第39話 不毛な戦い
どのように話しかければ良いのだろうか?
『カタストローフ』こと、エデンは悩んでいた。
数十メートル先に佇む2匹の竜
私が用のあるのは、ちっちゃい方…ヴィーグルだ。
現在も、隣のアデュリオドラゴンと会話をしているようだ。
そもそも、種族が違うのに鳴き声で会話しているのだろうか?
よく見ると、ヴィーグルは、右手をグーパーさせて、左手が生えたことをアデュリオドラゴンに伝えている。
なるほど…身振り手振りで伝えているって訳か。
やはり、あのヴィーグル…頭がいい。
あの魔法の才能、そしてあの知能…彼が仲間になってくれるといいのだが…
初動で警戒されると厄介だ。
ヴィーグルと同じ鳴き声で、コミュニケーションを図ってみよう。
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「ガウガウガゥ?」
禍々しいカラーリングのトカゲ人間が、何かを問い掛けて来た。
…どう答えればいいんだ?
俺、リザードマン語なんて知らないぞ?
まぁ、敵対的じゃぁないから、適当にガウガウ言っとけば伝わるでしょ。
『ガウガヴゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛↑↑↑↑』
(なんだい?ワト○ソン君?)
振り向きざまに、適当に鳴いてみる。
「ガウッガウガウガウ…ガウア!!」
なんだ?変なダンスを始めたぞ?
なるほど!ダンス対決だな!
恐らく、この魔物はダンスが好きな種族のようだ。
フフフ…答えよう!その挑戦!
恐るでないぞ?
見よ!これが引きこもりのダンスだ!!喰らえ!
『グッッガルアゴフッガウガウアウアー!』
(おとーさんおとーさん!魔王がーボクを掴んで来るよー)
魔王と共に、扇情的な踊りを披露する。
セクシーな腰使いが、相手の感情を揺らがせる!!
「ガッ…ガウガーウガウ?」
ん?手で何かの形を表現しているようだ。
なんか、脈アリなので頷いとく。
『ガウガウァー(適当)』
…おや?相手の様子がおかしいぞ?
このダンス対決…俺の勝ちか?
流石シューベルト!!
彼の曲は、このトカゲ人間に、大きな衝撃を与えたようだ。
「ガウガウガウ…ガウガ…」
後ろを指さした後、膝まづき首を前に出てきた。
んんん?どういう意味だ?分からへん。
…そうだ!アビュに聞けば何か分かるかもしれない!
彼女と、このリザードマンはドラゴン同士で、種族が近い。
ドラゴンと精霊で、全く種族の違う俺よりかは、何かいい答えが出てくるかもしれない。
そうと決まれば、アビュに早速質問をしよう!
『なぁ…アビュ…こいつなんて言ってんのか分かるかな?』
「キュゥ…」
残念だ。彼女も分からないようだ。
顔を横に振っている。
振り返ると、トカゲ人間が驚いた様子で、こちらを凝視してきた。
『…なに?…えっ?』
「キュ…キュゥ…」
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ヴィーグルの鳴き声に近い声で、声を掛けてみる。
『ガウガヴゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛↑↑↑↑』
少し間が空いて緊張したが、ちゃんと返してきてくれた。
突然の訪問者を見極め、襲わないあたり…やはり彼は知能が高いようだ…
この鳴き方…特殊な鳴き声だが、何か意味があるのだろうか?
彼の様子を察するに、こちらの返答を待っているようだ。
…あまり、しぐさで伝えるのは慣れていないが、やってみよう。
彼なら意外と伝わりそうだ。なんせ彼は、(ry
「ガウッガウガウガウ…ガウア!!」
(突然の訪問お許しください。実は、私の妹が病気を患ってしまい、大変なのです!どうか貴方様の魔法で、治療法して下さいませんか?お願いします!!)
ヴィーグルは、何やら理解した様子だ…よかった。
『グッッガルアゴフッガウガウアウアー!』
何やら、踊りのような仕草と、聞いた事の無い曲を紡ぎ、私に何かを伝えようとしている。
その仕草は、両手を前にかざす仕草、女の子のような仕草、そして何かを刈り取る仕草…
恐らく、両手を前にかざす仕草は、魔法の治療を
女の子のような仕草は、私の妹を
そして刈り取るような仕草は、何かの代償を表しているのだろう。
…無償で治療を施して貰おうと考えていた私が愚かだった。
瀕死の病気を治療してもらうのだ。どれだけの徒労を要するのか、想像に難くない。
私の命を引き換えに治療をしてくれるだろうか?
元々、この洞窟での生活は、必要最低限のものしかない。
捧げられるのは、自分の命ぐらいしか無いという訳だ。
「ガッ…ガウガーウガウ?」
(私の命を引き換えに、感染症にかかった人達を治療して頂けませんか?)
それを聞いた彼は、その答えを待っていたかのように、満面の笑みで頷いた。
『ガウガウァー』
よかった…これで良いのだ。これで…
中層への道を指さし、妹がそこに居ることを示す。
指を指す腕が震えそうになるのを堪える。
ここで、彼の不興を買ったら終わりだ。
妹の治療をして貰えないだけでなく、他の人達も殺されてしまうのでは無いのだろうか
…跪き、命を捧げる覚悟が出来ている事を示す。
目を瞑ると、暗黒の中は、既に恐怖の感情で埋め尽くされていた。
「死にたくない」
「ここから逃げ出したい。」
「最後に1度だけでいいので、妹と話がしたい。」
様々な感情を押し殺し、自らの命が消えるのをただ待つ
呼吸が乱れるのを必死に堪える。
恐怖で発狂しそうになるのを、抑える。
彼は、待った。
…
あれ?
自分が死なないことに不思議に思った彼は、頭を上げる。
目の前には、困惑した表情の2匹の竜が。
…何をしているのだろうか?
彼が、そんなことを考えた時、ヴィーグルが口を開いた。
その言葉に、エデンは驚愕した。
『なぁ…アビュ…こいつなんて言ってんのか分かるかな?』
…嘘だろ?
…実は、彼が喋れたのも、当たり前なのかもしれない…腕を生やすような非常識な技量を持っているのだ。
逆に、喋らないとおかしい程である…
エデンは、自らの考察が甘かったことを感じた。
そして、さっきまでの会話が、不毛であるという事に気がついたエデンは赤面した。
腎臓検診で、蛋白が出た件について




