第8話 深淵の少女ヴァイス
悲しいお話です。ご注意ください。
この世界では、大きく分けて
神代、
大罪の時代、
空白の時代、
冥期、
英雄の時代、
拡大期、
暗黒時代
現代
…というように区分されている。
『空白の時代』の終わり、
残酷な終わりを遂げた時代。
その終わりの瞬間、人々は何を見たのだろうか…
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ここは神都
世界中で1番栄えている都市と言っても過言ではない。
中央の『神の門』と呼ばれる大穴を中心に、多くの神殿や聖堂が立ち並ぶ。
そして、その周辺には一般市民の居住地、そして商店街などが広がっている。
「ヴァイス!起きなさい!ヴァイス!」
窓を開けたのは、少女の母 サリーのようだ。
朝の日と新鮮な風が、少女の頬を撫でる。
「まだ…もうちょっと…」
少女の名はヴァイス
銀髪と赤い目
先天性色素欠乏症…アルビノである。
「ほら!朝起きたら、やらなきゃいけない事があるでしょ!」
「はーい」
彼女とその母は、目を瞑り跪く。
『世界を創造せし神よ。我らに恵みを。我らは後光の元で、神と共にあらんことを。』
「…よし!朝ごはん出来てるから、着替えたら早く降りて来なさいね。」
「はーい。」
外出用のフリル付きワンピースを身に纏う
今日は父の研究室へ遊びに行くらしい。
彼女の父は『神の門』について研究する魔法使いであった。
彼が家に帰ってくるのは1年のうち両手で数えられるほど…
彼が自分たちのために努力しているというのだから、
彼女はそのことについて何も言及しない。
だが彼女も父親に会って話をしたい。
なので彼女は来てもらうのではなく、こちらから挨拶に行くことにしたのだ。
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「巫女様おはようございます」
「巫女ちゃんおはよう!」
「巫女様今日の調子はどうですか?」
みんな私の事を『巫女様』って呼ぶ。
なぜなら私のこの銀髪と赤色の目。
そして『神通力』という力のせいらしい。
「おはようございます!」
この街の人達はみんな優しい。
野菜屋のアマンダさんに
鍛冶屋のテレンスさん。
あとは商人のウォーレンさんや、道具屋のヒューゴーさん。
みんなに挨拶をする。
『おはよう』『おはよう』『おはよう』
みんな笑顔で私も嬉しい。
商業区を抜けると大きな神殿や聖堂が見えてきた。
どうしよう…緊張してきた…。
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「くそっ!なんで分かって貰えない!」
「しょうがないですよ先生…人は指摘されて、自分の信じてた事を曲げる…ってことがとことん苦手ですから…はい。紅茶」
「あぁ…ありがとう…そういえば何回訴えたっけな。神の門が危険だって…」
「彼ら。本当に信じちゃってますもんね。そう言えば最近は、生贄を捧げて門を開こうとする取り組みが、現れ始めてるらしいですよ。」
「…それだけは絶対に止めさせなければ」
「そうですね。先生」
彼はヴァイスの父
名をケントという。
彼は『神の門』のことばかり研究していた訳では無い。
彼は、魔方陣についても心得ている。
少し前のこと、神殿から、やっと『神の門』の最下層の観察許可が下りた。
出来れば底まで降りて観察したかったが、そういう訳には行かないらしい。
よって彼は望遠鏡で地上から、底の魔方陣を確認したのだ。
だが、ここに書いてある術式が酷すぎた。
何が酷いかと言うと、
その魔法陣は目玉の形になるように上手く形を変えている。
…まぁここまではいい、たまに見る高度な循環効率の増加のための工夫だ。
酷かったのは内容だ。
それを見た瞬間彼はこう思った。
『これが発動されたら、この世界は終わる…と。』
「…っ!そうでした!今日はヴァイスちゃんがこちらへ遊びに来る日じゃないですか?うぇへへへ…」
「あぁ!そうだそうだ!少しは片付けて置かなければ…」
ガチャ
「パパはいますか?」
元気な声が聞こえてきた。
「…うわ!だめでしょ!こんなに散らかして!!」
「…最近ヴァイスが、サリーに似てきたような気がする…」
「さすが、親と子は似ますね。」
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「ヴァイスちゃん今日も可愛いね♡」
この人の名前はポーラさん。
お父さんの研究所の助手の1人らしい
「そう言えば今まで聞きそびれていたんですが、彼女ってアルビノでしたよね?肌の露出のするような服を着てても大丈夫なんですか?今日は日差しが強いですよ?」
「あぁこれは『神通力』の力らしい…俺もよく分からないが…」
「ふーん、そうなんだ…あぁ^〜髪の毛サラサラなんじゃ^〜」
頭を撫でられるとちょっと恥ずかしい。
「あっ!そうだ!あのねお父さん昨日ね…」
「うん」
今日はお父さんといっぱい話すんだ。
「…んー今日は外が騒がしいですね。」
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「準備は出来ましたか?」
「はい。」
「よろしい。では生贄を連れて来てください。僧兵はいくらでも持って行っていいです。」
「はっ。」
待ちに待った『神の門』の解放の時
それが開かれたらどんなに素晴らしいことが起きるのでしょう。
民達の安寧のためにも、
彼女には犠牲になってもらわなくては…
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「ヴァイス!しっかりしろ!ヴァイス!」
「離して下さい。ヴァイスちゃんを傷つけたんだ。殺さないと。」
いきなり兵隊さんが研究所に来た。
どうやら私に用があるみたい。
何かな?
お父さんと兵隊さんが話している。
お父さんは怒ってるみたいだ。
珍しいな。
「ヴァイス!逃げろ!」
ポーラさんが私にそう言った。
「えっ!?」
よく分からないけど逃げないと。
そう思って振り返ったら左の脇に衝撃が走った。
兵隊さんに蹴られたみたい…
「うぅ…」
痛くて声が出ない。お父さん…助けて…
「ヴァイスを離せ!」
「やめろ!その汚い手でヴァイスちゃんに触るな!やめろやめろやめろやめろやめろ…」
「ふん…無様だな。」
私は担がれてるみたい。
左脇が痛い。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す…」
…ポーラさんこわいよ。
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ここは?あぁ…ここは『神の門』か…それで私はどうなるんだろう…
「持って参りました。」
「よろしい。この魔方陣には媒体がないと発動しません。」
「それでどうすれば?」
「最低でも生きていれば問題ありません。その紐を使って最下層まで下ろしなさい。」
「はっ」
私は紐で縛られているみたい。たまに触れる左脇が痛い。もしかして中の骨折れてるかも…
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「すいません紐の長さが足りないのですが…」
「生きていれば問題ないと言ったでしょう。大丈夫ですよ。その高さなら死にませんよ。」
「はぁ…」
途中で降下が止まった…と思ったら少しの間、浮遊感が…
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魔法陣が白く輝く
「成功だこれで我らは救われる…!」
魔法陣の中心だろうか…そこから黒色の転移門が開かれた。
そこから現れたのは神でもなく、天使でもなく。
悪魔であった。
無数の魔物が転移門より湧いてきたのだ。
空白の時代の終わりの日。【神都】は一日で滅びた。
街の人は殺された。
未知の生物『魔物』に。
愚かな神官に。
これより死者の時代。
『冥期』
に移り変わるだろう
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「だれか助けて…痛いよ…」
彼女の願いは誰にも届くことは無かった。
彼女はかなりの時間生きながらえた。
これも『神通力』の力だろうか。
彼女は希望を捨てなかった。
その身が滅びようと、
誰かが、この深淵の底から救ってくれる…と。
誤字報告ありがとうございます!とても助かります




