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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

金目、満月、琥珀色

作者: 十三使徒

『金目』




 ごろごろと喉を鳴らす獣に笑みを溢す。

 手のひらに触れる温もりは愛しいもので、荒んだ心も少しは癒されていく。

 獣の姿を見詰めていると目が合う。どうしたのと見た目にそぐわぬ柔らかい声に問われた。首を振る。少し疲れていただけだ、という一言を口にする。

 ぺろ、と頬を舐められる。この獣はこうして、親愛の情を表現する。

 獣の金目は優しさの色。なついた相手にいつも向けられる。






『蜂蜜』




 こんなの酷いよ、と獣は考えた。

 獣は悲しげに目を細め、いつものように頬を舐める。癒したかった。慰めたかった。

 獣は自分の体を冷えた体に寄せた。温める。心に触れられなくても、獣は体くらいは温めてやりたかった。

 濡れた頭を体で拭いてやる。

 悔しい、という小さな声が聞こえて、獣は表情を伺う。

 どうしてか泣いていた。可哀想に。

 獣は瞳を潤ませた。獣にも涙を流すだけの心があった。

 蜂蜜色は涙の瞳。ぐるぐる回った感情が、優しい心を引き裂いていく。






『満月』




 痛む体を引きずって、獣は道を歩いていた。

 水面に光が反射する。

 獣は素直すぎたらしい。獣はあまりに優しすぎたらしい。獣はけれど、後悔を知らない。

 獣はいつものように優しく頬を舐めてやりたいと思う。それと同時に、今はできないとも考える。

 寂しかった獣は一人、影に隠れる。

 獣を大事にしていた人は、獣のことを捨ててしまった。獣は一人ぼっちになってしまう。

 大好きだった満月を嫌いになる。獣の瞳と同じ色は、綺麗すぎて近寄りがたい。






『橙の炎』




 ぱちりぱちりと火の粉が弾ける。

 思い出が焼けていく。

 獣は一人になりたくなかった。獣は優しいままでいたかった。だから獣は逃げなかった。温かいよりも熱い炎に、獣の心も溶けていく。

 獣は嬉しいと思っていた。獣は自分を大事にしてくれた、寂しがり屋の人との思い出を守っていた。

 獣は捨てられてしまっていた。それでも思い出は守りたかった。

 ぎゅ、と思い出を抱き締める。

 獣の瞳が橙色に染まる。金色が溶け出して、消えていく。






『琥珀色』




 手のひらで、冷たい冷たい色に触れる。

 獣はずっと眠っている。獣を忘れられなかったその人は、今もずっと後悔している。

 獣に怒られたいと思った。獣に謝りたいと思った。

 優しい優しい獣に、その人はずっと甘えていた。自分の孤独を理由に、獣の心を離さなかった。

 なのにその人は、身勝手で獣を傷付けた。獣は自分が、捨てられたのだと思ってしまった。

 獣はいなくなっても良かった。獣はその人を捨ててしまえば良かった。けれど獣には、それができなかった。獣は傷付けたその人のために、思い出を抱き抱えた。

 ごめん、とその人は伝えたかった。獣の目を、もう一度見詰めたかった。

 優しさが脳裏を過る。

 獣の瞳は琥珀色。星より遠いその色は、柔らかいまま消えてしまう。
















『夕焼け、小焼け』




 西陽が差す。

 獣が眠っている間に、その人は大人になっていた。それでもその人は身勝手に願う。

 獣の心をもう一度確かめたい、獣の声をもう一度聞きたい、獣に愛されたい、と。

 その人は寂しがり屋のままだった。大人になれたのは体だけ。心はあの頃から、大して成長できていなかった。

 獣の名前を、呼ぶ。

 獣の声はもう遠く薄れてしまった。獣の瞳はもう遠く揺れてしまった。

 獣はまだ、眠ったまま。

 そろりと撫でる。体温を感じられない。

 その人の心に獣は居座っている。獣が望んだわけではなかったのに、その人は獣を忘れられない。

 これを"恋"と呼ぶのだろうか。






「……おやすみ。俺を唯一愛した人」

おはようと告げられたらどんなに幸せなことだろうか。大丈夫と告げられたらどんなに救われるだろうか。

それを身に染みて知る、二人の後悔。

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