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「旧作」闊歩する禁忌  作者: ふぇるさん
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第26話 R.I.P.

( ^ω^ 三 ^ω^ )ヒュンヒュン


左と右…


高低差的に、左右どちらも下り坂なようだ。ただ、違いがあるとしたら右側の方が少し傾斜が緩やかな所であろうか。


俺の『フルス』によって出た大量の水は、”大量”と言ってもこの最下層を全て水没できるような量ではない。


恐らく左側は、構造的に水道の排水口から繋がるS字状のパイプのようになっていて、水が貯まってしまったのであろう。



自分たちが進むことが出来るのは右の下り坂のみである。



『右に進むしかないな。』


「う…うん。」




ーーーーーーーーーーーーーー



床には水の通った跡が残っており、泥濘(ぬかるみ)がスタミナを奪う。



『すまんなアビィ…後で足洗ってやるから。』


「キュルルル♩」


何やら機嫌が良いみたいだ。



ちなみにヴァイスは俺の甲殻の平らな所に、ちょこんと座っている。


ちゃっかりしてんなぁ…




ーーーーーーーーーーーーーー




少しばかり先へ進むと、洞窟中にコケが繁茂していた。



『神の門』の底に生えていたコケとは違いこちらは自ら光を発しているようだ。



ヒカリゴケと言うやつだろうか?


ここまで明るいと、光源は要らないな。



『光球』を解除する。




「わぁ…」





まるで、木漏れ日のような爽やかな、それでいて灯篭のような柔らかさのある光が洞窟に満ちていた。



『綺麗だな…』




苔の光に見とれていて気づかなかった。


50m程先に出口のようなものが。




恐らく、少し開けた場所があるのだろう。





ーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーー





洞窟を抜けた所


そこは半径20m程の円形の空間であった。



床からは、上へ上へと苔の茎と葉が伸びている。


上の方に葉が逆立つ様は、まるでアナカリスのようだった。



足を踏み込むと、そのコケの胞子が、小さな光の玉となり、辺りに漂う。


まるで蛍のようだ。



この絶景を詩人はこう唄うであろう。



『蛍が舞う草原』と…




その草原の先の方には、呆然と立ち尽くす人影が。



四肢と首が異様に伸び、体は血の色で染まっている。



この生き物を見た詩人はこう唄うであろう



『赤の異形』と。






『…ヴァイス…アデュ…元の道を戻ってくれ…』


「で…でも、あれはっ!!」



「…キュアッ!」


「うぅ…分かってるよアビィ…私じゃ敵わないって…」



アビィがドヤ顔でこっちを見てくる。



『…アビィお前もだぞ。』


「キュエッ!?」


『アビィのstr…1000程じゃあいつには攻撃が通らない。申し訳ないが外れてくれ。』




アビィもそれを理解したのか渋々と踵を返す。




『アビィ…俺が戦っている間、ヴァイスを守っててくれ。』



「キュッ!」



さっきまで辿ってきた坂道を戻る1人と1匹は、最後にこちらを心配そうな顔で見つめてきた。




…大丈夫だから。(フラグ?)






ーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーー




30m程先には、あの異形の生き物が。




『フルス』のせいで臭いが消えてしまったのであろう。血なまぐさい臭いはしなかった。




彼の右腹には未だ、痛々しい傷が残っている。




彼は、俺がこの道を通ることを予め予測して、待っていたような気がする。



俺に気がついたようだ。





ゆっくりとだが、しっかりとした足取りでこちらへ向かってくる。




何故だ?『タキサイア』が発動しない。


俺が強くなった…としてもあのステータスの差はかなりあったはずだ。


両腕を振りかぶり、叩きつけてくる。


()()()な攻撃だ。



その攻撃は、とてもゆっくりだ。簡単に避けられる。



あのトリッキーな攻撃は何処へ行ったのやら…


いや…鎌がないからなのか?





少し距離を置く。



『アイス・ツウァプフェン』



俺の背後に、氷柱が数本形成される。




『貫通』スキルにより、刺突攻撃の貫徹力が3倍になるのだ。


あのぶっ壊れ性能の装甲を貫くには刺突攻撃が1番だろう。




『行け!』



無数の氷の棘がヤツに向かう。




ヤツは避けなかった。


避けれなかったのではない。


氷の棘が体を貫こうとも、こちらへ向かって来ていたのだ。




おかしい。




生物でも魔物でも、体に危機が迫れば何らかの反応はする筈だ。



魔法を解除する。


体を貫く氷柱が消えた。



氷柱が空けた穴からはヤツの血が流れてく。




それでも尚ヤツは追ってくる。




痛みをものともせず向かってくる様はまるで()()のようであった。



おかしい…




俺は、なんとなくだがこいつを殺してはいけない気がした。




えっと…拘束系の魔法は…



あら?ないや…


あいつの攻撃を避けながら、一つ一つ鑑定して行って分かったのだが拘束系の魔法がなかったのだ。もしかしてこの世界にはまだない感じかな?



