」
ヴァイスは、あの死神のおっちゃんがトラウマなのか、少し緊張している様だ。
『大丈夫、ステータスもレベルもちゃんと上がったから……』
フラグ…じゃ無いよ?
ちゃんとへし折るから。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
『「「…………」」』
すぐ近くにいる。
幅十数メートル高さ数メートルの洞窟
俺達の間にある数枚の岩を越えた先で戦闘が行われている様だ。
打撃音や、金属の跳ね返る音、炎が燃え盛る音が聞こえる。
稜線から、視線だけ覗く。
炎属性魔法のおかげで良く視界が通るな。
人型の魔物が戦っているのが目に入った。
鑑定
氏名-----
年齢 204歳
種族 ミノタウロス
性別 雄
ーステータスー
LV 103
HP 29501/1052540
MP 5205/5205
STR 100253
VIT 20163
DEX 280
AGI 70180
INT 1502
ー状態ー
『疲労』『火傷』
氏名-----
年齢 51歳
種族 アイトワラス
性別 雄
ーステータスー
LV 76
HP 1750/50023
MP 7803/520552
STR 9573
VIT 11962
DEX 12761
AGI 50180
INT 33400
ー状態ー
『流血』『疲労』
ミノタウロスは近距離脳筋タイプ
アイトワラスは遠距離魔法タイプ
場所的にはこの洞窟内では近距離戦にならざるを得ない。
どう見てもアイトワラスの方が劣勢だろう。
だが、逆に障害物が多いこの洞窟
ミノタウロスは大斧で戦っている訳だが、その大斧が障害物に引っかかって、思いっきり振れないようだ。
そのおかげで戦闘が長引いている訳だが……
アイトワラスとやらの方は出血がひどい。
本人もそれについて理解しているのか、どことなく攻撃に焦りが出ている。
「ミノタウロスがいますね……これは不味い」
エデンは、少し焦ったような表情でそう言った。
『ミノタウロスって強いのか?』
「えぇ、一つ上の階層に生息しているのですが、数は少ないものの戦闘狂で、かなり手を焼いているんです。」
『アイトワラスはどうなんだ?』
そう言って、もう片方の蛇頭の魔物を指す。
「彼は一応この階層に生息しているのですが、なかなかお目にかかることはありませんね……未知数ほど危険なものはありません。こちらも気をつけましょう」
そうエデンは、アイトワラスを顎で指した。
しばらく戦闘に巻き込まれないような場所で見学しているとアイトワラスが、かなりの長文の魔法を唱え始めた。
「……まずいですね。」
周囲に緊張が走る。
魔法についてよく知っていそうなヴァイスやエデン、カミラの表情には緊張が走っていた。
逆に魔法について殆ど知識を持っていない俺とアビュは、それっぽい表情をしているだけで、どのくらい危険なのか分かっていないようだった。




