第38話 ガウガゥァー
アデュリオドラゴンの名前についての閑話は、もう少し後に投稿します。(今は、少しばかりタイミングが悪いので)
待っていた方申し訳ないです。
m(_ _)m
ここは、中層から下層に下りたすぐの所
石柱の生えている密度が高く、他の魔物にも見つかりにくいので、ライズ鉱石を採取するにはもってこいの場所だ。
稀に、他の魔物と遭遇する事があるが、普通に瞬殺できるので『魔物に見つからないから大丈夫』と言っても、ほとんどその価値は無いに等しい。
『今日の下層はかなり暑いな…早く済ませちゃおう…』
5℃程だろうか?いつもよりも気温が高い気がする。
いつもよりも強い熱気に晒され、不快感が増す。
10個目のライズ鉱石を手で折って、蔦で編まれたバスケットに放り込んだ時。
ライズ鉱石特有の青い光ではなく、真っ白な光が、遠方の石柱を反射し、目に入ってきた。
非日常的な出来事に出会った彼の目は、輝いていた。
まるで、新しい玩具を与えられた子供のように。
彼はいつの日か、この青色の生活に疲れ始めてたのかもしれない。
彼の足は、光の元へと向けられていた。
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ーーあれは…ヴィーグルか?
…勿論だが、彼ら『カタストローフ』は『神の門-横穴』にだけ住んでいる訳では無い。
エデンと、その妹カミラは、元は違う洞窟の出だった。
だが、英雄の時代の後、拡大期による人間の活動圏の拡大により、こちらへ移住してきたのだ。
エデンは移住の際、人間の所有する書物を読んだことがある。
その時に知識を蓄えたのだろう。
彼は、人一倍魔物に詳しかった。
…だが、それも”人一倍”止まりであり、エイビスとヴィーグルは普通に間違えるようだ。
ーーなんでこんな所にヴィーグルが?
石柱の隙間からは、1匹の真っ黒な甲殻に覆われた竜が。
人間界では、よく使い魔などで見かけられる魔物だ。
人間界では強い部類に入るものの、この横穴では、そこらの虫程度の力しかない。
このような魔境のような場所にいて、無事でいられるわけがない、彼の左腕は、既に肩から先が無い。
かなりの日にちが経過しているのか、出血はしておらず、断面は皮膚で覆われている。
彼の隣には、金属質の竜が心配そうに見守っている。
あの金属質の竜は恐らく、アデュリオドラゴンだ。
その甲殻は恐ろしく硬い。
滑らかなラインを描いた甲殻の傾斜により、遠距離攻撃全般は受け流されてしまい、ほとんど無効化されてしまう。
そもそも、この魔物のvit値なら、ほとんどの攻撃は通らないだろう。
…なるほどな。
あのヴィーグルは、アデュリオドラゴンに守られて、ここまで来たのだろう。
だが、この階層には集団で行動する魔物が多い
守りきれないのも当然だ。
遠方から観察しているので聞こえないが、何やら会話をしているように見える。
どちらも、自分たちのように複雑な言語を話すための発声器官は無いはずだ。
恐らく、鳴き声で会話をしているのだろう。
…ヴィーグルにそこまでの知能は無いはずだが…
観察していると、ヴィーグルが、右手を切断面にかざした。
…何をするつもりだろうか?
…もしや、欠損した腕を治そうとしているのか!?
いや…ありえない…これは失敗に終わるであろう。
普通の回復と、再生は全く違うものである。
腕1本丸々の再生に、どれだけの技術と魔力が必要なのだろうか。
ヴィーグル程度の知能と魔力量では成功するはずがない。
彼が呪文を唱えると共に、光が彼らの周囲を包む。
倒れたら介抱してやるかな。
そんなことを考えながら、光が止むのを待つ。
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光が止むと左肩には、ちゃんと切断される前の状態の腕があった。
『ほら、アビュ…ちゃんと生えただろ?』
左手をグーパーして、ちゃんと機能していることを示す。
「キ…キュ…」
驚いた表情の彼女は、まじまじと俺の左腕を眺める。
左腕「いやん…そんなに見つめないで///」
そんなやり取りをしていると、背後に妙な気配がした。
そこらの魔物のような殺意が全くしないのである。
振り返ると、そこには赤黒い鱗と、真っ赤な角を生やした人型の魔物が立っていた。
例えるなら、レッドカラーのリザードマンのような容姿だ。
「ガウガウガゥ?」
あっ…喋った。
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結論から言おう。
ヴィーグルの左腕は再生された。
その、再生された腕は完璧な状態であった。
元々、カタストローフという種族は、闇魔法を主とする種族だ。よって光属性魔法に属する回復魔法は全く扱えない。
勿論、エデンも回復魔法は扱えないし、そもそも回復魔法についてはほぼ無知であった。
だが、このヴィーグルの魔法を見て、この事だけは確信に至った。
このヴィーグルは、只者では無い。
魔力量、魔力操作技術、魔力効率…
その魔法の完成度は、何を取っても完璧なものだった。
あの光の放出量から察するに、このヴィーグルは相当な量の魔力を消費したであろう。
例えるならば、自分が倒れるまで魔力を使用したのと等しい…いや…それ以上だ…
だが、彼の様子はどうだろうか?
魔力不足特有の目眩や、鼻血、気絶などの症状が、全くと言っていいほど現れていなかったのだ。
逆に、体調は完璧と言わんばかりの様子である。
私は、この魔物に恐怖の感情を抱いた。
この魔物が、自分たちに敵対したらどうなってしまうのか?
私は幼い頃、かって我々を滅ぼしたと言われる、3人の勇者の物語について、大人達から聞いたことがある。
私は疑問に思ったことを聞いたのだ。
3人の勇者の中で1番強いのは誰か?と
大人達は口々にこう答える。
『狂冥の勇者ルイーナ』と
彼は、圧倒的な魔力と超高火力の魔法で、私達『カタストローフ』を蹂躙したそうだ。
そんな彼と、あのヴィーグルが重なった。
あのヴィーグルは怒らせてはいけない。
本能がそう告げるのである。
そして私は、その恐怖の裏側に、”希望”を抱いた。
彼の魔法があれば、妹を救えるのではないか?と
私はその”希望”に賭けた。
(「・ω・)「がおー