…という訳で力ずくで押さえつける。


弱っていたのか、簡単に押し倒せた。


相手は大体大人の1.5倍程、こちらは子供程の大きさ。


子供に押し倒される巨人とは…言葉だけでもおかしな構図だ。




弱っている…数日前までは、こうはいかなかった筈だ。




『ピナカ』


光の三又の槍が4本展開される


その又の部分に腕やらの四肢を入れて、地面に差し込み固定する。










『鑑定』






氏名 徘徊者


年齢 29歳


種族 フルーフ


性別---



ーステータスー


LV 291


HP 3210/596020

MP 2504/2504


STR 89240

VIT 34652

DEX 650

AGI 1165

INT 2623




ー状態ー


『流血』『失血多量』『疲労』『呪い』『衰弱』






『回復』





完全回復して、暴れられると困るので流血を治す程度で治療は止める。







『フルーフ』


人間の突然変異種


魔王の干渉に立ち向かった者。


無理な干渉による過度なエネルギーにより、体が突然変異した個体。


いずれは体が耐えられなくなって衰弱死するであろう。


干渉の際に残った呪いは意識を蝕み、狩猟本能を覚醒させる。


今や衰弱や呪いにより、まともな判断や命令が受け付けなくなっている。


年齢や名前は突然変異変異後から命名、及びカウントされたものである。






えっ!?これ人間だったの!?


こいつが殺して来るのって呪いのせいだったんだね…


もしかして呪いを解けば、普通に話せるぐらいにはなれるかも?



えっと…回復属性の解呪は…っと。


回復属性使用可能魔法の欄を一通り覗く。


回復魔法のレベルが21まで上がって、使える魔法が増えているみたいだ。


これ…だな…良かった。

無かったらここでレベル上げする羽目になる所だったな。



『ゼーゲン』



体から凄い勢いで、魔力が抜けるのが分かる。


頭がクラクラしてきた。


えっ!?そんなに解呪って魔力使うの!?



意識が飛びそうになるのをギリギリで耐える。


これMPマイナス行ってるな…








彼の体から黒いモヤのようなのが散った。








…解呪できたか?


彼は解呪の反動で少し気絶しているようだった。



『…ちょっと俺も休憩だな。』




ーーーーーーーーーーーーーー




『うぅ…』


目を覚ましたようだ。

嗄れた声…老人のようだ。


『なんじゃこれは…ワシは…』


『起きたか?おっさん』


『魔王の呪いが消えている…お主…何者じゃ?』



『俺はユウト…ただの精霊だ。』



『ピナカ』を解除する。


『呪いはゼーゲンで解いた…それだけだ。』



彼は拘束を解除しても、倒れたままの格好だ。



『…聞いた事が無い魔法だな…いや…もしや…お主にその魔法について小一時間問い詰めたい所であるが…もうワシの体も限界なようじゃ…』


『は?…何言ってんだよ。死ぬなんて言うなよ…回復魔法使えばいいだろ?』


『体の限界というものがあるんじゃ。回復しても怪我は治るが、寿命は伸びんよ。』



初めて知った。



『…そうか…じゃあ死ぬ前にこれ…返しとくよ…ほら。』




深淵からあの時取っておいた大鎌を取り出す。





『!!…それは!…お主だったんだな!あの時の魔法を使ったのは!…なるほど。これなら納得じゃ!…決めたぞ!どうせここで尽きる命だ。お主に全てを捧げてやる。』


『は?…え?』


『あとその鎌…大切に使うんじゃぞ?まぁ壊れるこのなんぞないとは思うがな。』


『あ…ありがとう』




『ほら。はよう来い。』



彼は腕をこちらに伸ばして来た。


『さわれ。』


『あ…ああ』



どこから来たのか風が周囲の胞子を巻き散らかす。




『呪いを解いてくれてありがとう。良ければなんだが、もし”カラナ”っていう名前のちっこいのに会ったら、これを渡してくれると助かる…中身は読むなよ?』


彼はどこから出したのだろうか、血で染った羊皮紙を渡して来た。


『カラナ…ってあれか?”カラナ魔法学園”の…』


『ははっ!あいつ!精霊にも名前を知られているとはな!…ますます気に入った!』


彼は手が離れないように、しっかりと握った。



『今日からワシの命はお主のものじゃ』








『サクリファイス』









血みどろな彼の体が青色の炎で燃え始めた。


繋いでいる手も燃えているが、熱くはない。


醜い体は既に灰となり、そこには炎だけが残った。




青い炎は、人間の老人の姿を形取る




老人…彼が驚いているようだ。


俺の姿…これヴィーグルってやつに似てるからなぁ…





彼はめいいっぱい顔にシワを作り、笑顔を浮かべた。




『ありがとう』




そんな彼の嗄れた声が微かに聞こえたような気がした。







炎は繋いだ俺の手に吸い込まれていくように消えていく…








『死神の魂を手に入れました。』

『称号【死神の意志】を手に入れました。』






そんなアナウンスが俺の脳内に…





残った炎は光の粒となり、周りの蛍に紛れていった…


彼の一部は、この”蛍の舞う草原”に…





大多数の蛍に囲まれ、消えていった。









残ったのはどこから吹いてきたのか、風の音だけ。





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