47話 悪夢
「おはようございます。アナタ」
男とも女とも取れる声が、俺の脳を覚醒させる。
この特徴的な声の主はヱデンだろう。
布団をのけ、枕元に視線を移す。
7時か…
枕元の時計を確認した俺は、重い体を持ち上げる。
「朝ご飯もう出来てますからね。」
ピンクの熊さんエプロンを身に付けたヱデンはそう言い残し階段を降りて行った。
木製の床に足を乗っける。
ああ……仕事やだなぁ……
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リビングでは既にアイスが食卓に付いていた。
「おはよう」
「おはようパパ」
ん?パパ?
彼女の俺への呼び方に違和感を感じる。
いや……おかしな所はひとつも無いはずだ。
そう。俺は彼女の父親……あぁ…そうそう……
卓上の新聞紙を手に取り、自分の席に座ろうとする。
「キュゥ〜〜ン」
猫のアデュが、既に俺の椅子を占領していたようだ。
この子は、数日前までは野良猫だった。
彼女が感染症を患っているのに気がついた俺は、動物病院に連れて行って……
おっと、話しが長くなってしまうので、ここまでにしておこう。
今日の朝飯は、真っ白な白米ごはんと、お味噌汁、そして秋刀魚の塩焼きのようだ。
アデュを退かすわけにもいかないので、膝の上に乗っけることにした。
「いただきまーす」
ご飯を口に運ぶ。
うん。やっぱりヱデンの料理は一級品だ。
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「もうこんな時間!早く行かないと!」
あぁ、もう7時30分か……俺も行かないとな……
重い腰を持ち上げる
「行ってきまーす!!」
アイスはアルビノという先天性の病気を患っている。
確か長時間太陽光に晒されると、健康に悪いのだとか……
彼女は、首元を隠せる帽子を被っている。
「アナタ、ほらネクタイ……曲がってる。」
「あっ、ヱデン…ありがとう。」
うぉっ!!近っ!!
こんな小さなことも気にしてくれるなんて、俺はいい奥さんをもらったもんだ。
ネクタイを結び終わった彼は、顔を真っ赤に赤らめる
その2人の顔は、ゆっくりと近づいて……
ーー「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
絶望と恐怖に顔を染めた俺は、絶叫しながら目を覚ました。
あれ?なんで涙が?
怖い夢を見たのは分かるのだが、理由が分からない。
俺の絶叫を見て心配したのか、ヴァイスとアビュが、心配してくれているようだ。
「ユウト大丈夫?」
「きゅぅ…」
2人の優しさが身に染みる。
うう…いい仲間を貰ったもんだ。
硬い石の寝床から体を起こした俺は、変化に気づいた。
あれ?身長伸びてる?
機械音声のような少しだけ不自然な声も、流暢になっている。
「凄い!ユウト大きい!!」
「キュェーー!!」
2人を頭に乗せて立ち上がる。
進化前までも小さかった彼女達なのだが、今回は増して小さくなったように見える。
「ユウト様ー!!どうされましたか!!」
複数の足音が聞こえてきた。
俺の悲鳴を聞きつけたエデン達が、この建物に近づいて来ているのであろう。
おっと、危ない危ない。
『変形』のスキルを用いてエイビスの姿に戻る。
また勘違いして攻撃されたらたまったもんじゃないからな。
エデンを含め、5人のトカゲ人間(?)が、切羽詰まった様子で、部屋に入ってきた。
「敵はどこだ!」
「もう大丈夫ですからね、ユウト様」
「お…お怪我はありませんか?」
よく見れば分かるのだが、彼ら武器を持って来ていないのだ。
できるだけ現場に早くたどり着けるようにとの配慮だろう。武器を取る暇がなかったのも頷けるが、そこまでして急いで来てくれたのには嬉しさのあまり目頭が熱くなるのを感じる。
それと同時に罪悪感も滲み出てきた。
さて、どのようにして誤解を解こうか……
「もう大丈夫ですからね。」
そう言い、エデンは俺のことを抱きしめた。
身長差的に俺の方が圧倒的に小さいので、傍から見れば親子が抱きしめ合っているような構図に見えるであろう。
何か違和感を感じたが、気の所為にしておこう。
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「悪い夢…ですか?」
『…本当にお騒がせして申し訳ないです。』
大体の成り行きをエデンに説明した。
流石に悪夢で騒いだのは恥ずかしかったので、少し誇張を含めて説明した訳だが、こうも真剣に説明を聞かれると少し恥ずかしくなってしまう。
スキル『変形』により、エイビスの姿に戻った所為か、流暢な口調の面影は既に消え去り、元の機械的な声に戻ってしまった様だ。
エデンには、『悪夢を見た』と説明した訳だが、実を言うと夢の内容などさっぱりなのだ。
そんなあやふやな答えにも真摯に対応してくれるエデンは、紳士だと思うのは私だけではない筈だ。
少し恥ずかしくなった俺は、ヴァイスとアビュを呼ぶ。
いつまでもここに滞在させていただく訳にもいかないので、そろそろ出発しようという訳だ。
『えっと、エデン…俺そろそろ出発しようと思うんだ。昨晩はありがとう。助かったよ。』
「はい、では私も荷物を持ってきますので少々お待ちください。」
……ん?
少し待って欲しい。
これ以上キャラバンが増えるとフットワークが重くなる。
つまり、咄嗟の行動が難しくなってしまうのだ。
むむむ……どうにかしてお断り出来ないだろうか?
またもやint値を活用する場面が増えてしまった様だ。
ちょっとボツ案を出してみようと思います
…とある日、魔王がとある『死神』と呼ばれていた1人の老兵に目をつけた。
彼は人族の中でも寿命の長い”エルフ”という種族であった。
彼は暗黒期の英雄の1人だ。
闇魔法を極め、そして近接戦闘にも、右に出る者はいなかった程だ。
魔王は、この人材を手に入れられたらどんなに素晴らしいかと考えた。
魔王は努力した。保険、通勤補助、資格取得支援、社員寮の無償化、更には魔王城に食堂や運動設備、保育所まで設置した。
だが彼は首を縦に振らなかった。
『私はもうすぐ死ぬ身だ。そんなの用意してもなんの意味もない』と
魔王は彼に聞いた。『そしたら私は何をすれば良いのか』と。
彼はこう言った『もう私は退職した身だ。もう働くのが辛いんだ』
魔王は彼を入社出来ないのなら、操ってしまえばいい。と考えた。
不可能なのは分かっていた。
だが彼を手に入れたらどんなに素晴らしい事だろう。
魔王は試しに、家族で釣ってみることにした
彼はもちろんだが抵抗した。
魔王は何としてでも手に入れたかったのだろう。己の持つ全力を彼にかけた。
結果は成功…と言いたいところであったが、半分は失敗した。魔王が彼を操れる時間帯は夜勤中のみ。
そして、彼の体にもあまりのエネルギーを受けたことにより、影響が現れてきた。
白髪が増え、シワが増えたのだ。
彼は自分の容姿に恐怖した。




